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墓場なら

 細い洞窟が終わると地下なのに明るい場所に出た。


「こんな空間があるのか……」

『まぁの』


 細い道を通った後に出た空間はなかなかに幻想的な場所、一言で表すなら『琥珀の世界』だ。


 壁一面に琥珀色の結晶が張り付いており、淡い光を反射している。地面はまるで夕焼け時の湖の上に立っているように錯覚させてくれる。


 もちろんただ平坦な地面ではない、クリスタル洞窟のように様々な大きさの結晶ができている。柱のようなものから、珊瑚のように生えているもの、果ては研磨済みのようにきれいな形のものまで。


 中央には最も大きい結晶は家ほどの大きさもある。しかも形も整っており、まるで何かを覆い隠しているようにも見える。


『『真龍化』した状態なら問題ないが、それ以外の状態で『轟雷結晶』に触れるでないぞ』

「………了解だ」


 一応はイピリアの忠告に肯定するも何があるか少々興味があるので、足元にある小さい石ころを結晶にぶつけてみる。


 カチッ、ドン!!


 小さい石がぶつかっただけなのに当たった結晶から数メートルはある雷撃が放たれ、小石を飲み込む。


「おいおい」


 ほんの少し当てただけで落雷並みの電撃を放出する。普通に考えれば危険なんて代物じゃない。しかも当たった結晶はほんの小指の爪ほど窪んだ跡がついている。それほどの雷撃が小指のほどの結晶だと考えると、ここにある結晶すべてのエネルギーが計り知れない。


『まぁ妥当じゃな、というか存在感でわからんか?』

「わからない、それ以前に存在感ってなんだよ」


 強者だけがわかる感覚を求められてもまず困る。


「それで話の続きだが、『真龍化』にはどんな力が備わっている?」

『それは論よりも証拠だな、中央に行くぞ』


 イピリアは話そうとせずに中央にある最も大きい結晶に近づく。その際に結晶を踏むことで先ほどの雷撃が放たれると思ったが、一定以上の振動を咥えれば問題ないとイピリアに言われ、慎重に歩を進めた。


『ほれ、そこじゃ』


 イピリアが指さす場所には罅があり、人ひとり分は通れそうだった。


 だが


「……絶対に触ることになるぞ」


 なにせこの結晶は先程と同じもの、もし仮にリュクディゼムと同じ雷なら触った時点でアウトのはずだ。


『その状態なら何も問題ない、ほれ通ってみろ』

「しかしな」

『はぁ~、ほい』


 トン


 入ることを渋っているとイピリアに背中を押される。


「っおい!!!」


 予期していない衝撃に備えているわけもなく体勢を崩し、巨大な結晶に向かって倒れていく。


 トン、ドン!!!


 結晶に触れた瞬間、視界が真っ白に染まる。


「っっっっっ…………あれ?」


 目が見えない状態で、痛みをこらえようと全身に力を入れるのだが、なぜか痛みなどは一切感じなかった。


 しばらくすると視界が戻ってくる。


『どうじゃった?』

「…今ならイピリアを殴れるよな?」


 動物虐待と主張する集団がいないことを心から喜ぶ羽目になるとは思わなかった。


『おいおい、待て待てひとまず説明してやるから』


 急いで弁明するように、イピリアはなぜこんなことをしたのか話してくれる。


『お主が無事な理由じゃがな――――』














「なるほど」


 一通りの説明を聞き終わると、『真龍化』にどのような特性があるのかを理解する。そして同時にこの事態に納得もした。


『まぁそんなことはどうでもいいんじゃ、儂の目的はこっちじゃよ』


 イピリアは罅の中に入っていく。その様子を見て今度は恐れることなく遠慮なしに罅の中に進む。


「しかし、この場所は何なんだ?」


 あの形の結晶が自然に出来上がったとは思えなかった。


『墓じゃよ、墓』

「墓?誰の?」

『お主も関連が深い存在のじゃ』


 それからイピリアは答えることなく黙々と道を進み、やがて結晶の壁を越える。


 そしてその中心にいたのは


「………蛇、いや龍か?」


 体長二メートルほどの想像よりもかなり小さい龍がとぐろを巻いていた。一瞬見ただけでは蛇と見間違うかもしれないが、しっかりと観察すれば蛇ではないことがわかる。頭部は蛇にはない鋭い牙と長い髭、頭からはしっかりとした角が生えており、角のすぐ後ろからは(たてがみ)が生え、それが尾まで続いている。また胴にはいくつかの手足が存在しており、明らかに蛇ではなかった。


