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回しだす貨幣

カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

 そして一週間後、リクレガから帰ってきてあと数日で一か月が立とうとしているこの日。リクレガの訓練場には一隻の飛空艇が降り立っていた。


「それじゃあ、荷物の運搬を始めろ」

「「「「「「「「は!!!」」」」」」」」


 俺の号令でイゴールの部隊が貨物を運び始める。


「ようやく戻りました」

「リックか」


 貨物で荷物を運び出し、物資を確認できるようにしているとリックがやってくる。


「叔父上は?」

「建設中の砦の方にいます。明後日には戻る予定です」

「そうか、それと希望していた人員を連れてきたぞ」

「そのようですね」


 俺とリックは、騎士たちの誘導で飛空艇から続々と降りてきている女性たちを見る。


「頼んでいた娼婦(・・)たちですか?」

「ああ、娼婦は総勢150名いる。ほかにも娼館の運営をするための経営者数名、感染病や性病に詳しい医師も数名用意してある」

「これは、多く用意しましたね」

「父上が好条件を用意したらしい。もちろん堕胎や避妊、性病に必要な薬品もだ」


 リックはよく集めたというが、実はそこまで大変でもなかったらしい。


(娼婦は兵士の慰安用には必須、となれば儲かるのは目に見えている)


 娼婦である彼女たちは普通の料金以外にもリクレガに滞在した日数分の特別手当が存在している。もちろん経営者と医師にもだ。そうなると高級と言える女性たち以外はむしろ率先して募集したと聞いている。


(だがそれに伴って備えも必要になるからな)


 娼婦が仕事をするということは、同時に性病や感染病の類にかかる可能性がある。そこらへんも十分に気を付けておかないと兵士に病気が蔓延する可能性があった


「そちらはどんな様子だ?」

「はい、増員や倒壊した時に備えて予備の建物の建設、および、物資の流通整備、飛行場の整備も行っております。ただ軍の方での行動はエウル様の方が担当していますので」

「そこについてはあとで確認する。まずは彼女たちを泊まる場所に案内してやってくれ」

「そうですね」


 リックは付いてきた文官の一人に命令し、娼婦たちの建物に案内させる。


「金銭のやり取りはどうするおつもりで?」

「そこも考えてある」


 俺が視線を向けると、数々の機器が積まれた箱と貨幣が大量に入っている完璧に密封された箱が積み下ろされている。


「ここに臨時の銀行を作る。その際には協力してもらうぞ」

「もちろんです。ちなみに確認ですが、税に関しては?」

「まだだ。ここは正式にグロウス王国の地になったわけじゃない。それに税を掛ける対象はわざわざ誘致した娼婦やそれぞれの専門職、兵士達だけとなるぞ」


 せっかくこの街を整えている最中だというのに、中途半端なタイミングで税を徴収するのは得策じゃない。リクレガの街が完全にひとりでに機能するようになってから税の徴収は始めるべきだった。


「かしこまりました。ちなみに、この後のご予定は?」

「軽くリクレガの街を視察、その後、エルフ陣営の確認をしてから、レオンにあることについて確認する。それらが終わり、なにもなければニ、三日で帰国するつもりだ」

「そうですか。それと確認ですが、今回お連れしたのは」


 リックは視線を外して、娼婦とは違う集団に目を向ける。


「ああ、いつもの面々だな」


 リックが視線を向けた先にはクラリスとその護衛をしているセレナ、あとはレオネ、エナ、ティタ、マシラ、アシラの獣人組。そして俺の背後にはいつものようにリンとノエルがいた。


