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初となる会話

 ガルルルルルルルルルルルル


(はぁ~またか)


 軍の後方にたどり着くと大勢の獣人に囲まれて唸られている。原因は俺が虐げてきた人族だからにほかならない。


(危害は加えないと言っていたがどうだかな)


「*****!!!」

「*****」

「******!!!!!!!」

「***」


 どうなるか心配していると、ハイエナの獣人はそんな奴らをあしらいながらどんどん後方に進んでいく。


「****、ティタ」

「******?」

「*****」


 ティタと呼ばれた獣人に額に手を当てられると、すっと眠りに落ちていく。













〔~リン視点~〕


「あ゛あ゛!?っ~~~~~~、はぁはぁはぁ」

「よし今日のリハビリは終了」


 ここ2週間、私は毎日朝昼晩暇なくロザミア特別リハビリを行っている。


「り、リンさん水飲んでください」

「あ、りがと」


 リハビリを終えると異常なほど汗を掻き、喉が渇く。そのため、終われば毎回のようにノエルから水を貰う。


「うん、もうあと数日ってところかな」


 ロザミアが手や足、胴を触りながらそう判断する。


「意外に掛かりました」

「はぁ?何言っているの?本来なら二か月は掛かるところがたった二週間弱だよ?」


 ロザミアの見立てではさらに期間が掛かると思っていたらしい。


「これで、私もバアル様に」


 コンコンコン


 扉がノックされる。


「失礼します、ロザミアさんはいますか?」

「いるわよ」

「学園長がお呼びです」

「うん、わかった、じゃあリンちゃん少しの間待っていてね」


 ロザミアさんは扉の外に出ていく。


「……ノエル、刀を取ってくれますか」

「え?あ、はい」


 なんとか起き上がりノエルに刀を渡してもらう。


「ふぅ~」


 刀を持ちながら【身体強化】を発動させる。


「ふっ!!」


 座った状態で刀を振る。


 ビギッ

「っ」


 振るった腕に痛みが走る。


(……痛みはある、だが最初よりは)


 起き上がれるようになって、最初に振ったときは裂けるような痛みが走ったが、今は針で刺された時のような痛みだ。


「リン!?なに刀振っているの!?」


 いつの間にか部屋に戻って来たロザミアが私の様子を見て慌てる。


「長らく触ってないと感覚が鈍りそうで」

「それはあと!!今は完治させることが重要だよ!!」


 すぐさま横に倒される。


「それとリンちゃんに、いや。ノエルちゃんもか」

「私たちに?」


 一つの手紙を取り出す。


「先遣隊からの報告書だ」

「バアル様は!?」

「……報告書に書かれているのは主に二つ、一つが現状までの報告、二つ目が救助者の名簿だ」

「!?バアル様は!!」

「落ち着いて。ひとまず最初の報告から、先遣隊は無事に西方国境に向かう獣人を確認、その後に救出を試みるが獣人の抵抗が思いのほか激しく大部分の人員が負傷、それによりその後は監視に専念、だがこれも獣人の阻害があり思うようにいかず、目標を見失ってしまった」

「そんな!?」

「そしてその後なんだけど、先遣隊はそのまま目標を見つけられずにいたらしい」


 ????


「二つ目の報告が救助者の名簿なんですよね?ということは無事に救出できたのですか?」

「先遣隊じゃないけどね。まず獣人達が逃げたのは予想通りのルンベルト地方だった。そしてそこでは軍が蛮国に進行している途中だったんだ。そして集団が蛮国に逃げる際に軍を強固突破したみたいでほぼ(・・)救出することができたらしい、まぁ肝心の獣人はほとんどを逃がす結果になったけどね」

「それで?バアル様は?」

「………」


 ロザミアが言いにくそうにしているのを見て察することができた。


「誘拐された人族(ヒューマン)は一人を除いて救出された。そしてその一人が」

「………バアルさまなのですね」


 私の言葉にロザミアさん静かに頷く。そしてこの言葉を聞いても思いのほか動揺はしなかった。何となくだがバアル様が簡単に救出されるわけがないとどこかで感じていたのだろう。


