本戦二回戦緒戦
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
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「「ふむ」」
一回戦が終わり、イーゼとグーユが退場していく最中、テンゴとマシラが腕を組み唸っている。
「どうした?」
「いや、気になる点があってな」
コク
尋ねると先ほどの試合に不審な点があるとのこと。
「瓢箪と最後だろう?」
テンゴとマシラの疑問にイグニアが答える。
「その通りだ。あたしとテンゴはあの攻撃が見えなかったからな」
「なら、それが答えだろう」
イグニアはそういうと、給仕してもらった軽い酒を呷る。
「ああ、なるほど」
「??」
マシラは理解できたが、テンゴはよくわからない表情を浮かべる。
「マシラ」
「だめだ。わからないなら、戦っている内に気付きな」
テンゴはシード枠なため、イーゼと戦うことがこの時点で決定している。だがマシラはそれに対して、助言はしないつもりでいるらしい。
(見えないことが答え、か)
「ねぇねぇ、次の試合はいつ~?」
イグニアの言葉をかみ砕いていると、レオネが前に来て肩を揺さぶってくる。
「どうなんだ、イグニア」
「今日は7戦もあるが、やはりそれなりに間が開くな」
「え~~」
イグニアの説明にレオネが不満の声を上げる。
「正確な時間は、ユリア」
「大体、半刻となりますね」
つまりは1時間の休息が取られることになる。
「なら、次の対戦相手の資料でも見るか」
「見る~~」
資料を見せるとレオネは大人しくなる。
(…………興味がある物を見せると大人しくなるな)
一番うるさい人物が大人しくなるので、その後は二回戦目が始まるまで、貴賓席ではゆったりとすることが出来た。
『ではやってきました、二回戦!!“六法剣斬”レシェス対“死骸蠱惑”グレイネ!!』
時間になると、二人の人物がグラウンドへと入場する。
レシェスは長い黒髪を腰まで流し、蒼の瞳を持つ、冷やかな相貌をした無表情が似合う美少女。恰好は傭兵がよく使って居そうな革鎧に鋼鉄製の胸当て、そして歩行を隠すためなのかスリットが入った長いスカートを履いている。また武器は腰の左右に佩いているサーベルの様な刀の様な二本の剣。
対してグレイネと呼ばれた女性は、赤茶色の短い髪をしており、紫色の瞳を持つ笑顔が似合う美女。上はドレスの様に張り付く恰好をしており、背と胸元が開いており煽情的に見える。また下はしっかりと女性的な線が出るレギンスと黒いヒールを履いており、踏まれたいと思う男性がいる事だろう。また武器に見えるものはないが、なぜか背に身長と同じほどの長さと、自身の肩幅の二倍はありそうな棺桶を背負っていた。
そんな二人は両反対の表情でステージに上がる。
『それでは、はっじめま~す!』
リティシィの気の抜けた声でステージが膜につつまれてカウントダウンが始まる。
(資料では双剣と死霊使いとあったが、装備の情報がだいぶ変わっているな)
事前資料では、二人とも仰々しい武装はしていない。つまりは本戦で装備を解禁しているということ。
(となると、ほかの奴らも資料通りとは限らなそうだな)
そんなことを思っていると、カウントダウンが終わり、試合が始まる。
試合が始まると何ともわかりやすい構図となる。
まず、動いたのはグレイネだった。カウントダウン中に背負っていた棺桶を真横に置くと、棺桶に手を添える。すると棺桶がひとりでに動き、覗くような狭さの隙間が埋まっる。
『ひぇ!?』
その光景を見ると、リティシィが軽い悲鳴を上げる。なにせ隙間から見えたのは無数の目だった。そしていくつかの瞳が見える最中、隙間から漏れ出る墨のような黒い液体が地面に滴り落ち急速に広がっていく。
そして――
ボゴ、ボゴ、ボゴボゴ
黒く変色した場所から無数の骸骨、いわゆるスケルトンが現れる。それもただのスケルトンではない、紫色の揺らめき、オーラとも呼べる物を様々な場所に纏っていた。
『おっと~~これがグレイネ選手の使役魔物なのでしょうか~でも数が多いような気がしますが』
どんな存在なのか気になっていると、グレイネはレイシェスを指差し、声を上げる。
「行きなさい、貴方達」
カカカカカカ
スケルトンは顎を打ち鳴らし、通常のスケルトンとは違い、ぎこちない動きではなく、訓練された戦士の様にレシェスに接近する。
『レシェス選手に死霊たちが襲い掛かる!!さて、レイシェス選手はどのような対応をするのか』
リティシィの言葉で自然と全員の視線がレシェスに向く。
だがレシェスは多勢に慌てることなく、腰にある双方の剣を抜く。
そして―――
ザン!!
