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獣人の生態能力

「「「まずい」」」


 レオン、エナ、マシラは俺と女の子の様子を見て、気まずい顔をする。


「どうした?」

「……俺たちが幼少のころは人族とそう変わらない容姿をしているのは教えたな」

「ああ」

「……そして年がたつと徐々に獣の特徴が出てくるんだ」


 それは初耳だ。どうやってかは分からないが獣人の後天的に獣の特徴を得る。だがその獣の特徴はどのようにして決まるのかは全く分からない。遺伝的に決まるならわかりやすいのだが、その傾向はないらしい。


「??じゃあ獣の儀というのは?」

「……獣の儀はいわば大人の仲間入りのための物、戦士の試練に挑めるようになる過程だ」


 簡単に言うと成人式のようなものらしく、これはただ単な儀式で何かを成すとかではないとのこと。


「じゃあどうやって獣の特徴を?」

「それは憧れを見ることによってだ」


 一番知りたい部分の疑問を投げるとエナが説明してくれる。


「俺たち獣人は憧れの大人もしくは獣の姿を見て、魅入るんだ」

「……そしてその姿を取っていく」


 獣人は幼少の頃の見た大人や獣の姿を見て、似た姿や特徴を模倣するという。


「レオンなら獅子に、ティタなら蛇、マシラ姐なら猿に憧れてその姿を取ったんだ」


 少々信じられない話だが、遺伝ではないとすると、その話も信憑性を帯びてくる。


「だからあの少女がお前に憧れを持つと」

「……あ~~」


 獣の特徴を模倣するにも関わらず人族の姿にあこがれてしまったらどうなるのか。


「あの子はどの獣の特徴も得られずにそのままの姿で成長していくことになる」

「オレたちは獣の姿を借りることで力を得る、それができないならどうなることか」


 獣人の一番強いと言える【獣化】が意味を無くす。つまりはあの獣人のなかで最弱となる可能性が大きいと言うことだ。


「いや、俺にどうしろと」


 憧れを抱かれても、それにとやかくは言えない。


「……とりあえず放置しろ、そしてあの子がほかのだれかに憧れることを祈るしかないな」

「だな」


 結論は俺たちにできるところはなく、憧れが他の憧れになることを願いしかないらしい。


「この度は助かりました、レオンさん」


 話をしていると残っている数名の大人がやってくる。


「無事でよかったよ、それでいろいろ聞きたいんだが」

「アシラさんたちのことですか?」

「ああ、今どこにいる?なんでこんなところで魔蟲が出ているんだ?」


 この里はエブ氏族と言い、俺達が向かっているグファ氏族の途中にある里だ。そしてグファ氏族の地はもう少し行ったところにあるとのこと。


 つまりは


「!?おい、レオン!!」


 本来ならもう少し先が魔蟲たちの戦線だ、そこから突破してきているのならば、だ。


 道中にいた魔蟲はせいぜい10匹も満たない数だった。つまりははぐれている可能性が大きい。だが、今回は違う。100匹を下らない数の群れだったことに加えて、明らかに獣人をある方向に連れて行こうとしていた。つまりは目的があるということ。ひいてはもっと大勢の群れで動いていることになる。


 その群れが前線ではなくこんなところにいる、詰まる意味は―――


「いや待て、魔蟲の一部が突破することに成功してこともある、どうだエナ」

「それだな、道中同様に危険な匂いはするが、それだけだ。もしアシラたちが壊滅しているならこんなもんじゃ済むはずがない」


 エナの言葉ではこのようなことは偶然だったとのこと。俺はその判断を若干疑っているが、レオン達はその言葉を聞いて安堵している。


「なら決まりだ、そしてお前達は」

「東にあるクル氏族に少しの間留めてもらえないか頼んでみます」

「わかった、なんだったらアシラの名前やテンゴ、バロン、俺の名前を使ってもいい」


 彼らは明朝、隣の氏族に避難する。ここに留まるよりかは幾分かは安全だという。


「にしても君すごいね~」


 鹿の角らしきものを生やした女性が近づいてくる。


「あんなすごい存在(・・・・・)を従えているなんて」

「……なんのことだ?」

「あれ?ほら、君が飛んでいる蟲を一掃するときに背中当たりに見えない何かがいたでしょ?」


 この言葉に戦慄する。


(イピリア、あの時は具現化してないな?)

『そんなことするわけないだろう……ふむ、なるほど』


 イピリアは女性の周囲を漂い始める。


「そう!これよ!これ!」


 女性は正確にイピリアを指さすのだが。


「「「「「????」」」」」


 周囲にいるみんなは首をひねることになる。


『なるほどの、この角は魔力自体を感知するのか』

(それでお前を認識しているのか?)

