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獣達の戯れ

12時19時の2話投稿をします。読み飛ばしにご注意を。


またカクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

「はぁ!」


 屋敷を出て、訓練場の入り口にやってくると、まだ声変わりもしかけている子供の声が聞こえてくる。


「そうそう、相手に呼吸すらさせないほど激しく、攻めろ」

「はい!マシラ師匠!」


 訓練場の中心部では外見的特徴が全く同じあり、幼い頃の俺を優しくしたような風貌である弟のアルベールとアルバングルからの客人であるマシラが模擬戦していた。


「どうやら、全員いるようですね」

「そのようだな」


 リンの声につられて周囲を見渡してみると、訓練場内にはアルバングルからやってきた面子と俺の部下となったエナとティタがいた。


「あ!!バアル~」


 観戦席の一角からこちらを呼ぶ声がする。そちらを向いてみると、こちらを見ながら全力で腕を振ってこちらに向かってきているレオネの姿があった。


「どうしたの~~今日は誰か来るって言ってなかった?」


 レオネはアルバングルから付いてきた少女だ。最大氏族テス氏族の三女であり、バロンの娘でありレオンの妹、つまりはアルバングルの姫と呼んでもおかしくない人物だった。


 また訓練場に似合う日焼けした健康な肌、腰まで自由に伸ばした赤金色の髪にその頭上にある猫のような耳、腰から生えている同じ毛並みの尻尾、整った綺麗な顔を持ち、正確も明るく人懐っこい。そしてよく訓練場に入り浸っているため、ここを利用する騎士たちのアイドル的な存在になっていた。


「話はひと段落してな、少しアルベールに確認したいことがあってここに来た」

「ふぅ~~ん、ならもう少し掛かると思うよ」


 レオネが頭の上にある耳をピコピコと動かしながらそういう。


「そうか、なら待つとしよう」

「なら、今面白いのが見られると思うよ」


 レオネは腕をつかむと、強引に訓練場に連れ込まれる。


「ほら、あれ」


 レオネが指さした先には、お互いに拳を構えた二つの影があった。


「アシラとティタ、それにエナか」


 二つの影の招待はティタとアシラでありエナは二つの影のすぐ近くで観戦していた。


 エナはクメニギスの研究発表の際に俺を攫った張本人だ。美しいがやや恐ろしい顔つきに灰色

 をベースに黒色の斑点が存在している。褐色の肌を持ち、男性とほぼ同等の伸長を持ち、頭の上には三角の耳がある。


 そしてティタはエナの従者や(しもべ)とも呼べる存在で、何もない時は常にエナと一緒に居る。またエナとは裏腹に真っ白い肌に、白銀の髪をしており、目つきは鋭くまさに蛇というにふさわしい。そして身長はエナの頭一つ分高く、体は細いが、戦うだけあってしっかりと筋肉がついていた。


 またティタに対面して拳を構えているのはアシラ。熊の獣人だけあり、体格は大柄でティタと並ぶとその太さが一目瞭然でわかる。だがそこに無駄な脂肪は一切なく、完全な戦士であることは出れもが理解できるだろう。また特徴的ともいえるのがオールバックにしている青髪で、後頭部には正直あまり似あっていない熊の耳が存在していた。


「あ、始まるよ」


 レオネが声に出した瞬間、双方とも『獣化』を発動する。アシラの肌には熊の様な剛毛が、ティタの肌には銀の様な白の様な鱗が体の各部に生えた。


「バアルはどっちが勝つと思う?」


 レオネの言葉に二人の姿を見比べる。アシラは偉丈夫と言える体格と身長を持ち、しっかりと重心を置いた構えを取る。対してティタは筋肉はあるが細身であるため、アシラほどのパワーは望めないが、その分スピードが出る。それに構えもどこか飄々としており、受け流しが主体にも見える。


「『剛』と『柔』ですか」

「リンの言う通り~」


 ダッ


 レオネが何とも気の抜けた声を出すと同時にアシラが動く。


 ボウッ


 鉄をも貫ぬきそうなパンチを放つが、ティタはまるでわかっていたように体を半歩逸らして、アシラの拳に横から掌を添える。


 ビュ


 そしてティタはアシラのパンチの威力を殺さないように、アシラの腕の外側を回りながらアシラの首に向けて裏拳を放つ。


 ッギャリ


 だがティタが裏拳を放つ途中にアシラは腕を強引に引くと、ティタはアシラの後ろから見えない糸で釣られるような不自然な形で投げ飛ばされていく。


「アレは……どういうことですか?」


 その様子を見て、リンはとても不思議がっている。


「う~ん、それはさすがにアシラから聞いた方がいいかな~~」


 さすがのレオネでも、他人の情報を無暗に流すのはまずいと分かっているのだろう。





 それからしばらく、拳での応酬が続く。


 アシラは一撃に威力を乗せた拳を放ち、ティタは流れを使って拳を逸らしたり、回避し、また時にはわざと当たり、威力を減らしながらカウンターを放つ。アシラは致命的になりそうな攻撃だけを防御や回避し、それ以外を頑強な体で受け止めて、次の攻撃につなげる。


