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マナレイ学院研究発表会

 ひとまずは魔力が何かを知るため、まずは知識を必要な分だけ与えることにした。


 まずは高校までの物理、生物、化学を一辺に教え込む。


「――ということでボイル・シャルルの法則は熱、圧力、体積、物質量が関係する」

「なるほど」


 教えている身として感じるのだが、一度教えてしまえばすべてを理解できている。まさに本物の天才と言っていい人物だった。


 だが、すべてを授業に費やすのもばからしいので研究室の活動での初めの三時間のみとなっている。


「今日はここまでだ」

「え~もう少し話してほしいんだが」

「俺が何のためにここに来たかを考えてくれ」


 もともとは魔力について研究するためにここに来た。その本文を見失っていたらここに来た意味がない。


「そうだね、いろいろと教えてもらっているけど、確かに知識がある分だけ魔力というものはわからなくなっていくね」


 ロザミアも様々な矛盾点に気付いているのだろう。


「そういえば、魔力について検討はついているのかい?」

「まぁな、だが実際に証明するのが困難だ」

「だが見当がついているのなら逆算していけば比較的に簡単にできるんじゃないか?魔力が宙にあるかないかの時と同じで」


 ロザミアはそう言うが、事はそう簡単じゃない。


 また魔法は様々な実験で説明できない理論ではなく、きちんとした科学にのっとって現象を起こしていると理解できている。だがそれは同時に魔法事態の難解さを物語ってしまっていた。


(となると、やっぱりこの考えがしっくりくるよな)


 自分の中で目星をつけている一つ結論が出てくる。


「だが証明が、な」


 研究室で頭を悩ます。


「バアルの頭の中ではすでに答えが出ているのか?」

「まぁな、聞きたいか?」

「もち」


 とりあえず場所を変え、隣の部屋でお茶を飲む。


「結論から言おう、魔力の正体は万能素粒子だと踏んでいる」


 魔力の動かし方で性質を選び、自然界に作用して魔法を発現する。そう考えれば魔力自体がなんにでもなる特性を持つことになる。そしてイピリアの言葉では粒と形容していた、となれば素粒子であると簡単に予想がつくことになる。


「根拠は?」

「まず身体強化だ、魔力を使って飛躍的に強くなる。その原理がどうなっているかわからないが、殴っても壊れない石が身体強化で壊れるようになる、これは万能素粒子が力を伝える粒子になれば説明がつく」


【身体強化】が予想通りなら、筋肉の生み出すエネルギーを増幅し、細胞自体の強度と結合する力が強くなっていると考えればあながち間違いではないと思う。


「では魔法は?」

「万能素粒子を電子、陽子、中性子、ほかにも一定方向に力を加える粒子の性質に変化したとなればすべて説明がつく」



 火魔法は以前説明した通り。


 水魔法は電子と陽子で水素を作り出すことができ、それを酸素と組み合わせることで水にすることができる。


 土魔法は土の一部に一定方向のみの素粒子を加えて発動させていると考えれば説明ができる。


 風魔法も力を加える粒子を気体に作用させ放っていると考えれば問題ない。


 雷魔法なんて単純だ、なにせ電子を作り出して流せばいいだけなんだから。


 光魔法に関しては、発光する粒子を組み込めばいい話で。


 闇魔法は逆に、すべての動きを阻害させるように働かせればいい。


「なるほどね、すべてを理解したわけじゃないけどある程度納得さ、そして確かにこれは発表しずらいな」


 俺が基礎を教えているロザミアですらこうなんだ、ほかの連中が理解できるとは思えない。むしろ嘘をついていると判断されそうだ。下手したら乱心したと思われかねない。


 おそらくこれを根拠なく発表した場合はコペルニクスのような事態に陥ることになるだろう。


「あと二週間で発表会だろう?どうする?」


 マナレイ学院に来てから二か月ほどが経つが、あと二週間で年に四回あるうちの一回目が控えていた。


「残念だけど今回はエントリーはできないね、下手な発表して研究費を下げられるくらいなら成果が出るまで待った方がいい」


 ロザミアの言う通りだ。俺達の実験から出た結論ではとても発表できる内容ではないため、今年初めての発表会には参加しないことになった。













 本日もマナレイ学院での授業と研究活動を終え、寮に戻る。


(そろそろ向こうでも入学式が始まっているな)


