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実装された物


 フォンレンと会合した三日後の夜。いつも通りキラを動かし、アルガに会いに行く。


 スラム街の複雑な道を幾重にも通り、目的地である酒場に入る。


 酒場は盛況とは言えないがまばらには客の入りがいい。もちろんここがスラム街の酒場であることから普通の客ではない。もちろんながらそこに入る俺も目的があっての事だ。


「おや、来ましたか」


 酒場の一席ではアルガが供の者を連れて酒を飲んでいる。


「それで話ってなんだ、しかもこんな場所で」


 今来ているのはスラム奥深くの隠れ家ではなく、息のかかった店の一つだ。


 なぜこのようなところに来ているのかというとアルガからの一つの連絡が来ていた、その内容が


『実は勝手ながら件の輩と接触しまして、その際にぜひ聞いてほしい話があると』


 という物だった。なんでもあちらから接触があり、なにやら依頼がしたいとのこと。


「安全か?」

「ご心配なく、周囲に組の者を100人以上配置しておりますので」


 キラの体に備えているセンサーで調べると、店の中だけでなく隣の建物にも多くの人員がいるのが見て取れる。


 そしてしばらくすると俺たちのいるテーブル席に腰掛けてくる存在がいた。


「エールとミルクどっちが好みだ?」

「どっちでもない、しいて言えば血のようなワインだな」


 このやり取りは符号と同じ役割をしている。


「あなたですか、よろしければ顔を見せてもらえませんか?」


 対面に座った人物は深めのローブをかぶっており、顔が見えない。そして背後には二人の護衛が立っているが、そちらもローブをかぶっており、同じく顔がわからない。


「……もう少し人目のない場所じゃなければ無理だ」

「わかった」


 アルガが店員に話を付けるとローブとその護衛と共に奥の空間に移動することとなった。











 スラム街の酒場なだけあり、奥の通路に入ると話し合いにうってつけの密室に繋がっていた。


「ここならどうでしょう?」


 アルガの言葉に対し、返答代わりにローブを脱いでくれる。


「さて、では自己紹介と行きましょうか、私は『夜月狼』の副総督、アルガです」

「……フシュンだ」


 ローブを脱いだ男はどことなくフォンレンに似ていて、同じような装飾品を身に着けている。


「それでは早速話し合いに入りろう」


 フシュンの護衛である二人が背嚢から何かを取り出し机に置く。


「これが交渉の物です」


 机に置かれたのは前世で何度か見たことがある物だった。


「名はヒナワジュウといい魔力を使わずに人を殺す道具です」


 フシュンの護衛はそれを5丁取り出し、使い方を説明していく。


「まずは火薬を込めて、次に弾丸を込めます」


 棒を取り出し、火薬、鉄弾という順番で筒の中に込めていく。


「次に火縄を火ばさみにはさみます、本来ならこの時点で縄に火をつけておきます」


 今は説明のみなので火はついていない状態だ。


「あとは狙いを付けて引き金を引く、これだけです」

「ほう」


 アルガはこちらに視線を向けてくる。おそらくだが以前、義手から出した物に似ているとでも思っているのだろう。


「これだけか?今の話だと火薬の部分が重要になるだろう?」

「もちろん、それなりの火薬もつけますよ」

「なるほど、ではそちらの要求を聞きましょう」


 一つの細かい男の絵を差し出してくる。


「我々が依頼したいのはこの男を暗殺してほしい」

「詳細をおねがいできますか」

「……名前はフォンレン、ロンラン商会の現会長だ」

「暗殺の理由をお聞きしても?」

「馬鹿、やめろ」


 アルガの言葉に反応し、護衛の一人が刀を抜こうとするがフシュンが止める。


「受けてもらえるなら話しましょう」

「困りましたね、こちらとしてもどんな人物かわからない段階で暗殺の依頼を受けることはできないのですが」


 双方がにらみ合う。


 俺達はどんな勢力に属していてどの立ち位置にいるのかわからない相手には極力触れたくない。


 相手側も対象の素性を放すことにより自分たちがどの陣営にいるのかを教えてしまうため話したくない。


「「………」」


 両者とも均衡を保つように思われたが。


「フォンレンはロンラン商会会長。そしてロンラン商会はアジニア皇国での王族御用達商人に抜擢されております」


 あちらが重い口を開き素性を放してくれる。


