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歓喜の出立と残る濁り

12時19時の2話投稿をします。読み飛ばしにご注意を。


またカクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

 公爵との対談が終われば、用意されている部屋に戻るのだが


「たしかに殿下はジェシカを愛してはいるのでしょうが、それはユリアをないがしろにしていい理由にはなりません」


 道中に、たまらずと言った風にリンが愚痴をこぼす。


「バアル様はどうお思いですか?」


 リンはユリアの動向が気になるのか問いかけてくる。


 だが


「……リン、お前が欲しいのはユリアの同情からの答えか?それとも俺の立場での答えか?」

「それは……」


 リンはこちらの言いたいことを理解して、口を閉ざす。


 なにせ、ゼブルス家がユリアとの関係を持っているのは利用価値があるからに他ならない。そしてその最たる価値は未来の王妃という部分が多かったからだ。だがそれが揺らいだら?ゼブルス家はユリアとの関係を維持しようとするだろうか?


「結局のところ、あの三人の行動次第だ。ただネンラールに行くのはユリアからの交渉のため、その分の仕事はするがな」

「…………その後はどうするおつもりですか?」

「ユリアが王妃になれないと分かれば、また冷遇される事態にでもなればゼブルス家も縁を切るだろうな」

「っっっ」


 リンは悔しそうな顔をする。なにせリンはユリアを気に入っていた。言い換えればユリアの恋路を応援していたともいえた。


「…………」


 だが、返す言葉がないため、何とも言えない顔でリンは素直に後ろをついて来ている。


 そしてそのまま自室に戻るのだが


(…………ん?)


 城下が見渡せる通路を通っていると、中庭で特徴的な赤い髪が見えた。


(殿下と…………あれは、ロドア(・・・)か?)


 二人は動きやす恰好をして、共に木剣を持ち、模擬戦をしていた。


「また腕を上げられましたね!殿下!!」

「そっちもな!!正直、俺の近衛にしたいくらいだぜ!!」


 二人は軽快な打ち合う音を出しながら笑顔で動き続ける。そして一折の打ち合いが終わるとイグニアがロドアと近づく。


「本当に惜しいな。お前が俺の側近になってくれれば安泰なんだがな」

「過分な評価をいただき恐縮です」


 二人は笑いながら汗をぬぐい、水を飲みながら笑い合う。


(……二人の仲は良好、か)


 一見すれば、イグニアが友人と共に楽しく模擬戦しているように見える。だが、とある事実(・・・・・)を思い出せば、少し嫌な未来が想像できた。


(ロドアがユリアを裏切っていれば…………邪推が過ぎるか)


 ロドアがイグニアに乗り換えるとしても、別にユリアを裏切る必要はない。ただただ仕える先を変えるのならユリアに一言二言告げて、イグニアに雇われればいい。実際ユリアよりもイグニアの方が立場は上だ、イグニアが本当に欲しいと望めば、ユリアは渡すだろう。もし実家の意向で許されないとしてもイグニアが手を回せばそれも済む。ましてやユリアからすれば元護衛がイグニアの近くにいることのメリットを知らないわけがないため、渋ることもないだろう。


 そして、だからこそわからなかった。


(ロドアはユリア、イグニアとの関係は良好だと見える。だが、実際はユリアの情報を流している、か)


 ロドアが何を思って、ユリアの情報を流したのかは不明だ。ユリアの不穏な動きが不満なのか、仲良さそうに見えてユリアが嫌いなのか、それともイグニア寄りで二人の恋路の邪魔をしそうなユリアへの保険か、はたまた第三者からの報酬につられて裏工作を行っている可能性すらある。


「アルベールが、何か掴んでいればいいが」

「バアル様?」

「いや、何でもない」


 アルベールが何かしらの内情を掴んでいることを期待して、俺はそのまま自室へと戻っていった。











 それから二日間、補給や休養のためにとどまるのだが、その間ハルアギア家からは歓待を受けることになる。豪勢な晩餐、観光地の案内などなど。だがその中で全く楽しめない者たちが確かにいた。


