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この先の関係

 アグラのいる広場から休憩できそうな店に移動し、虹掛け雨蜥蜴(イピリア)に説明を求める。


「で、お前は何だ?なぜ精霊石の中にいた?よろしくとはどういうことだ?」


 机の上にいる蜥蜴に問いかける。


『さっきも言ったが儂は大精霊虹掛け雨蜥蜴(イピリア)、属性は雷、水、風を持っており、転生は4度した』

「すごいわね!?」


 隣で聞いていたクラリスが驚く。その言葉でよくしたのかイピリアの襟巻が広がる。


『そうじゃろそうじゃろ、もっと我を称えよ!』

「昔はすごかったらしいが今はそうでもないのだろう?」


 エリマキが今度はしぼんだ。そういうオモチャみたいな動きだ。


『仕方ないじゃろあんな場所に閉じ込められていたんじゃから』


 そして経緯を話してくれる。700年前は大層有名な精霊だったらしく、祠を建てられて奉られていたぐらいほどなのだが、山が崩れたことにより祭られた場所ごと地中深くに埋もれてしまったらしい。


『いや~さすがにあれは焦った~埋もれた衝撃で精霊石が割れてな外に出れなくなってもうたんじゃ』


 その後はクマの冬眠よろしく、活動を最低限にして消滅しないように生きながらえていたそうだ。


『ただ700年ともなると自前の魔力だけでは足りなくてな、等級を下げて魔力を確保していたんじゃよ。いや~あと5年ほどしか持たんかったから助かったわい』

「それなら精霊石が直ったときのアレは何だったんだ?」


 魔力が足りないならあんな放電は起きないはずでは?


『それなんじゃがな、儂の眠るように確保していた魔力が精霊石が直った瞬間にすべて漏れ出てしまったのだ……………………あれがあれば中級にならずに済んだのかもしれないのに』

「どんまい」

『軽く流すな!!』

「それより本題だ。よろしくとはどういう意味だ?」


 するとイピリアは机の上で何やらポーズをとる。


『よろこべ、この儂がお主と契約して「結構です」最後まで言わせろ!!』


 何やら長くなりそうなのでさっさと断る。


「じゃあクラリスなんてどうだ」

「え?」

『ふむ…………』


 イピリアが品定めする視線をクラリスに送る。


 クラリスは精霊と契約できるチャンスでもあるので緊張して答えを待っていた。


『ない』


 だがイピリアは無情な答えをクラリスに突き付ける。


「!?なぜなのか教えてください!!!」


 クラリスは淡い期待を持っていたのだが断られる。当然ながらクラリスの思いは俺が計り知れないほど重い。証拠にクラリスはイピリアに向かって声を荒げていた。


『まず精霊にとって、宿主を選ぶことは食料を選ぶのと同じだ。そして個人によって属性比、つまりは味は千差万別、とても相性がいいものもいれば絶対に無理という場合もあるそして少女なのだが』


