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中等部進学

「では行ってきます」


 王都への出発当日、屋敷の前には多くの人が見送りに来た。


「うむ、ではしっかり学んでくるように」

「ふふ」


 なんとか妹弟の前では威厳を保とうとしているが、すでに父上のだらしなさは伝わっているので少し面白く感じる。その様子に母上も苦笑している。


「兄さん」

「兄様」


 二人は近づいてくるがしがみつきはしない。


「二人とも勉強頑張れ」

「「うん!!」」


 素直に頷くので頭を撫でる。


「バアル様、準備が整いました」


 馬車の準備をしてもらっていたリンが終わりを告げる。


「それじゃあ、行ってくる」

「ああ、向こうでもしっかりな」

「体に気を付けてね」


 父上と母上が頭を撫でてくる。不思議と嫌な感覚はない。














 グロウス学園中等部には学部が存在しており、貴族の子弟は主に『武術』『魔術』『経済』『政治』の四つに分かれている。ほかには『薬学』や『農学』『医学』などもあるが、こういった学部はほとんどが平民で貴族はその分野を専攻しているごく少人数だった。


 主にこの四つになっているのには訳があり、中等部の進学先が関係している。


 俺のように領地を運営する予定なら『経済』、王城に勤め仕事で地位を確立する法衣貴族なら『政治』、『武術』と『魔術』なのだがこれは軍関係の子息が進む学部となっている。もちろんすべての生徒がこのような道をたどるわけではない。長所や短所を考えながら進む進路を変える場合も多々ある。


 それでいうと俺が進学するのはセオリー通りグロウス学園中等部の『経済』学部に。リンは『武術』学部、セレナは『魔術』学部に進学し、クラリスに関しては俺と同じ『経済』学部に進学することになっている。


 初等部は全員がそれぞれの科目を履修するから一緒にいることができたが、中等部からは学部によって校舎ごとに分かれているので全員がそれぞれ違う場所に向かうことになる。


「ですが、本当にいいのですか?」


 そうなると当然護衛であるリンがいない時間が出てしまう。


「まぁ大丈夫だろう、今回はそのためにネロを連れてきた」


 王都に向かう馬車の中には俺とリン、セレナ、クラリスの他に今回は俺の専属になったノエルに、今回護衛のために連れてきたネロの六人で王都に向かっている。


(それに学園は当然ながら警備がいる、そうそう何かが起きることはないだろう)


 実質的に一人になるのは学園内だけで、それ以外では通常通り、リンが護衛に着く手筈となっている。


『我らを忘れるな』


 そう言って足を突かれる。


「すまんすまん」


 今回は初等部とは違い、ウルとネアを連れてきている。


「武術には従魔と連携する戦術もありますからね」


 リンのつぶやいた通り、武術には従魔と共闘する戦い方がある。もちろんそれは従魔が必要なので今回からはウルを連れて行くことになっていた。


「うにゃ~」

『おい、尻尾で遊ぶな』


 ……ネアに関してはただただウルについてきただけだ。


 王都の屋敷に預けるため一匹もに二匹もさほど変わらない。


「泊まる場所はどうするの?」

「とりあえずは王都のゼブルス邸を考えている、あそこなら信用できるし、防犯もしてある」


 当然ながら二年目の誘拐未遂事件の後からたびたび暗殺者が放たれるようになった。


 もちろん公爵家と影の騎士団の防衛を突破できることなどなく、すべてが白日の下にさらされることもなく済んでいるが、王都となれば公爵家の防衛力は多少なりとも落ちる。


(その分影の騎士団がいる限り問題ないとは思うんだがな……)


 本拠地である王都なら影の騎士団が全力を持って守ってくれるとは思うが。


「一言で言えば、いろいろ不安なんでしょ?」

「その通り」


 クラリスの一言には全面的に同意せざるを得ない。














「おかえりなさいませ、バアル様」


 王都ゼブルス邸に入ると年老いた執事が出迎えてくれる。


「これから世話になる、ジョアン」


 ジョアンはこの王都ゼブルス邸の執事長。


 かなりの高年齢なのに、背筋は一直線に伸び、真っ白な髪は弱弱しさなど感じさせずにむしろ生来からその色だと思わせるほど生気に満ちている。


「それと今すぐにゼブルス邸のことを知りたい」

「わかりました、まずは奥方様と護衛の皆様のお部屋に案内させましょう」


 ジョアンが手を叩くと、執事や侍女がやって来て馬車の荷物を運んでいく。


「ではこちらへ」


 ジョアンの案内で館の中に入っていく。









「まずはこの館の管理を任されている、執事長ジョアンと申します」


 父上の執務室を借りて、ジョアンにこの館についての報告をしてもらう。


「まず屋敷で雇っているのは執事20名、執事見習い8名、それと私と同等の権利を有する侍女長アンリエッタ」


 ジョアンの後ろで30代ほどの侍女がカーテシーで挨拶をする。


「アンリエッタを筆頭に侍女80人、侍女見習い20人が在住、ほかにもコックが15人、庭師7人その見習い4人」


 これだけの人数がいれば屋敷の管理は十分だろう。


「護衛の方はどうだ?」


 もっとも聞きたい部分を聞く。


「護衛は40人、全員が軍役を終えた者で構成されています」

「腕はいい方なのか?」

「はい、ほかには傭兵ランクB以上が30人ほどいます」

「たしかにそれなら普通の襲撃(・・・・・)なら問題ないだろう」


 俺の意図が分かったのか近づき耳打ちしてくる。


「ご安心をそのうち20名は探索者ランクBでもあります」


 なので暗殺者などの侵入にも対応できる。


「少なくない?」

「そうでもないさ」


 セレナはすくないと感じている。


 まぁ普通に考えれば一つの屋敷に100人いてもおかしくないのだが、彼らは傭兵ランクB以上だ。


 通常の魔物などと戦う冒険者とは違い、傭兵は対人戦におけるエキスパート。なので同じランクだと舐めてはいけない。Bランクの傭兵二人でAランク冒険者を封殺することもできた事例があるほどだ。


