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進んでいく事態

 レティアが最後のピースになったことにより、あとは事を起こすだけとなった。だが今すぐに事は起こすことはできない。綺麗にすべてを終わらせるには最適なタイミングで順次よく事態を転がさないと意味がなかった。


 そのためここ数日間は全てを情報収集につぎ込み事態を見守るしかなかった。






 そしてまず最初に事態が動いたのはグロウス王国関係だった。







 レティアを駒に仕立てた二日後。昼間の宿にて通信機が反応する。


「だれだ?」

『バアル様ですか?ルドル・セラ・アヴェンツです』


 通話の先にいるのは近衛騎士団の№2であるルドルだった。


「どうした?」

『先ほどノストニアから派遣された軍がキビルクスに到着しました』

「なぜそれを、いや、グラスから派遣された近衛騎士団にお前がいても不思議じゃないか」


 近衛騎士団は例の魔具の運送に携わっており、またその護衛も兼ねている。その中にルドルがいても何も不思議ではない。


『そして三日後にはクメニギス魔法国に越境する予定です』

「予定よりも早いな」

『どうやらリチャード様が骨を折ってくれたみたいですよ』

「父上が?」


 脳裏にのほほんとした父上が浮かび上がる。


『バアル様は知らないと思いますが、あの方も公爵の地位を得た者です。優秀さはその地位が物語っていますよ』


 ルドルの言葉で周囲から父上への評価がかなり高いように見受けられる。一応仕事はできるのはわかっているのだが、家ではあのだらけようなのでそういった風には全然見えない。


『それと我々はクメルスによることなくクメニギス南部を通過し、そのままルンベルト地方へと目指します。予定では10日後にルンベルト地方に赴くことが出来るとのことです』

(………なるほどエレイーラが手をまわしたのか)


 通常、軍というのは大きくなればなるほど鈍足になる。数人での旅行と違い、万近い軍隊だと、全員分の料理を準備をするだけでかなりの時間がとられる。今回、下手すれば一か月はかかると踏んでいたが、どうやらエレイーラの助力により、スムーズに事が運びそうだった。


『今後は私に繋いでもらえればゼブルス軍の総司令とやり取りができるようなります』

「それは助かる」


 一応代案としてはリンたちをそちらに合流させて、やり取りをしようと思ってはいた。だがそうなるとどうやって連絡したのかという疑問が浮き彫りになってしまう。最悪はリンに密会する場を設けてもらい総司令に事情を説明する気ではいたのだが、ルドルがうまく誘導できるならいくらでもやりようはあった。


「それと確認だが、ノストニアとの衝突はありそうか?」

『いえ、ひとまずはありません。ただ一部のエルフはあまり協力的ではないです。もちろん間に人族に友好的なエルフが入っていますので表向きには安定していますが』


 アルムから軍を派遣してもらったが、些細なことで拗れることは避けたかった。


「ではルドル、お前はそのまま予定しているルートを通りルンベルト地方を目指せ」

『了解いたしました』


 その後、通信は切られる。


 こうしてゼブルス家とノストニアの混合軍は順調にルンベルト地方へと進むこととなった。
















 そしてまた二日後に事態が動いたのがアルムだった。


『僕が手配した部隊だけど、あと明日にはそっちに着く予定らしいよ』


 軍隊とは別に手配してもらった、エルフたちが明日には到着予定とのこと。


「意外に早いな」

『まぁね、数にして20人。しかも速度で厳選したからね』


 いくらエルフとはいえ、人目につかないように移動しているため、通常よりも時間は掛かってしまう。


「早いことに越したことはないか………それで合流の手はずだが―――」


 それから明日エルフたちと合流する手はずをアルムと整える。


「じゃあ、よろしく頼む」

『わかった、君のプランが無事に行くことを祈っているよ』


 ディゲシュラムに向かっているエルフの部隊の動向と、合流方法などのすり合わせが終わると通信は終了となる。


(………向こうの情報も確認しておくか)


