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移転の際の条件

カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

「我が息子達が不快な思いをさせてすまないな」


 陛下がいるフロアに移動すると早速とばかりに謝罪の言葉が飛んでくる。


(やはり陛下がわざとあのタイミングで呼び出したのか)


 確信を持ち、フロア内に入ると、陛下と二人の王妃のほかにも来客がいた。


「ラファール殿もいたのですね」

「ああ、陛下に招待されてな、少しばかり雑談を楽しんでいた」


 視線の先にいたのは、女性にもかかわらず男性の様な装いをしているラファールだった。


「さて、あまり堅苦しくならんでくれると助かる」


 陛下の言葉でフロアの端で給仕していた執事や侍女がいくつかのワイングラスをこちらに持ってくる。


「ここに呼んでのは、もう一度私のほうから礼を言おうと思ってな」

「礼ですか?」

「左様、エレイーラ王女とラファール枢機卿がいなければ、我が国の民は帰ってはこれなかったはずだ」

「その件につきましては、クメニギスの不祥事のため逆にこちらから謝罪をしたいほどなのですが」

「よいよい、これまでの過程とそれぞれの思惑があることはよくわかっている。そのうえで、民が帰ってくることには感謝はするべきだ」

「そのお言葉に恥じぬよう、精進してまいります」


 陛下とエレイーラが共に和解する。もちろんいろいろ物申したい部分はあるだろうが、どちらかが恥部を晒してしまえば、もう片方も恥部を晒さなければならなくなるため、ひとまずはこれで納得した雰囲気を見せる。


「さて、私の秘蔵としているワインを楽しんでくれ」


 先ほどのやり取りをしている間に侍女の一人が、ボトルからそれぞれのワイングラスに液体を注いでいく。


「それでは、各国の友好を願って、乾杯」


 陛下の音頭と共にお互いのワイングラスを軽くぶつけて、ワインに口を付ける。


「おお、これはおいしい」

「ははは、気に入っていただけたようで何より」


 ラファールの言う通りで、陛下が秘蔵としているワインはおいしかった。


「これはいい物ですね、さっぱりしているのに、果実のコクが深く、くどくない甘さを感じさせる。また酒精もそこまで強くはないのでこういった席でも飲むことが出来ます」


 エレイーラはワインを気に入ったのか、嬉しそうでワイングラスを揺らす。


「これはわが国の有数のワイン産出地で作られた物の中でさらに厳選を重ねた物でな、私が愛飲している逸品だ」

「さすがですね、私もそれなりに嗜みますが、これは絶品と言えますね」

「ならば、数点を土産として手配しよう。それで、クメニギスではどのような酒があるのだ?」

「それはですね―――」


 陛下の配慮があり、イグニアから守ってくれたあとは穏やかに夜会は進み、何の問題もなく終わりを告げたのだった。















 ガタガタガタ


 無事に夜会が終わると、リンと共に馬車に乗り込み、屋敷へを目指す。


「何とも大変でしたね」

「全くだ」


 ブブブブ


 馬車の震動とは別にポッケが震える。


「誰だ?」

『マスター、緊急のご報告があります』


 ポッケから通信機を取り出し、応答すると人工音声が返ってきた。


「何があった?」

『キラのコントロールゴーグルをおかけください。そちらですべてのご報告を』

「……わかった」


 言語での報告を行わない事態に眉を顰めながら、『亜空庫』から適当な書類と眼鏡を取り出す。


「リン、周囲の音を遮れ」

「わかりました」


 リンに周囲の音を遮断させると、眼鏡を掛けて書類を見ている振りをする。こうすることで姿だけでは書類を確かめているだけにしか見えない。


「いいぞ」

『では、映像を流します』


 ほんの少しのノイズ音が聞こえると、眼鏡のレンズにキラ視点の光景が映る。


「これは事務所か?」

『はい。時間にして2時間27分前となります』


 ブレインの報告だと、俺たちが夜会に到着した頃の時刻を示している。


『この日のこの時間にある人物が来訪するとの約束がありました』


 映像が早回しされて、対面している画面が映し出される。


「顔が見えないが?」


 対面している相手は体格と顔を隠すような分厚いローブを被っていた。


『はい、この時点ではまだ人相は不明です。ですが、こちらとしても信用できない依頼は受け入れられないと言い、フードを取ることが取引の最低条件と伝えました』


 また早回しが行われると、フードを取り、首から上を晒し、人物の顔が見えるようになった。


「…………どこかで見たな」

『はい、私の人物データベースにも該当がありました』


 一時的に映像が止められると、今度は人物の顔の画像と名前が羅列される。


『かの人物の名前は、ロドア・セラ・エワード。東部に所属するエワード子爵家の三男であり、グラキエス家の騎士として採用されております。また年が近いことからユリア(・・・)の護衛隊の一員として採用されています』

「……どんな依頼だった?」


 ユリアの傍に居る人物が裏組織の本拠地までやってきたとなれば、少々穏やかではない。


『書類を預かってほしいそうです』

「……書類?」


 てっきりジェシカの暗殺依頼かと思ったが、そうではないらしい。


『内容は、このようになっております』

「これは…………と言うことは」

『はい、予想通りかと』


 映像が早回しされ、ロドアが退室し一人になると今度は書類を読み始める。その映像が流れるのだが、その内容は――


「ユリアがジェシカにした嫌がらせの証拠ということか」

『それだけではありません』

「っ、嘘、だろう」


 映像が早回しされて、最後のページに載っていたのはユリアが暗殺を依頼したことの証拠だった。


(ジェシカの暗殺依頼の詳細、使用した依頼ルートが事細かに載っているな)