「………クメニギスの反応はどうなのですか?」

「正直なところかなり微妙だ。軍のお偉いさんは軒並み救出されたし、蛮国に入ったとしたら救出はとてつもなく困難になる」

「結論だけを」

「………乗り気じゃない、下手をすれば捜索隊を出さない可能性もある」


 その言葉を聞きノエルが悲壮感を漂わせている。


「ロザミア、リハビリを続けてください」

「……了解」

「!?あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!!」


 待っていてください、必ず、必ず助けに行きます。










〔~バアル視点~〕


 ガン


「っ~痛いな」


 なにか大きな振動で意識が起きると同時に頭に衝撃が走る。


「****!」

「*****」

「*******、****」


 どうやら俺は再び檻に入れられ、二人の獣人が檻を運んだ時の衝撃で目が覚めたようだ。


(イピリア、俺はどのくらい寝かされていた?)


 腹の空き具合から結構な時間が立っていると思う。


『時間にして約5日じゃな、まぁ道中で流動食らしきものも食わせてもらっていたから体が衰弱しているとは思わんがな』

(そうか、ちなみに流動食ってのはどんなのだ?)

『イモ虫を乾燥させた粉と小麦らしきものをお湯で溶かして作られた物じゃったな』


(……聞かなければよかった)


 思考を切り替えて周囲を見てみると、どうやら大きな石造りの部屋の中にいるらしい。


(しかしここはどこなんだ?薄暗いのは分かるんだが)

『ここは獣人の中でもとびっきり大きい屋敷だ』

(映像を見せてくれ)

『ほい』


 イピリアから送られてきた映像には石積みの宮殿のような建物だ。


(周辺の状況)

『ほいほい』


 空からの映像ではどこか深い森とサバンナのような土地の境界線に建てられている。


(周囲には簡易の木像の家が建てられている。川は森の方から流れてきていて森でもサバンナでも水には困らない。しかも多くの魔獣の姿も見て取れる、安全とは言いがたいか)


 大人しくはするが逃げる算段はつけておきたい。


「****?」

「****」

「****!!」

「っ、あぶな!?」


 両側にいる二人が何かを会話すると棒で突こうとする。


 ニタニタ


「……この野郎」


 こういう扱いはある程度覚悟していたが、いざやられると腹が立つ。


(いっそ、檻を壊して暴れてやろうか)


 それから何度も突き出してくる棒を交わしながらフラストレーションを溜めていく。


 コツ、コツ、コツ


 棒を避けていると通路の方から足音が聞こえてくる。


「***!?****!!」

「*****!!」


 その音を聞き、二人はすぐさまこの部屋を出ていく。


(手出しするなって言われていたんだろうな)


 でなければ逃げるように部屋を出る必要がない。


 コツン、コツン


 部屋の入り口から杖を突く音が聞こえてくる。そして見えたのが。


(俺を攫ったハイエナ、戦場で大立ち回りした獅子の獣人、それとトカゲ?いや亀の老婆か)


