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交易町ルナイアウル

「さっむい!」


 新しく作られた交易町の道中、馬車の中で父上が叫ぶ。


「だからあれほど厚着をしてくださいといったのですが?」


 父上の服装は冬にしては防寒が足りてない。馬車の中で風が遮られているとは言え、少々肌寒く感じるのだろう。


「いや、ではなぜバアルは薄着で大丈夫なのだ?」


 俺は父上よりも厚く着込んではいない。魔力による無理やりな耐寒を得ているからこそだ。だが父上は俺のように魔力が豊富ではないので身体強化で耐寒対策することはできない。


「それにしても本当に護衛はいらないのですか?」


 なんと父上が連れてきた俺が連れてきたリン達以外は父上の友と呼べるたった五人の騎士だ。普通ではこの人数なら考えられない。


「貴方がそう思うのも分かるわ、だけど大丈夫よ」


 そう言うと母上が寝ている二人に何かの魔法を掛ける。


 今俺たちが乗っている馬車は特注で作らせたもので、御者席を覗けば10人が中で座っていることができ、特殊な素材を使用しているため外の影響を受けづらい。ただ護衛の騎士たちは前後に守るよ用に配置している馬車にいる。父上たちが子供には寒さがつらいと思い、リン達は例外的にここに居させてもらっている。


「それにね、私たちの家族旅行に他人を入れたくないじゃない?」

「………はい」


 母上の笑顔には物言わせぬ強さがあった。確かにここに騎士たちがいて気軽に談笑できるかと言われれば無理と言うしかない。


「ですが母上が二人の世話を?」

「大丈夫よ、これでもバアルちゃんのことを世話したことがあるのよ」

「……………」


 否定はしないが…………不安だ。なにせ前世持ちの世話だ、普通の子供よりおとなしいのはある意味当たりまえ。それを例に出されても説得力がない。


「セレナ」

「なんですか?」

「今回は母上の世話を頼む」


 前世の記憶をもっているセレナだったら子供の世話はある程度できる…………はずだ。


「あら、ふふ、じゃあセレナちゃんお願いね」

「はい!!!」


 セレナは張り切っている。


『…………また遊ばれるのか…………』


 揺られる馬車の中、足元で憂鬱につぶやくウルが印象的だった。










「ほう、これが交易町“ルナイアウル”か」


 目線の先では急造だがしっかりとした町が見えてくる。


(木製の柵と家か、時間がないからそれでもよくやったほうか)


 本来なら壁を作り、そこから中を作っていくことになるのが村づくりの基本。だが今回はあまりにも時間がなかったため即席で作り上げられている。もちろん普通ならあり得ないが、今回は王家も支援している。人を多く配置し、時間と共に完成させていく手筈なのだろう。


「ほらバアル、挨拶しに行くとするよ」

「わかりました」


 飾り付けることなくただただ実用的に設置された門を通り、ここの町長の元に向かう。









 町を進むとこの町を一望できるように建てられた役所に訪れる。


 町長がいるのはその高い建物の一室だ。


 なにせこの町は従来の町とは違い、様々な機能を求められるので役所も多様な機能を要求される。


「ようこそおいでくださいました!!」


 町長の元に訪れると手厚く歓迎される。


「私はエウリッヒ・セラ・ヒナイウェルと申します、リチャード様!」

「おや、意外に歓迎されているようだな」


 町長に任命された貴族は父上と固く握手を交わす。


「もちろんですとも、なにせこの町はゼブルス卿が作ったと言っても過言ではないのです」

「そうか、だが私と仲良くするのはアズバン卿はいい顔をしないのではないか?」


 父上も伊達に長く貴族をやっているだけあり、聞きにくいことも顔色変えずに訊ねていく。


「実は私は王家寄りの人間なのですよ」

「ほぅ」


 彼は王家からの監視者というわけだ。


「なので、基本的にアズバン家からの横やりは無いと思ってもらっても構いませんよ」

「それはありがたい」


 なんでこんなに心配されているのかと言うと、まぁ一言でいえばゼブルス家とアズバン家は仲がいい方ではないからだ。


(日ごろから微妙なのに、今回の一件で出しゃばったからな)


 なにせ南の貴族が自分の担当の地域に出入りして問題を解決していたのだから北の貴族からしたら目障りでしかない。


「それでもう一つの交易町はどのような感じだったのだ?」

「それが面白いとしか言いようがありませんでしたよ」


 父上と町長はノストニアが作る予定のもう一つの交易町のことを話し合っている。


「エルフの作る町は面白い物ばかりで」

「ほぅ、どのようなものがあるのだ」

「そうですね、家が大樹の洞ですし、夜間は何やらヘンテコな木が灯りになっていたり、町の柵がすべて茨の蔦だったりしますね」


(ノストニアの中で見たことあるな)


