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本戦一回戦佳境

12時19時の2話投稿をします。読み飛ばしにご注意を。


またカクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

(グーユ、資料では身体強化、もしくはそれに類する能力を持っているとされていたが)


 資料のことを思い出していると、グーユの体に変化が起こる。首筋や額と言った、体の見える部位に赤い筋が浮き上がる。


「次の酒が飲めるのはお前次第なんだ、できるだけ粘って、次の酒を飲ませてくれよ」

「がっ、ぐっ!!」


 イーゼが起き上がったところ、異常な速さで迫ったグーユは再びイーゼに蹴りを加える。


 本戦に出場するだけあり、イーゼは衝撃を受ける時に後ろに飛び、威力を殺す。だが威力を殺すため後ろに飛んだことが仇になる。


「あ~悪手、速度の速い相手に滞空はまずいよ」

「なっ、!!!」


 後ろに飛んだことに寄り普通よりも長く滞空することになり、速度が速いグーユは落下地点に回り込み、イーゼの脇腹に蹴りを叩き込む。


 それに対して、イーゼは驚きつつも何とか鉄扇と蹴られた側の腕を犠牲にしつつ、致命傷を避ける。


 ただ威力が強いのか、イーゼは何メートルも吹き飛ばされることになる。


 だが、すぐに自ら転がり、跳ねるように起き上がる。すぐさま次の攻撃に対応できるように注意するのだが、その攻撃は来なかった。


『おっと、“酒精乱心”グーユ、畳みかけるチャンスなのに止まった~クールタイムか~~』

「せいか~い」


 解説の声にグーユは軽い声で同意の声を上げる。そしてその証拠に先ほどの赤い筋が青い筋に変わっており、動きが鈍そうに見える。


「まぁ、そこまで時間は掛からないんだけどな」


 グーユはベルトに備えている予備の瓢箪を取ると、先ほどの様に飲み始める。


「っっ、あ゛ああ!!」


 相手が瓢箪に注意を向けている間に、イーゼは痛みに耐えながら脇腹に触れて何かをする。どうやら内出血が酷すぎて、体内に血が溜まっていた。そしてその対処として、イーゼは自ら傷をつけて、血を流して溜まらない様にしている。


「次はこっちからだ」


 処置が終わると、グーユが動かないことをいいことに、イーゼは鉄扇を開き、流れている血を鉄扇の上に乗せ始める。


『おぉっと、どうやらイーゼも諦めていない。あの鉄扇は魔具らしく、血を吸わせている~~』


 イーゼの鉄扇は血が乗せられると、血が蠢き、鉄扇上にまるでもとからあったように模様を描いていった。


「ぷはっ、どうやらそっちも終わったか」

「そうだ、発動する前に首を取れればと思ったが、少々舐め過ぎた」


 先ほどの先制攻撃で終わればと思っていたらしい。ただその代償は少し高かった。


「『酒水は命なり』」

「『血刃舞踊』」


 再びグーユは赤い筋を浮かべて、素早い動きでイーゼに近づこうとする。そしてイーゼは魔具の(アーツ)を発動させたのか鉄扇の先、もっと言えば中骨から赤色の刃が飛び出す。


「ふん」


 最初に動いたのはイーゼだった。鉄扇を振ると、生えた刃が分離してグーユに向けて放たれる。


「あめぇよ」


 だが先ほどよりも速くなったグーユがステージにくっきりと足跡が残る速さで、イーゼの背後に回り込む。


 パチン


 だがイーゼは振らなかった方の鉄扇を背後にいるグーユに向けると、勢いよく扇を閉じる。


「!?おっと!」


 グーユはすぐさまイーゼの背後から飛び退く。


「そんな手札残しているとはな」


 グーユの視線の先には、分厚く長く伸びた、先ほどの赤い刃が存在していた。避けていなければグーユは刃を食らっていたことだろう。


『おっと、一瞬のことでよくわからなかったが、どうやらイーゼが牽制した模様!』


 リティシィは早すぎてわからなかったらしいが、こちらはしっかりと何が起きたかを捉えていた。


(だいぶ器用に使えるな)