 クラリスは真剣に聞いている。なにせそこにヒントがあるかもしれなかった。


『正直誰も食べたいと思わないほど不味そうなのじゃ』

「……不味…そう」

『そう、例えるなら排泄物を彷彿させるような味覚じゃな』


 この言葉を聞いてクラリスは固まる。


『その点、お主の味はとても美味じゃ、お主達の味覚で言うなら酸っぱさと爽快感がある味じゃな……………量が少ないのが不満じゃがそこは良しとするわい』


 そう言ってよだれを垂らしながらこちらを見みてくる。イピリアは捕食者のつもりなのだろうが、俺からしたら、チワワが涎を垂らしている様にしか見えない。


「………………」


 クラリスの瞳は虚ろを捉えている。


『どうじゃ、契約せんか?お主の味だとそうそう精霊も見つからんじゃろう?』

「…………」

「私……に遠慮する、ことはないわ」


 クラリスに遠慮していると思われたのかかすれた声でそう告げてくる。


「そうか………契約にデメリットはあるか?」

『ないのう、儂の食料はお主から漏れ出ている魔力だし、身体に影響を与えるわけでもない。強いて言えば漏れ出る魔力を使った何かがしにくくなるぐらいじゃの』

「じゃあメリットは」

『それは何といっても精霊魔法が使えるようになる』


 考える限りデメリットはないのだが……………四六時中、こいつに付きまとわれると考えたら嫌すぎる。


「う~ん」

『考え込むでないわ!」


 イピリアは肩に乗り、頬を尻尾でペシペシとはたいてくる。


「なぜ俺なんだ?別に他の人でもいいだろう?」

『さっきも言ったがお主の魔力と儂の相性が良い、それこそ今までに出会ったことがないくらいにな』

「…………」


 直感だが、それだけじゃないはずだ。


「(強くなれる分には問題ないな)わかった契約しよう」

『よし、それじゃあ手を出せ』


 イピリアは出された手に乗ると、何か集中し始めた。


 そして数分後。


『これで終了だ』

「これだけ?」


 ただイピリアを掌に乗せているだけで終了した。


『じゃあよろしくたのむぞ』


 イピリアは掌に溶け込んでいった。


「!?!?!?!?!?!?」

『安心せい、別になにもない』


 今度は腕の部分からイピリアが生えてくる。


「どうなっているんだこれ?」

『簡単だ、お主の魔力に溶け込んでいるだけだ』


 イピリアの説明では漂う俺の魔力と同化しているという。


「じゃあ影響はないんだな」

『無論だ、それよりも儂は回復するからしばらく眠る』


 そう言ってイピリアは腕の中に消えていった。


「だとさ」

「はぁ、なんだか不思議な話ですね」


 反対側に座っているリンが俺の腕を見ながら首をかしげている。


「いいですね~」


 セレナがうらやましそうにしている。ちなみに父上と母上だが横にあるテーブルでカルス達と昼食をとっている。


 そしてクラリスなのだが。


「……………………………」


 未だに放心している。


(どうしようかな)


 下手な慰めは神経を逆なでするだけだ。


 とりあえずクラリスの意識が戻るのを待つ。


(そういえばこれはどうなった?)


 その間にイピリアがいた精霊石を鑑定してみる。


 ―――――

 天空の精霊石

 ★×5


 何の精霊も宿っていない精霊石。いずれ精霊が住み着くだろう。

 ―――――


『なんじゃ精霊石が珍しいのか?』


 いつの間にか肩にイピリアが乗っている。


「なぁ、これに使い道はあるのか?」

『ないな、精霊石はいうなれば我らにとって看板でしかない』

「だが、お前はこの中で700年過ごしたんだろう?」

『宿るものがこれしかなかったからな、まぁ本来の用途とは違うから儂は出られなくなったんじゃがな』


 本来の使い道以外の用途がないみたいだ。


『装飾品にも使えるから気に入ったメスにでもやるといい』


 たしかに精霊石は綺麗だ、これを装飾品に加工して売り出せば相当な金になるだろう。


 横目で放心しているクラリスが目に入る。


(…………そうだな)


 本来の用途として使うのが一番だろう。










「ごめんなさいね、案内もせずに」


 1時間かけてようやくクラリスは再起動した。


「いいのよ、クラリスちゃんにとっては大事な事だったのでしょう?」


 母上はクラリスの頭を撫でる。


「……はい」

「ほら、まだ祭りは終わってないから案内してもらえる?」

「はい!」


 母上の尽力のおかげでクラリスも立て直すことができた。


「なぁ、こっちに来てから私の影が薄くなってないか?」

「…………」


 こういったことに男衆はできることがないので仕方ない。














 それから日が落ちるまでクラリスの先導で生誕祭を楽しんだ。


「よっしゃーーーーーーー!」


 セレナが拳を振り上げて声を上げる。なんとセレナも精霊と契約することができた。証拠にセレナの周囲に茶色の光の球が浮かんでいる。


「低級の土精霊ね」


 クラリスは嫉妬を見せずにセレナの精霊を調べ始める。


「良かったわね」

「はい!」


 セレナはとてもうれしそうにしている。念願の精霊を見つけられたのだから喜ぶのも無理はない。










 本格的に日が落ち始めると祭りにいるエルフ全員が一つの方向に向かって歩き始める。向かっている先は祭りの開会式が行われたあの広場だ。








 開会式同様に用意された来賓席にて戻ってくると、広場を見下ろす。


「また一段とすごいことになっているな」


 開会式同様に大勢のエルフが集まっているのだが今回はそれだけではない。様々なところに光の球である低級精霊や動物の姿をしている精霊が至る所にいる。そして精霊と契約している姿が各所で見受けられる。


「今年もだめだった~」


 横で聞こえてきたクラリスの声には悔しさを感じさせることはなかった。


 だが


(悔しくないわけないだろうな)


 俺だったら自身が嫌になるほど悔しいと感じるだろう。それがエルフの矜持としてならなおの事。


「それでこれから何が起こる?」


 この大人数では明らかに何かが行われると言っているようなものだ。


「そろそろなんだけど……………」


 リィィィィィィィィィン!!!!