『その通り、あの方は天龍じゃよ』

「天……龍……」

『そうじゃ、お主のユニークスキルの元じゃよ』


 イピリアと天龍の間で視線が右往左往する。


「イピリア、説明しろ」

『何から聞きたい?』


 イピリアに問われて頭の中で何とか情報を整理する。


「ふぅ~~、まず一つ目、何で俺をここに連れてきた?」

『お主にあの方の鱗を渡すためじゃ』

「…なぜ?」

『それは鱗を触ってみればわかる』


 そう言うとイピリアは龍のそばに落ちている鱗を拾う。


『ほら手に持ってみろ』

「あ、ああ」


 鱗を受け取ると体に溶けるように消えていく。


「な!?がっ!?」


 消えた事にも驚いたが、その後に激痛が全身に走る。


「あ゛ーーーー!!!!!」


 痛みは体の中で暴れている様だ。それもまるで皮膚の下を何かが蠢きまわり、すべての細胞が喰われているような感覚だった。


 それもしばらくすると消えていく。


「はぁ、はぁ、はぁ、イピリア」

『自身の腕を見てみろ』


 何が起こったのか確かめようとすると、肘から先全体に鱗が生えているのが見えた。


「イピリア!!」

『怒るでない、別に殺そうとしたわけじゃないんだから』


 そう言ってしらばっくれようとしたイピリアを鷲掴み力を籠める。


『ぐっ』

「いいか、どういうことか一から説明しろ、出ないければ縊り殺す!!」


 体を勝手に改造されたようであまりにも気持ち悪い。


『わかった、わかった、まずなぜお主をここに連れて来たか、その理由はお主のユニークスキルじゃ』

「俺の?」

『そうじゃ、お主のユニークスキルはもともとあの方のものじゃよ』


 それからイピリアは事細かに説明してくれる。








『まずユニークスキルについてじゃが、お主はどこまで知っている?』

「何も知らない。なにせ観測する方法がない。やろうとしても個人によって千差万別の能力があるということでほかと比較しようがないからな」

『じゃあ、結論から言おう、ユニークスキルとは魂が生み出す特殊な魔力のことを指す』








 イピリアの説明を要約すると、ユニークスキルには魂が関係するという。


 まず生き物は受精卵の状態で周囲の魂素を吸収し、自身の魂を形成する。その後は死ぬと肉体から魂が離れてまた魂素として霧散していく。


 その中で極たまにだが強力な魂が魂素とならずにある程度漂うことがある。その漂っている最中に新たに形成された魂に吸収されることがあり、それがユニークスキルの正体だ。


 そしてそういった魂は生前に必ずと言っていいほど突出した才能がある、それがユニークスキルの力の元だという。







「………つまりは俺の魂にこの天龍の魂が吸収されたから、このユニークスキルが発現したわけか」

『その通りじゃ、それとユニークスキルは魂の元の生物の特性を得られるのだ』


 だから名は体を表すという風にユニークスキルにはそれ相応の名前が付くわけだ。


「そこまでは分かった、だがなんで鱗を渡したんだ?なんで俺の腕がこんな状態になっている?」


 一番の問題はそこだ。イピリアがなぜ俺に鱗を渡したのか、その重要な部分を聞いていない。


『簡単じゃよ、ユニークスキルは生前の体の一部に触れることでより性質を濃くすることができる』

「分かりやすく、言え」

『はぁ、一言でいえばお主のユニークスキルを強化したんじゃよ』

「これがか?」


 既に龍の腕と言っていいほど鱗が生え揃い、指には太い爪が生えており、下手な鎧など簡単に引き裂けそうだ。


『そうじゃ、あと一言言うなら、お主のユニークスキルに新たな性質が加わっている可能性もあるぞ』

「………次に勝手な真似をしたら今度こそ、どんな手を使ってでもお前を殺すぞ」


 イピリアの体から手を離す。


「そういうことは先に言え」

『言ったらお主はあの鱗に触れたか?』


 おそらくは触れなかっただろうな。なにせどのような副作用があるかがわかっていない。そんな状態で触るなど危険すぎる。


(まぁもう触ってしまったのなら仕方がない)