 イーゼの武器である、あの鉄扇は刃を作り出す能力を持つと見える。代償が血なのか、魔力なのかは不明だが、そのうえでわかるのが、刃には二種類の使い方があることだ。一つが最初の扇を開いた状態で中骨から伸びるように生えている多くの刃、こちらは飛ばすことが可能なのは先ほどの攻撃でわかっていた。そしてもう一つが折り畳んだ状態で出来上がる、分厚く長い刃だった。こちらはどのような効果を持っているかはわからないが、グーユが飛び退くため、それなりにダメージになるべきだと見るべきだった。


 そうこう推察している間にそれぞれが再び、様々な行動を介していく。


「は!!」


 イーゼはそのまま回転して勢いをつけてグーユに向かって太く長い刃を叩きつける。


「だが、まだ遅ぇ」


 グーユは迫ってくる剣を恐れることは無く、イーゼの死角に移動して避ける。


 ヒラリ


「っ!?」


 だがグーユが移動した死角の部分には先ほどの開いた鉄扇が存在しており、先ほど放った際に無くなった赤い刃が再び存在していた。そして回転していることもあり、振られているとも言えた。


 振られているのが条件なのか、それとも自在に刃を放つことが出来るのかはわからないが、死角をカバーする様に置いてた扇から、さながら散弾のように何本もの赤い刃が放たれてグーユに迫る。


「っっだがそれでもおせぇ!!」


 グーユは再び、異常な速度で散らばる範囲から逃げ出す。


 そしてそこでお互いの攻防が止まる。撒き散らされた刃がステージに振り注ぎ終わると、それぞれが一度距離を取り、仕切り直し始める。


『怒涛の展開ーー!!グーユ選手は何とか接近戦に持ち込もうとするが、イーゼ選手が巧みに魔具を扱い寄せ付けない!!』


 リティシィの解説が続く中、二人はお互いから少しも視線を逸らさずに注視している。


「五分、とは言えねぇな」

「そうだな」


 グーユの言葉にイーゼは肯定を示す。実際、イーゼはグーユの強化に対して牽制することはできても対処法を見出すことはできていなかった。それに対してグーユは強化状態になればイーゼの攻撃を躱すのは容易な事、それに付け加えるなら攻撃力も強化されているため、攻防どちらも優れていた。


(すこし、辛そうだな)


 ほかにもグーユに有利な点がある。それがイーゼの怪我だ。仕方ないとはいえ、血を抜くために自傷しており、その怪我の治癒もろくにできていない。


「だが、それがお前だとは言ってない」


 ピシッ、パリン!


 イーゼがグーユの瓢箪を指差すと、瓢箪はゆっくりと罅が入り、仕舞には割れて中身がこぼれてしまう。


 最終的にはグーユのベルトについている瓢箪は大半が壊れ、残り二つとなる。だがその前に気になる部分があった。


(…………いつの間に)


 イーゼとグーユの試合は終始、姿を捉えていた。そんな中グーユを捉えることが出来ないイーゼが、こちらにわからない速度で攻撃できるわけがなかった。


(何か、仕込みがあるはずだ。だがどこに)


 イーゼの姿を注視し、何か違和感がないかを探す。


「ハハハ、こりゃ一本取られた。お前は血、俺は酒それぞれに限りがる状態での戦いに持ち込まれたわけか」


 グーユは大笑いすると、二本のうち一本の栓を抜き始める。そしてすべてを飲み干すと、空になった瓢箪を適当に投げ捨てる。


「意外だ、正直こちらの攻撃で酒を飲ませるつもりが、自ら飲んでくれるとは」

「俺はまどろっこしいことは嫌いなんだよ。酒が尽きるまでに攻めきれれば俺の勝ち、できなければ負け、それがシンプルでちょうどいい」

「こちらが失血死、するとは考えないか」

「はは、美女が血を流しているのはいたたまれないんでな!」


 グーユはさっおくとばかりに、攻撃を仕掛ける。


(……なるほど、グーユは攻撃しざるを得なかったわけか)


 血を流し続けるイーゼと、酒のストックが少ないグーユどちらが不利なのか、それは圧倒的に(・・・・)グーユだと言えた。


「っふっ!!」

「おら!!」


 イーゼは技量による予測と牽制で出来るだけグーユを寄せ付けないように動く。そしてそれに対してグーユは猛攻ともいえるほどの攻撃的に動いていた。


『息をも吐く間もなく、両者の立ち位置が動きまわる!!私は目が回りそうです~~うぅ~~』


 双方はこうなることが予定調和だったと言えるほど、息の合った攻防を行い、観客に魅せていた。

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