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冷徹公爵の異世界人生~助けてほしいだと?なら見返りは?~  作者: 朝沖 拓内
第二章 学園の始まりと騒々しい夏休み
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アルカナとの契約

 まずはこの樹を拠点とし、日が上がってきている方角を東と考えて探索する。





「……………これは気を付けて進まないとすぐに迷子になるな」


 東の森はまさに樹海と呼ぶべき場所だった。自分の身長よりも高い木の根が道を邪魔し、ところどこにある鋭い草が皮膚を切りつけようとしてくる。


「……何にもないのか」


 慣れない森の中を何とか進むが、森の中なのに獣どころか虫すらいない。


「…………妙だな」


 いくら何でも動物の姿がなさすぎる。


 ガザガサ、ザッ!!

「っ!!」


 足の裏の土が盛り上がり、木の根が伸びてくる。その根は先端が鋭くとがっており突き刺そうとしているのは誰が見ても明らかだった。


「これかよ!!」


 根だけではなく周囲にある何本もの枝も襲い掛かかり、他にも少し遠めの木々も蠢き、まるで檻のように囲う。


 予想ではこれらは肉食の植物の類、でなければわざわざ襲ってくる理由がない。森に動物がいないのはこれにやられたと簡単に予想できる。


「めんどくせ!!!」


『亜空庫』から槍を取り出そうとするのだが。


「!?っ!?」


『亜空庫』に手を入れて槍を取り出そうとするが肝心の槍を掴むことはなかった。


(そうだ、部屋に置いたままだった)


 いつもは持ち歩いているのだが、サイズが少し合わなくなったので新調する予定で部屋に置いたままにしていた。


 他には何かないかと探る。亜空庫の中に何が入っているかを調べているとある物が手に触れる。


(……少し長いけどこれを使うか)


 取り出したのは二年前に攻略したダンジョンで見つけた『神罰槍“バベル”』だ。


「さてじゃあどんな力を発揮するのかな!!」


 構えるといつも通り体に魔力を流す。


「ん?」


 いつも通り体に魔力を通し【身体強化】を発動させるのだが、体に張り巡らそうとしている魔力がなぜだか槍の方に向かう。


“汝、神秘の十六番目たる、『塔』の契約者足りえるか”


 何か声が頭に響いてくると、強制的に魔力が吸い出されていく。


「っ!?このタイミングは!?」


 ほぼ満タンだった魔力がすごい勢いで吸い上げられていく。


「無駄に使わせやがって!!!」


 即座に『亜空庫』からマナエリクサーを取り出す。


 蓋を開けると瓶を口に咥える。


 一口飲めばほぼ満タンになり、またすぐさま槍に魔力が吸われて、また残っているマナエリクサーを飲み回復し、またすぐに槍に吸われる。


「やることが多すぎだ!!!!」


 襲ってくる枝や木の根を回避しながら、バベルで切断して、魔力が枯渇しそうになると咥えているマナエリクサーを一口飲み、また枝を対処する。


 それらを何度も繰り返していると次第に槍が魔力を吸わなくなった。


“汝に我が神秘の欠片を与える資格を見た”


 そして槍の形が変わる。文字の部分は同じなのだが、穂先の部分がハルバードのそれとなっていた。


“破壊、破滅、崩壊、災害を引き起こす『塔』の神秘(アルカナ)、汝との契約を遂行する”


 そして俺の体にも変化があった。両肩から腕にかけて紋様が刻まれていた。


“さぁ汝よ、その神秘を使いこなせ”


 この言葉を最後に頭に響く声が無くなった。


「使いこなせってどう使いこなせばいいんだよ!!!」


 柄にある文字が淡く輝くと頭に不思議と情報が入ってくる。


「『飛雷身』!!」


 俺を突き刺そうとしてくる枝を限られた範囲で避けながら読み取る。


 ―――

【XVI:塔】


『神罰』

『怒リノ鉄槌』

『聖ナル炎雷』

『慈悲ノ聖光』

 ―――


 このような情報が頭に入ってくる。


 とりあえず本能から最も行ってはいけないと叫んでいる『神罰』を使ってみる。


「……は―――――」


 天から降り注ぐ極大な光が俺を飲み込む。









〔~???~〕



「え?あれは何?」


 私は聖樹の森で起きている不思議な現象を確認している。


 天空から光の柱が森の一部に降り注いでいた。


「すぐに皆に知らせなくちゃ」


 急いで戻り異常事態を伝える。











〔~バアル視点~〕


「いや、少し前の俺、何でこれを使った?」


 光が収まると自分の周囲は土以外のすべてが無くなっていた。


「使いどころを考えないとな」


 これではフレンドリーファイアーをしてしまうだろう。


「ただ、連発は出来なさそうだな」


 『怒リノ鉄槌』『聖ナル炎雷』『慈悲ノ聖光』は通常通り魔力を消費して使うのだが、『神罰』だけは違う仕様になっていた。これはほかの三つを使用する度に柄の文字が薄く輝き、全体の半分を超えた状態で発動できるようになる。また文字の数が多いほど規模はでかくなっていく。


