新たな研究機関発足
「―――以上を持ちまして、我ら『スキル研究同好会』の現時点での研究成果のご報告を終了させてもらいます」
最後の報告も終わり、締めくくると、万雷の拍手が響く。
拍手の中、ステージの裏に戻ると、フルク先輩が復活していた。
「さすが、バアル君、僕だったらよどみなく説明できなかったよ」
「回数をこなせばフルク先輩でもできるようになるさ」
「そうかな?それよりも資料を見る限り、まだまだ発表できる項目があったような気がしたけど?」
俺が発表したのは、作った資料のごく一部から抜粋した奴だ。
「問題ない、観客の様子を見ながら考えていたが、あれだけでも十分納得している様子だった」
別にすべてを発表する必要はない、むしろごく一部は秘密にして情報に価値を持たせる方が有益だ。
「そうなのか~、じゃああれはどうしよう」
「あれ?」
フルク先輩は何かやっているのか?
「実はセレナちゃんに提案されて、実は『スキル書』という物を作っていてね」
詳しく話を聞くと。今まで調べたスキルと技についての関連性をまとめた本を作ろうとしているらしい。
「なるほど、面白い」
「でしょ!うまくいけば出版して、大金持ちに成れるよ」
その後に『もちろん、アイディアを出してくれたセレナちゃんにも分け前を与える』と言って小躍りしている。
いるのだが。
「フルク先輩」
「なんだい?」
「それは出版できないぞ」
「……え?」
俺の予想だけど、そんなもの国が認めるわけがない。
なにせ、技の取得条件が記された本だ、一般公開するよりも、秘匿し、何気なく配下の強化に当てた方がいいに決まっている。
自分が強くなっても相手が同じくらい強くなれば意味がない。
「なにかお金が入用なのか?」
「いや、でも大金持ちには誰でもなりたいだろう?」
至極もっともな意見だ。
理由が金銭なら十分な見返りがあれば口止めになるだろう。
「では、その話は内密にしてもらってもいいか?」
「いいけど……」
「もちろん、先輩にも利点はある」
「利点?」
「ああ、王城務めとか興味はあるか?」
「うむ、認めよう」
発表した3日後。
俺はすぐさま陛下の拝見を申し出た。陛下も今回の発表に価値を見出しているようで即日に対応してくれた。
「ありがとうございます」
「うむ、スキルの取得条件を調べる機関か。面白いものになればいいのう」
俺が陛下に上申したのはスキルについて調べる研究機関創設だ。既にある程度の成果は発表している。それを踏まえて創設には十分に可能だと判断した。
「ええ、同好会の先輩がスキルについて記した本を出版しようとしたときは焦りましたよ」
「もちろん止めたのであろう?」
陛下もそんなものが出回ったときのデメリットは理解できている。
「はい、ですが、それ相応の飴も必要なので」
「うむ、そのフルクをその研究機関で雇うことを確約しよう」
「ありがとうございます」
もちろん条件にスキルに関する情報を秘匿するのが必須条件となる。
「ではバアルよ、『スキル研究同好会』は今より『スキル研究機関』とする」
こうして『同好会』から『国の研究機関』へと変貌を遂げたのだ。
「もちろん、与えた予算内なら国費の使用も許可しよう」
国費の使用許可を与える時点でかなりの力の入れようだ。
「さて、それではこの度『同好会』から『研究機関』へとなった快挙に乾杯!!」
現在、同好会の部屋でフルク先輩が音頭を取っている。
「しかし、事の進みが早いわね」
クラリスがジュースを飲みながらつぶやく。
「まぁな、なにせうまくいけばグロウス王国の武力の底上げができるからな」
利点があれば誰よりもそれを取り込む。そうすればもぅとも利益を甘受することができるため、ここまで早く事が運ぶのだ。
それに加えてごく一部にしか使えなかった強力な技が一般的になれば、どれだけ戦力を強化できるようになる。
「ノストニアではこういった研究はしていないのか?」
「してないわね、私たちは技なんて小手先じゃなくて、精霊魔法にで派手にやる方が好きだから」
……もしかしてエルフが大雑把なのってここからきているのか?