 ハイエナの獣人は奴隷が着ていた襤褸ではなく、動物の毛皮だけを使っている独特な衣装に着替えている。


 獅子の獣人は服装は変わらず、煌びやかな金色な髪は荒々しくなっており、ネコ科特有の瞳に加えて、その肉体には無駄な脂肪などは一切見えない。


 そしてもう一人の老婆は肌の一部がトカゲや亀のようになっており、何よりの特徴が猫背になっている背に大きな甲羅が見えた。


「ふむ、お主、名前は」

「!?……お前は俺達の言葉が喋れるのか」


 なんと亀の老婆はフェウス言語を話すことができた。


「まぁな、長く生きているとできることがどんどん増えてきよるからのう、それで名前は?」

「……バアルだ」

「バアルか、それではバアルなぜお主がここに連れてこられたかわかるか」

「知らん、教えてほしいくらいだ」

「はぁ~、それは儂もじゃ」

「………は?」


 相手の言葉に混乱していると、老婆も思わずと言った風に長いため息を吐く。


「じゃあ、なぜ俺は連れてこられた?」

「それを話せと言っても、あいまいな感じではぐらかされるんじゃよ」


 疲れた表情でいう老婆。そしてその視線はハイエナの獣人に向けられていた。


「おっと、自己紹介がまだじゃったな、儂は……グレア、が一番発音が近いかのう」

「獣人の発音だと?」

「ガゥエリィアゥ」

「了解だ、グレアと呼ばせてもらう」

「そしてくれ、それと話があるのはこの二人でな、儂は翻訳するために呼ばれたんじゃ」

「翻訳か……それじゃあ一つ聞きたい、俺の魔力を封じたのはお前らなのか?」

「ちょっと待っておれ、**********、****?」

「*******」

「その通りらしいな、だがそれがどうしたんだ?」

「いや、魔力が使える様になったらグレアを挟んでの翻訳が必要なくなるんだ」

「???そんな魔法があったか?」

「ああ、といってもこれはエルフから教えてもらった魔法だ」

「ふむ、*********、*******」

「*******?」

「*********?**********」

「**************」

「**********」


 しばらく何かを話し込む。


(さて、相手はどう出るか)


 魔力が使えれば『念話』が使えてコミュニケーションが容易になる。だがそれはあくまで側面、本題は魔力が使用できるようになること。これが最も重要だ。


(まぁそれは許可されなくても、この状態の手がかりになれば御の字だ)


 現状、魔力が使えないことに対してのとっかかりすらない。少しでもヒントが欲しい。


「****?」

「****」

「****、話が付いたよ」

「それで、どうしてくれる?」

「結論からいうと、魔力を使えるようにしてやっていい、ただその代わりの条件がある」

「…それは?」


 なんとなく嫌な予感がする。


「魔力を使わせる代わりに他の毒を受けてもらう」

「……どんな?」

「一週間ごとに薬を飲まねば死ぬ毒だ」


 思わず舌打ちしたくなった。


「魔力を縛られるか。命を縛られるか、か……………いいだろう、魔力を自由にしてくれ」

「…ふむ、*******」

「*****」


 ハイエナの獣人は何かを告げられると外に出ていった。


「しかし、意外じゃな、普通ならこのまま魔力が使えない方を選ぶと思っていたのだが」

「まぁ普通ならな、だがここまで連れてきといて、それが殺すためだけなのか?どう考えても利得がない」

「お主ら人族(ヒューマン)の小さき芽を摘むためやもしれんぞ」

「それこそ意味が解らん、俺はグロウス王国の人間だ、今攻め入っているクメニギスともフィルクとも無関係だ。これでも俺はとある貴族の出、下手をすればグロウス王国も蛮国に攻め入る可能性すらあるさ」

「……こんな子供一人にそんな価値があるのかい?」

「まぁ普通はない、だがここに利権や金が絡むなら大いにあり得るんだよ。そうだな、おれなら『貴族の子供が殺された、それも何も関係ない我々の子をだ。獣人は人族とみるやすぐさま牙をむく獰猛な種族である。国家としてこれを見過ごすことはできない』とでも言って有権者に利益、利権やらをちらつかせて合意させるな」

