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飛翔石の役割

「ここを使ってくれ」


 話し合いが終了したのだが、どうやら空き家が無いらしくハーストの家にお邪魔することになった。


「へぇ~さすが戦士長の家、他よりも立派だな」


 ハーストの家は他よりも一回り大きく、頑丈そうに建てられていた。


「まぁな、それでは飯にしようと思うが、肉でいいか?」

「大好物~」

「問題ない」


 ハーストはこちらに確認を取ると、石積みの暖炉の前に立ち藁を掴む。


 バチバチバチ、ボッ


 何しているのかと思っていると、ハーストの手から火花が飛び散り藁に火が付く。


「おい、今のは……」

「ああ、これは空の加護の力だ」


 ハーストは『空の加護』と言うが今の力にはとても見覚えがあった。


「それは火じゃなくて雷だよな?」

「ああ、空の加護を受けたものは自由に稲妻を放つことができるようになる」


 ハーストはそう言いながら調理場に火を移すと網の上で肉を焼き始める。おいしいにおいが漂うが、代わりに煙が充満し始める。


「すまん、忘れていた」


 ハーストは煙は壁の一部の皮を開けそこから煙を逃がす。


 しばらく肉を焼き、臭みを取る薬草を振りかけて、十分色が変われば料理は終了だ。


「さて、できたぞ」

「わ~い!!」


 用意されたテーブルに湯気が出ている肉料理が出される。


「うま~~」


 レオネは肉を鷲掴みにし頬張る。レオネは母親のお腹に警戒心を置き忘れたのではないかと言うほど無防備だ。


(毒見がレオネがやってくれたし、とりあえず食うか)


 レオネのように骨付き肉を掴み頬張る。


 噛み付いた肉は歯を伝い、旨みを感じさせてくれる肉汁が口の中に流れてくる。そのまま肉をかみ切ると、肉厚な触感に仄かに薫香ばしさが漂ってきてさらに食欲を掻き立ててくれている。


 おいしい食事をただ黙々と行うのは味気ないので、探り目的も含めて一つ話題を振ってみる


「そう言えば、一つ気になることがある」

「ん?なんだ?」

「知り合いにエナって獣人がいるんだが」

「っぐ、んぐ」


 なぜだかエナの名前を出したらハーストはむせ始めた。


「知ってるのか?」

「あ、ああ、まぁ、有名だしな」


 エナは獣人の中ではある程度悪名が響いているのでハーストが知っていてもおかしくない。だがなにか反応がおかしい。


「実はヨク氏族の中にエナに腕輪を上げた存在がいるようなのだが、知っているか?」


 掟で交流を禁じているのに、なぜだかエナが飛翔石の腕輪を持っていた。エナの話では貰ったと言っていたことから盗みなどで手に入れたのではないとは思うのだが、一応は裏を取りたい。こちらとしても飛翔石が目的でエナ達に協力しているため、諍いが起きる可能性があるのかを確認しておかなければいけない。


「ぶっ、そ、そんな奴がいるのか?」


(……………いや、どう考えてもお前じゃないか)


