本戦一回戦緒戦
12時19時の2話投稿をします。読み飛ばしにご注意を。
またカクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224
リティシィを観察し、クラリスを宥め終えると、横を向く。
「ユリア、彼女の政治的な位置は?」
「数ある王女と同じですね。王座を狙うことをしなければ平穏に過ごすことができ、時が来れば政略の駒になるか、自身で相手を探し当てるかというぐらいでしかありません」
「なら、彼女があそこに選ばれた理由は?」
「ただ単に適性があったからだと聞いています」
ユリアの言葉に納得する。外見やしゃべり方から注目するよりもされる方が好きそうに見える。好感を得て解説役をするなら適任だろう。
『それでは選手入場!拍手でお願いします』
リティシィの声で観客席から万雷の拍手が起こり、選手が入場してくる。
「……装備が変わっているな」
入ってきたのはイーゼとその対戦相手グーユなのだが、二人とも的当ての時とは装備がガラリと変わっていた。
イーゼは和風の花魁の服装を軽快にしたような服に腰に二つの鉄扇、そして足には真っ赤に染まっているヒールが一つだった。
また対戦相手のグーユは、何ともけだるげなおじさんだった。それなりに高い身長に最低限に整えられた髪と整えてから少し経ったぐらいの無精ひげが堀の深い顔立ちと相まって似合っていた。そして装備なのだが、質のいいローブに腰にはいくつも瓢箪らしき何かを持っているだけで、一見すると武器は存在していない。
『あ!待ってください!まだ上らないで』
そんな二人がステージの前まで進むとリティシィの制止があった。
『さてさて、例年のことですが、神前武闘大会では本戦にステージの状態が変更されます。今年はどんな状態になるのか、予想してみてくださ~~い』
その言葉の後にリティシイの前と観客に見せるようにホログラムで出来たルーレットが出来上がる。
(そんな機能もあるのか)
ルーレットには『変化なし』『草原』『沼地』『砂場』『雪上』『水場』『岩場』『廃墟』と書かれていた。
『はてさて、戦神様は誰に微笑むのか。それではルーレットスタート!!』
リティシイは自身の前にあるルーレットを回し始める。針の下の部分が何度も変わり、どれになるかがわからない。
『初めての方もいると思うのでせつめいしま~す。まず本戦は予選と違う部分がいくつもあります。その一つが外部からの影響です。予選は光の膜により相互が一切干渉できないのですが、本戦に限っては違う部分があります。それが外の環境の一部が中に影響するという点です。わかりやすく言うと、天候などですね、雨や強風などはステージに反映されます。ただ、それはハルジャール全体に影響がある部分に限ります。また直接的な魔具の影響などは内部には使えないですし、物の受け渡しもできません!』
つまり、昼の日差しや夕暮れの暗さがもろに影響したり、向かい風追い風も周囲の影響があるらしい。
(超限定的ではあるが外部からの介入があり得るのか)
先ほどの説明では、例えば観客席からステージ内に強風を起こしても意味が無いのだろう。だが天候を操作する魔具が有るのなら十分に干渉が可能とも言えた。
『そしてもう一つが使用可能エリアの縮小です!やっぱり長々と隠れていられるのも面白みに欠けるので、時間制限を設けさせてもらいま~す。最初はステージ全部が使えるのですが、はじまってから程なくすると小さくなり、最終的には予選と同じエリアにまで小さくなります』
こちらは合理的な選択だろう、正直に逃げ回って無為に時間がつぶれていく可能性があるための措置だ。
そして説明が終わるとルーレットの勢いが収まっていき、一つを指し示す。
『おぉ!決まりました!本日のフィールドは『変化なし』です!』
つまり、現在のステージ、綺麗な石畳の上で行われることになる。
(どちらかと言えば変わってもらった方がよかったがな)
どう変わるのか興味があったため、正直がっかりと言えなくもない。
『では“破壊球遊”イーゼ、“酒精乱心”グーユ、双方上がってくださ~い』
リティシィの気の抜けるような声を聞いて、二人ともステージに上がっていく。
『ではいいですね?カウントダウンはっじめ~~』
リティシィの声でステージ全体に数字が現れカウントダウンが始まっていく。
(さて、どんな試合になるのか)
貴賓席の前に解説役のリティシィのホログラム画面と試合の様子を映し出されたホログラム画像が用意され、若干のワクワクを感じながら、観戦し始める。
『さ~て、始まりました。どのような戦いを見せてくれるのか』
カウントが進む中、リティシィの実況が行われる。レーゼは鉄扇を開き構える。対してグーユは全く構えを取らず、腰にある瓢箪を一つ取り、そのまま栓を抜きそのまま首を傾けて飲み始める。
そしてそのままカウントダウンが終わると鐘の様な音が響き渡り、開始の合図が鳴った。
『最初に動いたのは本大会初出場、“破壊球遊”イーゼ!!低い姿勢で突っ込む!!』
解説通り、最初に動いたのはイーゼだった。低姿勢になり、地面スレスレを這うように急速に動いて急接近を測る。
だが対してグーユは何も対処することは無く、そのまま瓢箪の酒を飲み続ける。
「はぁ!!」
試合のホログラム画面からイーゼの音声も聞こえてくる。
(ホログラムから音声が聞こえるとは…………)
発音するための装置がないのに音が聞こえることを不思議がるが、結局は魔具という不可思議だと思う事にして疑問を無視する。
その間に戦闘は進む。イーゼはグーユを間合いに捉えると、全力で首を斬り飛ばす勢いで真横に振る。
「っ!?」
「ぉお、少し速かったな~」
グーユは瓢箪を加えたまま、ほんの少し背後に下がり、紙一重に避ける。だがイーゼの攻撃が予想を上回る速さだったのか表面に何が擦れた時のような赤い線が見える。
「まぁ、もう少し待ってくれや」
「ぐっ」
振りぬいた隙を見逃さずグーユは前蹴りでイーゼとの距離を強制に取らせる。
「もう少し味わいたいんだ~~~あれ?」
グーユは瓢箪をのぞき込む。どうやら、酒が尽きたらしい。
「しゃーね~すこしやるか~」
その後、なんどか瓢箪を振り、中が無いことを確認すると瓢箪を投げ捨てて、首を鳴らす。




