対抗手段の模索と解決の糸口
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
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ボゴロが去ってから俺たちは安全のため一度アルヴァスの店に戻る。
「ふぅ、よし!それじゃあ、私は残りの子たちを集めてくるから!!アルヴァスよろしくね!!」
ライハーンはヴァンを空いている台に寝かせるとすぐさま外へ飛び出していく。
「ちょっと待て!ここは託児所じゃ…………行きおったか」
アルヴァスは勝手に保護場所として使われることに抗議しようとするがすでにライハーンは店の外に出ており、声が届くことは無かった。
「ふむ、それにしても……」
俺はそんな二人のやり取りを横目にヴァンの顔をマジマジと見つめる。
(見れば見るほど、どこかで見たことがる様に思えてしまう…………それに)
今度はヴァンの髪に注目する。
(こんな幼いながらも老人の様な白髪をする奴を忘れるわけがないはずだが……)
あまりにもな特徴があるのに、思い出せないでいる。
「しかし、あんな約束をしてよかったのか?」
ヴァンを観察していると、横からアルヴァスが話しかけてくる。
「さぁな」
「さぁなって……お主な」
アルヴァスは呆れた表情をする。
「とりあえず時間は稼げただろう?それにこいつの情報が少なすぎて取れる手段が少なすぎる。また……言いたくはないが、本当にただの脱走奴隷ならば俺はマーモス夫人とやらに身柄を渡すことも考慮しなければならない」
「なっ!?」
率直に言うと、アルヴァスは驚きの表情を浮かべる。
「助けてくれるんじゃなかったのか?!」
「俺にできることには限度がある。ヴァンが違法なことをしているなら俺が擁護するのは難しい」
立場のある身としては他国であろうとと法に則らなければならない。そうしなければゼブルス家ひいてはグロウス王国の恥になりかねないからだ。
「アルヴァスはどうなんだ?こちらに非、あちらが是の時に、お前はどう行動する?」
「ううぅむ」
こちらの問いにアルヴァスは返答を詰まらせる。なにせ言ってしまえば犯罪者をかくまい幇助しているようなものなのだから。
「なあ、何とかなんねぇのか?」
「アシラ、こればかりは無理だ。国の制度としてある以上、それも他国であるためまず手出しができない」
「だが、バアルはやったじゃねぇか」
「クメニギスの件か?アレは様々な要因が重なったためにできたことだ。だが、それでもやってほしいとなると、戦争を起こすしかないな」
はっきりと明言してやると、この場にいる全員が顔を引きつらせる。
「そこまでなのか?バアルがやっている外交とかで何とかならないのか?」
「なる範囲を超えているからこう言っているんだ、テンゴ」
テンゴが一抹の望みを賭けて聞いてくるが、残念ながら、そういった範疇を越えている。奴隷制度はネンラールに深く根付いている制度で、それを変えることは容易ではない。それこそクメニギスの様に内側に協力者がいて、様々な支援があり、国益奴隷の制度があること自体が損だと認識させればいいが、ネンラールは違う。
また今回の脱走奴隷に関しても、理不尽という部類ではなく、当然の制度とも言えた。
「しかし、このままではこやつは……」
「同情は良いが、俺としてはなぜ脱走したかという経緯を知りたい。そこを知らなければ何も始まらないからな」
何の事情も聞かずに事を運ぶことはできない。
(こちらとしては変な身の上話には興味はない。何かしら醜聞になりそうな話をしてほしいものだな)
未だに眠っているヴァンを眺めながら、そう思ってしまった。
そして1時間もしないうちにライハーンは20人ばかりの子供たちを引き連れて、アルヴァスの店にやってきた。
「ふぅ~~ひとまず知っている子たちは全員保護できたわ」
急いで活動していたのかライハーンは大粒の汗を額に滲ませていた。
「それで、ヴァンちゃんは起きた?」
「未だにぐっすりとだ」
汗をぬぐい、ヴァンのことを聞かれるが、未だに台の上で寝息を立てたままだった。
「そう、少しお薬の量が強かったかもしれないわね。少し待っていて」
ライハーンは腰に付けているポーチから小さめの試験官を取り出すと、それをヴァンの鼻に近づけてから封を外した。
「……ぐっ、が、げほっ!?がはっがはっ!?」
「おはよう、ヴァンちゃん。寝心地はどうだった?」
「てめぇ、ライハーン」
「こら、恩人にてめぇとか言っちゃだめでしょ!」
ヴァンは飛び起きると、涙目になりながらライハーンを睨むが、当のライハーンは逆に口の悪さを窘めていた。
「「「「「「「「「「「にいちゃ!!」」」」」」」」」」」
「うぉ!?」
そしてライハーンが場所を変えれば、今度はライハーンが連れてきたチビ達がヴァンに向かって飛び掛かる。それに対してヴァンは全員をしっかりと受け止め、全員の頭を撫でたり、泣き止まない奴にはハグをして安堵させてやっていた。
「そういえばカイルとフィルはどうした?」
「「「「「っっうえぇぇぇぇぇ」」」」
ヴァンが周囲を見渡し、誰かの名前を出すと、一部のチビが泣き始める。
「おい、おい、まさか」
「お、ねぇ、ちゃんは、ズッ、おと、りに、なるって、私たちを逃がしてくれて、ズッ」
「っっ」
その言葉を聞くとヴァンは店の出入り口に向かって張り始める。
だが――
「少し落ち着かんかい」
ドッ
「ぐっ」
いつ間にか出入り口の近くにいたアルヴァスがヴァンの腹を殴り、暴走を止める。
「お、落ち着いていられるか。二人が攫われたんだぞ」
「ふぅ~~じゃから落ち着け。無作為に突っ込んでどうする?お主が捕まるだけかもしれんぞ。それにここにいるチビ共をどうするつもりじゃ、お主が保護者代わりをしているんじゃろう?お主までいなくなったら誰が面倒を掛けるつもりじゃ?」
「っ…………」
アルヴァスに諭されて、一旦は頭の血が引いたらしく、おとなしくなる。
「じゃあ、どうすればいいってんだよ!!カイルもフィルも俺と同じ境遇だ、捕まったら最後、殺されるに決まっている!!」
ヴァンはアルヴァスを睨みながら叫ぶ。
「そうよな、バアル、どうすればいいと思う?」
「あ゛?」
アルヴァスがこちらを向き声を掛けてくると、釣られるようにヴァンの視線もこちらを向く。
「誰だ、あんた?」
「そうだな、臨時でアドバイザーの様な立ち位置にいる、バアル・セラ・ゼブルスだ」
「!?」
簡単な自己紹介をすると、ヴァンは驚きの表情を浮かべ、次に敵意のある眼差しを向けてきた。
「こりゃ、ヴァン」
「アルヴァス、なぜこんな奴に助けを求めた!俺の身の上を知っているだろう?」
「……ああ、だが、それが助かる道だと判断したまでだ」
アルヴァスに何を言っても無駄だと判断すると、今度はこちらに矛先を変える。
「いらねぇ、あんたら、グロウス王国の貴族は何も信用できない」
「そうか、一応理由は聞けるか?」
そう言うと、ヴァンの体から微かに火の粉が噴き出る。
「今の俺の境遇はグロウス王国の貴族が作り出したからだ!!」
俺はヴァンの言葉を聞いて―――――笑みを浮かべた。




