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タイムリミット

 アシラに指示を出し終えると、また全体を監視できる位置に戻る。


「おっかえり~」


 レオネの声は戦争の最中とは思えないほど明るかった。


「……もうピリピリとやらはないのか?」

「ばっちし」


 レオネはそう明るく言うが、初めて戦地に赴いたからか、おれは少し気分が悪い。


「いんやね、バアルがお兄ぃに指示を出しに行ったことでさ、ピリピリが無くなったんだよ」

「俺にはわからない感覚だな」


 レオネの横に腰を下ろし、戦場を見る。




「「「「「「「オォォオーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」

「「「「「「「ガァアアーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」






 戦場ではちょうどアシラとフィルク聖法国が激突するところだった。


「壁としての機能は十分、あとはどれほど粘れるかだが」


 アシラが一人の聖騎士と戦い始める。その際に聖騎士団は『獣化解除ビーステッドディスペル』を使用する様子はなかった。


(“封魔結晶”を使ったわけじゃないのに、『獣化解除ビーステッドディスペル』を使っていない?………フィルクには貸し出していないのか、それとも使っても無意味だと思っているのか、どちらにしろまだ温存できているのは良好だ。けど)

「やっぱり足りないね」


 アシラの場所は精々が1000ほど、それに対して救援に向かってきたフィルクの軍勢はその五倍は差がある。


(いくら接近戦に強いと言っても、けがをしないわけじゃない)


 証拠にアシラの部隊の何名かが同じ戦士の肩を借りて下がっている。


 いくら獣人が【獣化】という強力な武器を持っていても、それは魔力あるのが前提だ。当然魔力が底を積めばただの接近戦が強い人でしかない。


「それに、フィルクは」

「え?あれ本当?」


 俺とレオネはフィルクの部隊内の出来事が見えている。


 大けがをした聖騎士を一か所に集めて、それを取り囲むようにさらに聖騎士が守りを固めている。次の瞬間、聖騎士は自身の怪我に手を添えて何かの魔法を発動する。淡い光が怪我した個所を包み込むとけがは一切なくなっており、すぐさま戦線に復帰している。


(そう、フィルクの恐ろしさは戦線復帰の速度だ)


 このように聖騎士は怪我してもすぐさま回復してしまう。それも即死、もしくは致命傷でなければ、少しの間戦線を下がり、数分で回復し復帰できてしまう。さらには防御の訓練もかなり訓練しているようで厄介さは相当なもの。


 現にアシラ達とぶつかっても命を落としたものは片手で数えられるほどだろう。


「文字通りのゾンビアタックだな」

「アシラ、イラついているね」


 ただでさえ数が少なく、囲まれているのに、何とか倒したと思ったらすぐさま前線に復帰する。フラストレーションがどれほど貯まることか。


 ピクピク


「バアル、四十本目壊したって」

「よしっ!!」


“封魔結晶”を奮発しただけのことはあり、情報通りなら八割の魔法杖を壊すことができた。


 だが同時にタイムリミットが訪れる。


「「「「「「「「「ぐぁぁがぁ!!!」」」」」」」」」


 突如、獣人側から叫び声が上がる。


「ッチ時間切れか」


 クメニギス最前線で次々に【獣化】が解けている。


「レオネ撤退の合図を」

「了解」


 レオネは声帯を変化させて大きな咆哮を上げて合図を伝える。


 獣人はその咆哮を聞くと即座に動きを変え、少し前までクメニギスに殺気を放っていたのに今は近くにいる同胞に肩を貸して撤退をしている。


 だがそんな中、一つの集団が撤退できずにいた。


「っ何している」

「まずいね、さすがのアシラでもあれが続けば死んじゃうね~」


 唯一、フィルクの足止めに向かわしたアシラの部隊が撤退できずにいた。


「何やっている、さっさと“封魔結晶”を使え」


 時間切れになった今、すでに『獣化解除ビーステッドディスペル』は発動できてしまう。先ほどまでは【獣化】した状態だったことに加えて、相手の魔法を封じていたことによりクメニギスの軍を容易に突破できていた。だがそれができなくなった今、フィルクを振り切ることもクメニギスの軍を再び突破する力も持てなくなっている。


