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下種の行い

 ディゲシュラムを一通り回り終わった後、門の上に登り、全体を一望する。もちろん衛兵に見つからないように光学迷彩を使ったうえでだ


(しかし、奴隷の数が膨大だな)


 ディゲシュラムは城を中心に建てられた城郭都市。門の中は普通の住宅地、商店、役場などがそれぞれの地区で配置されている、何の変哲もない都市だ。だがその門を一歩外に出ると、そこからは別世界になる。なにせディゲシュ伯爵領は有名な鉱脈を主な財源としている領地だ。主な職種は鉱物を取る鉱夫、鉱物を加工する鍛冶師、そしてそれを販売したり食料などをほかの領地から運搬する商人だった。ただここで言いたいのは普通の仕事の場合という点だ。町の外には鉱物を収納するための倉庫に加えて、消耗品の様に奴隷を扱う奴隷商のテント、煙で町を汚さないように門の外に建てられてる大規模な家事工房、そして奴隷の寝床用に建てられたとても簡易に作られた特大の宿舎が立ち並んでいた。


 門の中は平和で穏便な風景を見られるが、門の外に出れば人が人を使役する見るに堪えない景色が広がる。


 そして奴隷の数も広大な鉱脈を持つゆえにそれ相応の人数がいた。おそらくは万にはなるだろう。そんな奴隷が宿舎で、家畜の様に飼われている。もちろんそんな宿舎が清潔なはずがない。今は魔導人形のため匂いは感じられないが、生身でこの場所に居れば汚物や生臭い腐敗匂いが漂ってきたことだろう。


(しかし、お目当ての奴隷はこんな場所にいないだろうな)


 例の伯爵は無類の女好き。そしてグロウス王国から奴隷を買う理由もほとんどが色欲が理由だと推察できる。そして同時に自分が使う予定の奴隷をこんな場所で汚すとは思えない。


(それにある程度聞いた話だと、女性をいい扱いはしていないようだしな)


 町を回る際、様々なところで聞き込みをしてみたのだが、住民たちも領主の女癖の悪さは知っているらしい。証拠に伯爵に性奴隷がいなければ町の人たちは年頃の娘を近づけさせないと返答されたぐらいだった。


(しかしそうなると、ことはうまく運びやすいな)


 性格は自信家、それも自分の能力を見誤り、増長しているタイプらしく、誘導しやすい人物だと予想ができていた。


(あとはどう接触するかだが………とりあえずは観察が必要だな)


 現在、空は茜色に染まっており、あと少しで夜が訪れることになる。そいたら女性の奴隷を使うとなるならいい頃合いとなる。


 情事を見ることには気が引けるが、奴隷の居場所を知ることが出来るならそれもやむなしと割り切ることにした。













 ディゲシュラムは城郭都市なだけあって、城を起点として作られている。まずは城があり、その城を囲うように一つの門がある。そしてその門の外側に市民が住むための建物が立ち並び、さらにその建物を守るように門が作られている。そして最後に倉庫や、工房、果ては奴隷たちを住まわせている宿舎が置いてある部分となる。


 先ほどまで調べていたのが城の門の外側のみだった。


 そしてその次に調べるのは城の中になる。その侵入は困難になると予想していたのだが。


(ざるもいいところだろう?)


 篝火で照らされている門の入り口を難なく通ることに成功していた。






 もちろんこれには理由があった。通常クメニギスに建てられている城には侵入者用の結界が敷かれている。ただそれも人の魔力だけで維持できるわけがなく、多くの魔石が必要になる。そして魔石が必要となれば当然のように金がかかることになる。警備面としては重要な役割をしている結界だとしても緊急時でもないのに常時発動するのは経費が掛かりすぎる。そのためディゲシュ伯爵は経費削減のため、門の入り口にはその結界を敷いていなかった。当然発動する場所が減ればかかる魔力も減り、費用も浮くことになる。ちなみに結界を敷くのに時間が掛からないこともこのような対応にしている理由の一つだった。


 なにより、正門から堂々と入ってくるであろう賊などいないという慢心を伯爵が持っていたのが一番の要因だった。








 城の門を通れば後は普通の通路を通り、場内を探索するだけとなった。


 人気の多い場所には光学迷彩を発動した状態ではばれるリスクが付きまとうため、できるだけ回避するつもりだ。何より城内部ということで光学迷彩の解除はまずできない。さらに加えて違法奴隷の居場所に多くの人がいるわけがなく、人気のない場所を重点的に探す必要があるため好都合ではあった。


(しかし、城の内部と言っても、どこにいるのか)


 通路を無作為に進むのでは埒が明かない。ある程度目的を持って動こうとしていると、廊下を早歩きで動いている執事姿の若い男性の姿があった。


(何か起こったようだな)


 うまくいけば手がかりが掴めると思い、その若い執事の後についていく。


 複雑ともいえる通路を何度も右に左に曲がり、たどり着いたのは何やら様々な薬品が置いてある部屋だった。


「先生!!」

「はぁ、わかっている、いつものだろう?」


 若い執事が大声をあげながら備え付けのベッドにて、休んでいた男性に声をかける。そしてその男性はすぐさま返答すると机のすぐ近くにあるバッグを持って、若い執事と共に飛び出していく。