 アルムとの通信が終われば今度はとある人物の安否を確認しに行く。


















 キィィィ


「……だれですか?」

「一応は無事なようだな」


 ロキを起動し、その日の夜にレティアの部屋に訪れるのだが、どうやら無事だったらしい。


「で、呼び出されなかったのか?」


 現在は夜の真っただ中、聞いていた通りならレティアはこの部屋にはいないと思っていた。だがレティアは椅子に座りながらほんの少しだけ開いている窓から月を見ていた。


「はい、今日はエトナだけが呼び出されようです」


 どうやら今晩にレティアが殺される心配はないらしい。


「ならばいい」

「あの………一つ教えてください」


 安否は確認できたので部屋を出ようとするのだが、レティアに呼び止められる。


「エトナを………妹を一緒に連れていくことはできませんか?」

「へぇ~」


 以前罵詈雑言を浴びせられたというのにこの言葉が出てくることに驚く。


「あいつをか?」

「はい………もう、私に残ってる最後の家族なのです」


 どこまで関係がこじれても肉親の情が残っているのだろう。そしてその感覚は俺も理解できていた。


 だがそれでも


(エトナは現状に満足している。たとえ伯爵に殺される可能性を出しても彼女の性格なら自分なら捨てられない自信があると思っていそうだ)


 だがこの場でレティアの言葉を完全に断ることはできない。なにせ拒否して、俺との協力を反故にされてはご破算となる。


「(もう時間がないというのに)………お前を助ける際にお前の妹エトナも助ける、これでいいか?」

「嘘じゃないですよね?」


 レティアはしっかりとこっちを見返す。


「ああ、ただしそいつが自らこの場に残ると言い出さなければという話だ」


 無理に連れて行っても、喚き散らすだけならいらない。だがレティアはその答えでは満足しなかった。


「お願いです、こんな危険な場所に妹を置いておけません。どうか、どうか」


 椅子から立ち上がり、鉄格子の目の前まで来ると深く頭を下げる。そんなレティアを見て、少し考える。


「お前にとってそいつはそんなに大事か?」

「はい、家族ですから」


 迷いなくはっきりとレティアは言い切る。そして同時に方向性は決まった。


「わかった。お前を助けると同時に妹も助けてやる」

「ありがとうございます」


 再び深く頭を下げて、礼を言うレティア。


「代わりにこっちのいうことにはしっかりと従ってもらうぞ」

「はい」


 レティアは以前のように暗い雰囲気にはなっていなかった。


 そしてこちらもただの善意でレティアの妹を助けるわけではない。エトナはレティアを嫌っていても、レティアはエトナを嫌ってはいない。なら十分に人質として使うことは可能があった。


「助言だが、明るい雰囲気を出すな」

「わかっています」


 違和感を持たれないようにしろとレティアに釘を刺すと、この部屋を去る。











ロキを安全な場所に置くと端末を取り外す。


(ふぅ~これで明日になればエルフ達と合流できるな)


 この先でしかるべき手順でレティアを救出することによって、ようやく思い描いた絵に近づくことが出来る。


 ほかにもノートパソコンを開けば、現在のゼブルス家の軍がどこにあるかが表示されている。


 もちろん軍隊の居場所を示しているのは魔道具のおかげだった。


(軍用に冷蔵庫の大型馬車を作っておいて正解だな)


 軍には当然大量の食糧が必要になる。通常は日持ちができる食料を多く持ち運ぶのだが、それでも嗜好品となると保存がきかないものが多くなる。軍に必要ないと言われればそれまでだが、士気を保つ面では役立つためゼブルス軍では少ないが保存しやすい馬車型冷蔵庫を開発していた。また生ものを運ぶ面でも役立つため現地調達し、肉を保存するということも方法も出来る部分も決め手となっていた。


「それと」


 再び通信機を手にする。そして通信先を変えて発信する。


『!?ご無事ですか!バアル様!!』


 通信機の先で驚いた声が聞こえる。


「落ち着け、リン(・・)そっちは問題な」

『落ち着いていられますか。何をしてるかわかりませんでしたが、こちらはずっと心配していたのですよ?一か月も音沙汰もなくどれだけ心配したと思っているのですか』


 それからも説教のような小言を数分間聞かされることになった。


「わかったから落ち着け。それよりも確認したいことがある」

『なんですか?』

「エレイーラはクメルスに戻っているのか?」

『クメニギスの第一王女ですね。確かに少し前にクメルスに戻ったと噂になっていました。なんでもルンベルト地方でフィルクが一時後退していったのには彼女が関係していると』


