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冷徹公爵の異世界人生~助けてほしいだと?なら見返りは?~  作者: 朝沖 拓内
第一章 こうして転生し盤石な人生を手に入れる
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そして盤石な人生を

「逃がしていいのでござる?」


 俺とリンは屋根の上で三人が逃げていく様子を見ている。


「問題ない。仕込みは済んでいる」


 すでにある仕掛けをしてあるから問題ない。そしてその仕込みにうまく引っかかってくれている。


「…それにしてもどうやってその姿をしているのでござるか?」


 今はマスク男の恰好をしていて、体格は成人男性と同じ、つまりは明らかに別人にしか見えない。


「簡単さ」


 マスクを外すと、そこには顔のパーツがないマネキンがあった。


「これは新しく作ってみた魔導人形の一種だ。今の俺は自室で横になっているよ」


 これの正体は前世の最先端技術で出来上がっている特殊なロボットだ。五感を完璧にフィードバックされる技術を積んでおり、本体同様の動きが可能になっている。


「そう……でもこんなの使うより、バアル様が出れば問題ないのではござらんか?」

「ほんの少しでも危険があるなら俺は出ない方がいいと思わないか」


 万が一にも死ぬ可能性があるならできるだけ避けた方が良い。


「あの者たちバアル様を殺せるとは思えないでござるが……」

「確かに正々堂々なら問題ないだろう、だが奴らはそんな手を取らないだろう?下手したら道ずれにしてでも俺を殺しくかかってくるかもしれん」


 自爆や毒を用いたりだな。


「理解したでござる…でもなぜクビになったと?」

「それは簡単、この人形を使って色々するんだが、俺の紐付きだと知られると厄介なんだからな」


 そうすれば本来は関われない案件でも関われるようになる。


「それよりも準備をするぞ」







〔~???~〕


「―――ということです」

「うむ、ご苦労」


 王城のとある一室で三人は自分の上司に報告を入れている。


「まぁ帰って来てくれてよかった。お前たちは数少ない影の騎士団一員だからな」


 影の騎士団、騎士団と称しているが本性は王家直属の諜報部だ。


「だがお前たちでもゼブルス家の内情はわからないか…」

「ええ、もらっていた情報に違いがありまして」


 三人は何があったかを事細かに話す。


「ふむ、ではその少女と仮面の男に敗れたわけだな?」

「その通りです」

「……少女は探れば多少はわかるだろうが、仮面の男は探りにくいだろうな」


 少女は黒髪であることを探れば問題ないだろうが、ほとんど特徴がないであろうマスクの男に関しては時間がかかるだろう。


 思案していると部屋が騒がしくなる。


「こ、困ります!!!!!」


 困惑した悲鳴と同時に突然、扉が開けられる。


「これはこれはグラス殿(・・・・)お久しぶりです」

「「「っっっっ!!!!!」」」


 扉を開け、現れたのは渦中の人、バアル・セラ・ゼブルス本人だった。


「…………どうしてこのような場所に」

「実は我が屋敷から盗難がありまして、その品を追ってきたらここにたどり着いたわけです」


 三人のうちの一人の顔が引きつる。


「反応はその女性騎士から出ているようですね」

「失礼だが何が盗まれたのだ?」

「鍵ですよ、我が屋敷にある牢屋の鍵です」


 女性はすぐに腰にあるポーチから棒を取り出す。


「それが鍵ですね」


 バアル・セラ・ゼブルスは子供がするとは思えない凶悪な顔をする。


「なぜ王城の騎士が鍵を?それにそこの二人は牢屋に入っていた者によく似ていますねぇ~」


 罠にかかった獲物をいたぶるように追い詰めていく。


「「「「…………」」」」

「さて、説明を求めてもいいですかグラス様?」


 この場が緊張感が増していく。


 リンも空気に充てられたのか刀に手を添えている。


 パン!