 寮の窓からグロウス王国の方角を見据える。


「失礼します、バアル様はおられますか?」


 扉の向こうからノックされる。その声はどこかで聞き覚えがあった。


「お手紙とお届け物が来ています」

「届け物?」


 ノエルが扉を開けると、そこには見知った顔がいた。


「……なんでここにいる?」

「私も、まさかこんな任務に就くとは思いませんでしたよ」


 目の前にいるのは影の騎士団でもおなじみ、ルナ・セラ・ヨルセクだった。


「それで、今回はどうした?」


 部屋に入れて事情を聴く。


「まずはゼブルス卿からのお手紙とお届け物を届けに来ました」

「父上から?」


 手紙にはゼブルス家の家紋が入っている。


 封を開けると、見慣れた筆跡の手紙が出てくる。


 内容は、家族の近況報告と西部と東部の貴族の鞍替えの件について。


 届け物はノストニアからで、どうやら余った神樹の実があったのだが神樹の実が俺の色だったことからすぐさま届けようとしたことらしい。


「それで、お前たちのほうは?」


 わざわざ届けるのに影の騎士団は使わない、それなりの理由があるはずだ。


「じつはこの度、バアル様がクメルスにいる間はイドラ商会の一員として補佐することになりました」

「なるほどな」


 つまり、影の騎士団から自由に使っていい手駒を渡されたということになる。


「それとエルド殿下のつながりは見えてきましたか」


 これには首を振る。


「なぜ?バアル様なら何かをつかんでいると思ったのですが」

「実はな、学院内にいると政治関係の接触がないんだよ」


 暗黙の了解は予想以上に拘束力を持っているようで接触してくる人物がいない、接触がなければ探ることなんてむりだ。またこちらから接触しようにも同じく学院内では政治の話はタブー扱いされ、今度は俺の信用を失うことになりかねない。


「ええ…」

「仕方ない、現にこの二か月間は研究ばかりしていたからな」


 こういった経緯の為、マナレイ学院での知り合いもそこまでいない。


「なるほど、だから私が派遣されたわけですか」

「そう思いたいな」


 正直俺たちは目立つ行動はしにくい、なのでルナに動いてもらえればこちらは大助かりだ。


「では私は早速動き出します」

「頼む」


 箱と手紙を置いて早速ルナは動き出す。


「さて、じゃあさっさといただくか」


 箱を開けてみると中には黄色のドラゴンフルーツと翡翠色の桃、藍色のバナナが詰まっていた。


「見た目だけは本当に気持ち悪いよな」


 俺はドラゴンフルーツを取り出し、リンに桃、ノエルにバナナを渡す。


(…うん、味はスイカだな)


 それぞれ食べるのだが味と見た目のギャップがありどこか釈然としない。




















 それから朝起きると朝食を摂り、身支度して研究室に向かい、ロザミアに講義をし、昼になると昼食をとり、魔力についての研究を始め、夜になると寮に戻り、ルナの報告を受けるというサイクルを取る。


 そして研究発表会の前日。


「何か裏の界隈が少しうるさくなっていますが詳細はつかめず、ですがおそらくですがバアル様には関係ないものと思われます」

「そうか。しかし発表会に重なるということは、それ絡みなのか?」

「何とも言えません、ですが、この動きを国の暗部が見過ごすとは考えにくいのでおそらくは事が起こる前に沈静化するかと」

「だといいんだけどな」


 現在この国の上層部は割れている、そんな状況下で沈静化できるとと考えるのは少々楽観しすぎている。


 ルナが退室すると少し不安を覚えながらもベッドに入る。












 翌朝、本日は研究発表会だ。


 学院内には様々な催し物や露店が開いており、さながらお祭りのようだった。


「よく来たね、今日はお姉さんの奢りだ」


 今日はロザミアの案内で発表会が始まるまで祭りを楽しむことになっている。パンフレットらしき紙を取り出し、催し物の確認をすると、戦闘を歩き始める。


「まずは火魔法研究室のところが近そうだ」










 なぜ研究室が発表会のほかに催し物を行っているか、それはひとえにほかの研究室と差をつけるために行っている。


 興味を持つ人が増えれば、その中に優秀な人材が増える確率も高くなる。そしてほかの研究室よりも大規模に行えばより知名度は上がり、好循環の環境と成れる。


 ほかにも資金繰りのために行っているところもある。現に魔具研究室は自前の魔具を安値で売っているし、魔法薬研究室も魔法薬を売っている。


 もちろんほかにも魔法体験らしきものをしているところもあれば、魔獣を飼い慣らし騎乗体験を行っている場所もある。


 こうやって各々の研究室が様々な目的のために発表会とは別にこういった出し物をしていた。











「どう?楽しめている?」


 ロザミアは露店で売っていたジュースを(あお)っている。当然ながらそれらは俺達にも配られており、乾いたのどを十分に潤していた。


「ええ、楽しめていますよ」


 証拠にリンとノエルは水魔法と風魔法の魔法模擬戦を楽しんでいる。場所によってはこういった模擬戦を多々行っている。ただ見る限り、属性的な優勢を持っている試合は数が少ないみたいだ。







「おら!!さっさと運べ!!」






 後ろ側で大声がしたのでなんだと思い、覗いて見てみると露店の裏側の見えない部分で大きな台車が動いていた。


 常人なら一人でも無理そうなの重さをたった一人でだ。そしてそれを退いているのは大きな首輪をした、襤褸を着た獣人だった。


「ああ、これからの発表会には必要なんだよ」


 ロザミアも視線を向け、何事もないように説明してくれる。


「研究室によってはね、大掛かりな荷物が必要になるからね、今のうちから運ばせているんだよ」





 パファン!!


 何かが振るわれる音がすると同時に男の呻く声がする。


「たく、これだから獣人(・・)は、さっさと運べ」

「ぐあっ!?」


 もう一度何かが振るわれる。


(あの待遇じゃ長く持たないだろうな)


 あの様子なら日常的に暴力を振るわれているのだろう。


 しかもみすぼらしい襤褸を服代わりにしていて、体中には泥だらけだ、劣悪な環境であるのは間違いないだろう。


(まぁ俺には関係ないな)


 国の制度として奴隷は存在している、それに俺がとやかく言うこともない。


「お、そろそろ、発表が始まる」


 予定の時間となりそうなので会場になっている講堂に向かうとする。

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