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研究発表会

 夏季休校が残り10日というところですべてのデータ入力が終了した。


「さて、それでは先輩」

「う、うん」


 数センチある紙の束を手渡す。


「これについての意見を貰いたい」

「こんなに………」


 フルク先輩は中身を見て驚く、それほどまでに大量に作られたデータなのだ。


「このように大半のアーツはステータスとスキルレベルが重要になっている」


 ページ一つに、一つの(アーツ)とステータス、スキルレベルの散布図を張り付ける。


 他にも様々な記述を示してある。


「だが、この基準が曖昧な(アーツ)が実在している」


 教えたページを開いてもらい、そこの情報を見せる。


「例えば剣術の『アサルトスラッシュ』これは最低スキルレベルは25、最低ステータス値は平均で20、だがその数値を超えていても使えない者がいる」

「う~ん、不思議だね」

「そのほかにもとある道場にのみ通っていた者のみが覚えられる(アーツ)があったりもする。おそらく何か関連性があるのだろうな」


 ステータスと、スキルレベルの他に要素が存在あるとする、それが現時点で何かと問われれば、わからないと答えるしかないのだ。


「手詰まりだ」

「そうだね」


 すると、ノックの音が聞こえる。


「バアル様、昼食を持ってきました~」


 入ってきたのはセレナ。


 ワゴンの上にはスープと小さめなサイコロステーキとパンが乗せられている。


 ちょうどよく腹が減っているのでランチタイムにすることにした。


「う~~~ん」


 フルク先輩はパンを頬張りながら資料とにらめっこをしている。


「何を見ているんですか?」


 手元にある資料をのぞき込んでくるセレナ。


「あ~アサルトラッシュね~、これ習得するのに少し手間なのよね」


 セレナの何事もない一言に俺と先輩は動きを止める。


「……へぇ~じゃあ何が必要になるんだ?」

「まずは剣術のスキルレベルが25以上であとは『スラッシュ』のあと『デュアル』『トリプル』でとどめを刺すことね。私としては―――」


 セレナの豆知識が始まるが、無視して先ほどの資料を確認すると『アサルトラッシュ』を使える全員が先ほどの三つを習得しているのが見て取れた。


(未だに取得できていないのは、三つの(アーツ)でとどめを刺していないからか)


 仮にこの言葉が真実だとしたら、統計だけでは出て来ないわけだ。


「ちなみにだがステータスが必要にはならないのか?」

「もちろん、なる(アーツ)もあるわよ、だけど派生系(アーツ)は基本関係ないわね」


 何やらほかにも叩けばどんどん知識を出してくれそうだな。


「セレナちゃんはどうやってその知識を…………」


 フルク先輩はセレナが望みの知識を持って茫然としている。


「どうやって?常識じゃないの?」

「おし、セレナ。少しお話しようか」


 セレナの腕を引き部屋を変える。









「さて、話してもらうぞ」

「な、何をですか」


 机の対面にはセレナ、そしてセレナの背後にはリンがいる。


 形だけで見れば圧迫している。前世で言えばここでカツ丼が出来そうだ。


「もちろんスキルのことだ」


 資料を手渡し、スキルの一覧を見せる。


「何これ?間違いだらけじゃない」

「例えば?」

「まず、さっき言った剣術だと『アサルトラッシュ』でしょ、斧術だと『投斧』はスキルレベルと基本ステータスだけじゃなくて【投擲】のレベルが10以上でかつ投擲を使って十体とどめに刺すこと。槌術の『ヘビースタンプ』はスイングでクリティカルを30回与えること。槍術の『スパイラルスピア』は『エッジストライク』を連続10回使いとどめを刺すこと。杖術の『ドレインヒット』は杖で他者と一定以上の魔力のやり取りをやること。弓術の『操矢』は【糸使い】のスキルレベルが10以上であること。刀術の『流衝』は刀で攻撃を50回受け流すこと。ほかにも―――」


 俺もリンもあきれ顔になる。


「何で教えてくれないんだ…」


 この情報があればあんな苦労せずに済んだのに、とも思ったが証拠を集める必要があるため大変には変わりがないだろう。


「さて、セレナ仕事の話だ」

「??」

「この資料の穴埋めをしてくれ、対価として金貨30枚で」

「やります!!!」


 金額を提示したらすぐさま手を上げる。金貨400枚の借金をしているセレナだからこそ、ここまでの大金の仕事は逃したくないのだろう。そしてだからこそ詰めが甘い。


「ではお願いしよう、ちなみに期間はあと9日だ」

「え゛」

「引き受けたからにはきちんと行ってくれよ」


 固まるセレナに今わかっているアーツの資料をすべて渡す。もちろん厚みは言うまでもない。















 それからは迅速に事が進む。


 セレナに資料のすべてを与えて、あとは必要な部分を思い出させて情報の補填をさせる。


 そして期日には。


「終わりました!!」


 いつも通り自室で仕事を行っていると扉が勢いよく開かれる。


「それじゃあ報酬お願いします!」


 入ってきたセレナは疲れている様子もなく、机の前に来て、資料を渡してくる。


「少し待て確認する」


 書類を横にどけて渡された資料を確認する。一通り見るとかなりの精度で補填がされていた。


「いい出来だな」

「でしょ!廃ゲーマーを舐めないでもらいたいわね、ゲームに関しては何も見なくても攻略本を書けるぐらいよ!」


 そう言ってない胸を張り自慢する。こちらとしてはもう少しほかの技能も持っていてほしかったがそこまで欲張るつもりもない。


(スキルのこともセレナの情報に合った、だったら)


