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提起された疑惑

 第一王女と共に行動するようになると、まずはとんぼ返りするように西に向かう。


 そしてたどり着くのが


(また戻ってくるとはな)


 今いるのは以前通った最西にある都市フシロス。ここはフィルクとクメニギスの玄関口なので俺達が再び通るのは必然な場所だった。


(やはり権力者がいると事態が早く進むな)


 門を通る際にはエレイーラの権力を使い、俺達の事は知られずに済んでいる。そして今いるこの宿もエレイーラの顔が効き、顔パスで泊まることができていた。


(唯一の懸念点が、盗聴などだが、エナからは問題ないと言われているし気にしなくてもいいだろう。それに明日になったらすぐにまた動き出すからな)


 この都市に来たのは最後の補給を行うためだった。


 エレイーラの馬車は町に泊まっては馬を変えて、連続で走らせたため、以前確保した馬車よりも早い期間で到着することができていた。この方法なら金額は掛かるが、その分時間は撒けることができる。


「それにある程度は釘を刺せればこの時間も無駄ではないか」


 そして本来ならここも馬だけを変えて即座にフィルクに行くのだと思っていたのだが、一日だけこの都市に泊まることになっていた。理由はエレイーラが軍の一部に面会するためだ。エレイーラがうまく軍の上層部に戦争再開を長引かせるように説得できればその分猶予が生まれることになる。


 もちろん、俺達の事を密告する可能性を考慮して、イピリアをライルではなくエレイーラに付けている。もしエレイーラが裏切れば真っ先に逃げ出す算段も付けている。


「ふぁ~~~」

「毎度のことだが、レオネ、なんで俺のベッドでくつろいでいる?」


 俺達が取った部屋は二つの大部屋。一つは俺達+ライル、もう一つはエレイーラが使用している。


 そして大部屋なため、部屋には5つのベッドが用意されており、全員が一つずつ使える。なのに、なぜだかレオネは俺のベッドに横になっていた。


「いいじゃん、いいじゃん減るもんじゃないし」


 もはや何を言っても無駄だと分かってはいるのだが、癪に障る。


「にしてもこんなゆっくりしていいの~?」


 レオネが今にも眠りそうな声で訊ねてくる。


「問題ない。クメニギスは研究により有効策を得るまでは攻め組むことはないし、獣人も山脈から出てしまえば今度は不利な状況となるため出ることはできない」

「へぇ~フィルクって国は?」

「……おそらくだが、動かないと思うが」


 今回、フィルク聖法国が参戦した理由は高位の聖職者が町の襲撃に巻き込まれたからと聞いている。だがそんな理由だけではフィルクが参戦するのは少々腑に落ちない。


(まぁ、今回の訪問はそこら辺を調べるためでもあるんだがな……)


 仮に向こうの立ち位置に立って考えても、今回の決定的な参戦理由など皆目見当もつかなかった。


 そんなことを考えていると通信機が反応する。


『バアル様ですか?こちらルナです。以前依頼された情報の精査の件なのですが―――』


 通信機からルナの報告が聞こえてくる。そして内容はロザミアの言葉に偽りはなかったとのこと。


「そうか」

『以降の指示なのですが、予定通りフィルクの内情を調べたほうがいいですか?』


 確かに以前そう言った話をしていたが今はやや状況が変わっていた。


「いや、予定を変更だ。主だった動きはすべてこちらで行う。お前たちはクメニギスの裏に付いての情報を集めろ。それも違法奴隷を重点的にだ」


 この情報は来る時のための布石だ。


『え、それだけですか?』

「ああ、それだけだ」

『そうですか、わかりました。クメニギスに何か動きがあった際にはすぐに連絡いたします。それではご武運を』


 そう言うと通話が着られる。


「ご武運、か」


 ルナの最後の言葉を思い出し、窓の外の光景を見る。


(神光教、か)


 眼前に広がる大通りでは多くの白いローブを着た、神光教の信徒が列を成して歩いていた。












 夜になれば、エレイーラが宿に戻ってくる。


「さて、明日にはフィルクに向かって進みだすが、準備はいいな?」


 エレイーラが聞いてくるが、既にこちらは何も問題ない。


「ちなみにだが、軍はどうだった?」


 俺はそんな意気込みよりもエレイーラが軍でどんな情報を得たのかが気になっていた。


「特に何もない。造られた駐屯地にどれぐらい物資を送るのか、誰を入れ替えるのかでかなり荒れていたぐらいだ」


 一度に一万を超える死者が出たのだ、当然人事はあわただしくなるのはわかっていた。また食料に関しても、数万を養うとなればかなりの量が移動するため、忙しいのだろう。


「強いて言うのなら、人事で大きく分裂していたね。第七魔法師団長がその椅子を下ろされそうになっていてね、誰がその後釜に座ろうかかなり派手になっていた」


(第七魔法師団………ああ、レシュゲルか)


