マシラの獣化
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224
「はぁ!やぁ!!」
「ははは、まだまだ青臭いが、才はかなりあるな!」
やってきた訓練所には二つの影があった。
「二人の調子はどんな感じだ」
模擬戦をしているのはお互いに木剣を持っているマシラとアルベールだった。その二人を訓練場の入り口から見ているエナ達にすぐさま問いかける。
「……」コンコン
「『開口』」
「マシラ姐は絶好調だな。ちょうどいい原石があってそれを磨いている」
「そのようだな、ラインハルトは?」
「観戦しているぞ」
エナの向く方角を見てみると、訓練場の一角でシルヴァとお茶をしながらアルベールを見守っている母上の姿があった。そして肝心のラインハルトだが、二人を護衛する様に訓練場の端に佇んでいた。
「なら終わるまで待つとするが……何とも痛々しいな」
「ほっとけ」
エナとティタはいつも通り一緒に居るのだが、もう一人の客人であるアシラもすぐ近くに座って二人の訓練を眺めていた。そしてアシラの体のいたるところには打撲痕が残っており、見るだけで痛みを覚えそうなぐらい悲惨な姿をしていた。
「気にするな、いつものことだ」
「……」コク
エナはなんてことない様に言い放ち、ティタも同意する様に頷く。
「それで、今日はどうした?お袋に何か話があったのか?」
「ん?ああ、実は本格的に獣人の奴隷を移送する手はずが整いつつあってな」
「??何か足りないのか?」
「ああ、獣人側から奴隷たちに説明するための人員を出してほしい。なので、どれぐらいの人数がフェウス語を話せるのか、もしくはどれぐらいで話せそうなのかを聞きたくてな」
何の気なしにアシラに訊ねられたので、マシラに聞こうとしている内容をそのまま聞いてみる。
「あ~~、俺が言うのもなんだが、ほとんどできていねぇな。せいぜいがグレア婆さん、グレア婆さんの孫のムール、あとはほかの孫数人と言ったところ、か」
「向こうで、フェウス言語を習い始めているらしいが?」
「数か月で言葉が話せるようになるかよ」
アシラの言葉にごもっとも、と返す。
「うわっ!?」
アルベールの声を聞き、訓練場に視線を向ける。
「ほれ、また悪い癖が出ているぞ」
「くそっ、もう一回!!」
「ははは、いい根性をしているな。お望み通りもう一回やってやろう」
訓練場では二人が会話するのだが、そこで一つの疑問が出てくる。
「なぜ、マシラはフェウス語を喋れる?」
マシラは何のこともない様にフェウス言語を話していた。
「お袋は真似るのが上手いからな」
(真似るのが上手いからといって知識が増えるわけないと思うが?)
気になってモノクルを取り出して、マシラを鑑定してみる。
――――――――――
Name:マシラ
Race:獣人
Lv:88
状態:普通
HP:932/932
MP:1016/1016
STR:56
VIT:47
DEX:121
AGI:96
INT:78
《スキル》
【聖剣術:34】【双剣術:69】【短剣術:23】【大剣術:18】【壊棍術:89】【聖盾術:37】【突槍術:67】【斧槍術:68】【抜刀術:23】【柔拳術:68】【柔触拳:49】【剛削拳:49】【武芸百般:9】【変軌打拳:94】【抉肉蹴:76】【跳躍:88】【疾走:58】【身体強化Ⅳ:31】【豪威圧:17】【野生の勘:118】【暗視:33】【思考加速:22】【超敏感化:78】【模倣:212】【見識:99】【観察:101】【隠密:77】【気配察知:15】【言語理解:6】
《種族スキル》
【獣化[倣倆演武猿]】
《ユニークスキル》
――――――――――
鑑定した結果、このような結果となっていた。
「やたらと武術を覚えているな……」
「当然だろう。お袋は倣倆演武猿という獣の姿を取ることが出来るからな」
それからのアシラの説明を聞く。まずマシラの獣化の元となっている倣倆演武猿は自身が再現可能な技術を模倣してしまうという。そしてそれは武芸だけではなく、言語や考え方などのマシラでもできる事柄であればほとんどを模倣が可能だという。
「だから、この短期間で言葉を話せているのか……」
「ああ、と言っても実際に会話を見て聞いて、知る必要があるがな」
