表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/564

停戦協定締結

〔~バアル視点~〕


 翌朝、日が昇る前から昨日と同じようにウェルス山脈の中腹にてルンベルト駐屯地の様子を確認する。


「ふぁ~~ん~~まだ起きていたの?」

「ああ」

「夜は寝るもんだよ~~」


 レオネの言葉でわかるように現在は徹夜をしていた。


(ないとは思うが、向こうに奇策があるかもしれないからな。一応は警戒しておく必要がある)


 一応はチェックメイトを掛けたつもりでいる。だがもしここで盤上をひっくり返す何かがないとも限らない。


 ピクッピクッ


 視界の隅でレオネの耳が大きく二度揺れる。


「ん~お兄ぃ達も無事に進んでいるみたいだね~」

「………のようだな」


 レオネの言葉で傍にあるノートパソコンを確認すると、山脈間を進んでいる一つの赤い点があった。これはグレア婆さんにつけた発信機と盗聴器の反応だった。


(このままだと朝日と共に山脈間の出口手前まで進めるな)


「父さんとお母さんもいるのかな?」

「少なくともバロンは要るだろうな」


 交渉を締結するにあたってそれなりの人物が交渉の場に着かなければいけない。そして重要人物が交渉に出るということは逆に言えばそいつが殺されてしまえば大きな損失となるということ。さすがにないとは思うが一応、護衛を引き連れておく必要があった。そのために、もし万が一襲撃された時のために山脈間に軍勢を用意してある。


(さて、どうなることか)








 その後、警戒を続けるが、日が昇り朝日が駐屯地を照らすまで何も変化がなかった。









「ん~~気持ちい~~~」


 完全に朝日が昇りきると、陽を浴びたレオネは大きく伸びをする。


「どう~?」

「どうとは?」

「ん~あそこの様子」


 レオネがすぐそばまで来てルンベルト駐屯地を指さす。


「動きはない。昨夜は夜襲をした様子もなかったから交渉に応じると思うのだがな」


 それにあそこにはエレイーラがいた。なら昨夜のうちに手回しを終えているはずだ。


「おぉ~~ここから見るとこんな感じか~」


 レオネの方角を見てみると山脈間を進んでいる獣人の軍勢が見えた。


(まぁ、壮大だろうな)


 山脈間を一万を超える数の軍勢が進んでいるのだ、それを山の中腹から見ていればそういった感想が出てくるだろう。


「バロン達の準備は完了しているな」


 獣人達はそのまま山脈間を進んでもらえば何も問題ない。


 ピクピクピク


「ん?向こうも出えてきたみたいだね」


 レオネの耳が動く。その言葉で再び望遠鏡で様子を見てみると、ルンベルト地方の正門が開いていた。そして完全に開き終わると中から武装し、クメニギスの旗を掲げた集団が出てくる。


(数にして3、4000というところか、敵意を持たれない数で、なおかつ威圧できる)


 数としては最適解と呼べるものだった。


(それに………もちろん、いるよな)


 最前列には鎧を着て、馬に乗っているエレイーラの姿があった。








 そして小一時間ほど進むと、山脈間の入り口で両軍が相対する。











〔~エレイーラ視点~〕


「姫様」

「わかっているさ、グード」


 駐屯地を出発してから半刻ほどで中央ルートに差し掛かることになる。


 またグードの声の理由は正面に見える連中だった。


 山脈間から出ることなくこちらの様子を疑っているのは獣人の大軍。中には私たちの中で悪い意味で有名な獣人の姿もあった。


「よし!事前に連絡した者だけで前に出るぞ!!」


 クレイグの声で、昨日のうちに交渉に参加する連中だけが前に出始めた。


「姫様」

「ああ、わかっている」


 そしてその中に私とグードの名前も入っていた。


 またこちらが事前に知らせられた通りの人数で前に出るとあちらも少人数が前に出始める。体の大きい獅子の獣人、やけに体毛が濃いゴリラの獣人、ほかにも虎や猿の女獣人などなどだ。その中にはあの時の獣人の老婆がいたことから交渉するための人材なのだろう。








