様変わりした様相
12時19時の2話投稿をします。読み飛ばしにご注意を。
またカクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224
(……だいぶ様変わりしたな)
オーギュストの戦いを一部始終見て、最初に出てきた感想がこれだ。
(五年前は、もう少し直線的な戦い方をしていたが)
五年前を思い出してみるが、当時の彼は自身が動き、四肢での攻撃、また魔法は直接自身で使用していたはずだった。だが今回はあの時に見せなかった触手という攻撃手段を取るようになっていた。
(今回見せたのは触手による攻撃と、自身の体に触手を纏わせてでの武器化。また触手は再生機能も付いており、分裂は派生して生えることも可能、それに付け加えて五年前に見た手法はいまだに生きていると思ってもいいだろう、それに―――)
そこからは思考が永遠に続いていく。何が出来そうで何が出来なさそうか、もっと言えば能力をさらに派生させればどのようなことが出来るのか。もし、もしと雪崩の様な感覚を得ながら多くのことを考――
「――アル様、バアル様」
後ろでリンの声が聞こえて、思考を一度止める。
「どうした?」
「来客です」
リンの言葉を聞き、思わず首を傾げる。なにせこのタイミングでの来訪は違和感しか感じさせないからだ。正確には予選が終わった後、今日の夜、もしくは予選と本戦の間の休息日にでも来訪した方が、まだ心象はよくなるはず。
また現在、ネンラールからしたら、少々近づきにくい位置にいるため、まだ本格的な接触はないとも思っていた。そのため、急用などがない限りはまず来訪はないと踏んでいたのだが。
「誰だ?」
「それが、アジニア皇国外務政務官フシュン・セン・ギジュンの使いとのこと」
「……まぁ、来ると思っていたが、予想よりも早かったな」
現在、アジニア皇国とネンラールは休戦状態にあるとカーシィムから聞いている。そしてフシュンがその間にこちらに接触するのは予想がついていたが、それが神前武闘大会の終盤ではなくこのタイミングだとは思わなかった。
(ネンラールは邪魔をしなかったのか?)
ネンラールも俺が以前フシュンの後ろ盾になったことは把握しているはず。そのため、下手をすればグロウス王国から圧を掛けられることになりかねないため、邪魔をしてくると思っていた。
「伝言は何だと?」
「少しの間、お時間をいただけないか、とのことです」
「…………」
伝言の内容に少々考える。
「……………………会ってもいい、ただしここ以外の場所で、と伝えろ」
最終的な決断は合うことに決めた。その理由だが――――
「では、そのように返答をします」
リンが使いに返答すると、あちらはこちらの伝言を持ち帰っていく。
「兄さん……」
アルベールがこちらのやり取りを見て、一度口を開くと、再び閉じる。
「聞きたいことは素直に聞け。授業で間違えてもいいのは本番に間違えないようにするためだろう」
「授業、授業ですか……」
アルベールはこちらの言葉を何度か反芻すると、しっかりとこちらに視線を送り、口を開く。
「では、なぜアジニア皇国の使者と面談するのですか?」
「してはいけないと思う理由は?」
「はい、まずネンラールから敵視される点、そして会って兄さんの力だけでは戦争への介入はまずできないため、あちらをがっかりとさせるだけだと思います」
「ほかには?」
「えっ…………」
こちらの言葉にアルベールはいろいろと考え始める。
(すでに答えは出ているのだがな)
「ふふ、やっぱり兄弟ね」
隣から聞こえた声で、そちらを向く。
「似ているか?」
「ええ、熟考した時に周囲を気にしなくなる癖なんて、まさにそっくりじゃない」
クラリスの言葉でリンに視線を向けると、リンもその通りと苦笑しながら頷く。そのことに居心地が悪くなり熟考しているアルベールの肩を叩き、ヒントを与える。
「えっと、その」
「答えを急かしたわけじゃない……では逆に聞くが、会うべき理由を挙げてみろ」
「会うべき理由………」
「ちなみに、俺の立ち位置で考えれば、少しはわかりやすくなると思うぞ」
「兄さんの…………第一にゼブルス家の…………ネンラールとは…………じゃあ、アジニアを…………でも、王国の……………………ああ!?」
アルベールの口から時々言葉が出てきた後、合点がいったという風に納得の声を上げる。
「それじゃあ、答え合わせだ。俺が会うと判断した理由は?」
「えっと、まず――――」
