あっけなさ
(やっぱり一人でいると楽だな)
俺の一番得意なスタイル、それは一人特攻だった。
敵の中心に『飛雷身』で飛んで『神罰』や『放電』で自分の周囲を攻撃、あとはまた『飛雷身』で離脱していく。他にも遠距離から『雷霆槍』で攻撃したり、『天雷』で中距離の敵を薙ぎ払ったりなど。
そして一人である理由だが、これは誰もが『飛雷身』についてくることができないから。同じ速さに付いてこれない仲間がいるよりも一人の方が突撃、離脱が断然楽だった。
『神罰』の光が収まると、ボロボロの近衛蜻蛉と産卵女王大蜻蛉が見える。それ以外は跡形もなく消えていった。
「意外だ、あれに耐えるのか」
残った『母体』と近衛蜻蛉の羽はさすがに無事ではすまなかった。ボロボロの羽で飛行を続けられはできないようで地上へ滑空している。
もちろん俺も自然落下するのだが、すぐさま『飛雷身』により『母体』降り立つであろう場所に飛ぶ。
『母体』が滑空っしている間にモノクルを取り出し現状を鑑定する。
――――――――――
Name:
Race:産卵女王大蜻蛉
Lv:163
状態:憤怒・群体・欠損
HP:502/1502
MP:2402/2402
STR:67
VIT:72
DEX:51
AGI:69
INT:38
《スキル》
【鋭利牙:29】【剛大顎:37】【音波羽:34】【毒針:41】【潜伏:82】【隠密:67】【速飛行:75】【産卵:71】【意思疎通:42】【振動感知:58】【視界強化:42】【指令:54】【粘着毛:39】【超硬化:27】
《種族スキル》
【静止飛行】
【多産卵】
【特殊産卵】
《ユニークスキル》
――――――――――
――――――――――
Name:
Race:近衛蜻蛉
Lv:58
状態:憤怒・群体・欠損
HP:270/1270
MP:950/950
STR:65
VIT:73
DEX:61
AGI:58
INT:43
《スキル》
【鋭利牙:39】【剛大顎:28】【刃剣尾:19】【音波羽:14】【猛毒針:18】【潜伏:32】【隠密:42】【速飛行:38】【振動感知:49】【視界強化:50】【粘着毛:26】【超硬化:4】
《種族スキル》
【静止飛行】
【母体危機察知】
【我が身を盾に】
《ユニークスキル》
――――――――――
モノクルで確認すると等しく1000HPが削られていた。
(『神罰』は範囲固定ダメージなのか?そうでなければ綺麗に1000ダメージも食らわないよな?)
ひとまず考察を中断し周囲を見渡すといつの間にかエナが後ろ側に立っていた。
「………………」
どうやらエナも『母体』の落下地点に移動したようなのだが、引き起こされた光景を見て動きを止めている。
「おい、驚いている暇はないぞ」
それに声をかけて正気に戻す。既に産卵女王大蜻蛉と近衛蜻蛉が着陸しようとしていた。
「ああ……こんな力持っているならさっさと出せよ」
「拒否する」
ズン!!
産卵女王大蜻蛉と近衛蜻蛉がようやく降り立つ。
「さて、最後の仕上げだ」
「ああ、そうだな」
俺は『怒リノ鉄槌』を発動させて、エナは【獣化】を発動させて人の形を保ちながらハイエナの姿を取る。
ブブブブブブブブブブブブ
「だが、飛べないならもう逃げられないよな」
『母体』の近くは排除したが他はまだ残っている。数は多いが既に『母体』逃げることはできない状態にしたため、やりようはいくらでもあった。
それに羽を裂かれて地に落ちた蜻蛉なんて、もはや脅威じゃない。残りは比較的に容易く殺せる蜻蛉だけ。
「先に行くぞ」
エナは先に『母体』に突っ込んでいく。
「ろくには動けないんだ、素材にしたいから正確に急所を突いてくれ」
なにせ『神罰』に耐えられる甲殻だ。正直のところ手に入れたい。
「了解…ん?」
エナが返事をすると、産卵女王大蜻蛉の体に近衛蜻蛉がよじ登っていく。
「何がしたいんだ?」
「わからん」
警戒しながら観察していると傷口や壊れた甲殻などにしがみつくとやがて動かなくなる。
「?盾か?」
「みたいだな」
どうやら【我が身を盾に】というスキルを発動させたらしい。効果は見ての通り、じっと動きを止め盾として機能することだろう。
「まぁそんなことをしても、飛べなければ逃げることは」
今度は誘拐蜻蛉が『母体』に集まり始める。
ブブブ、ブブブブブ!!
けたたましい羽音が『母体』を包むと次第に浮かび上がっていく。『母体』が羽を損傷してもほかの蜻蛉が代わりをするとは予想外だった。
「って逃がすかよ」
「『飛雷身』」
さすがに呑気に傍観しているわけにもいかないので、すぐさま『母体』の上に移動すると『天雷』で誘拐蜻蛉を排除する。
ズゥム!
