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先延ばしとなる約束

 ヨク氏族との縄張りについての協議が終わればまだ日が高い内にリクレガに戻るのだが、訓練場には事前に手配しておいた通り大量の素材が並んでいた。そして飛空艇もその物資のすぐ近くの作業しやすい位置に着陸させる。









「では積み込みを開始してくれ」

「「「「はい」」」


 声を掛けると兵士たちが訓練場に用意された素材の山を飛空艇に積み込み始める。


「にしても皮に骨、牙や爪、動物由来の素材が多いですね」

「当たり前と言えば当たり前だな」


 俺とリンが積み込まれる物資について確認すると動物から取れた素材が大半を占めていた。


「土地柄そんな物だろう」


 アルバンナは豊かなサバンナ地帯に類似しており、動物などが豊富に存在している。もちろん植物も種類は豊富にあるが、動物から取れる資源が最も確保しやすかった。


「量が限られているうえに、植物の素材となると帰る際にある程度乾いてしまうからな」


 もし植物を持ち帰るとなると貨物室内で自然と乾燥してしまう。そうなれば品質の変わった状態での運搬となり、きちんとした査定が出来なかった。その点、動物の場合は肉以外はきちんと処置して保存すればたいして品質は変わらない。


「植物に関しては薬師などの植物に詳しい人物を連れてきた方が手っ取り早い」

「それもそうですね、獣人側で金銭に変えられるかの査定も必要ですから」


 これらの資源はリクレガ周辺で取れた物だった。そしてこれをグロウス王国に持ち帰るのは査定と宣伝目的のため、そして向こうで研究させるためだった。


(向こうに持って行って売れるかわからないが、それでも有効活用はできるだろう)

「おう、バアル」

「…レオン、か」


 どれほどの値札を付けるかを考えているとレオンがやってくる。


「どうした?残す連中を選び終わったのか?」

「まぁ、な」


 レオンは俺がヨク氏族の方に行っている間に獣人の数を調整してもらっていたのだが、何とも反応がいまいちだった。


「どうした?帰りたい連中が多くて3000を維持できなそうか?」


 こちらの数との兼ね合いで3000と言ったが、それより少なくてもこちらとしては何の異論もなかった。


「いや、その逆だ。思ったよりも残る連中が多くてな5000も残った」

「……5000、か」


 防衛戦力は数が多ければ多いほどいいというわけではない、特に守りのために駐在しておくための戦力となると。もしこのリクレガにしっかりとした補給路があるなら話は違うのだが、現在はそうではない。グロウス王国からの食糧補給は飛空艇を使わなければ困難不可能、アルバングルからももらえるだろうが輸送能力に難があるため近場以外からの支援はあまり望めない。それこそ膨大な数を残しておくことで周囲の食糧を食い尽くすことになれば笑い事ではなくなる。


「周辺の食い物は?」

「まぁ数が減るから、少しは余裕ができるだろうが、何かあったときには対応できないな」

「それじゃあ困る」

「やっぱり3千まで減らした方がいいか?」

「いや、数が多い方が防衛しやすいのも確かだ……仕方がない、足りない食料は俺が骨を折ることにする。その代わりに問題ない範囲で供給できる食糧の量を正確に割り出してくれ」

「了解だ」


 周辺からの食糧の供給量を知っていれば足りない分を事前に補填できる。


「ちなみに現時点だと、どれぐらいの日数分ある?」

「とりあえず、あと数か月は問題ないと思う。この時期になると、魔獣は様々な場所を徘徊するから肉には困らない」


 レオンの言葉が本当なら数か月間は何の問題も起きないだろう。


「やることが山済みだな」


 産出物の査定、食料の確保及び自給を行うための準備、飛空艇の用意とその人員の教育、騎士団の人員の運搬、飛翔石の採掘準備、エトセトラエトセトラ。


(父上じゃないが、俺も仕事をサボりたくなってきたな)


