不穏な雲行き
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翌朝、朝食を済まし、ラウンジに戻ると、あの三人親子の姿があった。
「すまねぇ」
「いいさ、誰に迷惑が掛かったわけじゃない」
「テンゴの言う通りさ。ただあの状態がお前の本来あるべき姿ということは覚えておけ。そうすれば確実に強くなれるからな」
「おぅ!」
アシラは手間を掛けさせたことについて両親に謝罪をしていた。そして迷惑を掛けられた当の本人達は笑っていた。
「お、バアル」
アシラはこちらに気付くと近づき、頭を下げた。
「昨日は済まねぇな、なんか迷惑かけちまってよ」
「謝罪は必要ない。テンゴとアシラが即座に動いてくれたおかげで、何も起こらずに済んだ。感謝なら二人に、していたな」
こちらの会話が聞こえていたのか、アシラとテンゴは苦笑する。
「とにかく無事で何よりだ。そして対処できない時にあの状態にはなるなよ」
「ああ、善処するぜ!!」
なにやら政治家の様な言葉を貰い、少しだけ不安になりながらそれぞれが準備を始める。
今回は私的な用事なため、護衛を除いたほかの全員を連れていく必要はない。そのため、武器屋に向かうのは、俺、リン、ノエル、エナ、ティタ、レオネとそして件の親子三人、そしてそれらに付随する護衛騎士達だけとなった。
そのためほかのメンバーは騎士の護衛を伴ってそのままコロッセオに向かってもらう予定となっている。
そして朝日が昇り、時間になると、予定の人員で出発するのだが―――
「こりゃ、またずいぶんと使い込んだな。昨日の今日でこの状態ってことはだいぶ酷い使い方をしおったのぅ」
前日に寄った、アルヴァスの店に入り、マシラが修理してほしいことを伝える。そしてどんな状態化を見せると、この言葉が飛んできた。
「しかし、なにでこんなに損耗したんじゃ?まるで鑢の様な毛玉、それも異様なほどかたい毛玉に擦り付けでもしたのか?」
「……さすが、腕がいいだけあるな」
ほぼ正解を言い当てるアルヴァスにマシラは驚きの表情を向ける。
「昨日は神前武闘大会を見に行かなかったのか?」
俺は昨日の事情を知らないことに疑問を覚えて横から問いかける。
「前半は見たんじゃが、後半は急な用事が入ってのぅ、五回戦目以降は残念ながら見ていない」
ということは最終戦とその後の悶着を見ていないことになる。
「何かあったのか?」
「まぁ、身内のごたごたで少しな」
テンゴは昨日の最後をぼんやりと隠す。傍から見ればアシラが母親に向かって攻撃したと解釈できるため、ややぼやる様に説明したのだろう。
「……詳しくは聞くつもりはない。じゃが、ここまで損耗しているとなると、直すよりも買い替える方がいいと思うが?」
アルヴァスは何てこともない様に進言してくれる。
「直せないのか?」
「直せはするが、やるとなると、まず鋳潰してから、再び鍛造じゃからな。正直ここは武器を売る場所で作る場所ではない。やはり本拠地で作られた武器と比べると数段落ちた性能になるぞ」
「むぅ」
数段落ちると聞いてマシラは不服な表情を浮かべる。
「そんな顔をせんでくれ。儂も直せるものなら直してやりたいが、やはり技術が再現できても環境が問題なのじゃ」
アルヴァスも手の尽くし様がないと両手を上げる。
「マシラ……」
「はぁ、わかっている。じゃあ、前回見せてくれた棍をまた見せてくれ」
「あ~、それで言いたいことがあるんじゃが……見せたほうが早いじゃろう」
アルヴァスは裏へ回ると一本の棍を手に戻ってきた。
「??ほかの二本はどうした?」
「訳あって、今はその一本しかない。すまんが我慢してくれ」
「仕方ないね」
マシラはない物は仕方ないとばかりに棍棒を手に取る。
「値段は?」