 既にある程度見慣れているので新鮮味はない。だが俺とリン以外話を聞いては目を輝かせている。


 ブルルルルル


 通信機が反応する。


「父上、私は少し外の様子を見て回ってきます」

「ああ、わかった」


 許可をもらい部屋を退室する。


「誰だ?」

『僕だよ』

「……アルムか」


 通信機からアルムの声が聞こえてくる。


「どうした?」

『いやね、今どこにいるのかなと思ってね』

「(……………付き合いたての彼女か)気持ち悪い」


 俺は普通に女性が好みだ、そっちの気はない。


『ひどっ!!』

「さっきの言葉だとそうとられてもおかしくないが?」

『いや、そんな気はないよ。僕はすでに結婚しているし』

「そうなのか?」


 それは初耳だ。


「で、なんで居場所を聞きたいんだ?」

『実は妹がバアルを町まで迎えに行こうとしているんだよ』

「クラリスがか?」

『そう、君たちは国賓だからね、交易町から持て成したいのさ』

「…………本音は?」

『そりゃ~人族(ヒューマン)との交流を新王たる僕が望んだんだ、ここで歓迎しないことには矛盾してしまう』


 だろうな。


 政治家と同じで掲げている表明を反故したら面目丸つぶれ、なのでアルムは俺たちを持て成さなければいけない。


(もちろん、これがやらかした貴族なら全く歓迎はされないだろうが)


 ゼブルス家は友好関係を結べているので問題ない。


「予定では明日の昼にそっちの交易町に入る」

『了解、じゃあクラリスに伝えとくよ』


 そう言うと通信機の反応が消える。


(さて、許可も取ったし周囲を見てくるか)


 先ほど許可されたことを盾にして一人で街を出歩く。










 この町は三日月のような形になっており、弧の部分に家や倉庫が立ち並んでおり、空白の部分には大きな市場が立ち並んでいる。


 そして商店などは市場と倉庫の間に立ち並んでいる。


「おい、新商品が届いたそうだぞ!」

「本当か!」

「数は?!」

「そこまで多くない」

「急がないと」


 市場にどのような物が売っているのか見て回っていると、何やらローブを被った集団がすごい勢いで真横を通り過ぎていく。


(どこの店だ?)


 気になったので後を付ける。


「…………いや、ここかい」


 たどり着いたのは周囲にある建物よりも二回り大きい商店だ。そして店の看板には見慣れた文字でイドラと書かれている。


「いらっしゃいませ」


 店に入ると声が掛けられる。もちろん従業員に俺の正体は気づかれていない、むしろ名前は知っていてもこんなところにいるとは思えないのだろう。


 建物の中はそこまで広くはない、なにせ魔道具がある程度空間を取ってしまっている。


「これ、だよな?」

「ああ、これのはずだ」


 先ほどのローブを被っている人たちが冷蔵庫の前で何かを相談している。


(………店員はどうした?)


 商品を説明して、売り込むのが普通なのだが。


 店の中に店員を見回してみると、どことなく怯えた表情をしている店員がいる。


(怖がっているのか?)


 客に対して怖がる奴があるか、もちろん盗まれないように警戒するのは普通なのだが、あれは怯えしか見せていない。


「はぁ」


 仕方ないと思いローブに声を掛ける。


「そこのかたがた、何をお探しですか?」

「ん?子供?」


 振り向いたときに気づいた、ローブの中には横に伸びた長い耳がある。この人たちはエルフだった。


「まぁ子供ですが、魔道具については詳しいですよ」

「そうか、勉強していて偉いな」


 そう言って一人のエルフが頭を撫でてくる。


「じゃあ、これについて教えてくれるかな?」


 傍に居るエルフに頷き、質問に答えていく。











 今店頭に出ている魔道具は冷蔵庫、レンジ、電気毛布、アイロン、ミシンなどエルフに売れそうなものを厳選している。理由としては原始的な部分なら魔力の多いエルフは魔法で大抵のことはできてしまうからだ。


「ありがとうな坊主」

「いえいえ」


 品物を持ち、レジに向かうエルフ達。


(やはり冷蔵庫とレンジが一番人気か)


 事前に調べてあった通りだ。氷を使わず、水気に関係なく物を冷やし、焦げを起こす火を使うわけでもないのに物を温められる、そんな便利な道具だからこそエルフたちには売れる。


 少しはエルフとの交友に尽力できたと思い店を出ようとする。


「金貨7枚となります」

(…………は?)