 バアル・セラ・ゼブルスは手を叩き、空気を弛緩させる。


「さて、それでは交渉に入りたいと思いますがいかがですか?」







〔~バアル視点~〕


 ところ変わって王城のとある一室に移動して話を聞くことにした。


「まどろっこしいことは嫌いなので単刀直入に言います、今回の件を見逃す代わりに俺も仲間に加えてもらいたいのです」

「どういうことだ?」


 グラスは意味がよく理解できなかった。


「おそらくこの騎士団は陛下の肝いりの部隊なのですよね?そんな部隊を消すのは俺も本意ではありません」

「……つまり?」

「俺にもその部隊を使わせてもらいたい、ということですよ」


 この言葉に4人は反応する。


「この騎士団をか?」

「そうです、陛下公認の諜報部隊、もしくは暗殺部隊ですかね」


 今回の件で、陛下から認められた公的秘密機関ということだと判断できる。また、有用性は国が運用している時点で察せる。


「できると思っているのか?」

「いえ、できないでしょうね」


 グラスの言葉に、俺は即座に否定する。


「すでに陛下以外にもこの騎士団の支援者は居るでしょう、その見返りに多少の情報などを流している…………違いますか?」


 俺の見立てでは何人もの貴族が裏で支援してこの騎士団は成り立っている。


 なにせ国のお墨付きがある暗部、いくらでも使い道はある。それが貴族ならなおの事。


「そこに入るなら並大抵の支援ではないでしょう」

「……そうだな」


 グラスは認めてくれた。


「だがいくらお前が喚き喚きまわっても意味がないぞ?」

「重々承知しています。ですがその支援者の中に俺に殴りかかってきた奴がいるなら話は別です」


 無論、比喩表現として言っているだけ。ただ言葉の通りこちらを攻撃しようとしてきた連中をのさばれせたりは絶対にしない。


「魔道具事件の事か?」


 暗部内ではそう呼ばれているようだ。


「その通りです、俺はこいつらを許すつもりがありません」


 手打ちなど、そんなものそうそうできるわけがない。893が指を詰めるのと同じで、それ相応の何かを失ってもらわないとこちらが納得できない。前世でも何かしらの悪事をしたのなら法律で罰せられるのと同じだ。


 それにそんな奴らを野放しにしておくと、この先、いつどこで邪魔をしてくるかわかったものじゃない。そうなる前に有無を言わせないほど叩いておく必要がある。


「それに見ましたか、この追跡能力を。これは特製の魔道具のおかげです」


 諜報部や暗殺集団からしたらほしいだろう。


 標的に追跡用の魔道具を付け、どこまでも追っていく。この騎士団だからこそどれほどの有用性かは知っているはずだ。


「私をあなたたちのお仲間にしてもらえるなら、これを支援しましょう」


 釣り針は垂らし終えた、あとは食いつくのを待つのみ。


「……………………」


 こちらの言葉にグラスは考えをまとめている。


(考えろ考えろ。俺を味方に加える代わりに数名を差し出すか、この申し出を断るか)


 どちらが益があるのか。


 俺たちの条件を飲み、便利な魔道具を都合してもらうか、このまま馬鹿どもの言いなりになるか、だ。


 バン!!!!