「前回と同じネンラール大銀貨4枚じゃ」
今回は事前にサイズがわかっており、さらには迷う必要がない分、即座に商品と金銭の受け渡しがなされる。
「しかし、儂がいるタイミングでよかったのぅ」
「というと?」
「いやな、あと少ししたら知り合いの本戦が始まるんじゃが、それを見るためにコロッセオに行く予定じゃったわい」
アルヴァスはあと少しで見せを閉める予定だったことを説明する。
「なら、俺達と行くか?」
ドワーフとは報酬の件もあるが、それなり親しくしておいた方がいいと判断しての提案だった。
「いいのか?お主らそれなりに立場があるじゃろ?」
「問題ない。さすがにコロッセオまでとなり、中に入れば別行動となるのだが」
さすがに貴賓席に連れていくわけにはいかないので、そう告げる。
「構わん構わん、すこしで交通費を抑えられるならわけないわい」
なにやら涙ぐましい事情を抱えているようだが、深入りはしない。
「走っていけばいいんじゃないか?」
だが、テンゴはあっさりと相手の財布事情に突っ込む。
「まぁ、そうなんじゃが、儂らは見ての通りの短足じゃろう?だから移動するのに時間が掛かるんじゃよ。また重さも人族の平均よりもずっと上じゃから、馬車代は通常と比べても相当取られるんじゃよ」
アルヴァスの言葉に納得を覚える。確かに言葉通り、アルヴァスは低身長の短足であり、筋肉質で体重も人族よりもある。そうなれば確かに移動に適していないだろう。また、馬車の代金だが、これもその通りだ。なにせ馬車を引いてるのは馬であり、当然生物であるため餌や水を取らせたり、疲れたりすることもある。そして重い物を乗せればその分収入が減ると考えられるため、超過料金を取るのもおかしい点ではなかった。
「少し待ってもらえるか、今店を閉めて――」
アルヴァスは金が浮くと思い軽い足取りで表に繋がるドアに手を掛けるのだが――
「アルヴァスちゃん!!!いる!?いるわよね!!いてちょうだい!!!!」
バッ、ドン!!ガチャ!ガシャン!!
何やら外から聞いたことがある声が聞こえると、ドアが物凄い速さで開けられ、アルヴァスは武器を飾ってる棚に吹き飛ばされる。
「アルヴァス!!アルヴァスいる!!!」
そして外から入ってきた人物は急いで店の中を見回して、アルヴァスを探し出す。
「もう!!何やっているの!!こんなに商品を散らばらせて!!!」
「お主……本気で怒るぞい」
アルヴァスは怒りを滲ましたため息を吐き、崩れ落ちた陳列用の武器の中から現れる。
「何の用じゃ、ライハーン。儂はこれから出る用事があるんじゃが」
急に入店してきたのは以前レオネが世話になった、桃色の角刈り長身男のライハーンだった。
「何よ用事って!!そんなことより、あら???」
ライハーンは自分と胸ぐらをつかんでいるアルヴァスに向けられる視線を感じて、そちらを向く。
「ひっさしぶり~ライハーン」
「あら~~レオネちゃんじゃないの~~どう?バアル様とはいい感じになれている?」
「それが全然、だから今度まだお邪魔させて~~」
「いいわよ~~レオネちゃんなら喜んで、はっ!?」
先ほどのひっ迫した雰囲気が消えて、旧友とあったときの和やか雰囲気で会話を続ける二人。だがすぐにライハーンはアルヴァスの方に視線を向けて、何度もその重い体を揺らす。
「アルヴァス、今すぐ来て!!」
「待て待て待て!!何があった!!お主がここまでうろたえるなんて並みのことではなかろう」
何が起こっているか把握しようとアルヴァスは問いかける。
「スラムの子供たちが攫われているのよ!!」
「「「「なに!?」」」」
(……これは面倒なことが起こる…………)
返答が一人ではなく複数人から出てきたことで、思わず天を見上げて、目頭を掌で覆うことになった。




