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教皇の成り方

〔~ソフィア視点~〕


 ガシャン


「少々手狭だが、今は我慢してくれ」


 私たちが連れてこられたのは王城のすぐそばに建てられている憲兵所だった。さらにはまるで罪人が入れられる檻の中に入れられる。檻は完全に個室となっており、外を見ることはできないし会話をすることもできない。


(皆は心配しているかな)


 少々心細くなっているが濡れ衣だと分かればすぐさま解放されるはずなので大人しく待つ。


「ソフィア・テラナラス、聴取の時間だ」


 呼ぶ声と共に扉が開かれる。そのまま看守の後に付いていくと、一つのテーブルが置いてある部屋にたどり着く。


「さて、ご苦労だった」

「はっ!!」


 そしてそのテーブルの反対側には以前見かけたことがある人物が座って待っていた。


「まず、久しぶりだと言っておこう」

「ええ、お久しぶりです。ルドル様」


 二年前、エルフの誘拐事件でお世話になった近衛騎士団の副団長だった。


「それで私たちが捕らえられた理由ですが」

「ああ、公には(・・・)とある殺人事件の容疑者としてだ」

「そう言うということはつまり」


 私の言葉には反応せずにルドル様は言葉を続ける。


「さて、バアル様からの伝言です」



『約束を果たしてもらう時が来た』



 ルドル副団長からの言葉が何を指しているのか理解できた。


「承知しましたとバアル様にお伝えください」


 皆を守ってもらうための契約だ。私としても反故するつもりはなかった。


「それで何に対して対処すればよろしいのですか?」


 私は気軽に聞いたが、それ自体が間違いだった。


「この度の蛮国との戦争からフィルク聖法国を離脱させろ、と」

「…………え?」


 ルドル様から放たれた言葉を、うまく飲み込むことができなかった。


「おや、聞き取れませんでしたか?ではもう一度言います。この度の」

「あ、いえ、内容はわかりました。ですが……」

「できるとお思いですか?、と思っていますね」


 ルドル様の言葉通りだった。


「残念ながら私たちには、そんな手段を考え付くことはできません。なぜなら私共は秘密裏にバアル様の言葉を伝える事だけで、貴方がどのような存在かは教えられておりませんので」


 どうやらバアル様は私の正体を明かさずに近衛騎士団を使っているご様子。


「あの、できれば一度バアル様とお話がしたいのですが?」


 ほとんどの事態なら私が動くことで沈静できると考えていたのだが、戦争を止めろとなると少々規模が大きすぎる。


「できません。現在バアル様は蛮国の捕虜として捕らえられているそうです」

「え?」


 次に告げれた言葉に再び思考が止まる。


「経緯については後で話します。そしてあなたが起こす行動はどうにかして、フィルク聖法国を蛮国との戦争から離脱させることです」

「………一つ質問です」


 驚きをいったん頭の隅に追いやり、思考をまとめる。


「まずバアル様が蛮国に攫われているのですよね?」

「はい」

「ですが、私に出された命令は救出のための援軍ではなく、その逆ですよね?」

「その通りです」

「なぜですか?クメニギス魔法国とフィルク聖法国に要請を出してバアル様を保護してもらえばいいのでは?」

「できません」


 私の母国とクメニギスが協力してバアル様を救出しようとすればいいと思ったが、ルドル様はそれが不可能だと言う。


「理由は二つ。まずバアル・セラ・ゼブルスが蛮国の捕虜になっている時点で絶対に殺害されないようにするためです。おそらくですが彼らはバアル様に何らかの用があり、そのために無事に生かされているのでしょう」

「その、何らかの用途にバアル様が使えないとなると救出隊を出してもどうなるかがわからないからですか」

「その通りです」


 ルドル様の言葉を頭で噛みしめると、その意味がよく理解できる。それに先ほど私が言った援軍と言っても結局は侵略のために使われると考えれば不用意の発言でした。


「そして二つ目に、フィルク聖法国とクメニギス魔法国がバアル・セラ・ゼブルスの価値を知っているならば、下手したらその二か国に保護される方が危険な可能性がある」

「そ、のような、ことは」


 思わず途切れ途切れになった言葉がその可能性があることを知らずに理解させられた。


「もう一度バアル様の言伝(・・)をお教えします。この度の蛮国との戦争からフィルク聖法国を離脱させろ、ですよ」

「ですがどうやっ……………あれ?」


 ルドル様の言葉を聞いて、一つ致命的な疑問点が出てきた。


「なぜ、バアル様の言伝を?」


 バアル様は中等部二年に入る前に既にマナレイ学院に留学に行っている。そして留学先で蛮国に連れ去られ、今は捕虜となっている身。それなのにルドル様は言伝(・・)と言った。


