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軍の手配

 アルムとの通信を終えると、また通信先を変更する。


『ん?おぉバアルか?』


 通信機の先から聞きなれた声が聞こえてくる。


「お久しぶりです、父上(・・)


 通信した先はグロウス王国の四つの公爵家の当主を務めており、俺の父親でもある、リチャード・セラ・ゼブルスだ。


「早速で悪いのですが、今どこにいますか?」

『ん?領地の館でのんびりとしているぞ?』


 通信機の先から本当にのんびりと間延びした声が聞こえてくる。


「ゼブルス公爵家の軍隊、すぐに動かせるように手配をお願いします」

『う゛、ぶっふ!?げほっげほっ』


 ちょうど何かを飲んでいるときに話しかけたようで、かなり大きめにむせている。


『な、なぜそんなことを』

「いえ、少し必要になったので手配してもらうかと思いまして」


 すると唸るような声が通信機から聞こえてくる。


『一応聞くが、それはなぜ?』

「もちろん俺を救出してもらうためですよ」


 要領としてはラインハルトがクメニギスに派遣されたのと同じようなものだ。


「今回は重要な洗脳を解くための魔具を持つため、また安全に保護するためという名目であれば多くの部隊を送り込むことが可能でしょう。また俺を助ける過程で戦争に協力するとなれば規模が多くなったとしても文句は言われません」

『だがな』

「すでにアルムには援軍を要請済みです。数にして最低でも千はくだらないでしょうね」


 アルムには二千と言ったが、エルフはもともと数が少ない。最低の数で言うならその半分がいいところだと予想する。


『ぶっ!?』


 再び噴出した声とさらには何かが床に落ちる音が聞こえた。


『バアル、私の頭上で話を進めるのはやめてくれないか』

「それはすみません。ですが、父上なら強引に動かねば許可は出してくれないでしょう?」


 父上は軍を動かしたがらない。西と東が活発になっている状況なら動かしたくないのはもちろん、もとから平和気質の父上からしてみれば本当に有事の際以外は動かしたくはないと思っている。


「すでにラインハルトの部隊は帰還していますよね?」

『まぁな』


 ラインハルト達の部隊は俺の洗脳を解く魔具を取りに戻るためという名目で前線を離れた。それを実行しなければそれは虚偽の報告をしたと取られるため、ラインハルト達は帰るしかないというわけだ。


「ならまた出撃しなければクメニギスに面目が立ちません。ただここで言いたいのは500では足りないと判断することです」

『バアルが洗脳されているならこちらを攻撃してくる。だがそれで戦闘になってケガさせるのは避けたい。なので人を増やして、早急に保護するわけか』

「それに付け加えて、大切な魔具を運んでいるという名目で警備も厚くできます」


 そうすれば、規模を何倍にしても文句は言われないだろう。


『だが、肝心の魔具はどうする?それを目的に帰還させたのだろう?』

「そこは安心してください。影の騎士団にある魔具を貸し出してもらう予定ですから」


 もちろん本当に洗脳を解く魔具などは必要はない。あくまでそれらしいものがあれば解決する。


(それに人数が多くなれば魔具が偽物だと隠しやすいだろう………………それに確かめなければいけないものがあるからな)


 頭にかすめている一つの疑惑、それを確かめるために必要な道具でもある。


『はぁ~いろいろ手配しているなら仕方ない…………そうだな、第二から第五からどれくらいほしい?』

「正直言えば万を超す数が欲しいですが、移動にかかる費用などを考えて、5000が現実的な数字でしょう」


 軍隊が動くには大量の費用が掛かる。食費に宿泊費、馬の飼料に遠隔地手当、道中に様々なものが壊れるためその修繕費などなど。こういった部分はどうしても金食い虫になる要素が大きい。


『確かに、現実的にはそれぐらいだろう』


 父上もどれくらいの費用が掛かるのかを理解してるため、この数が適切だとわかっている。


『それにしてもこんなに頭数が必要なのかい?』

「ええ、後々の事を考えれば、絶対に」


 長い溜息が通信機の向こうから聞こえてくる。


『手配はするが、そのままルンベルト地方に送ればいいのか?』

「いえ、クメニギス国内でノストニアの軍と合流させますので、とりあえずは手配だけをお願いします」


 いくらゼブルス家の軍隊とはいえ、無遠慮に他国に踏み入るなんてことはできない。それ相応の手紙を道中の貴族や、グロウス王国の国王、クメニギスの国王に書状を出し、許可を取る必要がある。


「それでは準備の方をお願いいたします」

『ああ、出立する準備がすべて整えばこちらから折り返し連絡する』


 最後にそういい、通信機が切られる。


「今日一日で何か所に連絡していることやら」


 父上に軍の準備をお願いする間、何もしないという選択肢はない。こちらも手をまわしておく必要がある。













 再び通信機の先を変更する。


『誰だ?バアル殿か?』

「よくお分かりになりましたね」

『本来では何もないタイミングで連絡を寄越すのは貴殿だろうからな』


 通信機の先は表向きは近衛騎士団団長、裏では影の騎士団団長も務めているグラス・セラ・シバルツだ。ただ、どうやらグラス殿にはやや扱いにくい人物だと思われているのらしい。