 ギャギャギャリ


 ただ、その中で何度もお互いが触れ合うタイミングに金切り音の様な物が聞こえてくる。だが、そんな音などわかりきっているという風に二人は何も気にせずに戦い続ける。









 トントン


 そんな二人の試合を観戦していると、後ろから肩を叩かれる。


「『開口』」


 後ろの肩を叩いたのはエナだった。要件を聞くために、エナに着けている特製のマスクを操作して声を出せるようにする。


「そろそろ終わるぞ」


 エナの声で気づいたのかレオネがこちらに振り向く。


「あ、エナ姐ぇ、どっちが勝つと思う?」

「さてな」

「むむ~~~その反応はもうわかっているな~~」


 レオネはじゃれつくようにエナの腰に抱き着く。


「離れろ、暑苦しい」

「じゃあ、どっちが勝つか教えて」

「……アシラだ」


 ギリ゛


 エナの言葉でひときわ大きい金切り音が聞こえてくる。その音で再び二人の戦闘に視線を向けるとティタが不自然な体勢で宙に投げ出されていた。


 ドン!!


 そしてその隙を逃すことなくアシラがティタの足首を掴み思いっきり地面に叩きつける。


「がっっ」


 ティタはたたきつけられた衝撃でほんの数秒地面の上に倒れることになる。当然アシラはその隙を逃さずにティタの腹に乗ると、拳を構えて振り下ろす。


 ボウッ

「……参った」


 パンチの放つ音が聞こえるが、当たりはせずにティタの眼前で拳が止められる。その状況を確認すると、ティタは素直に降参した。







「……すまない、負けた」


 勝負が終わり、ティタがエナの元に戻ると、開口一番に謝る。


「気にするな、技量だけはアシラに分がある。あそこまで善戦できたのならいい方だ」

「だけ、は余計だ」


 アシラはエナの言葉に噛みつく。


「ははは、いい勝負だったぞ、お前たち」


 その声が聞こえると影が出来る。後ろを見てみるとアシラよりもさらに高い身長とより太く力強い人物がそこにいた。


 彼の名はテンゴ、アシラの父親であるラジャの里の長。また力量は獣王バロンと二分すると言われており、獣人の中では最高峰の実力と言えた。また容姿に関してだが、正直美とは少々程遠い所にいた。なにせ『獣化』の影響が表れているのか、少々ゴリラ顔だった。正直アシラが母親の相貌を濃く受け継いでいたよかったと思う者もいるほどだ。ちなみに地毛は黒色のため、アシラとは一見すれば血のつながった親子には見えなかった。


「どうしたアシラ、技量だけじゃないところを見せてくれよ」

「うむ、見ていたら俺も少しばかり戦いたくなってきたぞ」


 エナの言葉で、テンゴはそういう。


「や、やってやらぁ!!」


 アシラは恐怖を振り払うように声を上げるが、表情は絶望そのものだった。


「では、軽く動こうか、息子よ」

「お、おう、かかか、勝ってやらぁ」


 そういい、二人は先ほど勝負していた場所に向かい始める。


「私は2、エナ姐とティタは?」

「……5」

「オレは7だ」

「何賭ける?」

「……任せる」

「負けた奴が勝った奴に肉食い放題でどうだ」

「乗った!!」


 向かい合ったアシラとテンゴを見ながらレオネ、エナ、ティタは何かを話し合う。


「何の話だ?」

「ん?アシラが何秒でやられるかを予想しているの」


 純粋な疑問に答えてくれたのはレオネだったが、その内容がアシラには可哀そうだった。


「負けるのは確定ですか……」

「ああ、たとえ、オレ、レオン、アシラが束になっても、いやそれぞれ10人がいたとしても、テンゴの旦那には絶対に勝てない」


 リンがアシラに対して気の毒そうな言葉を出すと、エナは絶対に勝てないと断言する。


「バアルも賭けに参加しないか?」

「そうだな…………具体的な強さがわからないからな、10秒でどうだ」

「……今回はバアルだな」


 こちらの予想を言うと、ティタの言葉を最後に、全員が二人に注目し始めた。

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