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希望的な今後の展望

6/15まで毎日12時19時の2話投稿をします。読み飛ばしにご注意を。


またカクヨムにて先行投稿をしています。

「おぅ、バアル話があるんだとな」


 先ほどの音頭を取った場所のすぐ近くでバロンとエウル叔父上、そしてエルフの代表であるディライが酒を酌み交わしていた。


「全員そろっているようだな」

「もちろんだ、これからの話となるといち早く聞いておきたいからな」


 バロンはこちらの正確な報告が待ちきれない様子。


「何から聞きたい?」

「まずは俺たちの同胞についてだ」


 最初に話を出したのはバロンだった。


「まず戦益奴隷についてだが、クメニギスは廃止を公表した。そしてその際に奴隷となっている獣人に関してだが、一時的に集められている。町に、村に、余裕がある部分にだ」

「集められた後は?」

「グロウス王国が派遣した監視員が奴隷の運輸を始める。そしてバロン達には悪い報せだが、おそらく年が終わる頃にようやくすべての奴隷の移送が終了する目安だ」

「それは時間が掛かるということか?」

「ああ、いきなり制度を変えて、はい、実行とはいかない」


 クメニギスでは戦益奴隷を持っていた人物は有権者が多い。今回の制度改変もエレイーラが様々な理由で有権者以外を丸め込み、多数決で採決を取ったおかげで廃止にすることが出来た。その最たる理由が連盟が出来たことにより有権者以外はローリターンハイリスクの状況になっていたからだ。だがそれでも有権者もそれ以外も自らの財布を緩めることはない。そうなると奴隷の維持費、輸送費、その際にかかる雑費諸々はどうなるかと言う問題が浮き彫りになる。


「今は国がいやいやながらも戦益奴隷の維持費を補填しているから安全なだけだ。もし国が維持費すらも出し渋るようなことになれば当然村や町、個人で維持費を支払っている連中からの扱いはひどくなりより劣悪な状況にまで追い込まれるだろう」


 どこも金を出したがらない。だが移動の際には金がかかる、その最たるが獣人の食糧、怪我や病気になった際の治療費などなど。これが数百人という規模ならまだしも優に万を超す数となると出費は目を覆いたくなるはずだ。


「……言いたいことはある程度理解した」

「いや、まだだ。それに付け加えて、獣人とはまず根本から言語が違う。だから獣人を移送する際にアルバングルに届ける意図を知るすべがない。そうなれば逃げる絶好の機会と思い、下手すれば脱走を図ろうとするだろう。そうなれば当然危害を加えながら捕縛することもあり得るだろう」

「だから慎重にならざるを得ないということですか」


 ディライの言う通りだった。お金の問題、意思疎通の問題、危険性の問題、もし獣人を移送するにしても問題は山積みとなる。


(それに最たる問題はそこじゃない)


「…………」


 静かに飲んでいるエウル叔父上もやや険しい顔つきになっている。


(叔父上と………ディライも気付いているな)


 ディライも表情にそこまで変化はないが、目が笑っていなかった。


「そうか、何とも難しい問題だな」

「まぁな」


 バロンは気安く言う。だが俺たちに本心はもっと別の部分に存在していた。


「次に聞きたいことはあるか?」

「では私が、今後の軍の展望を。さすがにずっとここに居ろとは言いませんよね?」

「ああ、もちろんだ」


 次に質問をぶつけてきたのはエルフのディライだ。


「まずゼブルス軍だが、拡大する、おそらくは万を超える数になるだろう。そしてエルフの軍だがそう遠くないうちにノストニアに帰国してもらう」


 ここリクレガはアルバングルからもらい受けたグロウス王国占領地となる。そこにノストニアの軍がいることは好ましくない。


「手段はどうしますか?」

「俺が使った飛空艇を使って移動してもらうつもりだ。もちろんすぐにとはいかないが」

「なるほど」


 双方が警戒の色を示す。なにせエルフ側は飛空艇内に入り込む絶好の機会を得ることになるが、同時に未知の危険を感じることになる。そして俺はエルフに飛空艇の原理を盗まれないように警戒する必要があった。


「ほかには?」


 今度の問いかけには誰も声を上げない。


「まぁいろいろと聞きたいことはあるが、取りえずは無事に同胞が戻ってくるようで安心したぜ」


 バロンは能天気な声でそう告げるが、全くの的外れだった。だが今、それは言葉に出さない。


「本格的な話は明日に行う。わざわざ楽しい宴の最中に水を差さなくてもいいだろう」


 何も話はうれしいばかりではない。ほかにも嫌な方向と言うのも存在していた。だがいまはそのことを言葉には出さない。


「それもそうだな!そういえばルウから酒をもらったと聞いたが?」

「そうだが……どうして知っている?」

「ん?ああ、そうか知らないのか、ルウの氏族、バクス氏族はうまい果実が多く取れる場所で有名だ。俺達の酒は直に木の実を使っているから、良質であればあるほどいい味が出る」


 つまりは獣人が持っている中でも最上級に位置する高級品らしい。


「宴の席だ、景気よく飲むとしよう」


 ルウからもらった臼を『亜空庫』から取り出し、中心に置く。そしてバロンの妻の一人が全員分の盃を用意すると、一掬いしてそれぞれに配りだす。


「それじゃあ、今回バアルやレオンが帰ったことを祝って「「「「乾杯」」!!」」


 俺とディライは声を荒げることなくそのまま盃を軽く掲げて飲み始める。それに対してバロンとエウル叔父上は生きよいよく盃を掲げて、一気に飲み干す。


(……うまいがやはり度数は高いな)