 ハーストの反応は自白しているようなものだった。


「まぁここで誰かは置いておこう」


 俺が聞きたいのは誰がじゃない、手に入れられるかどうかという点だ。


「お前たち、ヨク氏族はどれほど飛翔石を採っている?」

「???飛翔石なら雷閃峰にごろごろと落ちているぞ」

「……秘密にはしていないのだな」


 秘蔵の採掘場があるとかではくて安堵する。


「ちなみにヨク氏族はどれくらいの量を何に使用している?」

「???また変なことを聞くな?少し待っててくれ」


 ハーストは家の奥に入るとすぐに戻ってくる。


「腕輪?」


 ハーストが持ってきたのは一つの腕輪とこぶし大の歪な緑色の石、やたらと鈍色の硬そうな石の三つだ。


「まず、我々がこれを使うのは主に二通りだ」


 そう言うと飛翔石であろう緑色の石を鈍色の石で削ると


「一つはこのように削り飲みやすいサイズにした後」


 ハーストは飛翔石を飲み込む。


「はぁ?」


 その光景を見ると思わず呆然としてしまう。


「このように飲み込むんだ」

「……体に害はないのか?」


 鉱物には毒物のものがある、どんな鉱石か詳しく知らないまま飲み込むなんて普通じゃ考えられない。


「大丈夫だ、これはヨク氏族でも子供から行われていることだからな」

「……どういうことだ」


 ハーストの話だと、この行為は翼をもつ獣人の氏族ではごく一般的に行われている行為らしい。


 そしてなぜこのような行為をしているのか、それは飛ぶために必要なのだという。


「飛翔石は触りながら魔力を流すと体を軽くさせる。我々はこれを使わないと飛ぶことすらできない」

「………なるほどな」


 ハーストの説明には納得できる部分があった。


(鳥も空を飛ぶために骨が空洞になっていると聞いたことがある。だがヨク氏族の体がそうなのだとしたらそんな状態では体を支えられるわけがない。なにせ人と同じ骨格をしている時点で筋肉は似通っていると考えていいはず、ならば当然その分重みがあり、ここで骨が空洞ならその重さに耐えられるとは思えない。たとえ【身体強化】を促してその均衡が保てるとしても、その状態を維持できているほどの魔力を常時消費しているということになる。そんな状態が続けばいずれ枯渇し、普段の状態に強制的に戻され結局自壊することになる、か)


 もちろん仮説にすぎないが、的外れな考えでもないと思う。ハーストの言葉で飛翔石を使わないと飛べないことが判明している、その言葉通りなら前提条件で骨が空洞であるというのが間違っていると考えるのが自然だ。


(いくら子供でも翼に見立てたプラスチックを持って空を飛ぶなんてこともできないからな)


 ではなぜヨク氏族などの翼をもつ獣人が空を飛べるのか、それはまた違う要因が働いていると考えれば説明がつく。


 例えば何かしらで体を軽くしているなどでだ。そしてその方法が飛翔石を飲み込むことで行っているということであれば納得できる。


「それでもう一つの使い道は?」

「もう一つは緊急時のための腕輪だ」


 飛翔石を飲むことでいつでも体を軽くすることはできると言うのだが、実は飲み込めるほどの量では精々が体を軽くさせるだけが限度、翼で揚力を付けることなく飛翔石だけで体を浮かせるにはそれなりの大きさが必要になるとのこと。なので腕輪やある程度の大きさのアクセサリーにしているという。


「これだけ?」

「ああ、これだけだ、腕輪の方は成長に合わせて作らなければいけないが、飲むのは成長するにつれて微々たるもので済むからな、一生で大体大人の拳ぐらいというところだな」


 生涯を通してもそこまで使用しないのが判明した。


「しかし、なんでこんなことを聞く?」

「俺が獣人に協力しているのはその飛翔石のためだからな」


 レオンに氏族を作れるか聞いたのは、採掘場を縄張りにして飛翔石が欲しいからだ。


 なにせ


(魔力を通したものを軽くする、輸送能力向上には欠かせない素材だな)


 物を軽くさせる鉱石なんてどれほど価値があるか。理解できる者に渡せば大金に化ける代物だった。


「はぁ……………」


 ハーストは何を考えているんだという顔をしている。


「まぁ俺の目当てが飛翔石であること伝えておくぞ」

「はぁ、まぁ、了解だ。だが我々が使う分は残しておいてほしいのだが?」

「もちろんだ」


 聞いた話だと飛翔石はヨク氏族の生命線と呼んでもいい。そんなものを独占でもしたら反感を買うことになる、しかも敵地のど真ん中でだ、そんなことしたらたちまち追い出されることになる。そのためうまく付き合っていく方がいい。


「ならば洞窟の方がより多くの鉱石が取れるぞ」

「洞窟?」

「ああ」


 ハーストの話だと、現在ヨク氏族が採掘場としているのが『雷閃峰』の地表だ。だが少し離れた場所に洞窟が存在し、そこになら使いきれないほどの飛翔石が存在しているとのこと。


 つまりは


「大きな鉱床か存在するわけか」

「そちらならどれだけ掘ってもらっても構わない、もちろん我々に影響しない範囲でだがな」

「では俺がその洞窟周辺に縄張りを作ったら、お前たちはどうする?」

「あんな、何もない土地をか?別に何も、あんな食い物が取れない場所なんか好きにしろと誰もが言うだろうな」


 その場所をもらっても何ら問題ないことも判明した。


(あとは問題を片付ければ、ゼブルス家は鉱床を手に入れられることができる)


