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動き出す裏側

 結局、あの後場所を変えたが、戦闘の影響で様々な部分に衛兵が蔓延る事態に陥り交渉中断になった。


「で、話とはなんだ?」


 キラの方で襲撃を受けた二日後、借家の自室でルナの報告を聞いている。


「実は少し前にスラム街で騒ぎがあったのをご存じですか?」


 いや、知っているも何も現地でドンパチをやった側だ。


「一応報告には上がっているな」

「ありがとうございます。それと話は変わりますが、最近バアル様はアジニア皇国のとある商会長と接触しましたね?」

「ああ」


 この事からある程度俺について調べているのは確定した。


「それがどうした?」

「実はスラム街の事件でどうやらアジニア皇国のジュウという武器が使われていたようなのです」


 おそらく死体のジュウを見聞したのだろう。


(さすがに死体まで片付ける暇はなかったからな)


 だがこれで(バアル)の方でも動きやすくなる。俺に接触した人物が渦中の事件にかかわっているとなると、様々な理由を付けて動けるようになるからだ。


「つまり、フォンレンが今回の件に関与している可能性があると?」

「フォンレンというのですね」


 ルナは俺の意図に気づいてくれた。


(これでロンラン商会を調べるだろう。それに――)


 すでに数日前の件はキラでフォンレンとフシュンの内部分裂による事件だとわかっている。


 だが最後につぶやいたあの言葉。


『やめだ、そっちよりも重要な対象が現れた、しかも少し厄介でな頭数が必要だ』


 この言葉はつまりこの国でほかにやることができたということだ。


(影の騎士団が警戒するなら奴らも動きにくくなるはずだ)


 監視の目が蠢けば彼らの望む行動などはしにくくなる。さらには影の騎士団でも行動を掴める可能性が上がる。


「では、続報があり次第また連絡しに来ます」


 ルナが部屋を出ていく。これからフォンレンや事件の関連性について調べに行くはずだ。


 だが、やはりルナだけでは少し不安だ。


(少しだけ手伝うとするか)














〔~ルナ視点~〕


(何で私はこき使われているんだっけ?)


 私はスラム街を進みながらふと思う。


(最初はイドラ商会の件から始まったっけ)


 根幹の装置を奪取する目的で隊長とデッドで侵入し、罠に嵌められて関係が始まった。


(………あの件は確かに油断していた私が悪いわよ、でもなんであんな大変な人物の専属にならなければいけないのよ!!!!)


 その後はこき使われまくっていた。


 脳裏に黒い笑顔を浮かべているバアル様が浮かび上がる。


(なんで若は毎度毎度無理難題を出したりするのよ!!!自分でも暗部を放っているならそっちを使いなさいよ!!!!)


 お得意の魔道具を持たせている暗部を放っているなら影の騎士団よりも迅速に情報を得られているはず。


 なのによく影の騎士団を使っている。


(合宿の件でもそうだしアズリウスのオークション、ノストニアでの国交開発の際も私たちを動かして!!)


 ノストニアの際に魔道具を貸与したことに関しては仕方ないとしても、合宿の際に自身の暗部だけで事前に阻止することができたし、オークションに関してはわざわざ報告を上げさせる必要すらない。


 そしてそれらのことを思い出しているともう一人怒りを覚える人物が思い浮かぶ。


(あいつにも腹が立つ!!!)


 あいつ(・・・)が嵌めたことにより私たちがこんなに使われている。


(牢屋で鍵に発信機が付いていることは教えなさいよ!!それと合宿の件よ!なんで魔物誘引剤を使っているのよ!!)


 なぜあの場であのような行為をしていたのかは謎だ。あの禁忌品ならもっと他に使い道があるのにだ。


(おそらく依頼でしょうね、誰かを狙った)


 貴族とは汚い部分も多く使う、暗殺などその一つだ。


 そして影の騎士団を支援しているのもそんな手を使うこともある貴族たちだ。下手に藪を突いて芋づる式に支援者の裏事情が解明されてしまえばどうなるか………なので、ああいった事件は陛下が許可しない限り深堀しない範囲の調査で済ましている。


 ただ陛下が独自で貴族の弱みを握るため秘密裏に情報を収集しているらしいが、残念ながらその人員に私は入っていないため、あの合宿の件は大部分が謎のままだった。


 そう考えると自分の仕事に嫌気がさしそうだがそうでない貴族もいると知っているので複雑な感情になる。


(それでいうと人が悪そうなバアル様はなぜだかいくら調べても清廉な統治をおこなっている面しか見えないし)


 バアルは政治に関しては私情を一切挟むことなく行っているのでそれも当然と言えば当然だが、ルナは様々な暗い情報を持っていることから信じられないでいる。


 そしてスラムの住民に話を聞くために目的地を向かっていると





「動くな」






 突然、後ろから首を掴まれる。


「!?」

「下手に動くな、殺す羽目になる」


 首に当てられた手は暴れようとすると容赦なく力が籠められる。


「……何の用?」


 命を握られているというのに【危機感知】スキルの反応がない。


(今のところは殺すつもりはないということね)