 うまく使えばユリアを破滅させることが出来るほどの情報だった。


「しかし、なぜ」

『それは明かしませんでした。ですがこちらに出した依頼はこの書類の保管、そして符号を持った人物への書類の受け渡しです』

「………………なぜだ」

『不明です』

(……そう答えるよな)


 こればかりは不明としか答えられない。なにせ現状では情報が足りていないため、明確な答えは出せなかった。


「複製はしてあるな?」

『もちろんです』

「ならばいい」


 その言葉を最後に俺は眼鏡を外し、ブレインからの報告を終える。


「どうやら、また、問題が起こったようですね」

「問題、か。確かに起こったな(俺のではなくユリアだが)」


 貴族間、貴族でなくても証拠を捕まれれば弱みを握られたことになる。そのため決して出してはいけない情報は厳重に管理しているはずなのだが、今回の件ではグラキエス家、もっと言えばユリアは失態を冒したことになる。


「何か行動を起こしますか?」

「いや……ひとまずはこのままだ」


 弱点がさらされたのはユリアであって、俺ではない。


(それに、書類を持ってきた事情を理解してないで動くのは……危険な気がする)


 普通に考えればあんな裏組織に書類に預けるとは思えない。なら何かしらの意図があると考えるのが普通だ。


(流出させるのが目的ならわかるが、それ以外の目的があるなら、まず目的を理解しなければいけないな)


 ロドアがどんな理由でこの情報を流したのかは全くの不明。ユリアを陥れるためか、それともユリアを強請るためか、はたまた寝返るための下準備か、あるいはこの情報が虚偽の物で、それを集めに来る人物を見つける、などなど様々な候補が挙げられる。


「何が目的なのかわからないなら、こちらが完全に安全とわかるまでは動くことは無い」

「わかりました」


 夜会が終わったばかりだというのにと思うが、イグニアの様子を見ればユリアも暴挙も、二人の仲に付け込んで何かが画策されているのもある意味理解できてしまう。


(できれば穏便に終わってほしいが、そんな事態にはなる気がしないな)


 その後、今回の件を考えながら馬車が帰路を進んでいく。












 夜会が終わってから三日後、太陽が昇ってからそう時間が掛かっていないうちに二台の馬車が王都ゼブルス邸に訪れていた。








「何とも疲れた表情をしているな」


 ゼブルス邸の応接間で俺は二人、明確には四人の相手をしていた。


「ははは、言っては何だが、原因はこの国にあると思うぞ」

「そうね、そして私たちの国(クメニギス)よりも問題は深いみたいね」


 二人とも苦笑しながらそう返してくる。様々な場所でエルドやイグニアの手の者から接触をされ続けていたからこそ内情がよく理解できるのだろう。


「それで、お疲れの中悪いがさっさと要件を済まそう」

「もう少し、私たちを労わってくれてもいいじゃない」

「その通りだ」


 二人ともソファに座るのだが、身内と認識しているのか、少し型を崩して楽な体勢を取っている。


「俺は二人の慰安役ではないが」

「ならばそのまま私たちと話を進めないかい?」

「そうだな、こちらとしては聞いてもらうだけでいいと思うぞ」


 声を出したのはエレイーラが連れてきたロザミアとラファールが連れてきたリーティーだった。


「それでいいならそうするが?」


 俺の問いかけにラファールとエレイーラは何も言わずにただ頷くだけだった。


「なら、言うことは無い。まずはこれを確認してくれ」


 俺は『亜空庫』から二枚の書類を取り出し、二人の前に置く。


「これは二人(・・)がゼブルス領に来るための承諾書だ。内容はゼブルス領で過ごすにあたっての条件が書いてある。そして内容には差異があるから注意してくれ」


 ロザミアとリーティーはゼブルス領に来ることになっていた。ロザミアはマナレイ学院の臨時研究所のため、そしてリーティーはラファールとの橋渡し役にゼブルス領の神光教会に身を置くことになっていた。


「内容はごく一般的な事に加えて、定期的な生活調査、及びゼウラストから1週間以上の長期不在の際には報告の義務を課すことが書かれている」

「そうらしいね、監視としてはかなり厳重と言えるね」

「仕方がない。ゼブルス家は何やら重要な発明を最近したと聞いた、その観点から警戒せざるを得ないのは当然のことだろうな」


 ロザミアもリーティーも共通する条件には異論がないらしい。


「次に個別の条件だが、ロザミアは研究所に配置する器具のすべてはゼブルス家の検査が入った物のみとして、さらには研究所での成果、及び実験過程をこちらにも渡してもらうことになる。また実験に使用する素材もマナレイ学院から持ってくる場合は検査を入れてから、そして現地で確保した物は逐一報告してもらうが、それでいいな?」

「……うん、問題ないね。結局バアルと一緒に研究することになるのだから、隠してもそうそう意味はないだろうし」


 ロザミアは課せられた条件を聞いて特に異論はないらしい。


「次にリーティーだが、扱いとしては一般的な神光教会の信徒となる。それに付け加えて、司教という高い地位にいくつかの制約が課せられるがいいな?」


 司教は信徒を先導するには十分すぎる立場だ。そのためにゼブルス領ではいくつかの制約を掛けている。


「司教が何かしらの宗教活動を行う際は届け出が必要になる。届け出がない宗教活動はすべて違法となり即刻処分の対象となる。そして同時に煽動などの行為が見られれば即座に逮捕されて、場合によっては即刻処刑もあり得る」

「また、ゼブルス領においての教会全体の問題の場合は、その連帯責任を負う、相違ないか?」

「その通りだ。容認出来るか?」


 残念ながら、ラファールの紹介だからという点で甘くはできない。なにせ為政者からしたら、下手な宗教ほど厄介なものはないからだ。


「問題ありません」

「私もだ」

「ならサインを」


 二人ともよく書かれた条件を見たうえで署名を行う。

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