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脱走奴隷

カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

 路地を抜けた先に広場あるのだが、そこでは―――髪を掴まれ引きづられている女児と全身を皮鎧に包んだ男がいた。


 ダッ


 テンゴはその光景を見ると、何も言わずに疾走して、男に対して拳を振るおうとする。


「!?『飛雷身』」


 だが、こちらとしては殺人をさせるわけにもいかない。即座に『飛雷身』でテンゴの隣へ飛ぶと、放たれる剛腕のパンチの挙動をずらし、標的から逸らす。


 ガッ、ドゴン!!


 パンチはそのままスラム街の地面に埋まった。


「……何をするバアル?」

「それはこっちのセリフだ。なに殺そうとしている?」


 テンゴは怖い顔をしながら、こちらに問うてくる。


「こいつらの事情を確かめないで殺すつもりか?」

「子供を攫うやつらなど生きる価値もない」


 おそらくは、過去にあった獣人の誘拐を重ねてみているための行動なのだろう。


「そうなのかもしれないが、これが、正規に行われている活動ならどうする?国が貧困者を出さないためにスラム街の子供を攫い、食えるように教育するとは思わないのか?」

「むぅ」


 こちらの言葉にテンゴはひとまずの理解を示す。


「さて、事情を……当分無理そうだな」


 尋問しようと思ったが、女児を攫おうとしていた男は気絶し、尿を垂れ流していた。


「なら」


 ビクッ


 女児は視線が向けらていると分かると、小刻みに動き出す。


(ああ、これは―――)


『ビェエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!』


 巻き起こったのは大号泣だった。


(気持ちはわかるが、もう少し声量を落としてほしいものだ)


 見ず知らずの俺とリン、そして半分ほど『獣化』した三人が居ればこの反応も無理はない。


 そして女児の声量は予想以上に大きいためか、この場にいる全員が耳を塞いでいた。


(ひとまず、泣き止むか、ライハーン達が来るのを待つしかないな)


 そして女児と男囲いながら時間が過ぎていった。















『ヒッグ、エグ』


 ライハーン達が来るよりも前に女児が泣き止み始める。


「これでようやく話を聞いてもらえ」

『お前ら!うちの奴らに何してんだ!!』


 ようやく泣き止み、ライハーンの知り合いだと説明しようとすると、俺達がやってきた路地とはまた別の後方から言葉が聞こえてきた。


 バッ

(ん?あいつは)


 路地から現れたのは、白い髪を持つ少年だった。


「っっっ、俺達の家族から離れやがれ!!」


 白い髪を持つ少年ヴァン(・・・)は女児を取り囲んでいる俺たちの姿を見て、勘違いをする。


「いや、俺達は」

「死ねぇ!!」


 こちらの言葉を聞こうともせずに腰に下げているカトラスを抜き放ち、襲い掛かってくる。


「はぁ~リン、殺すな」

「承知しました」


 俺の声でリンが動き出す。


 ダッ

 ギィィン

「はぁっ!?」


 リンが疾走するとヴァンに対して一閃し、カトラスを根元から叩き折る。


 ドッ

「がはっ」


 そして返しの太刀、殺すなと言われているためもちろん峰打ちでヴァンを吹き飛ばした。


 ドゴダゴ

「っ、てめぇ」


 ヴァンは路地上に置かれている、ゴミの山に突っ込んでいくが、すぐに起き上がる。


「ああ、そうかよ。ならやってやんよ!!!」


 一連の結果で、強さを認識したのか、ヴァンはその身に炎を纏い始めた。


(こんなところで炎を使えば火事になる…………仕方ない、俺が動い――)


惰眠の(フォールン)薬香り(パフューム)


