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冷徹公爵の異世界人生~助けてほしいだと?なら見返りは?~  作者: 朝沖 拓内
第二章 学園の始まりと騒々しい夏休み
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仕掛けは上々、あとは

「で、お前たちの名前は?」

「僕はジルと言います。ルディウス家の三男です」

「私はニーア・セラ・マリナクです。マリナク家の四女です」


 男は金髪を目が隠れるまで伸ばし気弱そうな顔立ちで小柄。女の方は茶色の髪を後ろでまとめた活発系の女性だ。


「知っていると思うが、俺はバアル・セラ・ゼブルス。一応、破滅公と呼ばれている」


 こういうと二人は緊張する。二人の様子で緊張が解けることは先の事だろうと理解する。


「とりあえず、この網の端と端を持て」


 亜空庫から大きめの網を取り出すと二人に持たせる。


 ジルの方は何をするのか察しがついた様子。


「これで川の両側で持っていてくれ」


 ジルは川の反対側に回り、ニーアはジルに習って川の反対方向で網を垂らす。


 そして俺はというと


「この位の場所なら問題ないだろう」


 二人よりも上流で川に手を入れる。


「『放電(スパーク)』」


 一瞬だけ放電を起こし川に流す。


「わ、わ」

「多いわね」


 結果、20匹ほどの魚が浮かび上がって網に引っかかる。


「よし、そのままこっちに来てくれ」


 ジルが網をたたむように川を渡ってくると、網を掴んでそのまま引き揚げる。


「大量に取れましたね」

「ああ、ちょうど川登りをしている魚がいたようだな」


 網から魚を取るとヤマメに似たような魚が多くかかっている。


「ん?どうした」


 俺が網から魚を取っているとこちらを見てくる二人。


「いえ、その」


 ジルは言いにくそうにしている。


「……魚を素手で触るなんて……」


 ニーアの方は慄いている。


(そうか、貴族の子弟などは普通魚などを触ったりはしないのだったな)


 前世で料理経験があるからか魚を触ることに嫌悪感は全く無かった。だけどこの世界で貴族の子弟はまず料理自体しない。となれば触ることも初めてで気持ち悪いのだろう。


「一度、魔物の解体を見てみればわかるさ」


 ダンジョンでは魔物の死体消えるのだが外だと残る。そのため一度だけ領内の魔物を討伐して解体も体験させてもらったことがある。


「二人は魚を触るのは無理か?」

「できれば……」

「はい」


 ジルは遠慮がちにだが、ニーアは完全に嫌がっているな。


「別に無理ならやらせんよ、ジルは手伝う気があるなら数匹でも取り出すのを手伝え」

「……」

「ご愁傷様」


 ジルはいやいやながら手伝う。


(……いやなら手伝わなくていいのにな)


 とは言っても、網から取り出すと荷物に入っている籠に放り込むだけだ。


(さて、食料を取り終わったら教師に見せに行くのだが)


(俺とジルにニーアか……俺だけでいいな)


 三人で向かう必要もないので俺が籠を持つ。


「とりあえず、お前らはここで待っていろ」

「はい、よろしくお願いします」

「お願いしますね」


 二人の緊張が少しずつ緩和していた。










 教師に確認を取ってもらうと、この辺りで取れる食用の川魚だとわかり、料理する際の注意点を教わる。


 そしてまたキャンプの場所に戻る途中に周囲を警戒する。


(……この辺りなら問題ないか)


 人目がないことを確認すると『亜空庫』を開き、魔導人形を取り出す。


(起動……『完全迷彩』)


