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新たな産声と新たな時代

 ガン


 衝撃が机を揺らすが、威力が無かったため、山となった書類が崩れることはなかった。


「陰謀だ、バアルが、当主の座に座るために過労死させる気だ~」


 机に突っ伏しながらぶつくさといろいろと呟くゼブルス家現当主。


「そんなつもりはありません。何より殺してしまっては書類仕事をさせられないでしょう?」

「!?隠居させても書類仕事をさせるつもりか!?」

「場合によっては」


 何やら呻き声が聞こえてくる。


「しかも卑怯だぞ、バアル」


 父上が視線を上げるとソファに座っている小さな看守がいた。


「二人は狩人です。捕えた獲物(・・)を檻から逃げ出さないようにする必要がありますから」

「「うん!!」」


 二人は楽しそうに父上を監視している。


「それにしてもなんで私の居場所が分かった?あそこは顔が利いて秘密にしてくれていたはずなのだが」

「……父上は本当に限界になると逃げだすことが多々ありますからね、当然対策はしていますよ」


 父上の私物のいくつかには発信機を仕掛けているため、どこに逃げたかはすぐにわかる。


「さて、ではアルベール、シルヴァ。獲物を監視しているんだぞ」

「うん!」

「往生際が悪い豚さんは逃がさない」

「往生際は悪くないぞ~」


(豚はいいのかい)


 こころの中で思わず突っ込みながら父上の執務室を出ていく。












「さて」


 自室に戻り、仕事机に着くと同じように乗っている書類を片付け始める。


(ロザミアとのやり取り、外交団のやり取り、アルバングル関係、そして報告書、また保護してきたレティア達の処遇もか)


 様々な書類を開いていると、様々な項目について確認と承認についてのサインが必要だった。


(それよりも、問題なのが)


 一つの書類を確かめる。そこには飛空艇の初フライトの結果が書かれていた。


(一度のフライトで8000MPか……何とも微妙な数値だな)


 一度書類を脇に置き、ノートパソコンを取り出す。


(試算では消費コストはもう少し少なくなると思っていたが)


 パーツの設計図を出すが、やはり違和感を感じさせるものはなかった。


(ほとんど張りぼて状態の飛空艇だった。次から十分な機能を乗せるとなればさらに消費魔力は………増えるよな)


 空を飛ぶためと考えれば少ないくらいだが、それでも飛空艇を頻繁に飛ばすとなればおそらく5年で貯蓄した魔力を使い切ることになる。


(今回のフライトはおよそ3時間、そしてもしこれを一日中飛ばすとなれば八倍。そして機能をさらに詰め込めばおそらく日に8万を超すだろう)