(………とりあえず今日は帰るか)


 最初の樹の場所に戻るとハンモックを設置する。


「それにしても」


 ―――――

 神罰斧槍“バベル”

 ★×8


【XVI:塔】【最適化】【紋様収納】【所有者固定】


 アルカナシリーズの一つ。神からの聖なる力を受け止める神の家の一部を使用し、神の力の一端を得た槍。その力は破壊、破滅、崩壊、災害を容易に引き起こす。今は所有者が認められており安定している。

 ―――――


 形だけではなく武器に備わっているスキルもフレーバーテキストも変化している。


 おそらく形が変わったのは【最適化】によるものだろう。斧槍(ハルバート)になっただけではなく長さも俺にちょうど良くなった。


「……この【紋様収納】ってのは何だ?」


 そうつぶやくと手の中にあったバベルが消えてなくなる。


「は?」


 そして同時に両手の甲に紋様が浮かび上がる。


「……【紋様収納】」


 今度は手の中にバベルが収まる。


(へぇ~こいつは楽だな)


 亜空庫すら使わずに武器を取り出せるのはとても楽だ。


(それにしても、このままだと食料もなくなっていく、どこかで調達できればいいんだが)


 今あるのは亜空庫に入っていた食料だけ、量は軽く見積もって約十日分。早めに食料を確保しておかねば餓死する可能性がある。


(明日は次は西に行ってみるか)


 いい感じに日も傾いているので今日は拠点に帰る。










 次の日、起きると早速西の方角へ探索に向かう。


「ん~、東よりは鬱蒼とはしてないな」


 東の方は樹海という感じだが、西の方は森林という雰囲気だ。樹々は日光を遮るわけではなく柔らかくしており、地面から生えている根もまばらにしか出てきていない。そして日光が完全に遮られていないおかげか、茂みの類が多く、小動物の隠れる場が出来上がっている。


「程よく獣がいるからとりあえず食料に困ることはまずないか」


 遠目でもウサギやリスなどの小動物が確認できる。


「ここには肉食動物はいないのか?」


 ただ見える獣は明らかに草食系のみだ。そこに違和感を感じないと言ったら嘘になる。


 その後もそのまま進むと、森が途切れた先は草原が広がっている。ちなみにだが東の樹海の先は荒地が広がっていた。


「さすがに準備無しでこの先に行くのは無謀だな」


 草原が広がっているので食料が手に入る確率は低い。


(行くならばもう少し食料を集めてからだな)


 方針を決めたら今日のところは引き返す。








〔~???~〕


「なに……これ……」


 私たちは光の落ちたであろう場所を調査している。そこには遠目から見ても分かるほどのぽっかりと空いた穴があった。


「爆発………じゃないわね、魔法かしら?」

「でも魔法にこんなことができるものが……」

「あったとしても、どれほどの魔力が必要になるか」


 一緒についてきた者たちもこの現状には動揺している。それほどまでに現実的にはあり得ないほどなのだから。


「これでは痕跡なども消えていますよね……」


 周囲はこれほどの惨状だ、痕跡が残るわけがない。


「一定の人数でこの場を警戒、それ以外は周囲に警戒網を張りなさい」


 何が起こったか定かでない現状、警戒を続けるしかない。











〔~バアル視点~〕


 西も探索し終わったので次はそのまま南の方角に向かう。


 そこは西以上東以下という感じだった。


「ここも歩きにくいな」


 東ほどではないが歩きにくい。歩くのに悪戦苦闘していると周囲に気配を感じる。


(人?………ではないな)