「それで明日帰ると聞いたが?」

「その通りだ。最低限の調査は終わったから、あとは本格的な人員を用意してこっちに派遣することになる」


 築城に長けた者や言語に精通している者、学者や薬師、鍛冶士などなど。どんな事柄を調べるにしてもそれなりに精通している者が必要だった。


「とはいっても早くても一月後だろうがな」

「ん?案外かかるな?」

「ああ、こっちもいろいろと予定がある」


 直近の予定を思い浮かべるが、それでもかなり緻密なスケジュール調整が必要になるだろう。


「それにレオンはともかくバロンもそれなりの時間が必要だろう?」

「まぁな」


 レオンは笑いながらそういう。


 現在、バロンはリクレガに居なかった。理由はアルバングルをより強固にするため、一度テス氏族に戻りすべての氏族の長に召集を賭けていた。


「それにレオンも忙しくなるだろう?」

「ああ、だが親父よりはましだ。なにせ狩りをして、グレア婆さんにフェウス言語を教わって、軍を管理していればいいだけなんだからな」


 バロンは国の組み立てに奔走しているが、その息子であるレオンはそこまでの仕事量は存在していなかった。


「それと直にヨク氏族から報告が来るぞ」

「何のだ?」

「『母体』のだ。どうやら最後の『母体』はウルブント山脈の方に逃げて、ヨク氏族がそれを追っていったらしい」

「ほぉ、討伐したか?」

「いや、だがもう警戒する必要はない状態にはなったな」

「??どういうことだ?」


 レオンに向こうでの出来事を教える。『母体』が囮を使い逃げようとしたこと、それを俺たちとファルコが発見したこと、その後『母体』が飼われることになったことを。


「まぁ、問題が無くなったのならいいか……それじゃあ俺はルウに伝えてくる」


 レオンはルウに『母体』がどうなったかを伝えるため、この場を去っていった。











 その後、リストを作りながら検品し、積み込みを行っていると、三十人ほどの集団が近づいてきた。


「バアルさんですか?」


 やってきたのは多種多様な動物の特徴を持つ獣人達だった。


「その通りだが、お前たちは誰だ?」


 一度検品を止めて向き合い、その際によく観察していると、動物の特徴が一貫しておらず、雑に固まっていた。それも猫や犬と言った特徴ではなくマイナーな動物の特徴が多かった。


「私たちはエナ様の部隊の物です」

「ああ、だからか」


 エナの部隊は戦闘に特化せず、ほかに一芸を持つ集団だった。強さの代わりに索敵や逃走に適していた特徴を持つと言えるが、その本質は戦士たちの枠組みに入れなかったなりそこないだった。そして大半の獣人は戦士にあこがれているため、そういった種族の獣人は不人気のため数が圧倒的に少なかった。


「それで、今回はどうした?」

「……お願いです、私たちを姐さんの傍に置かせてください」


 その言葉が紡がれると同時に、全員が宴の時にしたルウの姿勢になる。


「……残念だが、今はできない」


 くっ


 どこからか呻くような声が聞こえてくる。だがそれは的外れだった。


「よく言葉を聞け、俺は今は(・・)と言ったはずだ」

「と言うと?」

「今はエナの信用が足りないことや、俺が多忙でお前たちの管理ができないなどの理由で申し出を拒否している。そしてそれらが終われば、遠くないうちにエナには限りがあるが人員を連れてきてもいいと伝えるつもりだ」

「今は耐えろと?」


 問いかけに頷くことで答えてやる。


「ちなみにだが、フェウス言語を習得しておくならより早く訪れることが出来る。もしエナの元で働きたいというならグレア婆さんに教授してもらっておけ」

「「「「「「わかりました」」」」」」


 感謝の言葉が出てくると彼らは早速とばかりにグレア婆さんを訪ねていった。










 その後、飛空艇の貨物室が満杯になるまで資材を検品してから積んでいく。この工程がすべて終わるころには日が完全に沈んでいた。さすがに食料云々で困ってるため宴などはしなかったが、主要なメンバー全員を集めて晩餐をすることになった。


「それじゃあ、帰っちまうのかよ」


 アシラは残念そうにそういうと、それに同意するようにレオン、テンゴ、マシラなどが頷く。


「ああ、今回はレオン達の帰還が主だった理由だからな。細々としたほかの目的はあったが、それは軒並み終わったと言っていい」

「へぇ~」

「おいおい、それじゃああたしが棍術を教える約束はどうなった」


(そういえば、そんな約束もしていたな)