「へぇ~王族と縁があると?」

「はい、フォンレンは現皇帝が即位する前、革命する際に支援する商人の一人でした」


 そこから説明が始まる。


 フォンレンは革命当初から協力していた人物の一人で、この人物がいなければ革命はできなかったと誰もが口をそろえるほどの人物だ。となれば当然皇帝からの覚えも目出度い。


「へぇ~」

「陛下の覚えがめでたいそんな存在を暗殺ですか」


 なんとなくこいつらの素性がわかってきた。


「おそらく予想できていると思いますが、我々は先代皇帝に忠誠を誓っていた者どもです」


 つまり、こいつらは反政府組織と言うことになる。


「先代の頃は民に多額の税を敷いていました、ですがそれはなにも私利私欲のためではありません。東方諸国では国境近くで絶えず戦争が起きています、そのための防衛費で仕方なくそうなってしまいます」


 まぁそうだろうな、戦争ではかなりの経費が掛かる。それが長く続けば当然ながら税は上がっていく。もちろんここグロウス王国でもそれは例外ではない。


「陛下は民に重税を悔いておられました、ですがこれはどうしても必要な税なのです、ですがそのことを民は理解しておりませんでした」


 なるほどな。


「そこで現皇帝は不思議な技術を持ち出し、あのヒナワジュウなる武器を作り出し、革命軍を作り出しました」


 悔しそうに机を殴る。


「現皇帝が民のために立ち上がり我々を打倒し、より良い治世を築き上げていたなら我々も納得して命を国に捧げられます」


 だがその表情には悔しさと憤怒が入り混じっている。


「ですが!先代の頃と何も変わっていないではないか!ジュウとやらが配備され戦線はよりよくなっているがそれだけだ!税も軽くならん!これでは何ために陛下は死んだのだ!!!!」


 声を荒げるほど許しがたいのだろう。


「それでこの度の暗殺に踏み切ったわけですね」

「さよう」


 俺とアルガは淡々とその出来事を聞いている。


 別段この事を聞いて感情移入などしないからだ。


「一つ疑問なのですが、なぜあなた方は死んでないのですか?」


 革命がおこったのであれば連座で首がさらされるのが普通だ。


 この怒り方からして先代皇帝にかなり近しい位置にいたのだろう、なのになぜだかそのまま生き残っている。


「革命をしたのは全員が平民で協力した貴族も数人ほどです、そんな彼らが今までやってきた仕事をできると思っていますか」


 この説明で納得だ。


 彼らは邪魔だが切り離すことができない立ち位置にいるということだ。


「我々も、もし国がより良い方向に傾いて行くなら、何もせず坦々と仕事をこなすつもりだった」


 だがこの場に来ているということはそうはならなかったのだろう。


「なので我々はフォンレンの手伝いという名目で国を出てきています」

「そしてその国の裏の組織を使い、フォンレンを暗殺する」

「はい」


 言い訳は道中に盗賊に襲われたとでもいえば問題ない。


(………なんかできすぎていないか)


 今までの話を聞いていて少し違和感を覚える。


 といっても彼らに対してではない。


(俺がもし現皇帝の立ち位置にいるとしよう、となると本来目障りなこいつらは早めに処分してしまいたいはずだ。だがこいつらにしかできない仕事があるため仕方なく生かしてやっている)


 けどそれは言い返せば、どうしようもないことをした場合は処罰できるということになる。


(わざと泳がせて隙を見せるのを待っていたならどうだろう)


 今が処罰する絶好なタイミングではないだろうか。


「…………馬鹿どもが」


 センサーを確かめた結果を見て出た言葉だ。


「!?どういう意味だ!」


 フシュンは皇帝の敵討ちを馬鹿にされたと思っているのだろう。だがそうではない。


「こういう場に来るときはもう少し用心しろ」


 この言葉でアルガも理解できたはずだ。


「外には組の者がいますが?」

「ああ、けど抑えられていない」


 立ち上がりこの部屋から出る。


「この部屋に居ろ、すこし外を片付けてくる」

「よろしくお願いします」


 部屋を出て騒音のする方に向かう。


 ピシュン


 廊下の奥から音が聞こえると同時に体の一部に強い衝撃が走る。


「!?」

「そこか」


 驚いている隙に距離を詰めて顔を鷲掴みする。


「へぇ~これがお前の武器か」

「っ!?」


 グギャ

「――――――?!!?!!――――!!!!」


 右腕を握りつぶし掴んでいる物を手に取る。


(どう考えても拳銃だな)