『それで今回は何の用だ?ルナからどんなことをしているかなどの報告は受けているが、バアル殿の動きは全く伝わっていないぞ?』

「それは失礼いたしました」


 一応は謝罪する。


『はぁ、それで今回の要求は?』


 グラスはこちらが現在の動きを話す気配がないのを理解しているのか、先に要求を聞いてくる。


「『審嘘ノ裁像』の貸し出しをお願いします」

『……国宝だと分かった上の要求か?』

「もちろんです。できないとは思えませんが?」


 ノストニアとの国交が始まる前、エルフの嘘を見分けるために派遣してもらったことがある。


『だが、あれは』

「ノストニアとの国交という報酬が見えているからですか?」

『ああ。その魔具を届ける際、壊れるリスクは長い距離と比例する。さすがに蛮国まで運ぶとなると少々渋る判断に傾く』


 だが、その点は安心してもらいたい。


「ご安心を先ほど、父上との間でルンベルト地方に軍を派遣することが決まりました」

『………その軍に例の団員を組み込み、魔具を安全に運送すると?』

「ご不満ですか?」


 それから通信機から声が発せられることはなかった。


『なぜ魔具が必要になるかを教えてもらいたい』

「……獣人の中で裏切り者らしき人物が浮かび上がりました。それを確かめるために必要なのです」


 獣人に裏切り者がいる。グロウス王国が蛮国を植民地にしようとしているタイミングで、獣人側に裏切り者がいるとなると、かなりきな臭い事態となる。それを事前に防止するためと必要だと考えれば。


『なるほど、裏切り者か…………わかった、この近衛騎士団からも人を出す』


グラスは必要と分かれば出し渋る判断をする人物ではなかった。


「こちらとしてはありがたいのですが、よろしいので?」

『ああ、陛下が目をかけている有能な若者、それも魔道具の製作者となれば近衛騎士団を動かす理由となるだろう』

「ありがとうございます。それでは―――」


 無事にグラス近衛騎士団長の協力を取り付けることに成功する。また目的の魔具も貸し出しの手配も要望通りに通ることができた。
















 グラス殿との通話が終わると、父上にグラス殿の協力を取り付けたことを報告する。ちなみに父上の返答は『また、仕事が増えた……』だった。


 父上の仕事にはゼブルス家の軍隊の整え、ルートを決めて、道中の領地を持つ貴族に説明する手紙を作成、その後は物資の確認と道中にどれくらいの補給を行うか、そしてそれに行う際の費用の算出に加えて、向こうについてからの命令書を作成と、ぱっと上げただけでもこれだけやることがる。


 父上が机の上で忙しそうにしているのが予想できる中、一度ベッドに横になり思考をまとめる。


(これでゼブルス家とノストニアのエルフの軍、それに数は100にも満たないだろうが近衛騎士団が魔具の運搬に加わる。もしこれでルンベルト地方に向かえば十分な戦力となるか)


 戦力は最低でも5000、今回の戦場では勢力の一部を担うことができる。


「俺も動かないとな」


『亜空庫』からエレイーラと会う前に回収した魔導人形“ロキ”とそれを操作するための眼鏡型端末を取り出す。


(軍が整うまでに手はずを整えておかないといけないからな)


 レンズにいくつもの白黒の線が映るとベッドに横になっている俺の姿が映る。


 ギシッギシッ


 いくつもの関節を何度も動かし、最終チェックを行う。


(おし、問題のある個所は存在しない。無事に動かすことができるな)


 端末を外し、魔導人形と共に『亜空庫』に仕舞う。そして同時にノートパソコンを取り出す。


『お久しぶりですマスター今回はどうされましたか?』

『現在、クメニギスのどこまで通信圏内が広がったかを教えてほしい』


 パソコンにそう打ち込むと、画面に現在クメニギスに広がっている魔道具の範囲が映し出される。


『現在は東側半分の主要な村や町では自由に使うことが可能です。西側は、北西部分は大きな道につながっている町村では普通に使用することができ、クメニギスの中心地からフロシスまでは一直線に魔道具が設置されていております。また南西側はほとんど魔道具が存在しておりません。そのため南西では通信することはできません』

『そこまでわかれば十分だ』


 地形を頭の中に入れ終えるとノートパソコンをしまう。


「俺も動か」


バン!!


 窓を開け、窓枠に足を掛けいざ行こうと思うと同時に扉が開け放たれた。


「おっじゃましま……何やっているの?」


 こんな気軽に部屋に訪れるのは現在、一人しか心当たりがない。


「レオネ、俺は少し出かけてくる『飛雷身』」

「ちょバア」


 それだけ言い残して空へ向かい、飛んでいく。

【お知らせ】

カクヨムにて先行投稿をしております。もし先に読みたいという方はあらすじの部分にURLを張り付けていますのでそちらかぜひどうぞ。

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