 魔蟲と戦う前に確かにそんな約束をしていた。


「今は時間がない」

「そうなのか?あたしはお前に才能を見出している。だからその才を是非磨いてみたいんだがな」


 マシラはそういうが、本当に時間がない。


「そうだな、どうだ、あたしがそっちに行って教えるってのは?」


 マシラは何のこともないように言うが動揺しているのが二名いる。


「おい」

「まて、マシラ」

「ずるい!!なら私も行く!!」


 俺はその申し出に異議を出し、当然ながら夫であるテンゴは動揺して、ついでにレオネは狡いとのたまう。


「なんだよ、ラジャの森でもいい若者を見つけたら指導してやっていただろう」

「いやそれとこれとは話が別」

「別じゃない、若い奴らの才を磨くのはあたしの楽しみだ」

「いや、だがな」

「こればかりは性分だからやめられないのさ、それとなんだい、バアルの国を信用していないのかい?」

「いや、それはだな……」


 テンゴはこちらを見て言葉を詰まらせる。


「自身の伴侶が遠くに行くんだ、心配にならないわけないだろう」

「そ、そうだ」

「そんなのリクレガに出向いた時もあったじゃないか、ラジャの里からここに来るまでとバアルの国に行くのと何が違っていうのさ」

「む、それは」

「大ありだ、グロウス王国はクメニギスと同じ人族の国、俺が友好的に接しているからと言って、グロウス王国が安全だとは限らないぞ」

「うむ」

「遠くに出向いて、魔獣に襲われて命を落とす場合とバアルの国で危険な目に合う確率どちらが高いと思っているんだい?」

「うぅむ」


 最初はテンゴとマシラの口論だったのにいつの間にか俺対マシラという構図になっていた。もちろんテンゴは俺の肩を全面的に持っている側だ。


「ねぇねぇ、私はいいでしょう!!」

「だめに決まっている」

「ぶぅ~~なんでよ~~」

「そうだ、バアルの言う通りダメだ」


 今度はレオネが声を上げて、それをレオンが阻止する構造が出来上がってしまった。


「いやだからな」

「ならバアルが残れ、一か月ですべて叩き込んでやるから」

「ふざけるな、今がどれほど忙しいかわからないのか」

「マシラおばさんは長の妻だけど、私は違うからいけるよね」

「だめだ」

「なんで!?」

「まず来る意味なんてないだろう」

「むぐっ」


 それからは混沌とした空間が出来上がっていた。テンゴはマシラに行ってほしくないため、俺の言葉に全面的に同意するが口が弱いせいでろくな反論ができない、またマシラはその逆でいくら説明してもうまく言い返してくる、そしてレオネは便乗するように話に乗るがまずこいつに限ってはなんでグロウス王国に行きたいかすら不明なままだった。


「ともかく今回はこちらに来ることはできない。せめてバロンが正式な王になって、グロウス王国にやってくるのに便乗するぐらいだ」

「む~いいじゃん私がそっちに行ったって~」


 最終的に飛空艇を持つ俺の強権で二人を押しとどめる。


「一応聞くがなんで俺だ?武術の才能は俺よりもリンの方があると思うが」


 先ほどの乱雑した空間の中でも俺の後ろで静かにしているリンを見る。


「それは間違いないな」


 そしてマシラはそのことに何の異論も挟まなかった。


「リンちゃんだったな、その子は自分の才能の矛先をしっかりと理解しているからあたしが教えられる範疇にはもういないさ。しいて言えばむしろ私がリンちゃんの技量を奪わなければいけないぐらいさ」


 だからマシラはリンに対して教育の興味を持っていないらしい。


「だが、お前は違う。方向性はあっているんだが、何ともほんの少しだけ才能の矛先を間違えているから何とももどかしいんだよ」


 マシラは背中のかゆいところに手が届かない時の様な表情で呻く。


「はぁ、次に飛空艇で帰るときは何人かをグロウス王国に招待すると約束する。これじゃあ不満か?」


 来月の訪問の帰りに数人ぐらいなら招待してもいいだろうと思い、言葉が出た。


「次はいつだ?」

「さっきレオンにも話したが最も早くても一か月後だろうな」

「なら仕方ない、それまでは我慢するか」


 こうしてアシラはひとまず納得した表情を見せた。


「若、一応確認したいんだが、これを見せたくて呼んだわけじゃないよな?」

「もちろん違う。この場で次にどのような予定かをあらかじめ話す予定だった」


 エウル叔父上がいい感じに流れを本題に持って行ってくれて助かった。


「まず俺は明日にグロウス王国へ帰国する。そしてその後だが―――」


 それから一か月後までの予定を一通りする。


「そして最後に専門家や物資、機材を持ってリクレガに帰ってくるつもりだ」


 行動を一通り説明し終える全員が納得した表情を浮かべる。


「次にこちらでやってもらいたいことだが、エウル叔父上には軍の管理、特に砦の建設、事前に相談した場所での作業、および問題点の割り出しとそれの解決、帰還希望者のリストの作成」

「了解」

「ディライ殿たちには、防衛、そしてエウル叔父上の指示のもと作業をしてもらいたい」

「わかりました」

「そしてレオン達だが、グレア婆さんによるフェウス言語の習得、それも100が理想。また防衛費の捻出のため金銭と交換できそうな素材の収集。最後にバロンに伝言を、国の王として盤石になればグロウス王国の国王と面会してもらいたいと」

「わかった」


 ひとまずの指令はこれですべてだった。


「それと最後に、どのタイミングで獣人がこちらに受け渡されるかわからない。もしかしたら脅されてクメニギスから何かを持ち込まれる可能性があるため、何の精査もなしに解放された奴隷を引き入れるな」

「「わかりました」」

 

 エウル叔父上とディライは了承の声を上げるが、獣人達は何とも言えない顔をしていた。


「レオン、いいな?」

「わかっている。もしかしたらあいつらの誰かが脅されて、ここを壊す策略を立てている可能性があるんだろう?」


 レオンもどうやら気付いているらしい。


「なら、何も言うことはない」


 最後の話題が終わり、晩餐が終わると自然とそれぞれが解散することになる。

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