それぞれの待遇
6/15まで毎日12時19時の2話投稿をします。読み飛ばしにご注意を。
またカクヨムにて先行投稿をしています。
「ふみぁ~~~気持ち~悪い~」
レオネは俺の横でうつ伏せになりながら両手で頭を押さえている。
「俺の勝ちだな?」
「なんで~なんでこんなに強い~~」
何とも苦痛が伴った声でレオネは嘆く。
「ほら、仰向けになって少し静かにしていろ」
「そうする~~」
「これをどうぞ」
レオネは夜空を見るように仰向けになる。そしてリンはそんなレオネに濡れた布を額に掛ける。
「うぅ~きもちいい~」
「つらいならそのまま寝てろ」
「そうする~」
そして数分もしないうちにレオネは静かに眠りに落ちていった。
「ああ、どうすりゃいい」
ようやく騒ぎが収まったと思ったら臼を囲んでいる一角にいるエウル叔父上が両目に手を置き空を仰いでいた。
「兄貴に若が女を酔いつぶす男になってしまったと報告するしかないのか……」
「おい、その報告は」
「ガハハ!!安心しろエウル、男は遅かれ早かれ女を引っ掛けるようになるのさ」
バロンはディライにエウル叔父上の言葉を翻訳してもらうとそういい放つ。
「人聞きの悪いことを言うな、大体先に仕掛けてきたのはお前の娘だろうが」
「でも悪い気はしないのでしょう?」
今度はディライが仕掛けてきた。この事態にひそめた眉を揉み解すしかなかった。
「あのな、だから」
「それに若!兄貴がぼやいていたぞ、小さい頃に念を押したせいか女性に興味を持ちにくくなっているんじゃないかってな」
「そうなのか?」
「ああ、一応は婚約者はいるんだが、妾を作ろうとしない。公爵家ともなればメイドの一人二人に手を出すのが当たり前だ」
エウル叔父上の言い方にはやや語弊がある。明確には性教育をさせるために専属の妾を作るというのが正しい。もちろん性病の危険があるため、厳選された侍女たちの中からの選別になる。
そして性教育に関してだが、これは専属の娼婦と男娼と合同で行うことになっている。通例では娼婦と男娼が一つずつ解説し細かに教える、その後は妾と共に実践し、慣れていくといった具合だ。ちなみに娼婦と男娼はこちらとの実践には一切関わらない。そうでなければわざわざ性病の可能性が皆無の妾とやる必要などない。
そして重要な利点についてだが、貴族の子弟に関しては先ほど述べた通り。そして妾側だが仕事場では優遇してもらえて、子供には最大限の補償がなされる点だ。具体的には妾になることで職場の上位にいることが出来る。そして子供が出来た場合だが、これは継承権を与えずに身元不明ということになるが、実際は生活の保障や将来の職の補償がなされる。つまりは貴族側は学ぶためのパートナーを得ることが出来て、妾はパートナーとなるための実利が与えられる。
「もちろん婚約者に操を取っておくことはそこまでおかしな話ではないが、さすがに17だぞ、童貞では初めての時に失敗し、がはっ!?」
エウル叔父上は背後から首への一撃により前倒れになり気絶する。その一撃を行ったのはエウル叔父上の側近の女性だった。
「失礼しましたバアル様」
「……まぁ、この醜態をさらしたことで相殺としよう」
「この馬鹿団長にはきつく言い含めますのでどうかご容赦を」
ほかの側近の姿を見てみると、深く何度もうなずいている。
「今回の件は酒のせいとする。とりあえずは酔いがさめるまで休ませてやってくれ」
「はい。それでは皆様、お先に失礼いたします」
そういうと先ほどの女性が肩を貸し、エウル叔父上を連れていく。
「……さて、バアル」
「……なんだ」
バロンが何とも面白そうな顔をしながら問いかけてくる。
「お前、童貞、が!?」
「すまんなバアル。いまバカ亭主を締め上げるから勘弁してくれ」
笑顔のバロンは言葉半ばでテトに止められる。具体的にはバロンは背後のテトにより、文字通り首を締め上げられていた。
「すまないね、人様の閨の話はするべきじゃないのに」
「!?!?…!!……!…………」
バロンは何度もテトの腕を軽く叩くが、その腕は一向に緩まる気配はなく、バロンの意識は静かに消えていった。
「さて、いい時間だし、あたしらはこれで失礼するよ」
テトはバロンの足を掴み引きづりながら消えていった。
「さて、では私もお暇しましょ」
「ああ、明日にまた細かな話がある」
「ええ、わかりました」
ディライは何とも含みのある笑みでこの場を立ち去って行った。
「バアル様」
「なんだ?」
「いえ、何でもありません」
リンの問いかけを最後に俺達はレオネを連れて静かに立ち上がり、宴の場を後にした。
翌朝、多くの者が飲みすぎによる二日酔いに悩まされている頃、バロンの家では集会が行われていた。
そこにいるのはグロウス王国のアルバングル大使であるバアル、ルンベルト地方に派遣されたゼブルス軍の総指揮者エウル・セラ・ゼブルス、同じく派遣されたエルフ軍の総指揮ディライ、そしてアルバングルの暫定的な王バロン・テス、がそれぞれ信用できる側近を連れてこの場に居座っていた。