 だが答えを待っていると、急に扉が開き数多くの騎士が入ってくる。


「これが答えですか?」


 敵対だとしたら悠長にしていられないため、リンも臨戦態勢に入る。


「ち、違う!これはどういうことだ?!」


 口封じしようとしに来たのかと思ったのだが反応からして違うようだ。


 そして騎士がある人物に道を譲る。


 俺とグラスはその姿を見ると臣下の礼を取る。


「良い、楽にしろ」


 入ってきたのはグロウス王国の現王、アーサー・セラ=ルク・グロウス陛下、その人だった。









 陛下は部屋に入ると周りを騎士で固めて対面に座る。


「さて、話は聞かせてもらった。私の組織を使いたいようだな?」


 廊下で盗み聞ぎしていたらしい、国王なのに。


「そうですね、私としてはそうしたいのですが」

「いいだろう」


 グラスの様に迷うことなく、陛下は即決してくれた。


「代わりにあの三人を追跡した魔道具を用意してもらうぞ?」

「陛下、失礼ですが意味が解っておいでですか?」


 俺を引き込むのなら身内を差し出すことになる。


「無論だ、大勢の馬鹿と一人の天才、友誼を結ぶならどちらを選ぶ?」


 俺なら天才一択だ。


 ただ平凡な存在よりもより尖ったなにかを持っている人物のほうが断然価値はある。


「わかりました」

「では、条件を決めよう」








 まず、影の騎士団は本来表に出てこない騎士団だ。もちろん表向きの看板も存在しており、そこは雑用を専門とする落ちこぼれ騎士団となっている。


 そして活動内容は主に三つ。


 一つは国内の諜報活動、これはわざわざ説明しなくてもいいだろう。国の大事をいち早く察知して持ち帰る仕事。


 二つ目は国防のためのスパイ活動、これは仮の身分を与えて他国での諜報活動。


 最後の三つ目が、騎士団ができない汚れ仕事をすること。暗殺、拉致、拷問などなど、騎士道に反する手段をためらいなく使う。


 そして協力者だが、これは結構幅広く存在している。グラキエス家もその一人だ。そして今回の件で俺個人もその枠に入ることとなった。










「参考程度に聞きますが、協力者は見返りに何を支払っているのですか?」

「そうだな、物資、身分、場所、武器などだな」

「そのうちの何人かは今回で切り捨てることになりますが?」


 問題ないのか、という視線を送る。その視線を受けても陛下は一切揺るがない。


「その分野のすべてがいなくならなければ問題ない」


 同じ支援をしている者がいるなら切り捨てても問題ないとのこと。


「それよりも魔道具という唯一を持っているお主を引き入れる方がよっぽど益がある」

「過分の評価うれしく思います」


 なら問題なく粛清ができる。


 ここまで決まるとあとはグラスに任せてこの部屋を出ていった。


「では早速ですが、イドラ商会に営業停止をするように圧力をかけた貴族を教えていただけますか?無論支援者問わずですよ」


 有無を言わせないこちらの態度にグラスは両手を上げる。


「参ったよ、ここまで反撃されるとはな」

「お世辞はいいですから」


 続きを促すと困った顔をする。


「すまんが幾人かは見逃してくれないか?」

「できません」


 グラス殿の頼みをばっさり切り捨てる。


(俺に手を出してきたんだ、やり返すに決まっているだろう)


 ここで見逃す選択肢は元から存在していない。なにせ見逃せば、自分は大丈夫だと勘違いする輩が出てくるとも限らないからだ。


「それが枢機卿もいると言ってもか?」

「もちろんです」

「…仕方ない。おい、早急に調べろ」


 グラスは後ろにいる一人に命令を下す。


「では、調べがついたらそこの三人を経由して渡してください」


 やるべきことはすべて終わり、俺はリンをともなって部屋を出る。












「本当にバアル殿はあくどいでござるな」


 全ての事態を終えると、領地に帰る馬車でリンがそう溢す。


「まぁ貴族だからなこれぐらいはして当然だよ」

(貴族でもここまであくどい人物は稀だと思うのでござるが)


 リンが興味深そうな目でこちらを観察しているが、それを無視してこれからのことを考える。


(これでこの国でそうそう、俺には手出ししてこないだろう)


 豊かな土地を持つゼブルス家の嫡子、魔道具で富を築いたイドラ商会の会長、多くの情報を持ち汚い仕事すらも行う影の騎士団の支援者にもなった。


 10歳でここまでの地位を築いたのは歴史上例を見ないだろう。


(さてさて、これからなにやろうかな)


 俺は空を見ながら笑う。

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