 そして二日後、出発の挨拶を行い、ハルアディアを出ることになるのだが。














「やっっっっと、この匂いから解放される~~~~~!!!」


 ハルアディアを出てから数刻後、馬車の中でレオネの歓声が上がる。


「そんなに、いやだったか?」

「うん!!!煤の匂いと焼けた鉄と土の匂い、あと火の後の匂いがこう、いやな感じで混ざっていたからね!!」


 レオネは心底嫌そうな顔でそういう。


あっち(・・・)にいる連中もそうだったか?」

「だと思うよ」


 後続に続いている馬車に視線を向けると、レオネは同意する。


 俺達の後ろにいる後続の馬車は、ハルアギア公爵が獣人達に贈った特注の馬車だった。


(純粋な厚意もあると思うが、それ以上に獣人達の点数稼ぎという面が大きいな)

「すごいよね~この馬車と同じ大きさだけど、きちんと考えられていて、ベットもついていたし」


 あちらの馬車はこちらと同等の大きさなのだが、乗員数はこちらの三分の一となっている。だがその反面、ベッドや薬品棚、物御台がついており、具合の悪い人物がいる場合はこちらの方が数段使い勝手がよかった。


 ゼブルス家が用意した馬車は特大型の馬車で20名が乗っても無事に運行できる代物なのだが、さすがにベッドなどの機能は存在していなかった。


(おそらくは獣人の様子を侍女たちから聞いてから選別したのだろう)


 そして現在、レオネ以外の獣人達はあちらに乗っていた。


「むふ~~得したね~~」

「……そんな訳がないだろう」


 贈り物を貰ったらお返しをするのが普通だ。いや、正確に言えば良好な関係でいたいのなら、だが。


「むぅ、それぐらいわかっているよ。氏族でも何か貰ったら何か返さなければ礼儀知らずって思われるよ」


 さすがの獣人でも似たような文化はあるという。


「なら、バアルも生誕祭でいろいろもらっているから贈り返す必要があるわね。主に私に」


 レオネと贈り物に関して反しているとクラリスが参加してくる。


「そんな回りくどいおねだりをしなくても、言えば用意するぞ」

「それは婚約者だから?」

「ああ」


 こちらの返答に少しだけがっかりした表情をするクラリス。


「ふむ。まぁ英雄色を好むって奴かな」


 一歩引いた場所で馬車の中を見渡していたロザミアがそうつぶやく。


「俺がか?」

「そんな心外とでも言いたそうな表情はやめてほしいな。美人の護衛、エルフの姫、笑顔が絶えない獣娘、ここまで揃えば十分だと思うけど?」

「…………」


 残念ながらここで反論することはできなかった。なにせロザミアの言葉を否定するなら、この三人と一切の関係がないことを示さなければいけないからだ。だがそれを言い換えればまだ経験がないとも言えてしまう。


「ねぇねぇ、それよりもさ~ネンラールってどんなところ?」


 ロザミアの会話の流れを強引に断ち切ってレオネが問いかけてくる。


「ある程度は事前に説明したはずだが?」

「ほとんど忘れた~~」


 レオネのなんて事の無い言葉にため息を吐きながら、話題を続けるために説明する。





 ネンラール国はグロウス王国の東側に接している大国であり、別名“戦士の国”とも呼ばれている。国民の気質は荒い方で、良くも悪くも力による統治を受け入れていた。そして同時に他国への侵略姿勢を見せている。


 国内は平野が多く、南側に多くの自然が存在しており、そこから北に上がるほど自然は少なくなっている。そしてネンラールの最北の地には山岳地帯があり、そこにはネンラールの力の源と呼べる、ドワーフたちの住む地が存在していた。


 そしてドワーフの上等な武具防具やダンジョンによる魔具が多く供給されているからか、魔法よりも武術や魔具での戦闘方法が必然的に磨かれ、長けていた。











「ふぁ~~…………へぇ~」


 レオネの要望で説明をしているのだが、当の本人は眠たそうにあくびをし、まぶたを半分閉ざしながら、感心している風の(・・)声を上げる。


「……眠いなら寝てろ」

「そうする~~」


 皺になった眉間をほぐしながら言うと、レオネは椅子に寝そべり、そのまま穏やかな寝息が聞こえてきた。


「本当に寝るんだ……」


 獣人の能天気さを目の当たりにするとロザミアは感心するような声を漏らした。


「レオネを黙らせたいときはロザミアの授業に放り込むだけで済みそうだな」


 周囲から薄い笑い声が聞こえてくる中、馬車はしっかりと行路を進んでいく。

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