 気配が獣染みでていて、駆けだす音が聞こえる。


「なるほど」


 現れたのはハイエナらしき群れだ。


「ちょうどいいこれの実験台になってもらうぞ」


 バベルと出すと昨日使って無かったものを使ってみる。


 穂先を獲物に向ける。


「『聖ナル炎雷』」


 まず使ってみたのは『聖ナル炎雷』。これは穂先から白い炎と白い雷を放つスキルだった。


「使い勝手はなかなか」


 ある漫画の黒い炎みたいに一度炎に触れたらすべて燃やし尽くす、ということは無く、逆に獣以外が燃えた形跡がない。


「周りを傷つけないって点では使えるな、次に『怒リノ鉄槌』」


 スキルを発動させると刃の部分に白い光が形を作り大きな槌になる。


(………槍なのに槌って)


 槍じゃなくなるんだなと、どうでもいいことに思考がずれる。


「ガル」


 とびかかってきたハイエナもどきに槌の部分をぶつける。


 するとハイエナの体が一瞬で灰になった。


「………」


 ここまで威力があるのかという感想しか出てこない。なにせ生物を一瞬のうちに灰に変える。そんな熱を持った物がすぐ近くあるのに熱さを感じられないでいる。


(神罰の単体攻撃バージョンって感じだな……触れたら俺も灰になるのかな)


 考えている間にハイエナは襲ってこない、どうやら一瞬で灰にしたのが恐ろしいのだろう。


「襲ってこないなら何もしないからどっかいけ」


 言葉が通じたのかは知らないがハイエナたちは去っていった。


「………これどうやったら消える?」


 いつまでたっても白い槌が消えない。


「魔力はもう流してないのだがな」


「(………一回思いっきり地面でもぶん殴るか?)とりあえず軽く地面にぶつけるか」


 ジュゥゥゥゥゥウウウウ


(……軽く触れただけなのに地面がマグマみたくなるってどんな熱量だよ)


 そしてほんの少しだが白い部分が小さくなっているのも確認できた。


「……いろいろと破壊していくか」


 移動してはそこら中にある物を破壊して小さくしては、また移動して破壊する。十回ほど破壊を繰り返すとようやく槌の部分が無くなった。


 こうして今日の探索は終了し、残りは北だけとなった。










〔~???~〕


「……南ですか」

「はい、探索をしていた者がなにやらおかしな痕跡を発見したようなのです」


 夜、私たちは散策をしていた部隊から報告を受けている。


「それも複数個所ありました」

「では明日は探索の範囲を南に絞るとしましょう」


 方針を示し、私たちはまた動く。








〔~バアル視点~〕


 翌朝、最後に北を探索するのことになった。


「ここは南の森に似ているな」


 植生が少しだけ違うが南に似たような雰囲気が感じられる。


 そして


 ガァアアアアア×10


「なぜこんなに襲ってくる?」


 南の比ではないほど肉食獣に襲われている。ただ個々がそれほど強くなく、バベルの能力を使うまでもないので普通に切り払う。


「『飛雷身』『雷霆槍(ケラノウス)』」


 いつもながらのユニークスキルで十分すぎた。










 まず【轟雷ノ天龍】は発動しているだけでも相応の恩恵が得られる。具体的には、消費魔力に応じて帯電しステータスが加算される。


 そして発動した状態から使える特殊な(アーツ)が5つ。


 まずは一つ目が、よく使う『飛雷身』。これは見えている場所に雷となり移動する(アーツ)だ。一見攻撃にも使えそうだが完全に移動専用な技。移動できる距離は消費する魔力量で決まる。欠点としては見えている場所にしか移動することはできない。


 次に遠距離攻撃である『雷霆槍(ケラノウス)』、これは雷の槍を作り投擲する。投擲された槍が刺さると槍を起点に放電が巻き起こる。ちなみに規模は槍の大きさに比例し、槍の大きさは同じく魔力量で決まる。


 三つ目に『天雷』。これは掌から指定した方向に電撃を放つもので、効果は遠距離であればあるほど威力が減衰する。これは『雷霆槍(ケラノウス)』とは違い、近距離から中距離に最も効果を発揮する。


 四つ目に『放電(スパーク)』。これは川でも使ったが自分を起点に一定範囲内にいるすべての生物に電撃を浴びせる。


 最後に『真龍化』、これは純粋なステータス強化だ。1秒10MPを消費するが全ステータス項目に+200する。



 回避、移動用の『飛雷身』、遠距離攻撃用の『雷霆槍(ケラノウス)』、近距離から中距離の攻撃用の『天雷』、超近距離用の『放電(スパーク)』、強化用の『真龍化』。


 これらが一つでも強力なのに五つもあるからほぼ万能と呼べる構成になっている。


「それに近距離ならこれで十分だ」


 強靭な獣の毛すらバベルはやすやすと切り裂くことができるので、近距離戦も問題なく戦うことができる。

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