「ふむふむ、それをお主の国は行うとでも?」

「行うさ」


 俺とグレア婆さんの視線がぶつかり合う。相手がどれほど思考を理解しているかは分からないが、人族の事をある程度でも知っているなら容易に想像がつく事態だ。


「*****」


 すると先ほどまで傍観していた獅子の青年が何かを話す。


「なんだと?」

「はぁ~、安心しろ、手に掛けるようなことはしない、といっている」

「……ならこんな場所に連れてくるなよ」


 同情があるならこんなところに連れてくるなよ。


「それはレオンじゃなくてエナがやったことだ」

「エナ?あのハイエナの獣人か?」


 そしてこの獅子の青年はまんまの名だな。


「そうじゃ、あの子がエナ、『腐肉喰らい』とも呼ばれておるよ」

「すごい、と言った方がいいか」

「どうじゃろうな」


 なにやら複雑そうな表情になっている。


 様子から察するにどうやら有名なのだが悪い意味でのようだ。


「一応聞くが、俺はこれからどうなる?」

「そうさな、こればかりは坊ちゃんの意見を聞くしかないな」

「坊ちゃん?」


 婆さんの視線が獅子の獣人に向く。おそらくは目の前にいる獅子の獣人を指しているのだろうが似ても似つかないので笑いそうになる。


「坊ちゃんはこう見えても軍を作ったのだから、えらいものだぞ」

「軍?蛮国は氏族の集まりじゃないのか?」


 軍団がいるなんてことは聞いたことがない。


「もちろんいるぞ、ただ、軍の役割は戦の時だけだから意味がないだけだ」


 それからの会話の単語を繋げて見ると、どうやら獣人は暗黙の了解で危機に瀕した際は一致団結するようだ。


「*******」


 出口から声がするのでそちらを見てみるとハイエナの獣人と俺を眠らせた蛇の獣人がいた。


「では、もう一度確認するぞ、魔力を使えるようにする代わりに一週間ごとに薬を撃たねば死ぬ毒を注入するいいな?」

「………ああ、いいだろう」


 最悪、その薬で脅される可能性があるが、いざとなればリンと合流してこの毒を『浄化』できるかもしれない。


「わかった、*******」

「****」


 蛇の獣人が近づいてきて腕を掴み、顔だけを蛇の姿に変える。


 そして大きく口を開くとそのまま腕に噛みつく。


「っ」


 腕に二本の細い牙が刺さり、そこから何かが流れていくのがわかる。


「しばらくしたら魔力が使えるようになるはずじゃ」

「今すぐではないんだな」


 毒を注入し終わったら腕から離れる。


 魔力を操作しようとすると噛まれた腕の部分だけ少しだけ動かせるようになっていた。


「『亜空庫』、さてさて」


 鑑定のモノクルを取り出して自分を鑑定する。



 ――――――――――

 Name:バアル・セラ・ゼブルス

 Race:ヒューマン

 Lv:47

 状態:『命蝕毒:7日』『魔痺毒[解毒中]』

 HP:812/812

 MP:5383/5424+200(装備分)


 STR:99

 VIT:93

 DEX:117

 AGI:144

 INT:176


《スキル》

【斧槍術:53】【水魔法:3】【風魔法:2】【雷魔法:47】【精霊魔法・雷:38】【時空魔法:20】【身体強化Ⅱ:39】【謀略:44】【思考加速:27】【魔道具製作:38】【薬学:2】【医術:9】【水泳:4】【念話:7】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【轟雷ノ天龍】

 ――――――――――


 どうやら魔力が使えなくなっていたのはこの『魔痺毒』というのが原因だろう。


「それと……さて、これで話がしやすくなったな」


【念話】をしながら会話をすることで念話の範囲内にいる相手なら言葉の意味が通じるようになる。


「ほ~人族(ヒューマン)には面白い技術があるんだな」

「いや、たぶんこのガキだけの力だろう。潜入していた時にこれを使える奴はいなかったからな」


 レオンは感心しているがエナは何やら考え込んでいる。


「しかし、なぜ暴れない?」

「冷静なんだろうよ、なにせ命を握られているのに動じてない」


 二人とも俺を深く観察する。


「ひとまず暴れるつもりはないから檻から出してくれないか、堅いところで寝たから体が痛い」

「いいだろう」

「おい」


 なんとなく言ってみただけなのだがすぐさま了承された。ただレオンの承諾に婆さんは異論があったようだけど、レオンは気にしていない。


 これにはこっちが虚を突かれる。


「レオン」

「グレア婆、エナがわざわざ連れてきたんだ、問題なかろうよ」


 そう言うと獅子の青年は檻を壊してくれる。


(エナが言ったからか……全幅の信頼を置いているようだな)


 壊れた檻を出て、久しぶりの背伸びをする。


「さて、俺の待遇はどうなる?」

「とりあえずは親父に聞いてみないとわからん」

「………親父?」

「ああ、親父だ」


 それから話を聞いてみるとレオンの父親は氏族の長らしい。


「それじゃあ、早速行くぞ」


 そう言うと俺を担ぎ上げて移動する。


「自分で歩けるが?」

「疲れているだろう、なら少しの間休憩していろ」


 そういい、肩に担がれ、なぜだか運ばれることになる。

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