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喉から手が出るほど欲しい余り物

 それから数日何事なく平和に過ぎていく。


 自室で雑務を終わらせると、懐かしい相手から連絡が着ていた。


『そっちは順調かい?』

「ああ、アルムこそ、国の統治は上手くできているのか?」


 通話の向こうにいるのは今年ノストニアの森王に即位したルクレ・アルム・ノストニアだ。


「それで交易の方はどうだ?」

『順調だね、魔道具も続々購入できているみたいだし、こっちとしては量が多いだけの薬草を売りに出せばいいだけだしね』


 そういってアルムの笑い声が通信機の奥から聞こえてくる。


「そこまで薬草ってのは豊作なのか?」

『あれ、クラリスに聞いていないんだ?』


 ノストニアは四季が存在しないとされているのだが、正確には神樹の魔力で環境を固定しているだけらしい。


 そして環境をローテーションで回すことにより、毎年有り余るほどの薬草が取れるのだとか。


『もちろん、月光花や太陽花、仙水草とか、神樹でも整えられない環境での植物は運頼みになるんだけどね』


 神樹が操作できるのは気候、温度、湿度、植生、土壌環境、風の流れ、魔力の流れと濃度の8つの項目らしく、これ以外の要因が関わる薬草などはさすがに用意はできないらしい。


(つまりは逆に言うとそれらの要因で栽培できる薬草などは毎年豊作となるわけか)


 そう考えると自国民の食料自給率を自由自在にできる術をノストニアは持っていることになる。


(十分注意しないとな)


 これは言い方を変えれば他国のある特定領域のみに生える草花を栽培できる可能性がだいぶ高い。


 もちろん、ゼブルス領にはそれなりに特産を誇っている野菜や果物もあるので、それらはできるだけ渡したくない。


『そう言えばそっちでは二年ほど不作が続いたみたいだね、大丈夫?』

「問題ない、何度も経過観察の報告を事細かに入れさせている」


 報告によれば、例年の平均以上は取れると報告されている。


『もし食料が足りなくなったら言ってね、売ってあげるから』

「お代は魔道具でか?」

『その通り、調べたけど貴族向けに作られた大規模な魔道具とかもあるらしいね?』

「なんだほしいのか?」

『できれば多種多様に』

「だが現在売っている魔道具ではないものとすると下手すれば全くいらない可能性すらあるぞ?」

『いいさ、その時はその時で使い道を考えるよ』


 その後は貨幣の流通、現状の情勢をお互い話せる部分まで話す。


『話は変わるけど、クラリスは元気にしているかい?』

「ああ、元気に図書室で情報収集しているよ」

『そうじゃないんだが、それよりそっちでは長期の休みに入ったんだよね?』

「ああ、それがどうした?」

『こっちに来る予定とかあるの?』

「ないな」


 学園は休みになると言っても俺は現在進行形で書類を処理していっている。


「もちろん仕事って話だと、行かざるを得ないが今の状況で行こうとは思っていない」

『そっか、クラリスは今年は里帰りはしないのか』

「寂しいのか?」


 ここで思いつく。


(クラリスの里帰りにという名目で、仕事を抜け出せるんじゃないか?)