「それで彼らには何か指示を?」

「いや、特にはしていなが…………何かあるのか?」

「はい、実は最近少々規律が乱れがちなので」

「理由は?」

「ご安心ください。おそらく今回の積荷で解消されます」


 つまり娯楽関係の無さによりたまったうっぷんと言う事らしい。


「それなら明日にでも再開させた方がいいか?」

「そうですね」

「では早速始めるとしよう」


 俺はリックに今回の運搬リストを渡し共に検品し始める。









 その後、すべての貨物を検品し終えると、警備をイゴールの部隊に任せて、リックと共に庁舎へと向かい、庁舎の一区画へと案内される。










「ここは頑丈そうに作ってはいるな」


 案内された区画は分厚い石壁で作られており、簡単には崩せないように作られている。


「ええ、事前に伝えられた通り、この区画はかなり頑丈に作られています」

「建物の図面はあるか?」

「こちらに」


 用意された図面を確認しながら、区画を渡り歩く。


「(見取り図は正確に作られている、か)リン」

「はい」


 リンは軽く、壁を叩き確かめる。


「あの、何をしているので?」

「それはあとで教える」


 それから区画を一通り渡り歩く。


 その結果、見取り図も正確で採寸も狂いがないことが証明された。


「空洞や虚弱に作られた箇所は存在しておりません」


 そしてリンの魔具により壁や地面内部に手が加えられた様子もないことも確認された。


「なるほど、わざと壁を空洞にして、強盗しやすくしているかを見極めていたのですね」

「ああ」


 リンの『土知りの足具』は地面や建物に魔力のソナーを流して外敵の震動を感知することが出来る。そしてこの機能を使えば壁の中に何かが埋まっていたり、空洞になっているかを調べることが出来た。


「確認したが、建物は十分に強固だな」

「ええ、ただ、これでも一人により壁が壊されないこともないですが……」


 この世界において、石の壁を生身で破壊することは十分に可能だ。そのために一工夫必要だった。


「わかっている。そのために金庫は持参した」

「銀行の本店でも使われている物をですよね?」

「その通りだ」


 人一人で重機並みの破壊力を出せるこの世界では銀行強盗など簡単にやりたい放題だろう。


 だから金庫だけは特注で作り、設置している。


「イドラ商会で作られた特注の金庫ですか」


 イドラ商会で作られた金庫はごく普通の鋼材を使用している。だが、一つだけ前世とは違う部分の技術を導入していた。


「なんでも異常なほどの強度を誇ると聞いているのですが」

「技術を知りたいのか?」

「いえ、私も危険な情報を得るのは不本意ですので、結構です」


 リックはそういい、何も聞かない姿勢を取る。


(とはいえ前世の素材技術と城や街壁にも使われている硬度強化の魔法を使っているだけだが)


 まずこの世界には特段守りたい施設や城壁には魔力を流すことで強度を上げる魔法が存在している。ただその魔法は使用するにあたって、広大な範囲に使うときや外部から衝撃を受けたときは消費魔力量は増大し、さらには継続して魔力を使うと当然その分の魔力が継続的に消費していくことになる。そのため魔石をため込んで、有事の際にその魔法を使用するのが一般的な使い方だった。


 またその効果は元の素材の強度と比例する傾向がある。鋼よりも靭性が大きいカーボン系の素材、熱に強い金属系の素材、柔軟性に富んでいるプラスチック製の素材を組み合わせて作られた金庫は、当然その強度は比例する様に増しているため、俺が本気になっても壊すのにはかなり苦労する作りになっていた。


 そして問題である、継続的な魔力消費に関してなのだが、これは魔導人形と同じように周囲の魔道具から自動的に魔力が供給されて動く仕組みを採用しているため、半永久的に発動していて問題はなかった。


「サイズも問題ない。これなら十分金庫を設置できるだろうな」


 さらに金庫は大量の貨幣を収容するために高さ3メートル、奥行5メートルと幅4メートルと大きな箱型となっていた。そのため独自で機能でき、電波が届くように設置するだけ済むようになっていた。


「さて、これで金銭のやり取りは十分に行えると思うが」

「そうですね。ここで預入や引き落としができるのであれば、何も問題ありませんね。」


 兵士たちがここで金銭を受け取り、それを娼婦が受け取ってこの銀行にまで預けに来れば、金銭が限られた枚数であっても十分に回るようになっていた。


「ただ、ここに回されたものは地獄を見るでしょうね」

「人選は任せる」

「任せた人員から恨まれるのは目に見えていますね。それも文官の数が限られていますので……」

「上にいれば恨まれるのも仕事の内だ」


 リックは今後のことを考えて頭を抱えだす。なにせ派遣した文官はせいぜいが20名ほど、今の仕事でも手一杯どころか、5千を超える軍を管理するには全く手が足りない。その上、銀行の業務を行わせるとなるとまず手が回らなくなるだろう。


「次回の運搬にはリストに銀行員と書いておく」

「是非お願いします。それと文官も」


 リックの心からの言葉を聞いた後、銀行に金庫を設置して今日が終わった。

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