その巨体が再び地に落ちる。
(危ない、逃げられるところだった)
だが、さっさと始末をつけるためにそのまま『母体』に落下する。
(『怒リノ鉄槌』の一撃ならあの盾も防ぐことはできないだろう)
そのまま落下と同時に振り下ろそうとするが
ガシッ
「っ邪魔」
途中で誘拐蜻蛉に掴まれるのですぐさま『怒リノ鉄槌』で屠る。
(っち、数が多すぎる)
何度も屠っても、誘拐蜻蛉の数が多すぎるため、すぐさま体のどこかを掴まれて妨害されてしまう。
『手伝ってやろうか?』
「頼む」
事態を見かねたイピリアが近づいてくれる誘拐蜻蛉を迎撃してくれる。
「じゃあな」
落下中に邪魔してくる蜻蛉共をイピリアが迎撃してくれることから今度は無事に『母体』に攻撃することができた。
『怒リノ鉄槌』でえぐった胴体からは緑の体液が流れ出る。そして蜻蛉という線が細い生き物の為、ある程度の欠損でも内臓の重要帰還を傷つけることができてしまう。
(あっけな)
抉れた部分は大きく誰が見ても致命傷、まさに虫の息だった。
キシュ、シャーーーー!!
「ん?、おお!?」
『母体』は何とか体を震わせ俺を振り落とす。その後は何かしらの声を上げると蜻蛉共が近づけさせないように妨害を始める。
(最後のあがき…にしてはなんか変だな)
振り払い襲い掛かってくるなら理解できるが、どう考えてもその動きじゃない。回復させる手段も鑑定した結果からないこともわかっている。もはや死まで秒もない状態でわざわざ母体をと言うのも変な話だ。
仮に『母体』が死を認めないなら一応は説明がつくのだが。
「ん?なんだ?」
こちらを淡々を狙っていた誘拐蜻蛉が『母体』に集まり始める。
「おい、せっかく綺麗な状態だから傷つけるな」
『天雷』を放ち、周囲にいる誘拐蜻蛉を追い払う。
ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ
「なんだ?」
『ほぅ、なるほどな』
イピリアは何かを理解していた。
群がっている時点ではよく分からなかったが、飛んでいく誘拐蜻蛉が掴んでいるもので遅れて理解できた。
「……卵か」
誘拐蜻蛉が大事そうに抱えているのはやたらと大きい卵だ。それも卵の段階で近衛蜻蛉ほどの大きさがあり、普通の卵ではない。
「最後の最後に生み出した卵か、事態はよくわからないけど」
すぐさま『飛雷身』で卵を持っている蜻蛉のすぐ上に移動する。
「じゃあな」
バベルで羽を裂き、強引に足をもぎ取り、片腕で何とか卵を抱える。
「ちっ、べとべとしてやがるな、さて」
グジュ!
どのような意図の卵かわからないけど、将来の不安の種はさっさと摘むに限る。
「じゃあ置き土産だ『放電』」
最後に特大の放電で回りを一掃する。かなりの数の蜻蛉が落ちていくが、やはりそれでも全体に一部分しか撃墜できなかった。
(……こんなもんか)
その後はおとなしく墜落していると、さらに西に向かっていく蜻蛉共が見える。おそらくだが、他の魔蟲たちに合流するために移動を開始したのだろう。
(『母体』は始末した、後は見逃していいだろう)
追撃に入る必要はないと判断する。
『おうおう、にしても派手にやったな~』
「……まぁな」
『ほれ、この惨状を見てみい』
イピリアから映像が送られてくる。
『湖の大半は蒸発して、大穴開けて、周囲一帯が蜻蛉の魔蟲の死骸だらけだ』
空から下を見ると俺が起こしたことの傷跡が残っている。『神罰』により開けられた場所には新たに水が流れ込み、湖が広がったかのように見えるが、それ以前に『神罰』により湖の水が半分ほど蒸発していた。また残り少ない湖の水面では蜻蛉共の死骸で埋め尽くされている。それも湖だけではなくその湖畔にもだ。
(さすがに文句言われそうだな)
「おい、この惨状どうするつもりだ、ああ゛?」
再び地上に降り立つと案の定、エナから文句が出てくる。
「……お前、こんなことできたのか」
ティタやほかのやつらは大半の水がなくなった湖に絶句している。
「驚くのはいいがさっさと素材を回収してくれ」
俺はせっせと蜻蛉の死骸を集めているというのにほかのやつらは何しているんだって首をかしげている。
「そいつらはまずいぞ」
「いや、食うわけじゃない」
誘拐蜻蛉の甲殻の一部を剥ぎ取る。
カン!カン!
「なにせここまで軽いのにこんなに硬いんだ、何かの素材になるだろう」
スーパーの総菜パックのほどの大きさ、なのに重さは同じ、軽く拳をぶつけてみると金属音がするぐらい堅い。
(軽くて丈夫な素材、加工が難しそうなのがやや難点だが、それでも使い道はあるだろう)
どんなことに使えるかは分からないが、価値のありそうなのは確かだ。
「ということで手伝ってくれ」
素材に使い道があることを説明して、回収を手伝ってもらう。
「はぁ~了解だ、お前ら、そこら辺に散らばっている死骸を集めろ、量?全部だ全部、大丈夫なのかって?知るか、とりあえず集めればいいんだよ!!」
近くにいる獣人全員に手伝ってもらったが、すべて回収するのに2時間ほどかかった。
「お前らがいてよかったよ」
「嫌味かごら、というかほぼすべてをお前が倒したんじゃんかよ、俺たちのいる意味って」
「まぁ、後半はなかったな」
「くそっ、わかっているから言うなよ」
愚痴をこぼすカイマンに真実を告げると、悔しそうに顔をゆがめる。
「それでこの後はどうすんだ?」
「一度グファの里に戻るつもりだ、まぁオレとしてもこのまま湿地の方に行ってもいいんだが」
「なら戻るべきだな」
これは一度拠点に戻る方がいい。なにせ魔力がもう1割を切っているため、これ以上の派手な戦闘は期待できなかった。
「よし、おめぇら撤収するぞ!」
「「「「「オォオオオオ!!!!!」」」」」
エナの号令で俺たちはグファの里に戻り始める。