 獣人が作る酒はリキュールに似ている。特徴は果実の味やにおいが顕著に出てくる点とアルコール度数が低く軽く飲める点にある。だがルウからもらった酒は味と匂いは同じだが、アルコールはかなり高く作られていた。


「かぁ~焼ける」

「確かに!強い!!」


 バロンとエウル叔父上は一気に飲み干したせいか、飲んだ後には酒焼けた声を上げる。


(グロウス王国だと主だったアルコールは小麦から作るビールに動物の乳を発行して作る乳酒。一応ワインや果実酒とかも作られてはいるが、それなりの値段がする。だが獣人の様子を見る限りではかなりの製造技術がある、か…………)


 グロウス王国では穀物の生産量の半数以上がゼブルス家によるものであった。ほかにも畜産は大半がキビクア家で作り出されているため、食事に関してはほとんどがこの二つの公爵家が関わっていると言っていい。そして同時に大半の食物を管理しているということは、食料を使う関連のことはそれなりに精通している。キビクア家なら、グロウス王国における家畜の種類と分布、ゼブルス家では穀物の量や栽培に適した区域などなど。そしてそのうちの一つが大々的に作られている酒造事情だった。


 グロウス王国は裕福と言っていい国だが同時に貧困がないとも言えない。そのため個人で作っている酒などを除けば、ほとんどの作物は地域ごとによってすぐさま消費されるか売りに出されてしまう。余裕があれば酒でも造るのだろうが、もし余裕が出来ても貯蓄しておくに限ってしまう。これらの理由からグロウス王国広まっている酒は、安価に作ることが可能なビールか乳酒となってしまっていた。


(もしアルバングルで酒が大量に作りやすい環境ならば、売れば利益になるか)


「お代わりをどうぞ」

「ああ、助かる」


 ゴクッ


 盃の酒を飲み干すとすぐさま差し出された酒を受け取り、そのまま思考を続ける。


「バロン、この国では果実はよく取れるのか?」

「ん?ああ、取れるぞ、と言ってもアルバンナではなくアマングルの方だがな」


 アルバンナはサバンナ地帯よりもやや緑が多い程度、アマングルはアマゾンの様に密林地帯になっている。そう考えれば果実が取れるのはアマングルの方が多いのだろう。


 そんなことを考えていると自然と盃が空になる。


「はい、お代わり」

「ああ……レオネ?」

「なぁ~に?」


 まるで不自然の無い様にに盃が変えられて、手渡される。


「リンは?」

「ん?そこ」


 背後を見てみると、何とも不機嫌そうな表情で正座し目を瞑っているリンの姿があった。


「さっきはリンに取り換えてもらっていたはずだが?」

「そうだよ、でも変わってもらった」

「お前らお互いの言葉はわからないんじゃないのか?それになんだこの器は」


 先ほどのはサイズで言えば小皿だったが、現在手にある器はスープ皿並みに大きなもので、そこに並々と酒が注がれていた。


「まず言葉はわからないよ~だけどこう、身振りでぶりで」

「もう一つの問いは?」

「酔わせようと思って、エヘッ」


 都合が悪くなったためか笑顔でごまかそうとするレオネ。


「……なんで酔わせようかと思ったかを聞くつもりはないが、いいことではないな?」

いいこと(・・・・)ではあるよ~」


 思わず眉間にしわが寄ったのは仕方のないことだろう。


「リン」

「これに関しては常識の範囲内なら問題ないと思い交代しました」


 リンの言うことにおかしい点はない。ただ酌をする立ち位置にいるのが、リンでもノエルでもレオネでも基本的には問題はない。もちろん飲ませすぎないようにすることも必要だが、先ほど言った常識の範囲内なら別段誰でもよかった。


「だがこいつ(レオネ)は確実に潰しに来ているが?」

「その点はご安心を。私が素面ですので、程よく酔いが回り始めたら『浄化』を使う予定でした」


 リンのユニコーンリングは毒物を解毒できる『浄化』という能力を併せ持つ。なのでアルコールによる酩酊なども治すことが可能だ。そして何度か酩酊時にお世話になったことがあるので性能は保障されている。


「酒も毒とカウントされるか……(それでいうとなぜティタの毒は解毒できなかった?)」


 やや不可解な部分があるためリンの腕輪に対して不信感が生まれていた。


「ほら、飲め~」

「押し付けるな」


 思考を一度中断してこちらに器を押し付けるレオネの相手をする。


「はぁ、俺に呑めと言っているんだからレオネも飲むよな?」

「いいよ~どちらが先に潰れるか競争する?」


 競争だと先に潰れたほうが勝者のような言い回しになっているが、言いたいことはわかった。


「どうする、先に呑もうか?」

「いや、俺が先で言い」


 器を受け取り一気に飲み干す。


「次はレオネの番だ」


 空になった器をそのままレオネに差し出す。


「よし乗った!!」


 レオネは俺から目を離し(・・・・)、臼から酒を掬う。


 ゴクゴクゴク


「ぷはぁ~次、バアル」


 再びレオネは臼に器を入れて満杯にしてからこちらに差し出す。


「ああ」


 また再び一気に飲み干すと、盃をレオネに返す。


「ん~酔いは回った?」

「まだまだ」

「む~~」


 再びレオネはこちらから視線を外して臼から一掬いする。


 そしてそれを何度も行うと――

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