 価値が分からない獣人からしたらごみをあさっているように見えるはずだ。だがおそらくは魔道具以上の利益を生み出してくれるようになることも可能だろう。


 コンコン


「ハーストさん、俺をお使い役にしないでほしいんですが」


 里についた時に突っかかってきたファルコがなぜか果物籠を持ってハーストの家にやってきた。


「お~すまんな」

「で、自分も話を聞きましたが、こいつがあの山に?」


 ファルコは視線で疑っている。


「氏族としてはそれが最良と判断された」

「ですが、山の向こうの氏族に救援を求めれば」

「それができれば苦労はしない」


 話を聞いている限りではほかの鳥系氏族はこっち側には興味ないらしい。


「掟により地の者と共闘はできない。けど無視もできない」

「となれば共闘ではない方法で手を貸すということですか」

「そうだ。我々も損害は負いたくないし、狩場を荒らされたくはない。地の者には最前線に立ってもらい、我々は程よく支援するだけだ」

「……了解です」


 しぶしぶだがファルコは納得したようだ。


「じゃあ、これもらうよ~」


 話が済むとレオネが籠をかっさらう。


「あ、おい!!」

「だめ?」

「だ、めじゃない」


 レオネが首をかしげながら上目遣いで問いかけるとファルコは顔を赤くしながら視線を逸らす。


(………外見の使い方を知っているな)

「バアルもほら」


 初心な男なら手玉に取れそうな仕草にある意味、感心していると、籠から一つの実を投げ渡される。


「ありがたくもらうよ」

「ういうい」


 レオナが隣に座るとむしゃむしゃと食べ始めた。


「あ、…………」

「今度俺の酒で乾杯しようじゃないか」


 ファルコは俺達を見ると落ち込み、ハーストがそれを慰める。


(安心しろ、俺にそのつもりは無い)


 食事が程よく済むと程よく時間が進み、夜も更けてくる


「それじゃあ、本日はお開きにしよう」

「さんせ~い」


 程よく腹が膨れると眠気が襲ってくる。


「それじゃあ俺は行くよ」

「ああ、明日は頼むぞ」

「了解です、叔父さん」


 食事中に発覚したんだが、ファルコとハーストは叔父と甥という関係だった。


 そして食事中に決まったのだが、明日は日が昇る前から動き出すことになっている。


 ファルコが飛び立つと俺とレオネは寝室に案内される。


「今日はこの部屋を使ってくれ」

「……いや、なんでベッドが一つなんだよ」


 皮で造られた一部屋に案内してもらうのだが、そこには藁に皮を引いている簡易なベッドが一つだけ(・・・・)置いてあった。


(普通に考えて男女を一部屋に押しやること自体おかしいと思うが?)


「ん?お前らは夫婦前なのだろ?遠慮することはない」

「いや、俺達は、ん」

「そうそう、まだ夫婦ではないけど、想いあっているからね~」


 レオネに口を押えられしゃべれない。


「じゃあ翌朝には起こしに来るから、良い夜を」


 そう言うと部屋から出ていくのだが。


「うるさくするなよ」


 最後にそう言い扉が閉まる。


 それと同時にレオネの手が外れる。


「おい」

「ふぁ~~~、眠いし寝よ~」


 抗議の目を送るが、何も気にせずレオネはベッドに入っていく。


「ほら~おいでおいで~」


 布団を開きながらそう言う。その神経がいい加減に癪に障るので、お言葉通り隣に寝転ぶことにした。


「うへ!?」

「さすがに明日は大事な用があるんだ、疲れを残さないために遠慮はしないぞ」

「あ、あ~うん、わかった」


 レオネは借りてきた猫みたいにおとなしくなる。


「うん……ねぇ、抱き着いていい?」

「……うっとうしくない程度にしろ」


 最後にそう返事をすると目を閉じて、ゆっくりと眠りにつく。


「うん、ありがと」


 そう言うと腕が取られて、何やらむにゅっとした感触がする。どうやら腕に抱き着くようにして眠っているようだ。


(はぁ、さっさと寝よう………)


 レオネを気にせず深く眠りにつく。

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