「さて、バアル様のお言葉をお伝えしましたので、この度の聴取は終了です」

「まっ、待ってください。ルドル様はバアル様と連絡が取れているのですね?」


 ルドル様は答えることなく。立ち上がり扉へと向かう。


「ああ、そう言えば、今ゼブルス卿は王都にいるのですね?」

「は!その通りでございます」


 ルドル様は私に視線を合わせながら傍にいる近衛兵にそのことを確かめる。これの示す意図は会いに行けと言うことに他ならない。


「それでは、ソフィア・テラナラス。牢屋にお戻りください」


 私は憲兵に牢屋に戻されて、翌朝には言葉通り釈放された。



 そしてその足でゼブルス公爵に面会し、










 もう二度とグロウス学園に戻ることはなかった。














〔~バアル視点~〕


 クメニギスのとある小さな村にて影の騎士団とリン、アルムに連絡した後、二日が経つ頃。


『久しぶりだな、バアル』

「父上もご健勝のようで何より」


 昼過ぎに自室に手それ俺の動きを把握していると父上から連絡があった。当然ながら父上にも通信機を渡しているので、向こうから掛けることも可能である。


「それで要件は?」

『………泣いちゃうぞ?』


 父上は俺の冷めた対応に傷ついている様子。


『息子を心配しない親がいると思うか?と言うよりも無事なら真っ先に連絡してほしいのだが』

「父上、今俺は大事な動きをしているのです。それもかなりギリギリのです。俺が戦争の最中に置かれているのに父上や母上が心配しなかったら誰しもが誤報を疑うでしょう」


 今クメニギスに無事だと言うことは知られたくない経緯を説明する。その中にはゼブルス家、ひいてはグロウス王家に多大に貢献していることも教える。


『ほぅ、なるほど。それなら納得だ。だがやはり連絡はしてほしかったぞ』

「心配してくれたことは感謝します」


 冷えた反応とはいえ、心配してくれたことは感謝する。


『それよりもバアルにお客が来ているぞ』

「ソフィアですか?」

『ん?知っていたのか?』


 今俺への客人と言ったらソフィアしかいない。イドラ商会は俺がいなくなれば父上に裁量を任せる手筈となっているし、貴族関係ではまず父上への客人はいても俺への客人は手紙を介してない限ります来ない。となれば後は事前に俺が呼び出していた連中しかいない。そしてそれが最も当てはまるのは件の人物ソフィアしかいなかった。