 そういう時のためにも“封魔結晶”を与えていたのだが、なぜだかアシラは使っていない。


「ッチ」


(俺が直接救援に向かうか?いや、それだと撤退する際に援護できなくなる。撤退する際はさすがに援護なしでは被害が多すぎる、なにせクメニギスは魔法が発達している国、魔法を発動させないように牽制せねばどこまでも被害が広がるだろう)


 軍の速度としては速い速度で撤退する獣人達に追いつくには馬と言った手段が必要となる。向こうも先日に遠距離攻撃を見せたため、その対策をしたうえで追撃を行うだろう。


(どうする。撤退の援護をしアシラを見捨てるか?それとも援護をせずにアシラの援護に向かうか?……………)

「バアル」

「なんだ、今はいろいろと考えて」

「たぶんアシラに援護はいらない」

「………見捨てるのか?」


 獣人らしくない判断をしているレオネに驚く。


「ううん、というかこっから先は変に干渉しないほうがいいかもね」

「なんでだ?」

「ほら、あれ」


 レオネが指し示す先では、レオン達が撤退している中、四つの影が軍に向かっていく。


「バアル、父さまたちが動くなら何も心配ないよ、むしろ、ごめんね」

「なんで謝る?」


 レオネの謝罪の意味が解らない。アレがバロン達だとしても援護が必要な事には変わりがないはずだ。


「まぁ見てればわかるよ」


 レオネはもう終わったと気を抜き、バロン達のことを見ている。


「あれが、私たちの力の果てだよ」


 レオネの言葉には憧憬の感情がこもっていた。


















「おい、テンゴ、どっちが多く殺せるか勝負しようぜ!!」

「いいぜ、久しぶりに勝負するか!!!」


 撤退している最中、立った四人で人族の軍に突っ込んでいるというのに、バロンは嬉しそうに笑顔になり、特大の咆哮を轟かせる。


「バロン、テンゴ、あたしとテトはアシラを助けに行くからな」

「ああ、ある程度蹴散らしたらすぐに援護に」

「いらん」

「そうそう、あたしらを甘くみんなよ、バロンとあんたは暴れな、その間にあたしらがしりぬぐいしてやるから」


 軽く話をしながら移動していると人族の声が聞こえる場所まで近づいた。


「******!!」

「*****!」

「**********!!」


 人族が笑いながら杖をこちらに向けられ、数多の魔法が放たれる。


 だが


「そんなもんで俺たちがどうにかなると思ってんのか!!!!」


 色とりどりの魔法の中をバロンは突き進む。
















「隊長!」

「はっはは!全体魔法用意!!絶好の的だ総員外すなよ!」

「はい!」


 クメニギスの側ではバロン達など取るに足らない存在だと認識している。


 先ほどまでは軍の主軸である魔法を封じられていたのだが、今はすでに解かれている。戦友が殺された憎しみや自分への憤りで彼らはすでに弱気ではない。


 さらには接近してきてしまえば『獣化解除ビーステッドディスペル』で【獣化】を無効化してしまうのだから。


 自身を鼓舞し、仇を取らんと腕を振るう。


「用意できました!!」

「よし、放て!」

「フィルクに後れを取るなよ魔法を放て!!!」


 いくつもの魔法が互いを消し去らないように放たれ、標的に向かって飛んでいく。


「死ね」


 魔法は数発が近くに着弾したせいで土煙を上げる。ほかにも次々と魔法は土煙の中に消えていき、爆発音が聞こえてくる。


「……やりましたかね?」

「さぁな、仮に無事でも何も問題ないだろう」


 一人の兵士のつぶやきに隊長は手に持っている杖に触れながら、何も問題ないと答える。


「!?何か来ます!!」


 一人の兵士がそういうと全員が再び杖を構える。


 そして土煙から飛び出てきたのは四体の獣たち。


「ガァアアアアアアアア」

「ひっ!?」

「うろたえるな、『獣化解除ビーステッドディスペル』を発動させる、それに合わせて各々魔法を放て!」


 隊長はすぐさま魔法杖に魔力を込めると、『獣化解除ビーステッドディスペル』が発動される。


 だが


「な!?発動していないだと!?」

「隊長!?」

「……うろたえるな!!確かに『獣化解除ビーステッドディスペル』は発動しているが、それを意味を成していない。だがただそれだけだ、たった数人など我らの魔法の前に無力だ!!」


