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訳アリ騎士

 ロンラン商会が去った後は平和な日常が過ぎていく。


 学園生活も問題なく過ぎていき、夏季休暇直前の試験もなんの問題もなく行われていた。


 総合試験順位


 一位エルド・セラ・グロウス:400点

 一位バアル・セラ・ゼブルス:400点

 三位ユリア・セラ・グラキエス:397点

 四位セレナ・エレスティナ:394点

 五位イグニア・セラ・グロウス:387点

 六位アルト・セラ・イファイラス:386点

 七位ニゼル・セラ・アズバン:384点

 七位ウィルベルト・セラ・シリュセンツ:384点

 九位ホクル・セラ・アジュルヴ:375点

 十位ソフィア・テラナラス:374点

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 武術試験順位


 一位イグニア・セラ・グロウス:100点

 一位バアル・セラ・ゼブルス:100点

 一位リン・カゼナギ:100点

 四位マウル・セラ・アレスト:98点

 五位ニゼル・セラ・アズバン:96点

 六位アーク・ファラクス:93点

 七位オルド・バーフール:91点

 八位キミリス・セラ・ミブスト:92点

 九位エルド・セラ・グロウス:89点

 十位カリナ・イシュタリナ:88点

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 魔法技能総合試験



 一位ライラ・セラ・グリスバ:100点

 二位セレナ・エレスティナ:99点

 三位アエル・セラ・エシュツ:97点

 三位エウリオ・セラ・ティムクス:97点

 五位ソフィア・テラナラス:95点

 五位ダヴィル・シオクル:95点

 七位ルマイヤ・セラ・フィジスト:93点

 八位ミシャール・セラ・ディアック:92点

 九位カトル・セラ・フリューゲル:91点

 十位リュオ・マクティア:89点

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 二年の最初の試験の結果が張り出されている。


「うぐぐぐぐ」


 隣でセレナが魔法技能の部分を見てうなっている。理由は視線の先にある魔法技能試験の結果だ。


 魔法技能試験はグロウス学園初等部二年から始まることになっている。これは貴族生徒と平民生徒の平等化を考えたうえで取られた措置だ。


 貴族は幼いころから魔法について触れるが、平民はそうではない。最初の一年で魔法の存在を知り、学び、二年からその技術を学んでいくというわけだ。なので一年にあった魔法学とはまた別の評価となる。



 そして横でうなっているセレナは自信があったのか順位を見て悔しそうにする。


「まぁ次がんばれ」

「……は~い」


 ちなみにだがクラリスは試験を受けていない。


 彼女はあくまでこの学園を体験しに来ているのだ。この学園の枠組みではかろうとするとかなりのアドバンテージが生じるため、除外となった。


「にしてもバアル様は魔法技能は23位なんですね」


 セレナが何事もなく言った言葉に周囲は固まる。


「まぁしたかない、俺は魔法を使った戦闘は基本的に苦手だしな」


 戦闘においては希少な魔具であるバベルがある。さらにはユニークスキルやイピリアとも契約している。


 そんな状況で魔法などほとんど使うことはない。


「それよりも、だ」


 視線を別の方向に向けると二つの集団が対立しているのが見える。


「僕たちの派閥のほうが実力は上だね」

「はっ、何言ってやがる、武術試験では俺たちのほうが圧倒的に有利だ!」

「何を言っているんだか、国の一番上に立つには知力が最も必要だ」

「いーや、違う!一番上に立つのはすべてを守り通せる武力こそが重要だ!」


 俺たちは静かにこの場を離れる。


「放っておいていいの?」

「いい、ある意味いつものことだ」


 先ほどのやり取りはお分かりの通りエルドとイグニアのマウントの取り合いだ。競い合う派閥があれば当然と言えば当然だが。


「これが次期国王の姿なんて先が思いやられるわね」


 クラリス視点でも二人の姿には嫌な予想を生ませるには十分なのだろう。


「全くだ」


 だが、この問題はもはやどうしようもない。なにせ時代をさかのぼることなんてことは誰にもできないのだから。







 試験結果が発表されたということはこの後は夏休みの期間に入ることになる。


 俺は執務やイドラ商会の仕事のため、ゼブルス家に戻る必要があった。


「クラリスはどうする?一回ノストニアに戻るか?」


 俺たちはゼブルス領に戻るが、クラリスは別段その必要はない。


 彼女はあくまで情報収集のためにグロウス王国に来たのだ、情報を届けるために帰るのも一つの手段だ。


「冗談、とりあえず生誕祭になるまでは帰るつもりはないわよ」


 ということでクラリスもゼブルス家についてくることになった。














「それで何の御用ですか?」


 学園が夏季休暇に入り、明日にはゼブルス領に向けて立つときに突然グラスがやってきた。


 傍に一人の少年(・・)騎士を連れて。


「いきなりだが、このネロをゼブルス家で雇っていただきたい」

「………どういう意図で?」


 コネ採用ということなら断固拒否するが、グラスの表情からそんな軽いことではないのは明らかだった。


「それは言えない(・・・・)