 手に持っているのはサプレッサー付きの拳銃だった。


「ぐっ!!」


 何とか拘束を解こうと暴れるがその度に出力を上げて頭を握りつぶすギリギリで締め上げてやる。


「さて、お仲間は向こうか」


 拳銃を壊し、来た道を戻り広間に出る。









『『『『『!?』』』』』


 奥の通路から血だらけの男を掴んだ大男が出てきたんだ、酒場にいた全員は驚き固まっている。


「さて、ここにいる諸君に告ぐ、この場にいると血を見ることになる、今日のところは会計は不要だ、とっとと失せろ」


 そこからはネズミが散っていくがごとく店から全員出ていく。誰もが面倒ごとはごめんだと言うことだ。


「さて、まさかお前ひとりとは言わないよな?」


 バァン!


 一際大きい銃声が鳴り響くと吹き飛ばされていくのがわかる。体に走った衝撃で腕のモーターが一瞬だけ緩み男を手放してしまった。


「大丈夫か」

「なんとか」


 先ほどまで掴んでいた男は手から離れて、いつの間にか現れた仲間に介抱されている。


(想定以上の威力だな、対物ライフルでも作ったのか?)


 腹部に強烈な衝撃が出たことが表示される。


(だが、危険視するほどでもないな)


 確認するが衝撃を受けただけでミスリル、オリハルコンなどの希少な鉱物をふんだんに使ったか体には一切傷がついてない。


(だが何度も吹き飛ばされると面倒だな)


 周囲の魔道具からの魔力供給量を増加させ、飛躍的に頑強にする。


 ガラガラガラ


「「は!?」」


 カウンターの瓦礫をどかしながら二人に近づく。当の二人は先ほどの攻撃で無傷であることが信じれないのかいまだに固まっていた。


「お前は人じゃないのか!?」


 普通に考えたらあの攻撃だと死なない人間はいないだろう。だがこの体は特別製で前世では考えられないほどの硬度と機能を兼ね揃えていた。


「さぁな、お前らの礫が軟すぎたんじゃないのか」


 会話と同時にとある機能を作動させる。


「………」スッ


 バァン!


 腕を振り上げるともう一度銃声が聞こえるが、今回は吹き飛ばされることはなかった。


 カラ、カラン


「な!?」

「ふぅん」


 地面に落ちたのは10センチほどの弾丸だった。


(消費魔力量から算出するに普通の拳銃とは比べ物にならない威力だな)


「この!!」


 先ほど掴まれていた男が腰から拳銃を取り出す。


 パンパンパン


「無駄だよ」

「な、んで」


 銃弾は体に当たることなく体のすぐ近くで静止している。


「魔法か!?」

「まぁ当たらずも遠からずだな」


 種は簡単だ。この魔導人形には数多くの機能が備わっている。そのうちの一つがエルドに売った『守護の腕輪』の機能である。魔力さえあれば飛び道具である銃弾を止めるには訳ない。もちろん対物ライフルらしきものはそれ相応の魔力を消費しているがそれでもその消費量すら微々たる量の魔力を確保していれば何の問題もない。


「ほら、もっと撃ち込んでみればもしかしたら届くかもしれんぞ?」

「舐めるな!!」


 それから何十発もの弾丸が飛んでくる。


 エルドに渡した腕輪のみなら自身の魔力のみしか使用できず、下手すればこの攻撃を止めるだけで魔力の大半が失われるかもしれない。


 だが魔力が足りなくなれば供給すればいいのがこの体の利点だ。魔道具が出回っていることでどこにいても魔力の貯蔵庫としての役割が存在しており、飛び道具でこの体を傷つけるのは不可能に近い。


「やめろ!」

「ですが」

「弾にも限りがある、相手の挑発に乗って目的を見失うな」

「……はい」


 もう一人は冷静に見定めて飛び道具ではらちが明かないと気付いた。


「俺はこいつを抑える、その間に標的を殺せ」

「了解です」


 冷静な方が腰から刀を抜き切りかかってくる。


「行け!」

「はい!」


 冷静な方は俺に直進し、最初の男は回り込み通路を進もうとする。


(手負いとはいえ、あの武器だと少し拙いな)