 俺がエナに去られた際に道中にて情報源となっていた人物だ。


「詳しい背景は聞いたか?」

「どうやら魔法が使えなくなったらしい。師団長ともなれば人脈、知略、実力のすべてを兼ね備えている人物の中でも一握りが座れる椅子だ。魔法が使えなくなったとなればこうなるのも必然だな」


 そう言うとエレイーラは優雅に紅茶を飲み始める。


 そして同時に使えそうな情報もあった。


「師団長としてのレシュゲルの評価は?」

「可もなく不可もなく、なんてことはなく軍内では高く評価を得ている。侯爵家の出にもかかわらず、地位の低い人物にも筋を通し、かなり人望の厚い人物だ。もちろん実力も若手ながら師団長に抜粋されただけのことはある」


 レシュゲルの年齢は20代半ば、そう考えればかなりの有望株なのだろう。そして今がその評価を得ているなら十年もたてば、クメニギスで最も有名な軍人になっていてもおかしくない。


「エレイーラの派閥か?」

「いや、残念ながら北東の侯爵家だ。もし南部に生まれていたら、私が見逃さないのにな」


 エレイーラは心底残念そうに息を吐きだす。


「ちなみに、王族間での人材の引き抜きは可能か?」


 俺の言葉にエレイーラは高揚とした表情でこちらを眺めてくる。人によっては妖艶とも言い表せるほど様になっていた。


「と言うことは君はレシュゲルを引き抜けるのかな?」

「ああ、と言ってもお前たちが人材についての密約をしていないことが条件だが」


 あり得ないとは思うが、一応の確認だ。


「もちろんできるとも。むしろ、私たちは地方を変えるなんてことはできないため、人材の争奪戦と言っていいほどだ」


 エレイーラがそう言う。裏返して言うならば、それぞれの王族の地盤は強固でそこから寝返らせることはできないことを意味していた。


「それで、彼を私のものにするにはどうすればいい?」


 エレイーラはまるでオモチャが待ちきれない子供のような表情をしながら声を掛けてくる。


「レシュゲルが魔法が使えなくなったのは獣人のとある薬を飲まされたからだ。そしてその解毒剤は獣人の奥地深くにある」


 実際はティタの毒だが、馬鹿正直にティタによる仕業などとは言わない。


「へぇ」


 エレイーラが合点がいったように声を上げる。


「なるほど解毒薬があるのか」

「ああ、そしてこれを手に入れる算段が俺にはついている」


 つまりはそれを餌にレシュゲルを引き込むという算段だ。彼は若くして軍の頂点にまで上り詰めた。ここでそれを失うことの大きさと比べれば、エレイーラの派閥に加わることはそれほどおかしい話でもない。


「だが、下手な交渉はするなよ」


 だがこの情報を下手に与えてしまえば、逆に獣人を憎悪する理由を与えてしまう。つまりは彼の持ちうる力をすべて使い、戦争に臨む可能性すらあった。


「彼なら大丈夫だとは思うが、まぁそこらへんは配慮するとしよう」


 満面の笑みを浮かべてエレイーラは気を付けると告げる。こちらとしては獣人との停戦の助力となれば御の字であり、エレイーラからしたら手堅い人材が手に入る。


「それと、一つ聞きたいのだが」

「なんだ?」

「あのライルとかいう男、お前の仲間か?」


 話題の矛先が全く想定されていない部分に飛び、内容を飲み込むまで時間が掛かった。


「いや、成り行き上仕方なくだ」


 ライルを連れている理由、それはエナがライルに利の匂いを見出したからこそだ。


(今のところ利と言えるほどの恩恵は受けていないな…………まさかとは思うが)


 エナがライルに利の匂いがあると嘘を付いた可能性が頭の中で浮かび上がってきた。


「ふぅん、用心深そうな君が知ったばかりの人物を傍に置いている、か」


 エレイーラの言葉の通りだった。


 本来ならあの場で殺していたはずのライルを連れていること、その不自然さを感じさせるには十分な要素だ。


(不安定な価値ならさっさと排除し………………………………???待て、なんで俺はそれをしていない?)