 ほんの少しでも死ぬ確率があるならスキルが反応してくれる、だがそれがないということはとりあえずは殺す気はないということ。


「久しぶりに見たことある人物がいたのでな挨拶しに来た、っていえば信じるか?」


 何とか顔を動かし、後ろを確認する。


「まさかこんなところにいるなんてね」


 冷たい手で首を掴んでいるのは薄気味悪い被り物をしている、私を忙しくさせた元凶だ。


(こんな近くに潜んでいたのね)

「さて、一つ質問させろ」

「……なに?」


 本来なら聞く必要はないのだけど、今回は裏の世界に入り浸っているこいつはいい情報源になるかもしれなかった。


「少し前に起こったスラムの件を調べているのか?」

「………そうよ」


 話そうか迷ったが別段知られても問題ない範囲だと思い教える。


「なら提案だ」

「提案?」


 以前嵌められた、その経験から警戒せざるを得ない。


「情報交換しないか」

「……どういう意味?」

「簡単だ、少し前に俺にとある交渉があった、だがその最中に襲撃を受けてな」

「あの争いは貴方たちだったの」


 事件の張本人が現れてある意味では僥倖(ぎょうこう)だった。


「そうだ、それで襲撃者のことを詳しく知りたいんだが、いかんせん、王都で俺は動きにくい、だから」

「私たちを使おうとしている訳ね」


 納得がいった。


 この男はゼブルス家から追われる立ち位置だ、いくら潜伏しているからと言ってもゼブルス家の長男がいるこの王都で活動してしまえばまずいことになるのは明白。


「いいわ、ただし今回の情報は等価値ではないわ、貴方が王都にいるということをバアル様に伝えれば」

「別段伝えたところで意味がないがな」

「!?」

「あらかじめ逃げる経路は確保しておくのが普通だろう?」


 私がこの場をしのぎ、バアル様に報告したところで、その前に逃げ切る自信がある様子。でなければこのような態度は取れないはず。


「………分かったわ、情報交換の要求は呑むわ」


 そう言うと首に込められている力が緩んでいく。


「では場所を変えるぞ」

「……」


 情報をもらうため、否応なく場所を変える。
















 数日後、俺の自室にルナからの報告書が送られてくる。


(くれてやった情報を上手く利用できたようだな)


 俺が上げた情報は3つ。


 ・襲撃者の際にフシュンという人物がいたこと。

 ・襲撃者がジュウという武器を取り扱っていたこと。

 ・去り際に何かをやらかすことをつぶやいていたこと。


(………やっぱりフォンレンとフシュンは敵対しているな)


 ルナからの報告書には、王都にいるロンラン商会の構成員、立ち位置、どのような経路でグロウス王国に潜入したのか、そして現在どのような行動をしているのかが書かれている。


 フシュンはグロウス王国とのやり取りを担当し、フォンレンは当然ながら商売を行っている。もちろんそれは表の動きで、裏側ではお互いがお互いを排除しようと動いている。


 報告書にも


『ロンラン商会会長が今回、この国に来たのは反政府勢力の排除が目的と判明。段取りとしてはわざとフシュンを泳がせ、自身の暗殺に貿易禁止品であるヒナワジュウと言われるものを持ち出したことを証拠に殺害を計画していた模様。』


 と書かれている。


(自身を餌に国にとって害ある物を選別し排除か)


 予測が的中した。


 そして、文の最後に気になる一文が書かれている。


『ただ一点、スラムでの戦闘以降ロンラン商会は別のことに気を取られている模様、しかもゼブルス家を重点的に調べていることが判明。』


(標的をフシュンからゼブルス家、もっと言えばセレナに変更した?)


 断言はできないが理由はセレナにあるだろう。


 そして少し思考する。


(おそらくフシュンの件はおまけ。最初からイドラ商会の製作者と接触するのが主目的)


 理由は言わずもがな、俺が流している魔道具だ。


(セレナは気にしなかったみたいだが、どうやら例の皇帝は同じ転生者だと薄々は気づいているはず)


 魔道具は前世に出回っていた家電をモデルにしている、気づくものは気づくだろう。


 そして笑みがこぼれる。


(本当にセレナがいてよかったよ)


 本来なら製作者である俺を疑うがあの書状の反応を見せたことでフォンレンの興味が俺から生贄の羊(セレナ)に移った。


(そしてゼブルス家、もっと言えばセレナを監視しているのだろう)


 さすがにゼブルス公爵家の関係者と言うことから強引なことはしないと思うのだが。相手の目的が『敵対』か『懐柔』か『友好』かもわからないのでとりあえずは警戒し様子を見るしかない。


「バアル様、大変です!!」


 血相を変えた、リンが部屋に入り込んでくる。


「どうした、セレナが捕まりでもしたか?」


 セレナは前世の記憶があるにもかかわらずどんくさい部分があるのでころっと騙されそうなのだ。知らずにやらかしていても何もおかしくない。


「知っていたのですか!?」

「……………はい?」









「バアルざま~~~」


 リンに連れてこられた兵舎に入ると、牢屋の中でセレナが檻に張り付きながら涙を流している。


「さて、弁明を聞こうか」

「!?私は嵌められたのです!!」


 それからセレナが捕まる経緯を聞くことになる。

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