 お互いの交渉団が軍隊から離れて進み、声が交わせる距離まで近づいた。


「昨日ぶりじゃのクメニギスの王女よ」

「そうだな。こちらとしてはもう少しもてなしたかったのだがな」

「はは、王女はそう思っても、そちらの総意ではなかったようだったのでな。それに儂はいいのだが、若いもんをあの場で殺させるのは心苦しかったのでな」

「その件についてはこちらの不手際ですまなかった」

「いや、よいよい、儂らは戦争をしているのじゃ。あの対応でも文句は言わんさ」


 まず最初はなんの気なしの会話から始まった。この結果狙ったかどうかわからないが空気が弛緩していた。


「んん!エレイーラ殿下」


 横からクレイグの咳払いが聞こえてくる。


「ご老体、申し訳ないが、いたずらに話を伸ばし、兵に緊張を強いたくない。できれば交渉に入ってもらいたい」

「仕方ないのぅ」


 老婆は一度大きく息を吸い込むと、纏う雰囲気が変わる。


「さて、では聞くが、交渉内容に異存はないな?」

「ご老体よ、一つだけよろしいか」

「なんじゃ?あるなら早う言葉にせい」

「停戦期間だけは見直してもらいたい」


 前に出て、老婆を見下ろす形でクレイグは言葉を出す。


「具体的にはどう見直してほしい?長くするならこちらはすぐにでも首を縦に振ろう」

「もちろん逆だ。50日にしてもらいたい」


 双方の視線がぶつかり合う。


「どちらが優勢かわかっておるのか?」

「もちろん、だが、こちらも無条件は飲めないというだけ。そこを少しだけでも変更してもらえれば、こちらは事前の交渉内容で飲もうと思っている」


 クレイグは最悪はぶつかり合うことも厭わないという視線をする。


(停戦交渉を飲まねば多くの戦力が犠牲となるため飲まざるを得ない。ならできるだけ例の結晶の対策が終わるタイミングで停戦期間が終わるようにしたい、か。そしてゼブルス軍もエルフたちに関しては外交でどうにか撤退を促せることを期待しているのだろうな)


 蛮国を早期にクメニギスの領土にすることはもはやかなわなくなった。なら長期的なプランへと変更すればいいことになる。


「はは、まだ兵器も完成していないというのに、わざわざ期間を短くするか。物を作り量産するなら100日でも十分だろうに」


 老婆はそう言い笑い顔を作るが眼だけは真剣だった。だが折れたのは獣人の老婆の方だった。


「いいじゃろう、それにどんな考えがあるのかわからんが…………60日じゃ、ここがこちらの限度となろう」

「それならば、こちらも異存はない」


 こうして停戦期間については共に合意した。


「それで一応、確認するが、口約束だけで成立したと考えていいものなのか?」

「いや、無論、これに書面してもらう」


 クレイグが確認すると、獣人の老婆が二つの紙を取り出す。


「これは…………なるほど」


 横から確認するとフェウス言語で作られた書類だった。条件はあらかじめ想定されていたのか60日となっている。そしてその条件にはゼブルス軍についても書かれていた。


(停戦期間が終わるまでゼブルス軍は蛮国に駐在、そして停戦期間にも関わらず、戦闘を行えば先に破った方に敵対する行動をとるわけか)


 堅苦しい文にはなっていたのだが、つまりはゼブルス軍が双方における抑止力となると書いてある。ゼブルス軍は山脈を挟んで反対側に陣を張り、こちらが条件を破れば彼らは獣人側に加担し、獣人側が協定を破ればこちらに付くということになっている。そしてサインする部分にはすでにバアル・セラ・ゼブルスの名前が入っていることから効力は無事に発揮されるだろう。


「こちらは我らが獣王が書面しよう」

「………失礼だが獣王とはなんだ?」


 何やら聞き逃してはいけない言葉があったので横から会話に割って入る。


「我らが王じゃ」

「王?つまりは国があると?」

「ああ、なんじゃ、それすらも知らんかったのか」


 獣人の老婆は大げさに反応する。


「まぁいい、さて書面してもらうがいいな?」

「異存はない」

「獣王バロン頼んだぞ」

「***」


 老婆の声で後ろにいる獅子の獣人が前に出る。


(護衛じゃなかったのか)


 まさか国王が護衛をしているとは思わなかった。


「貴殿が獣王」

「………」


 クレイグもまさかこんな場所に国王がいるとは思っていなかったのか茫然としていた。


「****?」

「我らが王は王女様たちの言葉はしゃべれん。*******」


 獣王と呼ばれた獣人は振り向き、老婆に何かを確認する。そしてどうやらこちらの言葉がわからないらしく老婆が翻訳していた。


 そして翻訳している間にゴリラの獣人が書くために持ってきた岩を削って作った台を双方の真ん中に置く。


「こちらは終わった。今度はそちらの番じゃ」


 向こうのサインが終わると、二通とも手渡される。


(獣王国アルバングル国王バロン・テス、か)


 横からサインを見せてもらうと、しっかりとフェウス言語で名前が書かれていた。


 そしてこちらも総司令官であるクレイグと副司令官のクラーダがサインし終わると、双方にそれぞれの書類が渡され、ここに停戦協定が締結した。







 またこの時が、獣王国の名前が歴史に現れた瞬間だった。

【お知らせ】

カクヨムにて先行投稿をしております。もし先に読みたいという方はあらすじの部分にURLを張り付けていますのでそちらかぜひどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