 思わず眉が動いてしまう。


「どういうことですか?」


 理由が言えないのは、何かわけがあると言っているようなもの。本来ならある程度しかるべき説明をするのが普通だが、それすらも言えないとなると少々穏やかではない。


「これをリチャード殿に届けてほしい、そうすればすべてがわかる。だが中身は見ることを禁じる。もちろん王命も発行されている」


 ここまでの事態となるとただ事ではない。それもめったに発行されない王命の証書を添えてだ。


「わかりました」


 だがここまで言い含められているならこちらとしてもどうにもできないので、あきらめて手紙と同時に命令書も受け取る。


「一応確認ですが、待遇などは普通の騎士のままでよいのですね?」

「そこもすべて手紙に書いてある」

「……わかりました、ですが雇用に関しましては、父上に届けてからそのあとに判断を仰ぎます、よろしいですね?」

「ああ、それで構わない」


 という訳で急遽一人増えることになった。









 翌日、予定通り王都を出発してゼブルス領へと向かう。


「で、お前は誰なんだ?」


 そんな馬車の中で対面しているネロに問いかける。


「私はネロ、家名などは今はご勘弁ください」

「では、いつしゃべる?」


 俺はネロを観察する。


 俺よりも輝いて見える金髪を後ろで一つにまとめて、鮮やかな緋色の瞳が印象的だ。その顔もかなりの女性顔で下手すれば男でもいいという奴が出てくるかもしれない。年は俺より少し上。鎧は比較的に動きやすいようになっており、腰に一つの剣を携えている。


 そしてその身から発せられる育ちの良さからは高貴な存在を醸し出す。


「私からは何とも、すべては御当主から説明されると思います」


 自分からは名前以外明かさないといった態度をとる。


「俺よりも少し年上か?」

「はい、今年で15になります」


 俺の2つ上。


 本来では騎士となるにはグロウス学園の中等部を卒業した後が通例だ。近衛騎士となるにはさらに高等部までの経歴が必要になる。


 もちろんそれは通例であり、全員がそうとは限らない。


「中等部に行こうとは思わなかったのか?」


 その年齢だと今年でちょうどグロウス学園の初等部を卒業したあたりとなる。


 ある意味ではゼブルス家の騎士になりたいとする気持ちもわかると言えばわかるが、ここで疑問に思うのは、公式な募集に応募する訳ではなくグラスがわざわざ紹介してきたことだ。ゼブルス家では普通に騎士や魔術師、文官を募集しているのにだ。


 さらにはコネだけではなく手紙を持たしたときた。


(どう考えても、訳があるだろうな)

「なにか?」

「普通に応募しようとは思わなかったのか?」


 現在ゼブルス家が募集している武官、文官の条件は


 ・年齢15以上(一部例外あり)

 ・武官、文官になる実績


 この二つだけだ。


 なのでラインハルトのように平民の出の騎士も多く存在している。


 もちろん推薦状や、実績の提示でより受かりやすくはなっているが、基本は実力のみを見ている。


 そして重要なのが『実績』となっている。わかりやすい例を出すと中等部を卒業した、兵士として何年か従軍していたとかのことだ。もちろん解約権留保付労働契約に似たものもあり、より良い条件の職場に移ることもできる。


 だがネロはその道を辿らずコネを使用した。


「もちろんそちらでとも考えていましたが、諸事情ですぐ騎士として活動したかったのです」

「その諸事情とは?」


 ネロは首を横に振る。


 ここまで口が堅いということは、探ろうとしても口を噤むだろう。


「では何ができる?」


 おそらくネロを雇うのは確実だろう、となるとできる技能を聞いておく。


「騎士のやるべきことは一通り学んでおります、ほかにも文官の技能も取得しております」

「希望は騎士なんだよな?」

「はい」

「では武術や魔法はどうだ?」

「剣術はグラス殿に習い、魔術については宮廷魔術師に習いました」

「………」


 こいつは馬鹿だろう。なにせ自分で近衛騎士団長のグラスと王城で務めている魔術師に習っていると自白した。ということはネロの正体はある程度察することができる。


「それじゃあ、かなりの腕だな」


 とりあえず場を濁しながらゼブルス領に向かう。















 ゼウラストにたどり着き、館に着くと早速ネロを連れて父上の執務室に入る。


「父上説明をお願いします」

「ん?また急だな」


 案の定、父上は仕事をせずにソファに寝転がっていた。


「………これが御当主様ですか?」


 ネロも父上のだらけっぷりに言葉が出ないようだ。


「誰だ?」

「お初にお目にかかります、ネロと申します」


 ネロは挨拶するが父上自身は戸惑いながらこちらを見る。どうやら父上はネロについて心当たりはない様子。


 とりあえずグラスから雇ってほしいと言われた人物だと伝える。


「そしてこれが渡された書状です」

「ほぅ、どれどれ」


 ナイフで封を切り取り、中身を拝見する。


「!?」


 手紙を読んでいる父上に反応があった。


「バアル、中身は見てないな?」

「もちろんです。王命も出されたようなので」

「では今すぐ席を外しなさい」

「……わかりました」


 いつものひょうひょうとした雰囲気ではなく真剣なまなざしだったので、空気を読んで退室する。


「では俺は自分の部屋にいます、何かあったら呼んでください」

「ああ、それとエリーゼも呼んできてもらえるか」

「母上もですか?」


 ここで母上を呼んで、俺を退席させる理由がわからないが、とりあえず指示に従う。

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