 動き出そうとする前に俺達がやってきた路地から声が聞こえてくる。そして息を荒くさせているライハーンが現れた。


「ハァハァハァ、ギリギリ間に合ったわね」

「ら……いは……な、ぜ」

「ハァハァハァ、ふぅ~。一眠りして、頭が冷めた頃に話してあげるわよ」


 ドサッ


 ヴァンはそのまま、地面に倒れ伏せてしまう。


「ヴァンおにいちゃん!!」


 先ほどまで怯えていた、女児が倒れたヴァンに駆け寄る。


「なにするの!ライハーン!」

「ごめんなさいね。その子、頭に血が上っていると話が通じないから、少しだけ眠らせてもらったわ」


 女児は何となく納得の表情を浮かべると、今度は周囲を見渡す。


「このひとたちはみかた?」

「ええ、そうよ」


 ライハーンの言葉を聞くと女児は立ち上がり、頭を下げる。


「ありがと、たすけてくれて」

「おぅ、いいってことよ」


 女児の感謝の言葉にアシラが返答する。


「それじゃあ、移動しましょう。ここに居ては危険だから」


 ライハーンは横になっているヴァンを担ぎ、移動しようとする。


「皆さん戦える用意を」

「え?」

「囲まれています」


 ライハーンが移動しようとするのをリンが制する。そして同時にそれぞれが臨戦態勢へと移行する。


 タ、タ、タ


 ゆっくりと歩いてくる足音がそこかしこから聞こえてくる。そして一つの路地から何の変哲もない戦士風の男が現れた。


「皆さん、異様に警戒なさっていますね」


 戦士風の男は周囲を観察して、何の緊張感もなくそう言う。


「あんたは誰よ!」

「私ですか?私はボゴロ、マーモス家に雇われている者です」


 ボゴロと言った男は戦士の様相に似合わない綺麗な礼をする。


「さて、単刀直入に言います。そちらの少年を渡していただけますか」


 ボゴロは眠っているヴァンを指差して、そういう。


「なぜだ?神前武闘大会の本戦を見ていたらわかるだろうが、こいつは参加者だろう?」


 ライハーンを制して前に出る。


「これはバアル・セラ・ゼブルス様、ご尊顔を拝謁できて光栄です」

「世辞は言い。それよりも、さっさとこいつを欲しがる理由を話せ」


 そう急かすと、ボゴロはやれやれという仕草をする。


「簡単です。彼は脱走奴隷の疑いがあるからです」


 ボゴロのその言葉に全員がヴァンへと視線を向ける。


「……バアル、脱走奴隷とはなんだ?」

「それはな――」


 小さい声で聴いてきたテンゴに説明する。









 まず、ネンラールには奴隷制度が存在している。その点はクメニギスとほとんど変わらないのだが、内容が天と地ほどの差があると言っていい。一つ目の違いは奴隷自体に何らかの種類がないことだ。クメニギスの契約奴隷も国益奴隷なども存在していない。そのため、ネンラールでの奴隷は文字通りの奴隷なのだ。ただネンラールの奴隷制度にも安全装置ともいえる奴隷を守る法が存在する。一つ目が主人は奴隷の衣食住を保証しなければいけない点、そして二つ目が奴隷税というものの存在、そして三つ目が奴隷が死んだ場合は奴隷死亡税という制度だ。これらの制度により奴隷はあまりにもひどい酷使はないようにされている。またほかにも、奴隷の子は奴隷として扱ってはならないという部分もあり、一代限りの奴隷となる部分が大きかった。


 だが、その反面、脱走した者への罰則は以上に重かった。その場合は脱走奴隷の烙印を押され、煮るなり焼くなりと言った、生殺与奪が完全に握られることになる。









「ちっ、胸糞悪い話だな」


 奴隷制度について説明すると、アシラが悪態をつく。


「ご理解いただけましたか?ならば、彼の身柄をこちらに―――」

「ほかにも聞きたいことがある。なぜヴァンだけを狙わない?ここにいる女児などは全くの無関係だろう?」


 俺はライハーンの足にしがみついている女児に視線を向けて、ボゴロに問いかける。


「それがマーモス夫人の指令で、今回の件でスラムに潜伏している脱走奴隷を一掃する様に仰せつかりました」

「だから、全員を捕らえると?」

「それが手っ取り早いでしょう」


 ボゴロはさも当たり前だと頷く。


「なら、こちらの所用の後にしろ」

「……所用とは?」

「俺達はライハーンとアルヴァスの伝手でヴァンを紹介してもらう手はずとなっている」


 俺の言葉にライハーンとアルヴァスは目を丸くするが、視線で黙っていろと念を押す。


「……申し訳ないのですが、こちらも仕事でして」

「別にいつまでも待てと言っているわけではない。そうだな、今日の昼食が終わると同時にヴァンを連れてそちらの屋敷に向かう、これで納得してもらえるか?」

「…………かしこまりました」

「ああ、あと、脱走奴隷ではない者たちは速やかに解放はされるな?」

「もちろんです。もしご不安があるのならば屋敷にお越しになられた際に同時に解放する様に取り計らいます」


 お互いの話が付くとボゴロは再び路地裏に消えていった。

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