「まずエウル叔父上とディライにですが、このルンベルト地方にいるための報酬や期間について」
「ん?なんか難しそうな話になったな」
「……なら必要になったら教えてやるから、それまで寝ていろ」
バロンが頭痛そうな表情をするので寝ていいるようにアドバイスする。
「まずゼブルス軍の待遇について、ルンベルト地方に派遣された兵士はその期間に応じて臨時の遠隔地方手当を給付する。具体的には月に大銀貨4枚を支給することが決まりました」
「それはかなりの待遇ですね」
「ええ」
数を考えればかなりの出費となるが、国からの補助、それと機竜騎士団のための予算の一部をこちらに流すためこれでもまだ予算内で済んでいる。
「それと帰還希望者についてですが、リストを作って、その理由まで明記させておいてもらいたい」
「あの船と関係が?」
「その通り。数と運搬できる重さ、人数が決まっており、あの船を動かす人が足りない。ある程度動かせるようになるとするなら最低でも三か月、万全を期すなら半年は必要となります」
「わかりました」
「また、こちらに派遣する人数は多くいても、数年は帰還者の数は限られることになります」
「それは仕方ないですね」
これからの物や人の運搬は当分の間は機竜騎士団が担当する。だが問題点として機竜騎士団はまだ成立したて、つまりはどこまでも準備することは山積みとなっていることだった。
「そしてエルフ側への告知ですが、こちらは近い内に全員がノストニアに帰還してもらうことになります」
「おや、それは驚きですね」
「ディライ殿はノストニアからの派遣された戦力です。はっきり言ってしまえば貸し出された戦力、そのため長いことは重用はできません」
「それもそうですね」
「もちろん、こちらに派遣されている間は十分な報酬を出すことをお約束します。また帰還する時期についてですが、次の生誕祭の時にアルムとの会談で決定するつもりです」
「わかりました、それまではしっかりと働くとしましょう」
「期待していますよ」
ディライとの話し合いはこれで終わりだ。ノストニアの戦力は言葉通り貸し出された戦力、重宝してしまえば後々の統治に問題が出てきてしまう。そのために早めにノストニアの戦力を解散させて国元に返したいという思惑があっての方針だった。
(だがそれはアルムしだいだな)
もしアルムがこのルンベルト地方で顔を利かせたいのならディライ達を長く残す選択をするだろう。だが逆にこの場にとどめておく利がないと判断する、もしくはディライ達の情でこの場所に居させたくないと判断すれば、即座に引き上げるつもりだ。
(長くいられると困るが、即座に帰られても困る、か……こちらとしてはほどほどに長く使い、用が済んだら国に返すぐらいでちょうどいいが……はたまたどうなるか)
これはアルムとの兼ね合いがあるため、どうなるかは明言できなかった。
「ゼブルス軍とエルフ軍の話はこれで終了です。次に内容は少ないが機竜騎士団の話に移りましょう」
この言葉でエウル叔父上とディライは興味を持つ。
「まず機竜騎士団は私の手の中にあります」
「それについてはそこまで驚きはないですな」
エウル叔父上は一つの騎士団が俺が自由に扱えることに何の疑問も持たなかった。
「残念ながら機密を含んでいる部分が多いためそこまで多く言えないですが、当分はこの騎士団が様々な物資の運搬を担当することが決まっています」
「具体的には?」
「足りない食料、軍事物資、嗜好品、築城のための材料、人員、その他もろもろ。グロウス王国にある物ならほとんどが手に入るでしょう。まぁ少しだけ時間は必要ですが、それも半年までにはひとまず安定的に運用できるでしょう」
「つまり?」
「リストを作れば優先順位をつけて運搬することになります。それと申し訳ないが機竜騎士団についてはこれだけしか話せませんね」
機竜騎士団の飛空艇情報をディライを離すことはできない。なのでこれぐらいしか言えない。
「ほかには?」
「機竜騎士団いついてはこれだけ。そしてエウル叔父上とディライ殿へ説明はこれで終わりとなります」
「つまりゼブルス軍とノストニアの軍については現状維持としか言えないですか」
ディライの言葉に全面的に頷くしかなかった。
「ディライ殿何か質問は?」
「何かあればその時に聞くとするよ。それと私だけに問いかけるということは、この場にはこれ以上いないほうがいいのか?」
「申し訳ありませんが、その通りです」
ここから先の会談はアルバングルとグロウス王国との取り決めの部分に入る。二国間での会談となるため第三国所属のディライには出て行ってもらう必要があった。
「了解です。では私たちは頼まれていた仕事をこなすとしましょう」
「ディライ殿よろしくお願いします」
ディライは立ち上がるとエウル叔父上に一言告げると側近を伴って外に出ていった。