「バアル君!!」
フルク先輩が割り込んでくる。
「本当に、本当に!ありがとう!まさか僕が王城務めに成れるとは思わなかったよ」
感極まり涙を流している。王城に勤務する平民はまずいない、そのため近いうちにフルク先輩は何かしらの肩書がつくことになるだろう。平民の研究職の為、一番位が低い騎士爵か年金無しの名誉男爵に任命されるだろう。
「いいさ、俺も自分のためにやったことだからな」
フルク先輩には言ってないが。
実はフルク先輩に見せた資料も制限を掛けている。
よって、今わかっているすべての情報を所持しているのは俺、引いてはゼブルス家と言うことになる。
「それより気を付けろよ、これからはスキルの事、技の事を気軽に話せない、話したらそれ相応の罰があるからな」
「うん!わかっているよ!」
そういい、再びコップを傾ける。
「これから先はどうするんですか?」
リンがこれからのことを聞いてくる。
「そうだな、とりあえずフルク先輩が卒業するまでは研究機関は始動しない」
なにせ、関わっているのが俺とフルク先輩のみだ、今から新しく人を入れても資料もないしどうにもできないだろう。
「まぁ、とりあえずは以前とこれからの違いは研究費が出るかぐらいの違いだな」
当分費用は王家が取り持つが、見返りに研究成果を求められるようになる。ただこれは普通の研究員の待遇だ。俺たちは現在学生だ、当然ながら自由に動けるのだが、費用は部活と同程度しか出ないだろう。
「ではこれからの日常は変わらないのですね?」
「ああ」
普通に学園に通い、同好会、に顔を出し、資料を集めて、スキルについて考察する。
フルク先輩が卒業しても、同好会の部屋がここから王城の一室になっただけだ。
「っと、そろそろお開きにしましょう」
外を見ると空に赤と青が混じり、程よい時間となっていた。
「っとそうだね、僕があと片付けしておくから、みんなは帰っていいよ」
「そうか、ではお言葉に甘えよう」
俺たちはフルク先輩のみを残して家に帰る。
帰りの馬車に全員乗り込むと御者が王都ゼブルス邸に向けて出発する。
「それと、セレナ」
「は~い?」
部屋から持ってきたつまみを頬張りながらセレナが返事をする。
「これからスキルのことを無暗に吹聴するなよ」
「へ?」
「これから国は本格的にスキルや技について研究する、つまり知識を金にできるようになるということだ」
「じゃあ、私のゲーム知識も売れるの?」
「そういうことだ、だから」
セレナの傍に寄り囁く。
「俺が王家の数倍の値段でその知識を買い取ろうと思うんだが」
セレナは固まって動かない。
「王家が一つのスキルに銀貨一枚を出すなら、俺は銀貨3枚を、大銀貨数枚を出せば、その倍を、金貨を出せば、またその倍をだ」
悪い話じゃないだろう?
「そ、そうですね!じゃ、じゃあお願いします!」
なにやら顔が赤いが、気にせず話を着ける。
「俺が要求するのは希少な技の条件、それと俺以外にその情報を漏らさないことこの二つだ」
「それだけ」
「ああ、それだけ、もちろんリンやクラリスにもだ」
セレナとしゃべりながらクラリスにも目を向ける。
(婚約関係でも線引きはしておかなければいけない)
「でも…」
「セレナ、このことはバアルが正しいわよ」
クラリスも同じ立ち位置だったら、俺に漏らさないようにするとセレナに伝える。
「わかりました」
セレナも納得してくれたようで何より。
「にしてもスキルや技なんて真っ先に調べるのが普通じゃないの?」
セレナが質問してくる。
「それが普通ではない」
「そうなの?」
「理由は二つ、まず一つは調べるのが難解だからだ」
スキルはモノクルや教会の水晶を使えば、まぁ数値は分かる。だが上位のスキルに派生する際の条件はなどは不明。それを割り出すには多くの人数を調べて、どんな経験をしたかなど調査を大々的に行わなければいけない。
もちろん、技も同じ理由だ。
(正直、セレナの知識が無ければ、今回の発表もかなり微妙なものになっていただろうし)
俺が発表した、技の取得条件はセレナの者と同じだが、見つけた過程は捏ち上げている。
「調べようと思えばできなくもないが、多大な費用と時間がかかる」
「え、でも」
「今回はお前の知識のおかげでかなりの短縮できたんだ」
少し背の低いセレナの頭を撫でる。
これがもし、ゲームみたいにアナウンスなどがあるなら、使えるようになった瞬間を見聞し条件を精査しやすいが、現実にはそんなものが無い。
「そっか」
「で、二つ目の理由だが、ただ単に気にする奴が少ないってだけ」
この世界では大々的に情報などで回らない。
だから強い技などもそこまで広がらないのが理由だ。例えば遠くの人と連絡とれる手段があって、そこで強力な技の存在を知ったりしたら、調べるなどするだろう。
だが通常は遠距離で連絡手段など、まだ確立されていない。だから技を知るのは周りの存在だけとなり、ただ聞くだけで済んでしまう。
「わかったか?」
「う~んと、テレビで見たパフォーマンスとかは真似てみたくなるけど、そもそも見たことがないのなら真似したいと思わないってこと?」
変なたとえだが、合っているといえば合っている。
ちなみにだがクラリスとリンはテレビの存在を知らないので何とも言えない顔になっている。
「テレビというのはよくわからんが、まず調べようとは思わないんだ」
「なるほど~~」
本当に理解しているのかと思いながら屋敷に到着する。