 人形を起動させると光学迷彩を起動し完全に見えないようにする。そしてAIに俺の後をついてこさせる。


 キャンプ地に戻ると見えない位置に魔導人形を配置しておく。


「バアル様、どうでした?」

「全部、問題ないってよ」

「ではこれで食料は問題ないですね」

「ああ、あとはリンがどれくらい持ってこれるかだ」


 俺はナイフと籠の魚を取り出しさばき始める。


「バアル様、何をしているので?」


 ニーアが何をしているのかわからず聞いてくるのだが。


「鱗を剥いで内臓を取り除くだけだ」


 さすがに下処理はしておいた方がいいだろう。


「こうすれば後々楽になる」


 それより―――


「別に様付けする必要はない、あくまで俺は現嫡男というだけだ」


 確かに嫡男ではあるが、それは明確にできる身分ではないため敬称を付ける必要がない。


 なにより


「今の俺は一介の生徒だ……まぁ貴族ではあるが。だから普通に呼べば問題ない」


 生徒同士で距離を持つ会話は結構疲れる。正直なところ気軽な感じの話がしたい。


「えっと、わかりましたバアルさ……君」

「ではこれからもよろしくお願いしますバアル様」

「ああ、よろしくな」


 ジルは未だに戸惑っているようだが、ニーアは物怖じしなくなった。


 魚の下処理が終わると、後はリンたちが戻ってくるのを待つだけなので手製のサングラスを着けてハンモックに横になる。


 そして魔導人形『キラ』を動かす。










 さて、どうやって魔導人形を動かしているのか、なにせ現在は一見するとただサングラスを着けてハンモックに寝ているだけだ。だか魔導人形を動かすのはそのサングラスが必須条件なのだ。


 掛けている者にしか映像を写さない特殊なレンズ、耳に掛ける場所に骨振動により音声を伝えるスピーカー、さらには弦の部分には脳波を観測する特別な装置を仕込んでいる。これにより脳にイメージを浮かべるだけで魔導人形を自由に動かすことができる。


 もちろん端末はこのサングラスだけではなく、伊達メガネ型もあるのでぱっとみではただくつろいでいるようにしか見えない。


(動けるのはリンたちが戻って来るまでだな)


 リンが戻ってきたら俺もそれなりの反応をしないといけなくなる。その時になるとさすがに操作に集中できなくなるので早速動き出す。


(『ソナー』『サーモグラフィー』)


 二つの機能を使い周囲の状況を確認する。


(この先に5人の反応がある……これは)


 おそらくリンだろうから感知されないように迂回しながら移動する。


(リンの場合この状態でも気づいてしまうからな)


 リンは感知用魔道具を付けているため『完全迷彩』でも気づかれる。なにせいくら目に見えないと言っても質量は存在する。なので当然歩けば振動が起こり、リンの魔具が反応してしまう。


 リンの察知圏内から離れると、素早く森の現状を把握する。


(結構バラバラになっているな)


 森には生徒が満遍(まんべん)なく広がっている。


 それでも言いつけは守っているらしく、安全とされている範囲内に留まっている。


(目的の班は………あれか)


 あの三人がいる班を見つけた。


(あの三人にナンパの時にいたあの少女……たしかソフィア・テラナラスだったか)


 それとほかの男女4人がいる。


(どうやらあの3人は貴族クラスみたいだな)


 貴族の3人はあの5人と少し距離を離してテントを立てている。


(……この場所はちょうどいいな)


 この八人がいる場所は一番西の方だ。これなら彼らのさらに西にて誘引剤を使えばいい。


(簡単に済みそうだな)


 そのまま見つからない場所に隠れて、夜までやり過ごす。












 人形を隠すとリンが近づいてきている気配がする。


「バアル様、果実や野菜を採取してきました」

「ああ」

「……何かしていますね?」


 さすがリン、俺が人形を操作していることに気づいている。


「それよりこの後はどうするんだ?」

「……食料の確保が終わったのでご飯まで各自は自由にしようかと」

「わかった」


 それぞれが自由に行動し、俺はそのままハンモックで寝ることにした。















 しばらくすると周囲が騒がしくなる。


(……どうしたんだ?)