 魔道具が売れれば売れるほど集める魔力は多くなるが、それでも日に10万を越すか越さないか、そうなれば二機を一日中飛ばすだけで貯蓄魔力は赤字となる。


「………どうするか」


 長い溜息を吐くと視界の隅で黄色い尻尾が見える。


『ふむ、何とも複雑じゃのう』

「イピリアか」


 ノートパソコンの画面を鏡のように使うと頭の上にイピリアがいた。


「イピリア、何か意見は……お前がわかるわけはないよな」

『うむ、なんか、ごちゃごちゃとしたパーツは全く分からないな』


 当然か、と思い深く椅子に座り込む。


『じゃが、お主がなんで頭を悩ましているかは知っておるぞ』

「へぇ、なんだと思う?」

『例の飛空艇が案外重かったのだろう?』

「??重い?」


 消費魔力が多くなるという意味だったらイピリアの言う通りなのだが、伝わっていた意味が違う。


『ん?違うのか?』

「すまんがもう少し詳しく伝えてくれないか?」


 するとイピリアは机の上に降り立ち、二本足で立つ。


『まずお主が気になっている点だが、この魔力の部分だろう?』


 ノートパソコンの画面に描かれている数字の部分を指さす。


「ああ、その通りだ」

『船の全体図を出してくれるか』

「?ああ」


 画面に飛空艇の立体図を乗せる。


『お主が開発した飛空艇じゃが、まず中心で飛翔石に魔力を流し、それを発散させる装置を乗せているじゃろう?』

「ああ、そうすることで船全体に魔力が行き渡り飛翔石の効果を伝わらせることが出来るようになるからな」

『ん~~、儂も同行していたのじゃが………お主の考えじゃとこうだろう?』


 イピリアは尻尾を伸ばし、船を囲うように丸を作る。


「ああ、その通りだ」

『じゃがな、お主の想定と外れて魔力はこうなっているんじゃ』


 イピリアは尻尾を常に動かし歪ませ、丸の外に船がはみ出るようにする。


『じゃから、一定の重さが安定していない』

「だからか」


 飛空艇を作る際、何度か測量したのだが数値が安定していない時があった。


『だからお主は安定させるために消費する魔力を増やした、こうじゃな』


 イピリアは飛ぶと体全体を使って画面を上回る大きさの輪を作った。


『こうすることで魔力が揺れ動いても』

「すべてが飛空艇を包めるわけか」


 楕円になっても飛空艇がはみ出ない大きさにすれば効果は均一となる。だがその代わりに消費魔力は増大するということだ。


『だからこの数値が予想よりも大きくなるのじゃろう』

「……となれば飛空艇の大きさを小さくさせなければ……いや待て、その考えだと」


 イピリアの意見を参考にして、新たな手法を考え始める。


 だが、イピリアの言葉には続いていた。


『じゃから、儂はアレを使うことを薦めるぞ』

「アレ?」


 その後、イピリアに告げられた内容に、なるほどと思ってしまった。













 そして一か月後。


「お~~前のよりもでかいな!」


 ゼウラストの城門の外で簡易的に作られた広場にて、成果を発表していた。


「これに乗ってアルバングルに向かう」

「お~~空の旅だな!」


 レオンは目の前の飛空艇を見てうれしそうな表情になる。


「にしても面白いな」


 今は飛空艇は布でかぶせてあるため、わからないが、その大きさは全長50メートルを超えていた。


「レオン、これはお披露目でもあるからな」


 数日前までこの簡易な広場には特大のテントを敷いて観衆からの目を隠していた。警備にはゼブルス家の騎士や影の騎士団も出動させていた。


(実際はほとんどの部分を工房で作り上げた後、ここでつなぎ合わせただけ。さすがの影の騎士団も情報は得られなかっただろう)


 実質的にはここに大きな部品だけを持ってきて組み立てただけだった。


 そして昨日完成したため、テントを仕舞、布をかぶせているだけの飛空艇が置いてあるわけだ。


「バアル、観客もそろったぞ」


 近寄ってくる父上の視線の先には用意した貴賓席に陛下や国内の貴族たちがそろっていた。そして広場の外には物珍しそうな観衆が押し寄せていた。


「じゃあ始めましょう」


 リンとノエルを伴い用意した壇上に上がっていくと自然と拍手が聞こえてくる。


「この度は機竜騎士団の飛行式に集まっていただきありがとうございます。私は機竜騎士団団長、バアル・セラ・ゼブルスと申します」


 そして貴族の礼を行うと、再び拍手が聞こえてくる。


「さて、この度設立された機竜騎士団は皆さまご存じの通り、空を飛ぶ魔道具、飛空艇を運用する騎士団でございます。運用については設立初期のため、まだまだ手探りの状態ですが、その用途は私見ではありますがどこまでも広がると思っております」


 その後も前置きを続ける。そしてすべてを告げ終わると次に行うのは。


「そしてこの度、開発した機竜騎士団の運用する飛空艇“ケートス”です」


 言葉と共に控えていた騎士が布を外し始める。


「「「「おぉお」」」」


 全体を青色と銀で塗装している。そして特徴的なのはその形だった。


「大きな翼ですな」

「それにまるでクジラ(・・)

「左様ですな。鎧を着こみ大空を泳ぐ翼をもつクジラ」


 観客の言う通り、全体的なシルエットはクジラに似ている。そして船首あたりには折りたたまれた翼を持ち、腹の部分にはガラスがはめ込まれており、中から外を見ることが出来る。そして船尾だが尾の部分は持ち上がっており、貨物を入れるための扉が存在していた。


「皆様も見ているだけでは少々味気ないでしょう。なのでこれより機竜騎士団としての初仕事、アルバングルへの初飛行を行います」


 その言葉を発すると、大勢の声が響き渡る。


「ではお楽しみを」


 その後を父上に任せて、レオン達と飛空艇に乗り込む。


「リン」

「わかっています」

「ノエル」

「糸を船内全てに張り巡らせ終わりました、レオン様方以外に乗っている者はおりません。またレオン様方も事前に許可した範囲内にしかおりません」

「わかった」


 二人を連れてコックピットに入る。


 そしてマイクを取り告げる。


「それでは“ケートス”離陸します」


 そしてプロペラが動き出し、“ケートス”が浮き上がっていく。


(楽しそうに見ているな)


 眼前の人たちを見てみると、歓声と拍手をしているのが見える。そしてその中にはうれしそうな顔をして手を振っているアルベールとシルヴァの姿があった。


「バアル様、無事に戻らねばいけませんね」

「だな」


 二人を飛空艇に乗せると約束したため無事に戻ってくる必要があった。


「さて、機竜騎士団最初の仕事を終わらせるとしよう」


 盛大に動き始める駆動音がまるで産声の様に周囲に響きわたる。






 こうして新たな機竜騎士団が動き出し、そして同時にこれが新たな時代の幕開けとなった。

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