 別段、俺は仕事大好き人間というわけではなく、あくまで次期公爵となるための修行でこの仕事を行っているだけだ。


 なので休めるなら普通に休みたかった。


『別段無理に帰らせる必要はないよ、僕たちエルフは10年に一度くらい顔を見せてくれればいいから』


 アルムの必要ない宣言で休みの可能性はなくなった。


 しかもそれを理由に休むことはまずないということになる。













「一応確認したいんだが、アズバン家からの横やりは入ってきているか?」

『北の公爵家だよね?今のところはないね、しいて言えば少しだけ交易の品に要望を出してきたくらいかな』

「ちなみにどんな要望だった?」

『なんでも食料が余っていれば交易に出してほしいらしいよ』

「食料だと?」


 アズバン家にもきっちりと作物は売り出しているはずだが。


『これは僕の予想だけど、アズバン家とゼブルス家って仲が悪い?』

「致命的ではないけど比較的な」

『そっか~じゃああんまり食料を売りに出さないほうがいいかな?』

「いや、問題ない」


 アズバン家がうちの食料を買うよりも、交易距離が近いノストニアから食料を買い込むのは資金的にも時間的にも合理的だ。


 なにせ向こうは隣接しているが、こっちからの作物となるといくつかの貴族の領地を経由する必要が出てくる、それだけでも通行税がかかるため、値段が上がってしまう。


 たとえ他国からの輸入だとしても、そっちのほうが値段は低くなるならそちらを取るのが合理的だろう。


(まぁ、当てつけの部分も多少はあるのだろうがな)


 ゼブルス家に少しの金でも落としたくないという意思もあるのだろう。


「そういえば、ノストニアの貨幣は紙だよな?」

『そうだよ』

「それだと万が一にでも偽造されたらどうするんだ?」


 こちらの通貨は硬貨での取引なので、偽造するメリットはそこまでない。


 価値があるのは硬貨に使われている金属だ、そこの配分が同じであれば偽造しても何ら意味がない。


 もちろん、多少違う金属を混ぜて価値を下げたとしても、金属音や硬質、色合いなどで見破ることはできる。


 だが紙幣であるならば、同じ紙質を用意して、同じ絵や柄を書いてやれば簡単に偽造できてしまう。


『ああ~なるほどね、そうだね、一言で言えば無理だよ』

「どうしてだ?」

『僕たちが使っている紙幣には特殊な魔力が浸透されてあるから』


 アルムの話だと、神樹の葉の一部繊を混ぜることにより、紙幣自体に特殊な魔力を持たせている状態なのだとか。


「なるほどな、魔力を見ることができるエルフなら真偽はまるわかりか」


 たしかにそれなら納得できる。


 アルムも俺たちには絶対に真似できない技術だから、こんな簡単に教えてくれるのだろう。


『それとなんだけどさ、実は神樹の実が少し余っているんだけどいるかい?』

「何が欲しい?」

『わぁお、かなり食い気味』


 当然だろう、なにせ人族からしたらほぼノーリスクで最大魔力量を上げる、文字通りの魔法の果実なんだから。


『余った、神樹の実は3つだね、浅黄(あさぎ)色、杜若(かきつばた)色、露草(つゆくさ)色の三種類だね』


 なんとも聞きなれない色ばかりだな。


「ちなみに余った経緯を聞いていいか?」

『簡単だよ、ほら神樹の実っていろいろな種類があるじゃん?だからさ、契約している精霊の中ですべてがうまくかみ合うなんてことはまずないわけ』


 つまり千色の果実があるとして、そのすべての色がその場にいる精霊にうまく合致するわけではないという。


 もっとわかりやすく言うと、赤、青、黄の三つの神樹の実があるとしよう、そして三体の精霊がいるのだが今年は赤色と青色を欲しがる精霊しか現れなかった。そうなると当然、黄色の実は余ることになるということだ。