 リンの言葉の後に空から鈴に似た音が聞こえてくる。


「これか?」

「その通りよ」


 リィィィィィィィィィン!!!!


 ワァァアアアアアアアアアアアアア!!


 鈴の音が響くと同時に広場のエルフが歓声を上げる。


 それから何度も綺麗な音が聞こえてくる。


 しばらくすると神樹が光り輝く。


「来るわよ」


 次第に輝きは強さを増して行って最後には空に届く。


 ――――――オォォ

「ん?この声は?」


 鈴の音とは違い動物の遠吠えのような声が聞こえてくる。


「あっちも始まったわね」


 クラリスの視線を辿るとそっちの方向にも光の柱があった。


「何が」

「他にもあるわよ」


 周囲を見渡すと神樹の他に6つ、光の柱が出来ている。


(方角はアグラのいる方向………それと数から考えて)


 光の柱の数は6つ、そしてその光の柱は神樹を六角形に囲むように出現している。


 となると導き出せる答えは一つ。


「聖獣があの光の柱の正体か?」

「正解」


 クラリスは秘密にすることもなく教えてくれる。


「アニキと同じく、聖獣様も聖権を授かるのよ」


 森王が新しくなると同時に聖獣も継続するか継承するのかが決まると説明された。


「アグラベルグ様はそのまま聖獣として続けるけど場所によっては変更するから、ね、ネア」

『うん!』


 ネアも嬉しそうにしている。


 オォオオオオオオオオオオ!!!


 広場で声が上がる。


 釣られてそちらを見るとアルムが歩きながら広場に降りてきていた。


(なんか………………変わったな)


 以前はアルカナ所持者特有の雰囲気だけだったのだが、今はそれに加えてもう一つ特殊な気配を感じる。


 下で何らかの口上が文官らしきエルフから述べられる。


(どこの国でもこういうのは長ったらしいんだな)


 正直聞いている側としてはさっさと本題に入れと言いたい。もちろん声には出さないし、表情にも出すつもりはない。


『む、あいつらは…………』


 いつの間にかイピリアが肩に乗っている。


「どうしたんだ?」

『いや、なんでもない』


 なにかを確かめ終わったのか俺の体に溶け込んでいく。


「では陛下よりお言葉を賜われる」


 文官のエルフが下がるとアルムが前に出る。


「これより新たな森王となるルクレ・アルム・ノストニアだ」


 そう言っただけなのに大衆から歓声が上がる。


 そして演説が始まる。


 アルムはエルフを栄えさせると約束すること。


 エルフに子孫が生まれにくくなっていること、そしてその対策として人族との交易を始めたこと。


「無論中には人族(ヒューマン)との交易に反対する者もいるだろう、だが考えてほしい、今衰弱している問題を知り、皆はどのように防ぐ?私はそのために人族(ヒューマン)との交易を望む。少しの間でいい人族を偏見の目で見ずに自身で確かめてみてくれ」


 そういって人族(ヒューマン)との偏見の目で見ないように訴えかけた。


(それでどれだけ効果があるか……………)


 既に人攫いという悪行を人族は行ってしまっている、そこからくる嫌悪感は相当のはずだ。


「クラリスは今のに効果があると思うか?」

「あると思うわ」


 意外な答えに思わず振り向いてしまう。


 クラリスは腐っても王族だ、それなりの教育を受けている。民衆の意識改革の困難さはどれほどかを知っているはずだ。


「根拠は?」

「私とバアルが証明しているわよ」

「…………」


 これには何も言えなくなる。


 たしかに最初は俺がノストニアに不法侵入し敵対関係にあった。だが今はどうだ、起こったことを水に流し共に過ごすことすらできている。


 つまりはそう言うことなのだという。


「…………そうか」


 自分の言葉なのに喜色の色を孕んでいたことに、この時は気づかなかった。

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