 隊長は部隊を鼓舞し戦闘に意欲を向けさせる。


 だが彼らは知らなかった地を駆け抜けているこの獣は他とは一線を画す存在だということを。





















 さすがのバロン達でも軍団に立ち向かうのは無謀だと思ったが。


「…………本当に大丈夫なのか?」


 魔法により舞い上げられた土煙から現れたのは四体の獣。


 漆黒の体を持ち、全身からひび割れるように赤い線が描かれている大獅子。


 金色の毛並みと黒い毛を持ち、口からはみ出ている剱のような鋭い牙を持つ虎。


 黒鉄の鎧のような毛に、異常に発達した腕を持つ大猩々。


 大猩々とは裏腹に手足が長く華奢な容姿をしているが、強者の雰囲気を持つ美しい女性。ただその女性には特徴的な長い尻尾と鉄の長物を持っている。


「あ~~、アシラ大丈夫かな?」

「??どういうことだ?」


 レオネは人族の軍に突撃を掛けているバロンではなく、アシラの方を心配している。


「いやね、父さまたちが本気で暴れるとなるとさ…………やっぱり心配になるね~」


 間にあった沈黙に含まれている感情は呆れに近いものだった。


 レオネがそういい終わるとバロン達が肉薄する瞬間だった。









〔~バロン視点~〕


「あいつらなら知っていると思うが、近づくなと言っておけ」


 わかっていると思うがと付け加えバロンは並走しているテンゴにそう伝える。


「おうよ、獲物は銀色か?」

「ああ、俺が爪を振るうには手前では少々狭いのでな」


 テンゴにそう告げると全身が黒い大獅子に変化し、兵士の合間を抜けて、アシラの向こう側にいる聖騎士に向かっていく。


「ったく、バカ亭主暴れすぎんなよ」

「わかった、息子(アシラ)達のことは任せろ」


 テト、マシラもそのバロンを見送り、アシラの方向へと歩みを向ける。
















 バロンはアシラの集団を飛び越えて銀色の連中の前に躍り出る。


「さて、ひっさしぶりに本気で暴れるか。こんな機会じゃないと俺は動けん」


 バロンは体の内側にある本能を解放する。


「***********!!」(相手は一人だが油断するな!!)


 銀鎧の一人が声を上げる。その声に応じて周囲の銀色が盾を構えて守りの姿勢になる。


「なんだ来ないのか?まぁいいが、けど油断していたらいつの間にか死ぬぜ」


 獣の姿で一歩、また一歩と近づいていくにつれて体の赤い線亀裂が入っていく。亀裂は赤く一見すると血が流れているようにも見え、マグマが流れ出ているようにも見える。


 そしてその効果のほどだが。


「ぐっ!?な、なんだこれ?」

「あづい!あ゛づい!!」

「水!水を!!!!」


 バロンがただ歩き、ただ近づいているだけなのに聖騎士は苦しんでいく。


 ジュワァァァ


 一歩また踏み出すと、できた足跡の場所が溶岩となる。周囲にある草花はすべて枯れ、大地が徐々にひび割れる。


「な、なにが!?」

「ギャアアアア!!!」


 バロンに切りかかろうとした聖騎士たちはその自慢の鎧が、魔力で強化された皮膚が焼け爛れていく。


「はぁ、こんだけで弱音を吐くのかよ」


 バロンは、そういってため息をつくと眼前にいた兵士がうめき声をあげる。吐いた息の余波だけで顔の皮膚が焼かれたのだった。


「これじゃあ弱い者いじめだな、さっさと済ませるか」


 高く跳躍すると聖騎士の中心に向かっていき、そして―――

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