「納得だ、だから青系統に近い実が残っているわけか」

『そういうこと、それで値段のほうだけど、一個5千万ユグでどうかな』


 ちなみにユグとはノストニアで流通している貨幣の名前だ。


「確か、1ユグはグロウス銅貨だったな……大金貨15枚か」

『どう?』

「……了解だ、いくつか物納でもいいか?」

『もちろん、むしろそうしてもらいたい、こっちではそっちの硬貨はそこまで重要視してないし』


 ということでどんな魔道具で物納するかの話を詰めていく。


 結果~


 小型冷蔵庫500台

 中型冷蔵庫250台

 大型冷蔵庫20台

 洗濯機500台

 レンジ500台

 貴族専用に卸している大型魔道具数点


 と決まった。


『じゃあ取っておくから取りに来てよ』

「了解だ、部下を向かわせる」


 ということで話はついた。
















 その日の晩、貴重な神樹の実の交渉が終わったことにより、いい気分でベッドに入る。


「………すぅーーーー」


 深呼吸すると、自然に意識が遠くになっていき、やがて穏やかな寝息へと変わる。










 当然だが、この屋敷には警備がおり、暗殺者などを侵入を許す、ことはない、だがこの夜だけは違った。










〔~???視点~〕


「………」


 周囲に人影がいないことを確認して、廊下を進む影がある。


「………」


 しばらくすると一つの部屋にたどり着く。


「」

「」コクン


 仲間に視線を向けるとカギ穴に手をかざし、開錠する。


 その部屋は装飾が少なく、貴族に必要なもの最低限で済ませてあった。


(目標の境遇が話通りならこの家具の少なさも納得できる)


 中を見渡すとベッドの上のふくらみを見つける。


 仲間に視線を合わせ、そしてベッドに近づいていく。


 だが





 リィン、リィン!


「「!?」」


 突然鈴のような音が鳴る。


 その音と同時にベッドから何かが飛び出て、一人の腹を打ち付ける。


「がはっ!?」

「っ!?」


 もう一人はすぐさま飛び退くが、一瞬光ったと思えばすぐさま首に腕が当てらる。


「とりあえず眠れ」


 背後から声が聞こえると同時に、かなりの力で首が絞めつけられる。


 何とか拘束を外そうとするが、力が強すぎて、振りほどけない。


「ちっ(本来なら無傷で攫うはずだったのだが、こうなったら仕方がない)」


 とっさに毒を塗った短剣を取り出し、背後に取りついている者を刺そうとする。


 ギィン


 だが横からの衝撃を受け、短剣が弾き飛ばされてしまう。


 何とか振り向いて確認すると黒髪の少女が剣を振るっていた。


(しく、じった、……か………)


 次第に気が遠くなり体に力が入らなくなる。













〔~バアル視点~〕


「たく、人の眠りを邪魔しやがって」


 いい気持ちで寝ていたのに、突然の襲撃で目を覚ます結果となった。


「暗殺者ですか…警備は何をしていたのでしょうか」


 リンも少し怒り気味で警備に対して文句を言う。屋敷には警備のための人員や影の騎士団のような暗部も存在している。それなのに簡単に侵入を許しては何のための彼らなのか。


「とりあえず、警備の人たちを呼んできてくれ」

「わかりました」


 リンが部屋を出ると気絶している二人を見る。


(典型的な真っ黒な服装、所持品は毒塗りの短剣、それと何らかの薬品が数点と、しみこませるための布か)


 装備からして誰かを攫うつもりであったのは明白だ。


「っ!?」


 寝起きから少しして感覚がはっきりとすると、屋根上にとある気配を感じる。


「バアル様、警備の者を連れてきました」


 ちょうどよく五名の警備兵をリンが連れてきた。


「お前たち、そこの二人を監視しておけ!!」

「バアル様!?」


 警備兵に命令を出すとすぐさまバルコニーに出て、手すりに飛び乗り、屋根に上がる。


「ありゃ~やっぱり失敗したか~」


 そこにいたのは宙に浮かんだ一つの影と、屋根に足をつけた人影。月明かりが出ているので風貌はわかるのだが、残念ながら彼らの装備しているローブで顔までは見えなかった。


「どうする?」


 両方とも声は女性だ。


「こうなるともはやここにいる意味はないね、撤収~」


 そういうと腕をフリ、高身長のほうも浮き上がる。


「逃がすかよ『天雷』」


 すぐさま天雷を放つが剣士が前に出て剣を振るうと雷が二つに分かれ、逸れていく。


「うひゃ~こっわ~」

「おい、早く上がれ」

「じゃあね、お坊ちゃん、また機会があったら会おう」


 そういって上昇していく。


「そう、易々と逃がすわけがないだろう」

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