 今更ながら少しだけ違和感を感じる。しっかりとライルの価値を考えればどう考えてもあの場で殺すべきだった。それこそ、あいつらの心証を考える必要なんかは一切ない。損得だけで言えば殺す方が、絶対によかったはずだ。


「どうした?」

「……いや、何でもない」


 少し考え込んでしまい、エレイーラの言葉への返答が遅れる。


「もしよければ、彼は私にくれないか?」

「ライルをか?」


 今度はなぜ、と言う言葉が頭の中を埋め尽くす。はっきり言って、ライルに価値があるとは思えなかったからだ。


「まだ二十代にも関わらず傭兵でBランクまで上り詰めた。その実力は本来ではかなり稀有だからさ」

「そこまで強いとは思えないがな」


 おそらくはライルはラインハルトには手も足も出ないぐらいの弱さだ。わざわざ譲ってくれというほどの人材だとは思えない。


(もしくはライル自身に何かあるのか?)


 どこかの貴族の血筋だと考えれば、少しだけ辻褄が合うが、それでも理由にしては弱い。


「いろいろ考えているようだけど、そこまでの他意はないよ」

「では、何をもってライルを欲しがっているかを教えてくれるか?」


 裏が無いとエレイーラが言うが、それを素直には信じられない。


「大まかには三つ、いや、客観的に見て二つか」

「じゃあ、その二つはなんだ?」


 問いただすとエレイーラは簡単に教えてくれる。


「簡単さ。まず一つは彼の活動範囲を南部に移してもらう。そうすれば、ほんの少しでも戦力を上げることができるだろう?」


 Bランクという上から数えたほうが早い傭兵は南部では稀で、使い道はいくらでもあると言う。


「そして二つ目だけど、これは君たちに預けていればいずれは殺されてしまう気がしてね」


 エレイーラは保護する目的もあると言う。


「俺があいつ(ライル)を殺すと?」

「ああ、間違いなくね」


 エレイーラとしばらくの間視線が絡まる。もちろんそこに色恋なんてものはなく、むしろ猛獣同士が警戒し合うような雰囲気になっていた。


 そしてその問いに絶対に否とは答えられなかった。


「それで三つ目はなんだ?」

「これは完全に趣味になるけど、おそらく時間が経てば彼はいい人材になると思うからさ」


 エレイーラ視点ではライルが大成する器のように感じているらしい。


「くれてやっていいもいいが、いくつかの条件がある」

「もちろん無理のない範囲で聞くよ」


 エレイーラは少しの出費も辞さないという。


「まず、今回獣人との停戦協定が結ばれるまで奴を解放しない」


 当然ながらライルは俺が獣人に協力していたのを知る生き証人だ。簡単には手放さない。もし、手放すとしたら、俺が国元に戻り、エレイーラですらどうすることもできなくなってからだ。


「なるほど」

「次にライル自身にいくらの値を付ける?」


 当然ほしい物があるなら、それなりの対価を受け取る。たとえそれが人材としてもだ。


「私に貸し一つでどうだい?」

「………まぁいいだろう」


 エナの言った利はこれなのかどうかはわからないが、俺からしたら殺すつもりだったのでリサイクルにはちょうどいい。


 その後、エレイーラとの話し合いは穏やかに終了する。


 俺は体を休めて、エレイーラはレシュゲルを引き込むべく動き始める。


 夕食を終えて、夜には自室にてゆっくりとしているが。


(………まさか、だよな)


 他のベッドでゆっくりと寝ているエナとライルを見る。普通に寝息を立てていて、無害そうに見えるのだが、どうも何かが引っ掛かっていた。


 そう考え事をしていると、ベッドが少しだけ揺れる。


「バアル……一緒に寝ちゃダメ?」

「ああ、ダメだ」


 今回はレオネを無理やり引きはがしている。当然一緒に寝るのも断っている。


「ぅぅ、わかった」


 ゆっくりと名残惜しそうにベッドを降りると、自分のベッドに戻っていく。


『なんじゃ、お主は酷いのぅ』


 イピリアがからかうために話しかけてくるが。


(なぁ、イピリアは俺がおかしくなったと思うか?)


 そう問いかけると、困惑した声が聞こえてくる。


『何のことじゃ?まぁ昨日とは少し様子が違うが特段おかしいとは思えんぞ』

(………そうか)


 その後はゆっくりと眠りに落ちるのだが、一つの疑惑が頭から離れることはなかった。

【お知らせ】

最初の投稿から10日間は毎日12時と19時の二話投稿となります。


またカクヨムにて先行投稿をしております。もし先に読みたいという方はあらすじの部分にURLを張り付けていますのでそちらかぜひどうぞ。

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