 目を開けてみると人数が増えている。


「……なんでだ?」

「あ、バアル様」


 俺の声に反応して近くにいた少女が近づいてくる。


「……たしかセレナ・エレスティナだったな」


 図書室で会った、あの少女だ。


「覚えてくれていたんですね」

「ああ」


 あの本は面白かったから印象に残っている。あくまで本のオマケだが。


「それでなんでお前たちがここにいるんだ?」

「それはですね―――」


 どうやらセレナたちのテントは俺たちのけっこう近くに張ってあるらしい。で、俺たちの班が貴族のみで構成されているのを思い出して、よかったらお裾分け――という名の売名行為―――にということらしい。


「それと、実は友人がこの班にいるので」


 ということで遊びにも来ていたらしい。


「にしても意外だな、貴族に友人がいるなんてな」


 普通、貴族は平民と友達になどなりたがらない。


「実は少し訳アリな子でして」


 話を聞いてみると、その子は貴族ではあるのだが平民の女性が生んだ庶子で少し前までは普通に平民として暮らしていたそうだ。そのため貴族の友人よりも平民の友人のようが親しくなりやすかったらしい。


「なるほどな…………で、なぜこんな状態になっている?」


 なぜだがお互いの食材を見せ合っている。


「実は木の実とかは採れたのですが、魚などは……」

「だから物々交換か」


 まぁ班の全員に分けると2匹ずつで十分だろう、あとの四匹は木の実や山菜と交換でいいな。


(果物や野菜はこいつらの方が詳しそうだし)


 実際、量と種類ではセレナの班の方が豊富だった。


「魚一匹にこんだけ持って行くのか!?」

「当たり前だろ、そっちが手に入らないものを売ってやっているんだ」

「それはこっちだって同じはずです」


 どうやら交渉がまとまる気配がない。


「(しかたない)リン、そしてセレナ少し手伝え」


 二人を呼び出す。


「どうしましたか、バアル様」

「これの端を持って向こう岸に立っていてくれ、セレナは反対側を持ってこっち側に」


 二人に網を持たせると俺は先ほどよりもさらに上流にまで移動する。


「(さすがに数時間ですべての魚が戻ってくるわけじゃないしな、今回は少し強めで)『放電(スパーク)』」


 先ほどよりも強めの放電により、多くの魚が浮き上がってきた。


「これで二人の場所まで流れていくだろう」


 ということで食料問題を解決したのだが。


「「………」」


 なぜだか不満気の表情でこちらを見ている二人。


「……どうした?」

「どうした?ではありません、魚を取ることには賛成ですが」

「ビリって来ましたよ!ビリビリって!!!」


 少し電撃が強すぎたようで、網を伝って少し感電したようだ。


「それは悪かったな、代わりに魚を何匹か譲ってやるからそれで我慢してくれないか」


 いまだに二人は膨れている。


「それでどれくらい採れた?」

「……見知った魚が30匹ほど」

「そうか、なら問題ないだろう」


 これなら物々交換でも公平にできる。


 それから魚一匹に野菜か果物3個で交換と条件が決まり色々な野菜が手に入った。


 それと


「嫌な気配がする、夜は気を付けたほうがいい」

「え?」


 一応は忠告をしておいてもいいだろう。









 日がいい感じに落ちてきたので飯にしたいのだが。


 ハンモックに寝ながら16人を見る。


「……いつまでいるつもりだ?」


 目の前で石を積み上げて即席の竈を作り、バーベキューしている。


「あ、起きましたかバアル様」

「セレナ、これは?」

「いえ、寝ている間にお食事の準備を皆さんがなさいまして、それを手伝っていたら自然に」


 周りでは貴族平民問わず楽しそうに火を囲んでいる。


(貴族と平民が同じ釜で飯を食うか……)


 血統主義の貴族が聞いたら荒れそうだ。


「お目覚めになりましたか」


 セレナと会話しているとリンが近づいてくる。


「お食事の用意ができましたが、いりますか?」

「ああ」

「私取ってきますね」


 セレナは串焼きの一つを取りに戻った。


「はいどうぞ」


 だがリンは片方の手に持っている串を渡してくる。


「……」

「どうしました?」

「いや、なんでもない」


 肉の代わりに魚で代用している串焼きにかぶりつく。


「バアル様持ってきまし……た?」

「すでにバアル様の分はご用意してありますよ」

「え?」

「あら、私の串が無くなったわ、代わりにもらえるかしら?」

「あ、はい……どうぞ」


 なぜだろう、目の前で火花が散っているように見える。


 そんなこんなで楽しい晩餐が終了すると交代で見張りをする。俺はリンと組み、最も遅いタイミングで見張りとなった。


「バアル君はよくこんな場所で眠れるね」


 そして順番で言うと俺たちは先に仮眠をとった方が効率がいい。


「俺らは夜中なんだから眠っておくに限る」


 当然ながらテントは男女で分けている、こんな場所で不祥事が発覚すればめんどくさいことこの上ない。


(さて、もう一つでも動くとするか)