 リンの言葉で無事にリーティーをルンベルト地方に送り届け終わったのが確認できた。


『なんでしたらロザミアに確認してみましょうか?おそらくは明日には連絡が付きますが?』

「ああ、そうしてくれ」


 エレイーラの存在は必須ではないが、連絡が取れたら楽に進むと思いリンにエレイーラの事を調べてもらう。


『わかりました………バアル様、無事に御帰還なさいますようにお願いします』

「わかっている死ぬつもりはない」

『その言葉を聞いて安心しました。それでは』


 その言葉を最後に通信が切られる。

















 翌朝、空が明らむ頃にロキを起動させて、アルムと打ち合わせたした場所に向かう。


(朝日が昇る前にディゲシュラムから北東に位置する森の中に廃墟となった村でと指示はしたが………)


 この廃村だが街道から離れていた場所にあった。そのため物資の流れが悪い。また少し行ったところに大きな街道が作られたのも廃村となった理由だろう。そんな廃村だが中継器を設置するのには最適な場所だったため、記憶に残っていた。また廃村となったのはかなり前らしく、道であろう場所はすでに緑が生い茂り、不用意にこの廃村へ進むのはためらわせていたのも選んだ利点だった。


 そんな廃村の中を様々なセンサーを活用しながら進み、人がいないかを確認する。


(一応は人影なし、エルフたちもついていないが、盗聴される恐れもないか)


 事前にエルフたちがついていた場合、それがエルフたちの部隊なのか、それ以外の人物なのかをつぃかめる必要があった。その手間が省けたともいえる。


 それから廃村の中心部にて、エルフの到着を待っていると、サーモグラフィーに反応があった。


(魔物……ではなさそうだな)


 サーモグラフィーのカメラにはこちらに向かっている10を超える数の集団が映っていた。


(あれだな)


 遠望カメラで詳細を見てみると、迷彩服らしいローブを被った集団がこちらに向かっているのが見て取れた。そしてローブの隙間から見える耳は長くとがっておりエルフの特徴を持っていた。


 そんな彼らを見ていると少々気になる点が出てきたので試すことにした。













 廃村の中心にてエルフの様子を観察していると、20人は一度別れ、廃村の周囲を固める。


(廃村の周囲に誰かいないかの確認か)


 さすがに合流地点ともなれば警戒もするのだろう。


 そして十分な調べがついたと判断すると、一人のローブがまっすぐこちらに向かってやってくる。


「おい、お前がそうなのか?」


 はたから見れば完全に何もない場所にしゃべりかけているのだが、どうやらエルフにはしっかりとこちらを見ることが出来ているらしい。


「その通りだ」


 光学迷彩を解き、姿を現すと目の前のエルフは驚きもしなかった。


「お前たちはノストニアから送られてきた部隊であっているか?」

「ああ、お前も例の人族の回し者か?」

「そんなところだ」


 肯定したのにあちらは警戒を解かない。そしてそれを理解してか共に言葉を発する。


「4」

「イピリア」


 こちらは数字を言葉に出し、向こうはイピリアの名を出す。これは事前にアルムと俺との間に作っていた符号だ。


 お互いに符号を持ち出したことでようやくあちらも警戒が薄れる。


「もう少し早く警戒を解いてほしかったな」

「お前が私たちを試すのが悪い」


 そういうと目の前のエルフはローブを外す。そして現れたのは金色の髪をまっすぐに伸ばした若い?女性のエルフだった。


「私はフィクエア。今回の部隊の隊長だ」

「俺はロキ、短い間だがよろしく頼む」


 フィクエアが手を差し伸べるのでこちらも応じるように手を伸ばし握手する。そして俺が目的の人物だと知ったからか、周囲にいたエルフたちが続々と集まってくる。


「それで、ロキ、お前は私たちに何をしてほしい?」


 フィクエアは早速とばかりにこれからの話に移る。


「それはな―――」

【お知らせ】

カクヨムにて先行投稿をしております。もし先に読みたいという方はあらすじの部分にURLを張り付けていますのでそちらかぜひどうぞ。

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