『ああ、ただ正確には認識していないはずだ、おそらく儂のことは強風みたく感じているのだろうな』


 あの女性の角は魔力の感覚器官らしく、それでイピリアのことを認識しているという。


「なんでみんな分からないのよ!!もう!!!」


 鹿の女性はなんとかイピリアのことを教えようとするが、認識できないみんなに何言っても信じてもらえない。最後には業を煮やして怒ってしまった。だが俺は裏腹にすごいと感心している。なにせ人ができえない事柄も模倣した獣によっては可能になってしまう。


「へぇ~~そんな奴がね~」


 マシラは意味深な表情で見てくる。


「まぁいい、こいつはいろんなことを隠していやがるんだ、そのうちの一つだろうよ」

「だな、利害があっているときは信用はできる関係というやつさ」


 レオンもエナも俺の事をよく理解している。俺としても利害のある関係のほうが信用できる。


「信用?利害?それはあたしは初耳だな」

「それはな―――」


 レオンがマシラに説明する。


 俺が毒で命を縛られていること、魔蟲を倒せば抗体薬をもらえること、魔蟲共と人族軍を何とかすれば解毒すること、そして報酬に戦士の試練という戦士の身分を手に入れさせる試練を受けさせることを教える。


「……………エナ、ティタ、お前らは毒を使っているんだな?」


 マシラは今まで見たことのない表情をする。


「なぁなんで、あんな怖い顔をしているんだよ、それに」


 周囲を見るとレオン以外が怖い顔をしている。


「それはな―――」









 まず獣人は正面からぶつかり合うのに信条を持っており、それが生きる誇りだと誰しもが認めている。


 それゆえに正面から戦わない者たちを認めることはないという。


 毒を持っている動物は、毒を打ち込むと、そのまま弱るまでじっと待つ。そういう姑息なスタイルがどうしても獣人には受け入れられないらしい。下手すれば差別の対象にすらなってしまうとのこと。


 さらにはそんな存在が憧れの戦士であったなら?認められないどころか、誇りを持たない存在として排他する存在と認識され、だれからも認められない存在になる。


 これが二人が嫌悪されている原因だ。










「なるほどな」

「毒を使う奴は姑息だ」

「そうそう、レオンさん、私からもあまりこのお二人とは距離を置くことをお勧めします」


 この村の大人はレオンにそう薦める。


「ああ、その意見は胸にとどめておこう」


 レオンはそう言うが当の二人は暢気にあくびをしている。


「しかし分からないな、毒は立派な生存戦略じゃないか、なんで忌諱するんだ?」

「バアル、少し黙っていろ」


 俺が疑問をいうと、なぜだかエナがそれを止める。


「お前、狩りをしたことはあるか?」

「狩り?まぁ父上に貴族の趣味の一環として何度かは」

「??なんか違う気がするが、まぁいい、オレたちは自然に生きることを誇りに持っている」


 それはどこかで聞いたような気がする。


「自然に生きるなら当然オレ達は狩りをする。自らの血肉にするため、命を食すためにな」


 日本で食事前に『いただきます』と宣言するのも同じようなものなのだろう。


「……食われるほうも、ただただ食われるわけにはいかない。当然ながら命の奪い合いをする。だが自然に生きることを決めた俺たちには、その命のやり取りから逃げることは許されない」

「ああ、けど毒は違う。毒はただただ命を蝕むだけ、そんなものを使ったら命に向き合わずに殺したことになる。それがこの地に生きる奴らからしたら許せないのさ」


(なるほど………いや、なるほどとはならないが)


 思わず納得しそうになったが、思い返せばそうでもない。なにせ別に敵を倒すのに毒云々はどうでもいいと思っているからだ、必要であるならば遠慮なく使う。


「だがクメルスでは毒を使っていただろう?」


 攫う時に会場で麻痺させる煙や、道中での魔力を使えなくさせる毒などを使っていた。


「まぁな、渋っていたが同胞を救うためと命を取らないと言って何とか納得させたよ」


 救出劇よりもそのやり取りの方が大変だったとエナは感慨深くつぶやく。


 これは獣人特有の感覚なのだろう。


「だから毒を使う戦闘は嫌われているのさ」

「……そうか」


 ここは獣人は譲れない部分なんだろう。そこにとやかく言う気はない。


「エナ、ティタ、この毒を解くことはしないか?」

「ああ、それをしたが最後、こいつは絶対何かする、それもオレたちの不利益になる何かを」

(よくわかっているな)


 マシラは解毒するように勧めるが当然エナは拒否する。そして言葉通り自由にすれば今すぐ逃げるつもりだ。もちろんここまでの手間賃として軍が分散しているなどの情報を高値で売り渡したりはするだろう。


「マシラさん、俺はエナの意見を信じるつもりだ」


 レオンがエナをかばう、それを見てマシラは少し悩んで


「そっか、なら私は何も言わない」


 結局はレオンに判断を任せた。










 それから夜が更けていくと、子供たちは数名の大人のそばで寝息を立てている。


「それで俺たちはこれからどうするんだ?」

「あたしは一度こいつらをクル氏族まで連れて行ってやろうと思う」

「そうだな、ではマシラさん頼む」

「了解だ」


 マシラは明日になると彼らを連れて来た道を戻る。なにせエブ氏族の残存戦力では全員が逃げるには少し心もとない、だから誰かが護衛として同行しなければいけない。


「じゃあオレ達はこのままグファ氏族まで向かう、これでいいか?」

「そうだな、あいつら(・・・・)も心配だしな」


(あいつら?)