レシェスが身を翻すように一回転すると、周囲に迫っているスケルトンたちはバラバラに吹き飛ばされる。
「……切るつもりでしたが、吹き飛ばすだけになるとは」
周りを一掃で来たというのにレシェスの顔色は優れない。その理由はスケルトンの骨にあった。
「うちの子たちはやわじゃないわよ。もう少し力を入れて相手をしてもらわないとね」
「……もとよりそのつもりだ」
頬に手を当てて、微笑むグレイネに対して、レシェスは無表情で腰を落として答える。
「行きなさい」
「ふぅっ」
それからは突出した個と際限ない数の戦いだった。
レシェスはグレイネに向けて走るが、その道中で続々に生まれるスケルトンたちに道を阻まれる。それも先ほどの様に吹き飛ばし続ければいいのだが、どうやらグレイネも考えているようで、多くの波状攻撃が行われている。それにより吹き飛ばし、切り飛ばしても、次々と敵が押し寄せてくる事態となる。
『レシェス選手がたどり着くか、グレイネ選手が押しつぶすのか、どちらに勝利の目が出るのか、見ものですね~』
ステージの緊迫した雰囲気とは真逆の気が緩みそうな実況が行われる中、それぞれの動きに変化が生じていく。
『おっと、グレイネ選手は一際大きなスケルトンを作り出し、それにたいしてレシェス選手は剣が色づき始めた~~!!』
グレイネは自身を肋骨の中に収容する様に大きなスケルトンの上半身を作り始めた。もちろん上半身なので頭蓋骨も、腕の骨も存在している。
またそれに対して、レシェスは両手に持っている剣がそれぞれ白色と赤色の筋を纏い始めた。
「はぁあ!!」
レシェスが剣を振ると、赤い筋から赤い光が漏れだし始める。そして刀身が骨に当たると、先ほどまでは吹き飛ばすことしかできなかったはずなのだが、しっかりと骨自体を切断した。
ジュ、ジュウウウ
剣を振り切った際に地面に剣先が触れるのだが、触れた地面から焦げるような音が聞こえた。
今度は白色の筋の剣を振ると、剣は残光を残して、スケルトンを一刀両断してしまう。それも見る限りでは抵抗を感じてはいなかった。
これらの魔剣の効果で、スケルトンを素早く処理できるようになれば、一気にレシェスの方に形勢が傾く、と思ったのだが本戦に出場しているだけあって、グレイネも負けていなかった。
レシェスはグレイネを切り伏せるには接近する必要がある。だがそのためにはあの黒く染まった場所に踏み込む必要があった。
「噛みつきなさい」
レシェスが黒い地に踏み込みながら、グレイネに接近していく最中、グレイネは移動するであろう、場所を指差し、一言告げる。
そしてレシェスがその場所を通ると
ガガガ
「ぐっ!?」
急に犬の首から先が生えて、レシェスの足首に噛みつく。
ザン!
レシェスは足を止めることの危なさを理解していないわけがないので、すぐさま犬の頭蓋を斬り、拘束を取る。
「まだまだ行くわよ」
だが拘束ぐらいでという様にグレイネはほんの少しも攻勢を緩める気はなかった。