さすがに隣で解読不能な言語を見聞きしただけでは理解できないという。その代わりに解説役がいればそれだけで通常の何倍もの速度で言語を理解できるという。そしてだからこそラインハルトは二人の近くにはいないらしい。
(模倣と言うよりも、飲み込みに関して天才的な能力を発揮すると言った方がいい気がするが)
「正直、羨ましいと思うところもあるな」
(そういえばアシラは、どんな獣なのだろうか)
ついでとばかりにアシラも鑑定してみる。
――――――――――
Name:アシラ
Race:獣人
Lv:68
状態:疲労
HP:1021/1254
MP:648/648
STR:71
VIT:85
DEX:48
AGI:47
INT:39
《スキル》
【剛削拳:49】【豪爪拳:32】【太貫牙:43】【粉砕顎:12】【鏃毛鎧:74】【強靭毛:22】【疾走:23】【身体強化Ⅱ:27】【自然回復:36】【大威圧:21】【野生の勘:27】【痛覚鈍化:34】【守身:43】【衝逃:24】【耐刃:39】【気配察知:15】
《種族スキル》
【獣化[砥毛熊]】
《ユニークスキル》
――――――――――
(まぁ……予想通りと言えるか)
アシラの結果も見てみるのだが、こちらは強いことには違いないのだが、予想の範疇を越えていないのであまり驚きもなかった。
「おい、あたしに何か話があるみたいだな」
問いかけられるので、そちらを向いてみると、大の字で仰向けになっているアルベールとその傍らにいるマシラの姿があった。
「そっちは終わったのか?」
「ああ、これ以上はむしろ負担しか掛からないからな、一度ここで休憩だ」
そういってアシラは二つの木剣を侍女に預けて、タオルを受け取る。
「それで話って?」
「ああ、さっきアシラにも話したが、獣人の奴隷移送の時に説明するための人員を用意してほしいのだが」
「あ~まだ無理だな」
マシラは予想通りの答えを出す。
「だよな」
「ああ、グレア婆さんが徐々に教えているが、特殊な技能がない限りはまだ話すことはできないな」
「ちなみに聞くがグレア婆さんはどこで言葉を教えている?」
「それはリクレガだな。フェウス語がきちんとできる連中は貴重だからな」
何かあった際に直接フェウス言語が出来る方が何かと便利と言うことでグレア婆さんはリクレガの街で言葉を教えているという。
「どれくらいでひとまずの話が出来そうだ?」
「そうだな……数人程度なら呑み込みの早い奴がいると思うから、そいつらはもう1、2か月でこっちに連れてこれるだろうな。少しぎこちなくていいのなら10から20程度だと思うぞ」
習得できる速度に個人差がある以上、予想の範疇でしかないという。
「なら、グレア婆さん含めて今言葉を習っている連中をこっちに連れてくることが出来ると思うか?」
「まぁ……できるだろうな。それに実地で直に言葉に触れたほうが伸びもいいだろうし……だが問題はリクレガでフェウス語を話せる奴がいなくなるんだよな」
グレア婆さんとその生徒を連れてきてしまえば、リクレガでフェウス言語を扱える獣人がいなくなる。エルフという通訳役はいるのだが、もしエルフの手を借りることが困難な場合に陥ったときに困るという。
「何も全員を連れてくるわけじゃない。言葉を教えられるであろうエナとマシラもいることから、グレア婆さんを置いて来てもいい」
実際、エナはレオネに言葉を教えている。その成果もある程度は確認が取れているほどだ。
「なら、問題ないが。何か急ぐ事情があるのか?」
「そこまで急と言うわけじゃないが、早くに移動させた方が、クメニギスに何かをされる可能性が低いからな」
獣人を酷使できなくなるとあとはただのごく潰しにしかならない。そうなれば不良債権と同じようなものとなり、扱いはどんどん悪くなっていくだろう。しかもそれだけではなく、時間を与えれば与えるほど解放される獣人の中のスパイが紛れ込ませる時間を与えることになってしまう。
「んで?聞きたいことはこれだけか?」
「ああ、今のところはな。鍛錬の時に邪魔したな」
聞きたいことは聞けたため自室に戻ろうとするのだが
「おっと、ちょっと待て」
マシラに襟首をつかまれて制止される。
「お前も加わっていけ」
「嫌だと言っても聞かなそうだな」
とはいえ、仕事ばかりで体が鈍りそうだったため、今回はマシラの誘いに喜んで乗らせてもらう。