その後、アルベールの答えを聞いた後、丁度使者が訪れて、俺とリン、ノエルは別室へと移動することになった。ちなみにアルベールの推察はしっかりと正解していた。
俺達が向かった先はコロッセオの目立たない一室。おそらくは何かあったとき用のための予備の部屋にて俺はとある人物と面談している。
「お久しぶりです、バアル様」
「そっちも久しいな、フシュン」
部屋の中にいたのはフシュン・セン・ギジュン。アジニア皇国の外務政務官であり、前皇帝の忠臣であり、4年前に現皇帝の側近ともいえるフォンレンを暗殺すべくグロウス王国へやってきた男。
だが、あの時とは違い、全体的に痩せこけており、ストレスによるものか頭の前部分から頂点部にかけて髪が後退していた。また、そのせいか以前持っていた生気の様な物が無くなっており、一言で言えば少々疲れ果てた様相をしていた。
(やはり監視付きか)
壁際に視線を向ければ、そこにはネンラールの兵士が並んでいた。一見すると、護衛しているようにも見えるが、現状の二国間を考えれば監視の側面が、というよりも九割九分それしかないだろう。
ひとまずお互いに握手を交わすと、部屋員備え付けているテーブルに着く。
「さて、前置きは飛ばして聞こう。何用で呼んだ?」
和気藹々とは程遠い雰囲気のため、率直に話を聞く。
「……では率直に一言、我が国を援助していただきたい」
フシュンはテーブルに着きそうなほど、頭を下げる。
「…………はぁ」
こちらの溜息にフシュンの肩が震える。
(わかっているだろうに)
現状、グロウス王国がネンラールに戦争とまではいかなくとも圧を掛けることは無い。なにせ一応は友好国であり、それなりに国交もある。また、グロウス王国第二王子はネンラールにも深い基盤を持っている。
そんな状況下でわざわざネンラールと敵対する必要があるわけがない。
「言葉はそれだけか?」
「いえ!!!もちろん援助をもらえたなら、その暁には―――」
それからフシュンは祖国を守る一心で、それこそ売国行為スレスレの提案を並べていった。
だが、しっかりと情勢を理解する者からすれば、フシュンの行動はむしろ哀れみにしか感じないだろう。
「―――、っほかにも」
「ああ、もういい」
「っ!?」
正直なところ、アジニア皇国に関しては現時点ではどうにも処理できない不良債権にしか感じえない。
「まず、最初に告げよう。フシュン、お前は一つ勘違いしている。この話を持って行くべきはまず、俺ではない」
結局のところ、判断を下すのは俺ではなく陛下となる。なのに、外交官でもない俺につらつらと援助の際の見返りを述べても何の効力もない。
「もしくは、俺個人の援助を求めているなら、はっきり言おう。俺一人ではまずネンラールを止めることはできないし、後々のことを考えればすることは無い。そのうえで聞くが、俺、ひいてはグロウス王国が貴国へ肩入れする理由はどこにある」
「っっ、このままネンラールが拡大し続ければいずれはグロウス王国すらも飲み込みかねません」
確かに将来的な危機を防止するという点では、アジニア皇国を援助する意味はあるだろう。
だが、結局――
「何度も言うが俺に持ってきてどうする?持って行くべきならしかるべきところに持って行け。それとも俺から陛下に上奏することを望んでいたのか?」
「将来的な国防の危機であっても関与しないと?」
「そう思っていても決断すべきは陛下であり、俺ではない」
「っっですが、バアル様が就任した機竜騎士団ならば」
フシュンは飛空艇を期待しての言葉だったのだろうが、それはあまりにも早計だった。
「まず一つ、確かに機竜騎士団の団長には就任したが、それだけで全面的な指揮権ではない。当然ながら陛下が全権を握っており、俺が管理を任されているに過ぎない」
言葉を紡ぎないながら、フシュンを捉えながら同時に壁際にいる護衛達も視野に入れる。
「そして二つ目、機竜騎士団は発足してから半年も経っていない。そんな状況下ですぐさま軍事的な行動を取れると思うか?」
「それは………………では、お聞きしたい、バアル様は我が国を見捨てる考えを持っておりますか?」
「疲れすぎて、頭が働いていないのか?その回答になる言葉はすでに投げた」
そう告げるとフシュンは完全に項垂れる。
「話が以上なら戻らせてもらおう。そしてもう一度告げるが、貴国が頼るべき国はネンラールを挟んだ先には無い」
最後にそう告げて、フシュンとの会談は終了した。