「……下手すれば内輪もめも起こっているかもな」

「それは無い、と言いたいんだがな」


 レオンはそう言うと頭が痛い問題と言って風に頭を振る。


「大丈夫だろう、邪険にはされるだろうが、ひどいことにはならない」


 エナは断言する。だが、こちらは何が何だかよくわからない。


「はぁ~、考えても仕方ない、さっさと寝るぞ」


 そう言うと焚火に土をかけてそれぞれは横になる。若干気になるが、向こうに付いたらわかることなので気にせず横になる。











 しばらくするとそれぞれが寝息を立てるが、未だに眠気が襲ってこないので現状を再把握する。


(今まで出てきた蟲は大まかに四種類、百足、蜂、蜻蛉、蠍。このうち二種類は空を飛ぶ。だけど)


 数日前からのレオンの戦い方を思い返す。


(レオン、エナ、ティタは素手。マシラは武器を使っているけどすべてが、接近戦(・・・)なんだよな)


 それ以前の戦いをすべて思い出しても、獣人の全員が接近戦のみしかしていない。


(もし、獣人が全員が接近戦のみだとしたら?)


 獣人は平面上でしか戦えないのに、魔蟲(カボインセクト)は三次元的戦闘が可能だ。制空権を取られる時点でどこまでも不利なのは間違いない。


(さすがに弓ぐらいはあると思いたいが、使われていない気がする)


 最悪な可能性を思いついてしまい、気が重い。


(それとこいつらの情報を少し調べておくか)


 鑑定のモノクルを取り出し、四人を鑑定する。


 ――――――――――

 Name:レオン

 Race:獣人

 Lv:72

 状態:普通

 HP:941/941

 MP:642/642


 STR:88

 VIT:66

 DEX:44

 AGI:86

 INT:31


《スキル》

【豪獣爪拳:82】【鋭牙:24】【砕顎:7】【火魔法:17】【跳躍:27】【身体強化Ⅲ:27】【剛毛鎧:43】【大威圧:57】【指揮:78】【野生の勘:103】【四足歩行:75】【思考加速:9】【敏嗅覚:9】【感覚強化:27】【狂暴化:1】【火炎耐性:89】

《種族スキル》

【獣化[大炎獅子]】

《ユニークスキル》

【気炎灯ス獅子】

 ――――――――――



 ――――――――――

 Name:エナ

 Race:獣人

 Lv:65

 状態:普通

 HP:658/658

 MP:742/742


 STR:53

 VIT:47

 DEX:87

 AGI:67

 INT:85


《スキル》

【裂爪拳:72】【鋭牙:11】【強顎:15】【跳躍:21】【疾走:58】【身体強化Ⅲ:7】【戦略:33】【思考加速:32】【柔軟体:27】【柔滑毛鎧:26】【威圧:14】【軍指揮:45】【野生の勘:77】【四足歩行:68】【鋭嗅覚:57】【感覚強化:41】【隠密:42】【気配察知:30】

《種族スキル》

【獣化[狡知鬣犬]】

《ユニークスキル》

【先嗅グ鼻】

 ――――――――――


 ――――――――――

 Name:ティタ

 Race:獣人

 Lv:67

 状態:普通

 HP:860/860

 MP:835/835


 STR:59

 VIT:80

 DEX:69

 AGI:74

 INT:48


《スキル》

【柔触拳:49】【猛毒牙:49】【熱源感知:86】【蛇行:10】【万毒生成:141】【跳躍:27】【疾走:14】【身体強化Ⅲ:11】【算術:23】【思考加速:7】【柔軟体:57】【触削鱗:58】【毒学:87】【猛毒耐性:57】

《種族スキル》

【獣化[竜絞毒蛇]】

《ユニークスキル》

【万識ノ毒王】

 ――――――――――


「……へぇ~」


 まさか全員がユニークスキル持ちとは思わなかった。獣人は特性自体それぞれ万別なため判断がつきにくい。


(全員、Lvもステータスも高いな)


 グロウス王国でも普通の騎士団にこれほどの猛者は存在してないだろう。


 そして同時に遠距離攻撃できる方法を持っていないことを理解した。


(頼むから、弓ぐらいはあってくれ……―――)


 嫌な予感を感じながら、意識を手放し夢の世界に落ちていく。

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[気になる点] 寝てる間に鑑定されたら不快感で起きるかと思った。
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