「ちなみに聞くが、魔力やステータスの正体は知っているか?」

「????魔力は魔力、ステータスはステータスじゃないの?」


 どうやらセレナもよくわかってない様子。


「こうなんとなく認識できて、操れるものが魔力よね………う~~んなんかのサイドストーリーにヒントとかあったかな」


 セレナも記憶を探ってもそれらしい記述はないという。


「まぁなんにせよ、仕事は終了だ」

「ありがとうございます、金貨30枚はそのまま借金の返済に充ててください!」


 と言うことであっさりと穴埋めが終了した。














 そして夏季休校が終わり再び学園が始まるのだが。


「ふぅ~~、う゛………う~~ん」


 フルク先輩が腹を抱えて気分悪そうにしている。


(まぁこんな状況だとな)


 俺達は今、入学式などで使われる講堂にいるのだがカーテンの外には多くの観客が座っていた。もちろん目的はスキル研究同好会の研究発表を見るため。


「……こんな…急に、っう゛」


 学園が始まるとすぐさま学園長に呼び出され、その後はあれよあれよ話が進んで、入学式専用の講堂を用意されてしまった。


(絶対、陛下が裏で手を回したよな)


 今回の事には陛下が絡んでいるとしか思えない。その証拠に式場に様々な人物が座っている。


「陛下はもちろん、近衛騎士団長、副団長、初等部と中等部、高等部の各学園長、そしてその側近の教師、さらには他の騎士団長や王都冒険者のギルドマスター、ほかにも様々来ているな」

「ぐっ~~~~おなか、いたい」


 先ほど挙げた人物の他にも、豪華な服装を着た人物が何人もいる。


 中には異国の服装をしている人物もいる。


「さて、準備はいいか?」

「……………」

「??フルク先輩?」


 フルク先輩を見てみると、動かない


「……………気絶している」


 様子を見てみると立ったまま気を失っている。


 漫画でなら真っ白に燃え尽きた、と表現できそうだ。


「交代しかないな……」


 フルク先輩がこんな感じではどうしようもない。フルク先輩とは一緒に発表内容を考えていたため、俺が変わっても問題はなかった。












 客席の一席では一人の老人が周囲を見渡し物思いに老けていた。


(今回、友に呼ばれたのだが……どうなることやら)


 ステージが魔法で照らされて、一人の少年が壇上に上がる。


「こんにちは皆様方、この度は『スキル研究同好会』の研究発表の場にお集まりにいただきありがとうございます」


(『スキル研究同好会』とは聞かぬ名だ)


 部活ならまだしも同好会と言うことは碌な実績を証明できないということになる。


「まず我ら『スキル研究同好会』の活動目的としてはスキルを明らかにするということです」


 スキルを明らかに?スキルはスキルだろう?




「まずはスキルの前提について語らせていただきます。


 スキルとは我々が生活している中で自然と身につきます。また当然ながら何度も繰り返せば技量が磨かれるのも理解できます。ですがここで不思議には思いませんか、目に見えない経験などがなぜ数値化できているのですか、どのような基準でスキルがレベルアップしているのか、と。

 教会にある『神鑑の眼』や『鑑定のモノクル』ではスキルを測れます、ではその数値がどのように測られているのか、そもそもなぜその数値になっているかを私どもは知りません。そしてそれを解き明かそうとするのが私たちの活動です」


(なるほど、面白い取り組みではあるな)


 現に戦闘職ならばその感覚を強く実感できるはずだ。なにせ修練の差が目に見える形で表れてしまうということに他ならないのだから


 その後、ステージに何かしらの魔道具が運び込まれ、後ろに真っ白な大きな布が掲げられる。


「ではこちらをご覧ください」


 魔道具らしきものを使うと、白い布に絵が写る。


「まず、スキルを理解するために我々は(アーツ)について調べました」


(それがあれだと?)


「まず皆様方も理解しているとは思いますが、(アーツ)とは武術の一つの型のようなものを再現するものです」


 (アーツ)は生きている者であれば、もっと言えばスキルの恩恵を受けている者であれば絶対に関わる。そしてその恩恵を実感していない者はいないだろう。


「ではなぜ、(アーツ)が使えるのか、自身でも習ったことがない動きをできるのか、それはひとえにスキルの恩恵、いえ、ここでは仕業といいましょう」


 すると白い布に細かい表が映し出される。


「私たちはスキルを解明するため、(アーツ)を分析しました。ここに乗せたものはその一例です」


(……なるほど、友が儂を呼ぶわけじゃわい)


 各武術スキルの最初の(アーツ)について詳細が書かれている。


「まず結論から言います。(アーツ)には2種類存在します、それを私どもは『初期(アーツ)』と『派生(アーツ)』と呼称しています。初期(アーツ)はスキルレベルとステータスのみを発動条件とすることができますが、それ以外の条件が必要になる派生スキルも存在することが確認されました」


(ほぅ、これは初耳だ)


「派生アーツについては、私どもは(アーツ)を調べる過程で、スキルレベル、ステータスの基準を満たしているにもかかわらず、特定の(アーツ)を使用できない者がいることが判明、これについて調査をした結果、判明したものです」


(……なるほど、その理由を調べたら、ほかの条件が出てきたわけだな)


 それからどのような過程で判明したかなどを発表される。


「そして新たに獲得した『派生(アーツ)』から、また新たな条件が加わってさらに派生していくのも確認しています。このスキルと(アーツ)の関係を我々はスキルツリーと呼ぶことにしました」


 一つのスキルで一つの(アーツ)を覚えれば、そこからまた新たな(アーツ)が覚えられるわけか。


「例えますと『デュアルスラッシュ』は、『剣術』のスキルが10以上で――」


 それからいくつもの例を交えて、詳しく解説してくれる。


(ふむ、あの子と相性がよさそうだな)


 脳内でとある生徒のことを思い浮かべる。


 それから、様々な(アーツ)やスキルについての供述がなされていく。

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