「あ~~これはもう手遅れですな」


 その二人を追ってたどり着いたのが城の最上階近くにある部屋だった。豪華とも悪趣味ともとれる調度品が数多く置いてある部屋の中でひときわ大きな存在感を放っているベッドにて一人の女性が横たわっていた。


「そうかもう使い物にならないか」


 そしてソファにて、部屋に訪れた男性が女性の容態を確認している様子を見ている男性がそう言葉を放つ。軽く様子を見てみるのだが、首にくっきりと手の跡が残っていた。


「伯爵様、失礼ですが、もう少し優しく扱わなければ人間の体は持ちませぬぞ」


 伯爵はバスローブ姿でどれほどの肉付きかを見ることが出来るのだが、グラスにも劣らないほど鍛えられた筋肉を携えており、下手な人間では片手で持ち上げられるだろう。また身長も高く、豊富な茶髪をオールバックにしている。ほかにも面相からして好戦的ななのが見て取れるため、ただ立っているだけで圧を感じさせる人物だ。


 ちなみにバスローブのため見たくもない物が見えていた。


「そうか、お気に入りだったのだがな………まぁいい、早めに処理をしておいてくれ」


 一瞬愁いを置いた表情になるのだが、その後に全く気にした様子はなくなる。程度としてはお気に入りのおもちゃが壊れて悲しいくらいなのだろう。


「わかりました。本日はどうなされますか?」

「興が冷めた。今日はもう寝る」

「かしこまりました」


 伯爵はバスローブの姿のまま部屋の外に出ていく。


 そしてそれを見送った執事たちは亡骸となった女性をシーツで包み、汚物を処理してから、大きな麻袋に入れて運んでいく。


(あれぐらいならやりやすいか)


 姿を隠したまま、死体を運び込む執事たちの後についていく。


「うへぇ~給金はいいけど、こんな仕事はしたくねぇな」

「無駄口叩くな」

「まぁ言いたいことはわかるが、結局は奴隷だ。俺たちの身内がやられるわけではないからいいだろう?」

「だけどな、死体ってなんか触っているとぞわぞわって気味悪い感触がするんだよ」


 執事たちは無駄口をたたきながら通路を進んでいく。そしてその会話の内容からやはりこういったことは何度もあるらしい。


 そんな雑談を聞きながら執事たちの後ろをついていくと、城庭園にまで出ることになった。


(土に埋めているのか?)


 死体処理ということなら別段おかしいことではないが、死体が庭園に埋まっているとなると気分が悪いものではないのかと疑問に思う。


「はぁ~、俺あそこ行きたくないんだよな」

「俺もだよ、だがしかたねぇ」

「ああ、伯爵様のお気に入りだって俺たちにまで命令してきているんだぜ、いやになるよ」


 話の内容から、どうやら埋めるわけではないらしい。証拠に庭園を進むと、倉庫のような場所までたどりつく。


「お前ら、そろそろ入ることになるから、無駄口はやめろ」

「「「了解」」」


 先ほどまで面白くなさそうだった執事たちの表情が変わり、融和な笑みという仮面をかぶり始めた。


 倉庫に入ると、そこには確かに庭園で使う道具が収納されていたのだが、執事たちは何も置いてない部分で止まる。何をするのか疑問に思っていると、一人が壁に手を着く。すると執事たちが止まった少し前方の床板が開き、地下へと続く通路が現れた。


(何ともありきたりだな)


 使い古された手だが、隠すだけなら十分効果がある。


 階段を下り始めた執事たちに後れを取らずに中に入ると、そこは石畳で作られた立派な通路に繋がっていた。明かりはイドラ商会のではない電灯で明るく照らされていた。


(よく手入れがされているな)


 町の外にある奴隷の宿舎とは比べ物にならないほど清潔にされた通路を進んでいくと、今度は石材でできた大きな扉が現れる。執事の一人が懐から鍵を取り出して解錠する。


「気が滅入るよ」

「無駄口は慎め」


 お互い融和な笑みでネガティブな発言をしているので違和感しか難じられない。


 そんな彼らに続いて扉の中に入ると、そこからまたさらに通路が続いていた。そして同じような通路を進んでいくと今度は上へ上がる階段が現れた。


「いいか、悟られるなよ」

「わかっていますって」


 その階段を上がると時代に魔道具の光ではなく、月明かりが差し込んできていた。


(一度外に出るのか?)


 そんな疑問を抱えながら執事たちに続いていくと、T字路に到着する。これ以上進むことはできないが、前にはほんの少しだけあけられた窓に鉄格子がはめられている。左右には通路が広がっており、そこからさらに進むことが出来てる


「こっちだな」


 執事たちはT字路を右に進み始める。右側の壁にはいくつもの扉があり、左側の壁には先ほど見たのと同じような窓が存在していた。


(ここは城門のどこかか)


 どうやらここは城のすぐ周りに立っている門の中らしい。証拠に町を窓から町の外を見下ろすことが出来ていた。


 居場所が確認出来たら先ほどと同じように執事たちに続いて道を進むのだが


「っぅううう」


 右側からうめき声が聞こえる。部屋の扉には中を監視できるようにドアアイのようなものが取り付けられているので中をのぞくと、そこにはベッドで横たわりながら泣いている女性が見えた。

【お知らせ】

カクヨムにて先行投稿をしております。もし先に読みたいという方はあらすじの部分にURLを張り付けていますのでそちらかぜひどうぞ。

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