 どのような副作用があるかわからないがひとまずは置いておく。


「ちなみにだが、あの天龍の体に触れれば、もっと強くなれるのか?」


 仮に鱗一枚で強くなれるなら全身を使えばどこまで、強くなれると言うのか。


『意味ないぞ、体のごく一部に触ればいいだけだからのう』


 これ以上の強化はなされないという。


「それで、ここでの要件はもうないのか?」

『ああ、お主に鱗を渡せればそれでよかったからのう』

「じゃあ、戻るぞ」


 イピリアの要件も終わり、この場にとどまる理由がなくなった。







 天龍の墓場とでも呼ぶ結晶の建物から出て再び周囲を見渡す。


「慣れると殺風景な場所だな」


 中心に大きな結晶の棺が存在しているだけで、あとは乱雑に黄色い結晶が映えているだけ。見慣れてしまえばなんてことはない風景だった。


『まぁ入り口はリュクディゼムが塞いでおるし、ここに来る人物もいないからのう』

(墓場……墓場か)


 その時なぜそう思ったのかわからないが、『亜空庫』からとあるものを取り出す。


『それは?』

「まぁ墓だからな、これが合うだろう」


 俺が取り出したのは『天獣の祠』だ。


『ふむ、この卵は魂が入ってないな』

「ああ、だから完全な飾りなんだよ」

『まぁいいだろう』


 社として置こうとするのだが。


「イピリア、この結晶はどかせられないのか?」


 程よいスペースを確保したいのだが結晶が邪魔だった。


『それなら簡単じゃよ、最初に強い電撃を浴びせれば少しの間衝撃を受けても雷撃を放たなくなるぞ』

「……『天雷』」


 イピリアの言う通りに『天雷』を放つと結晶が変色し、鈍くなっていく。その後結晶を触っても何も反応がないことを確認して、イピリアの言葉通りだと分かった。


『ほら今のうちじゃ』

「わかっている」


 バベルを取り出し次々に結晶を解体していく。


「何かに使えるか?」


 衝撃を加えると雷撃を放つ結晶、それの使い道を模索してみるが。


(衝撃を加えると結晶の大きさ分の雷撃を放つ…………大きさと放たれる電力を計算しつくして使う?仮に使えたとしても単発的な何かだ。さらに雷という点もいただけない。これが火や水、風だったら使い道がある程度は存在するが、雷だからな……となるとやっぱ使い道としては緊急時の電力、もしくは―――)


『まぁ使い道は攻撃手段しかないのぅ』

「……だよな」


 永続性を持つ、もしくは長期的に使用可能なら本格的に使い道はあるんだが、これが一回こっきりだとするならば使い道は限られる。


「罠が妥当か」

『じゃな、お主ならほかの使い道もあるが、お主がいないとなるとほとんど使い道はない』

「まぁその通りだな」


 その後はひたすら『天雷』で反応を鈍らせて結晶を壊して、設置するスペースを確保する。


「結構な量になったな」


 収まりが良いようになるまで掘ると軽自動車ほどの大きさまで掘る羽目になっていた。となれば当然その体積分の残骸が転がっている。


「なぁこれは『亜空庫』にしまっても問題ないか?」

『ああ、亜空庫なら衝撃はまずないからな、入れておけば問題ない、取り出すときに注意は必要だがな』


 一応何かに使えないかと思い聞いてみると、持ち帰ること自体は問題ないらしい。その後は散らばった“轟雷結晶”を次々に『亜空庫』に入れていく。


「これはでかいな」


 唯一大きめに採掘できた結晶は一辺1メートルほどの大きさを持っていた。


『これを街中で暴発させん方がいいぞ、下手すればすべてが灰になるぞ』

「これでか?」

『お主は分かっておらんようじゃな。ここにある『轟雷結晶』は本当の雷じゃ。お主だから今ここに入れているわけであって、ほかの者じゃ入る時点で感電死するわい』

「本当か?」

『なら、ほれ、『亜空庫』から串でも肉でも取り出してみろ』


 イピリアの言葉通り『亜空庫』に保存している串肉を取り出す。


 バチバチバチバチ、ボッ


『亜空庫』から取り出した瞬間、帯電して焦げ始めると、串の部分から発火してしまう。


「………たしかに」


 ただ串肉を取り出しただけでこうなる、普通にこの場所に来ようと思ってもこれないのは見た通りだろう。


「とりあえず『亜空庫』に入れておくか」


 一番大きな『轟雷結晶』をしまうと『天獣の祠』を設置する。


「うん、雰囲気に合っているし、いいんじゃないか」


 大人並みに大きな祠だ、十分その存在感は出ている。


『それじゃあ、戻るかの』

「ああ」


 この琥珀の世界から洞窟の入り口を目指し、再び地上を目指す。

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