 それほどまでに冒険者ギルドと傭兵ギルドには違いがある。


「こいつらは傭兵団なのか?」

「はい『幻ノ剱』という傭兵団です」


 ジョアンの説明だと、Bランク以上の傭兵団らしい。


「身元は?」

「はっきりとしております、全員がグロウス王国出身ですが地方はバラバラで北生まれの者もいれば、南もいますし、王都出身者もいます」

「素行は?」

「悪くはないです、たしかに少し酒癖が悪いと報告が入っていますが、目立った騒ぎなどは起こしていません」

「理由は何だと思う?」

「それは………申し上げるなら金払いの良さでしょう、傭兵では考えられない料金を支払っていますから」

「基本給金に金貨1枚、さらには侵入者を殺害で銀貨7枚、捕縛で大銀貨2枚だったな」


 普通に考えればかなりの高額な給金になる。なにせ何もないときはただただ警備をしているだけで百万近くの給金が手に入るのだから。


 それに奴らだって馬鹿じゃない。この地位をほかの誰かに取られないように実力をアピールし、問題行動を起こさないようにしている訳だ。


「もちろん、些細ないざこざはあるみたいですが、おおむね問題ないと判断いたします」

「……ちなみにだがあいつらが自分で襲撃者を呼び込んだとかないよな?」


 外でわざと自分たちに襲撃するように仕向け、傍から見ればゼブルス家が襲われているように見せる。


 そんなことをしているのなら即刻処罰するつもりだ。


「それもないでしょう、なにせ今のところ襲撃者は全員が捕縛されています。尋問も傭兵ではなく元からの護衛を使って情報を聞き出し処分しておりますゆえ」

「そうか」


 当然ながら尋問拷問に関しては傭兵団などには一切かかわらせていないとのことだ。


 総てを洗いざらい吐かせて、その中には傭兵団とのつながりを確かめることもしているらしい。


「まぁならとりあえずは問題ないな」


 そこまで徹底的に調べているなら問題ないだろう。


 その後、食事の時間まで館内の細かい報告をして貰う。




















 王都に来てから数日後。


「それでは新入生代表――」


 グロウス学園中等部の進級式が始まる。


 学園長がエルドとイグニアの名前を呼ぶと、二人は壇上に上がる。


(毎度思うがめんどくさそうだな)


 進級式は学部ごとに行われるのではなく中等部へ進学する生徒全員を集めて行われる。


 ただその際に問題が一つある。この新入生代表の挨拶は成績が高く、血筋がしっかりしている生徒が行うのだが、今年は二人の殿下が同時に進級してしまう。となれば通常は一人なのだが、どちらかを選ぶことなんてできない。なので苦肉の策として二人に挨拶を行わせている。


 最初にエルドが自身の派閥の生徒を激励し、次にイグニアが同じく自派閥の生徒を激励する。


「あれ?」


 隣にいるセレナが疑問の声を出す。


「どうした?」

「いえ、アークくんたちが見えたんですけど、なぜだかオルドの姿だけ見えなくて」


 セレナの視線の先を見てみると確かにアークたちがいるのだがその中にオルドの姿はない。


「進級試験に落ちたか」

「ですかね~?」


 とりあえずオルドのことよりも周囲のエルド、イグニアの派閥を確認する。


 式場は扇形に広がっており、中立派閥を挟んで壇上のエルド、イグニアの左右に合わせて派閥も分かれている。


 なので左右どちらが人が多いかで派閥の大きさをはかることができる。


(若干だがイグニアが優勢か)


 もちろん十分逆転される可能性はあるが、人が人を呼んで派閥はでかくなる。


 誰だって勝ち馬に乗りたい、それゆえに元から人数が多いほうが優勢になりやすい傾向がある。


「あ、ユリア」


 リンがイグニアの婚約者であるユリアを見つけたようだ。


 一瞬を視線を送り、様子を確認する。


 どうやら向こうも派閥の大きさをはかっているようだ。


「エルドは『魔術』学部、イグニアは『武術』学部か」


 挨拶により、それぞれの学部が判明した。


「リン、セレナ、学園で取り込まれないように注意しろよ」

「はい」

「へ?」


 リンはしっかりと理解しているようだが、セレナはわかっていないらしい。


「簡単に言うと、二人の王子がリンとセレナと同じ学部なの、となると当然二人はあなたたちを取り込もうとするわ」

「なんで?」

「バアルの直属の部下ってことで、うまくいけばバアル自身も取り込めるかもしれないってことに加えて、二人はユニークスキル持ちでしょ?フリーでも十分勧誘の対象になるわ」


 全く持ってクラリスの説明通りだ。


「うへ~」

「嫌そうにするな、どっちにしろ深くかかわらなければ何も問題ない」


 式が終わると、その場で解散となり式場を後にする。

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