(ここら辺がちょうどいいか)


 魔導人形を動かし標的に程よく近く離れている場所に訪れる。


「火にくべるだけで良かったんだよな」


 小さく焚火を用意すると魔物誘引剤を袋ごと入れて燃やす。


「これでいいのか?」


 効果を知っているだけで実際どのように作用するのかわからないのだが、しばらくするとピンクのような紫のような煙が発生すると薄く広がっていく。


「さてこれで――」


 戻ろうとするのだが急速に接近してくる反応があった。


 キンッ!


 投げられたナイフを払う 


「なぜお前がここにいる!」


 現れたのは藍色の髪をした覆面の女性だ。


「……ああ~~ゼブルスの時の侵入者か、どうだ?カギは役に立ったか?」

「あんたの!おかげで!若に!いいように!こき使われているわよ!!!」


 短剣で何度も切りかかられるがすべて防ぐ。


「それにしてもなんでここがわかったんだ?」

「ある情報が入ってきてね、禁忌品を追っていたんだよ」

「そしたらここにたどり着いたってか?」

「ええ、裏の界隈でここを実験場として使うって話が持ち上がっていたぐらいですし!!」

「だれだよそんなデマ流したの」


(もちろん俺だが?)


 本当はもっとやりようはあったのだが、時間がなく簡単な噂を流すぐらいしかできなかった。


(もう少し時間があればほかの手も打てたけどな。それにしても……)


 演技をするが、案外しんどい。この魔導人形ではあくまでルナを知らないふりをしなければいけない。なにせ辻褄を合わせないとバアルの方が疑われることになる。


(だが間に合ってくれたことには感謝するよ)


 ルナが出てきたということは、この事態がすぐに影の騎士団に知らされることになる。となればニゼルの思惑通りには運ばなくなるはずだ。


「ここで、お前を倒して話を聞かせてもらうぞ」

「デートのお誘いはうれしいけど時間がないから、また今度な」


 仕込んでおいた煙幕を放出する。


「待て!?ゲホッゲホッ?!」


 ついでに催涙成分も混入しているから何の対策もなしだと動けない。


 その間に完全迷彩を起動する。


 煙が晴れると、ルナは俺の姿を見失う。


 俺の姿がないことを確認すると懐から魔道具を取り出す。


「応答お願いします……はい、首謀者を思わしき人物と遭遇、残念ながら取り逃がしました。騎士団に連絡を入れてください。はい、すでに魔物誘引剤を使用されています」


 そう言うとこの場から去っていった。


 俺も人形に仕込んでおいた『亜空庫』を出現させ、その中に入る。










(これで依頼は終了した、あとは―――)


 テントを出る。


「どうしましたか、バアル君?」

「まだ時間にはなってないわよ?」


 今はジルとニーアが見張りを行っているようだ。


「なんか変な気配を感じないか?」


 白々しいことこの上ない。


「僕は何も感じてないけど?」

「勘違いとかじゃなくて?」


 二人とも疑いながらも信じてくれている。


「……確かに感じるぞ、みんなを起こせ」


 強く言うと二人とも動いてくれた。






「それでバアル様、何が起こっているんですか?」


 全員を代表してリンが聞いてくる。


「詳しいことは分からない、けど何かが起こっているのは確かだ」


 リンは何も言わずに目を閉じる。


「…………!?これは」


 土知りの足具で周囲を確認して、何が起こっているのか理解したようだ。


「何かが大量に……押し寄せてきている」

「「「「「「え?!」」」」」」

「さっさと持てる物だけ持って逃げるぞ」


 そういうとそれぞれ必要な物だけ持って逃げる準備をする。


(こうすればどんな奴でも何かあったってわかるだろう)


 必要な物だけ持つと教師が集まっているキャンプ場まで急いで移動する。同時に途中で見かけたテントにも伝えていく。


 多くの生徒が急いで逃げているのだ、大体は察せるだろう。

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