 片腕潰しているとはいえ、もう片方の腕でも十分に拳銃は扱える。未知の武器である拳銃でならアルガの護衛も隙をつかれるかもしれない。そうなれば後々アルガの穴埋めを探さなくてはいけなくなる可能性も出で来るため阻止するに限る。


「よそ見をするな!」


 剣が振られるがそちらに興味はない。


「ぬ!?」


 なにせ『自動魔障壁』を起動している。飛び道具はもちろん、剣すら止めることも出来る。


(しかも無尽蔵と言ってもいいほど魔力の貯蓄はある)


 こうなるともはや周囲の魔道具総てを破壊するしか手段は無くなる。


「さて、あっさり抜かれるのも味気ないな」


 ガシャン


 腕から小型機関銃が出現する。


「な!?」

「じゃあな」


 ギギギギ、ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


 もはや過剰と言ってもいいほどの弾丸を奥に向かう男に打ち込む。


「やめろ!!」


 目の前の男が何度剣を振るっても魔障壁に阻まれ意味をなさない。


 ギシュゥウウ~~


 弾幕が終了するともはや男の影はなく血と肉塊が転がっているだけだった。


「さて」

「がっ!?」


 目の前にいる男の頭を掴み持ち上げる。


「さて、あとはお前と外にいる5人か」

「!?」


 既にサーモグラフィーとソナーで周囲の様子を把握積みだ。


 組の者は俺が戦っているときはできるだけ遠くにいるようにしているので敵の数がわかりやすい。とはいっても生き残っているのは既に数人だったが。


「お前たちの目的はなんだ?まぁ大体予想はできるけどな」


 ガシャン


 腕の機関銃を収納し、今度は狙撃用の銃口に換装する。


「一人」


 ドォン


 窓を突き抜けてこちらを覗いている一人の脳天を弾丸が通過する。


「二人」


 ドォン


 次は木製の壁の向こうにいた一人の心臓を打ち抜く。


「三人目と四人目」


 カシャン、ドォン


 今度は口径と弾を変更し、弧を描きながら隠れている場所のすぐそばに打ち込み、弾丸を起爆させ散弾のように破裂させる。


「残りは一人か」


 残念ながら最後の一人は直線的にも曲線的にも間接的にも攻撃しにくい場所にいるのでとりあえずは放置する。


「さて、とりあえず邪魔だから死んでもらおうか」

「っ!?」


 だが頭を握りつぶそうと出力を上げた瞬間、何かが真下から迫ってくる。


 突き出てきたのは四角い岩の塊だ。


 それが腕に当たり、男が手から離れて距離を取られる。


「ゲホッゲホッ、はぁ~助かったぞ」

「おい、あんたたちがここまでやられるのは初めて見たぞ」


 いつの間にか男の背後には同じ格好の男がたたずんでいた。


「時間になって来てみれば殺せてないみたいじゃないか」

「ああ、悔しいがこいつに俺ともう一人以外やられてた」

「へぇ~」


 新しく現れた方の男はこちらを品定めする。


「とりあえず退くぞ」

「対象を殺せていないぞ」


 先ほどまで掴まれていた方は再度挑もうとするがそれをもう一人が止める。


「やめだ、そっちよりも重要な対象が現れた、しかも少し厄介でな頭数が必要だ」

「了解だ」


 逃げる体勢に入るので即座に距離を詰める。


「『闇隠し(ダークハイド)』」


 何かしらの魔法を使用すると周囲に一切光が存在しない空間が出来上がる。


(ダメだ、普通の光だけじゃない赤外線全ても通さない)


 なので光以外の探知方法で周囲を確認するが、既にどこかの人ごみに隠れたようなので追跡できない。


「仕方ない」


 そのまま通路を戻り4人が無事か確かめる。


「だいぶ大きな音が聞こえましたが大丈夫ですか?」

「ああ、だがすぐに場所を変えるぞ」


 少し戦闘で音が響きすぎた、多くの人員がこちらに向かってくる存在を感知している。


 おそらく衛兵だろう。


「場所を移すぞ」

「そうですね、ここに居てもまずいことになるだけですし」


 全員で違う店に移動することになった。

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