『どうする?通信機の事を話すか?』

「お願いします。どちらにせよ、手紙でのやり取りなど不可能ですし、これしかないとでも言っておけば納得はするでしょう」

『わかった』


 それからは通信機からは軽い足音と扉の開く音しか聞こえなくなった。


 コンコン


『どうぞ』



 通話機から聞こえる声は父上の物ではなく年若い女性ものだった。



『待たせて悪いな』

『いえ、急に押しかけたのにもかかわらずお時間をいただき感謝いたします』



 どうやら父上はソフィアのいる応接室に入ったようだ。


『なに、君はバアルのために動いてくれるのだろう?ならこれぐらいの手間はわけがないさ』


 一度父上が咳払いをすると。


『さて、バアル、私はここにいたほうがいいかな?』

「そうですね……手間を取らせますが、最初はソフィアとだけ会話させてもらえますか」

『よかろう』


 足と音共に扉が閉まる音が聞こえる。


『えっと、聞こえていますか?』

「ああ、今部屋には一人か?」

『はい、一人です』


 本来なら盗聴されているかどうかまで調べてもらいたいのだが、一応父上はゼブルス邸にも暗部を配置しているので可能性は薄いと判断する。


「さて、ルドルに伝言をしたがきちんと伝わったか?」

『はい、フィルク聖法国の戦争離脱ですね』

「その通りだ。そしてまどろっこしいことは抜きにして聞くぞ、お前はそれを行えるか?」


 一番聞きたいところはこの部分だ。


『正直なところ、難しいと思います。もしこれが教皇のお決めになったことなら私にも』

「フィルク聖法国にて特別な扱いを受ける聖女(・・)にもできないと?」


 以前アルムにも話したが、フィルク聖法国は教皇を頂点に置く神権国家。そして階級は聖職位がそのまま当てはまるため、貴族と言った部類の立場は存在していない。だが時間が経つと当然ながら教皇という立場にも入れ替わりが生じる。もちろんこれが元首がいる国家であれば一族にその位を渡すのは普通だが、聖法国は違う。全員が平等を掲げているため、生まれ自体で区別することはまずない。そうなれば聖職位には努力と才覚さえあれば誰であってもなり上げれる制度となっている。もちろん教皇にもだ。だがやはり国が平等を掲げても、生まれた環境がすべて同じとは限らない。教皇や枢機卿の子であれば持ち前の財力や権力を駆使して、子供を他者の子よりも優秀に教育していく。となれば当然差別化が行われてしまうため、そのままではいけない。


 それゆえにフィルク聖法国は特殊な者、聖人(・・)だけが教皇に成れるという制度を設けていた。


聖女(・・)にもできることとできないこともあります』

「はは、ソフィア、お前は自分がどんな立場にいるか理解していないのか?」


 先ほども述べたが聖人にしかなれないなら当然、金や権力を使い、聖人に成ろうとする連中が出てくるだろう。だがそれでは状況は結局変わっていない。だからそういった判断基準ではない部分で聖人を選定しなければいけない、そしてその役目を持つのが聖女(・・)である。


『私は幸運にも選ばれただけです』


 聖女は教皇がその位に付いたときから五年間までに生まれた女児から無作為に三人が選ばれる。幸運にもソフィアはそれに当選していたわけだ。


「それでも使える力であることに変わりはない」

『いえ、何もできません。私ができるのは聖人となる御方を見つける事だけ』


 そうソフィアの言葉にもあったが聖人は聖女自身がふさわしいと思った人物を推挙することで得られる称号だ。


 もっとわかりやすく言い換えれば聖女は、次期教皇候補を生み出すことができる人物だと言うことになる。もちろん聖人に選ばれただけでは意味がない。助祭以上の聖職位を持つ人物全員で選挙を行い、最も票が多い聖人が次期教皇の地位をつかみ取ることができる。


「いや、それだけなら何もわかっていない。国に三人、それも次期教皇の椅子に座れる候補者を選べる立場であるならば、否応でも政治にかかわってくる」


 ソフィアを言い換えれば、現在のエルドやイグニアの立ち位置に近い。いや、むしろもっとひどいだろう。なにせエルドやイグニアのように直接椅子に座らせて、支援者が利益を貰うわけではない。ソフィアをうまく取り込めば、当然ながら国の最高権力者という椅子がすぐ目の前にある状態を意味する。そこに自分や子や孫を座らせたい人物はどれほどいるだろうことか。


「お前は全く政治に無関心というわけではないな?」

『もちろんです』


 グロウス学園では主に政治についてを学んでいるという。聖女と言う立ち位置にいるなら当然の事と言える。


「一つ聞くが、お前はフィルク聖法国の上層部に付いては理解しているか?」

『はい、ですが』

「ああ、もちろん喋れない部分は喋らなくていい。教えてほしいのはフィルク聖法国では、今どのような派閥があり、そしてそのどこの派閥が戦争に加担しているのかという点だけだ」


 教皇に成れる椅子が三つもあるなら、当然ながらそこで派閥が分かれているはず。


『でしたら、まずは―――』

【お知らせ】

最初の投稿から10日間は毎日12時と19時の二話投稿となります。


またカクヨムにて先行投稿をしております。もし先に読みたいという方はあらすじの部分にURLを張り付けていますのでそちらかぜひどうぞ。

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