 だがその一言で足が止まる。


「やっぱり魔道具は高いな」

「仕方ないさ、これほど便利な道具なんだからな」


 エルフはその値段で支払いをしようとする。


「ちょっと待て」


 エルフのその手を掴み止める。


「えっと、どうしたんだ?」


 俺の行動にエルフの青年が戸惑う。


「おい、店員、この値段はどういうことだ?」

「なんだこのガキ」

「どういうことかと聞いている」


 ピキッ


 床にひびが入る。


「この値段を指示したのは誰だ?」

「あぁ?それはもちろん店主に決まっている」

「その店主を呼べ」

「ああ、なんで「呼べ」」


 強めに言ってやると店員は裏に行き、店主を呼んできた。


「なんじゃ、われを呼び出すとは」

「…………誰だこいつは」


 俺はイドラ商会の会長だ、もちろん今回の交易町ルナイアウルに出ている簡易イドラ店の事情も知っている。


(確か店主は聡明で武芸の達人、性格も温厚な人物と報告が入っていたんだが)


「何をしているこやつをつまみ出せ」


 目の前にいるのは愚鈍な贅肉だらけの傲慢な豚だ。ギラギラと輝いている悪趣味な服を着ている豚に店長を任せてはいない。


「はぁ~」


 急いでこの店を用意したのが仇になったな。


「すみませんエルフの皆様、少々お時間をいただいてもいいですか?」

「あ、ああ」


 無事にエルフの承諾も得た。これからはイドラ商会会長として動かねばならない。


「で、お前は誰だ?」


 俺が聞くと気持ち悪い顔で笑う。


「われはこの交易町ルナイアウルのイドラ商会支店長、ブータス・セラ・ウイルフだ」


 書類で見た名前と同じと言うことはこいつが店主で間違いないらしい。


(これは失態だな)


 時間がないと書類のみで判断したのが失敗だ。一応は多数の推薦が掛かれていたのだが、今回の一件でそいつら全員の信用はなくなった。


「(………しかも俺のことに気づいていない)なんだこの値段は、王都でもこんな値段はしない」

「なんだ小僧、何もわからぬくせに」

「じゃあ教えてくれ、なんでこんな値段で販売している?」


 豚はムッとした後、エルフ達を見ている。大方、不審に思われたくないのだろう。


「ガキにはわからんと思うがな、この地に来るまでの費用というものがかかっている」

「この土地に来るだけでこんなに掛かるか」

「いや掛かる。なにせイドラ商会の魔道具は高性能だからな」


 この説明にある程度納得の余地はある。実際に護送費や従業員の給金、遠地手当などを伝手ているため多少割高になるのもやむを得ない。


 だが


「俺は以前イドラ商会でこんなことを聞いた、『イドラ商会はノストニアのために本店と同じ値段で魔道具を売り出す』とな、ついでに本店での値段だがな――――」


 この方針はかなり前に決まっていたことだ。この値段に抑えられているのには理由がある。まずはノストニアに通信範囲を広げる事。そしてゼブルス家ひいてはグロウス王国の有用性を見せつけることだ。そのために採算度外視で値段を設定していた。もちろんこれは陛下にも了承してもらっており、いくらかの補填がもらえることになっている。


 値段を教えてやるとエルフ達は唖然とする。さらにはそれをエルフ達の前でばらされたことによって豚が赤くなっている。


「小僧をつまみ出せ!!」


 豚の言葉で入り口にいる、この店に雇われている用心棒が掴みかかってくる。


 バチッ


 雷の音が鳴ると用心棒の二人は倒れこむ。


「ひぃ!?」


 その様子を見て豚は腰を抜かす。


「衛兵!!!衛兵ーーーーーー!!!!!!!!!!」


 店員の一人が店の外で衛兵を呼ぶ。店の対応としては合格だ。


「ははは、どうする、跪いて許しを請うなら許してやらんでもないブッ」


 衛兵を呼びに行った従業員に感心していると、豚があまりにもうるさいので店の外に蹴り飛ばす。


「衛兵!!はやくわれを助けろ!!!!」


 しばらく転がっていると衛兵がやって来て豚を守り始める。


「はは、覚悟しろ、謝るだけで許してもらえると思うな!!!!」


 衛兵で守られているからか気が大きくなった豚。


「さてどうするか」

「あ~よかったら手伝おうか?」


 様子を見かねたエルフ達からそんな提案を受ける。


「いや、いいよ、ここで皆さんが出て行ったらややこしくなる」

「……………わかった」


 エルフ達は素直に引き下がってくれる。今エルフがこの騒動に出てきたら外交問題に発展しかねない。これが人族間、もっと言えば商会内の問題だからこそ小さく済ませることができる。


 そのまま外に出ると衛兵に囲まれる。


「さてどうしてやろうか」


 豚は衛兵の後ろで大きい顔をしている。


(こいつらぶちのめしても問題はないな)


 なにせイドラ商会の魔道具はノストニアの新王からの要請で開いた店、その店でこんなことを起こしている人物を誅して何が悪いというのか。


(さて、衛兵には悪いが)


 指を鳴らし、戦闘の準備をす――







「何をやっている!!!!!!」


 一際大きな声がこの場を止めた。

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