表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/564

庇護する条件

 それから領地の様子や影の騎士団のことを話し合うと俺とリンは会場に戻る。


「話は終わったかい?」


 会場に戻ると俺達を見つけた父上は詳細を聞いてくる。


「ええ、2年に渡り分割支払い、さらには利息として当家への減税を約束させました」

「…………陛下にご無礼は行ってないよな?」

「ご安心を無礼を無いようにしたつもりです、不安があるようでしたらグラス殿にお確かめください」

「それほどまでなら大丈夫だろう」


 それから父上は再びこの場を離れて貴族との話し合いを始める。


(さて、少し腹が減ったな)


 リンを引き連れて食事をしようとテーブルに向かおうとする。


「やあ」

「おい」


 そんな途中で後ろから声を掛けられる。


(めんどくさいのに声を掛けられた)


 本心ではそう思っても表面では笑顔で取り繕う。


「お久しぶりです、殿下」

「………」


 リンは俺の顔を見てなにやら呆れている。


 なにせやってきたのがエルド殿下と深緑髪の少女、それとイグニアとユリアのペアだ。


「実は君に話が」

「おい、俺の方が先に話しかけただろ!」

「知らないね、僕は彼女を紹介しようとしているんだ邪魔しないでくれないかな」

「それこそ知るか、バアルは俺の陣営なんだから俺が先なのが道理だろ!!」

(おい、何で知っているんだよ)


 グラキエス家の密約で裏では(・・・)確かにそうなってはいるが表には出してないはずだ。


「それはバアルも認めているのかな」

「違うが、いずれ俺の派閥に加わる!!!」


(ああ、こいつの思い込みか)


 それなら何の問題もない。俺や両親がイグニアに付くと明言さえしなければ中立を保っていられる。


「失礼ながらエルド殿下、イグニア殿下」

「「なんだ?」」

「顔見知りならともかく、私は彼女を知りません。なので先に紹介の方をお願いします」


 俺はエルドの連れてきた少女を見ながらそういう


「そうだね」

「っち」

(この場でわかりやすいくらいの舌打ちするなよ)


 イグニアの欠点を上げるとしたら、まずこのような面を口々にするだろう。


「それでは紹介するよ、彼女は僕の婚約者」

「レイン・セラ・キビクアと申します」


 やはり彼女はキビクア公爵家の縁者だった。


「ご丁寧にどうも。私はバアル・セラ・ゼブルス。市井では『破滅公』とも呼ばれるものです。キビクア公爵の令女ですか?」

「はい、私はキビクア家の次女です。本来ならお姉さまがいいらしいのですが年が離れすぎているようなので私にお話が来ました」


 聞いた話だとキビクア公爵の長女はすでに18歳と成人しているようだ。


(前世だとそれくらいの年の差でも結婚する奴はいるんだけどな)


 この世界では年齢が5つ違うだけで結婚は難しいとされている。


「では紹介ついでに私の要件を話そう」

「おい!」

「イグニア様、ここは落ち着いてください」


 ユリアに窘められてイグニアが大人しくなる。


「(上手く制御で来てるな)それでお話とは?」

「まずはノストニアの使節団を救出してくれたことには感謝する」


 まずは感謝の言葉を述べてくる。


「いえ、お気になさらず貴族として陛下のお役に立てたのなら何よりです」


 エルドならここで王族もしくは殿下と言わない当たりを察するだろう。


「それでだバアル、君はノストニアに知己はできたか?」

「ええ、親しい友人ができましたよ」

「それは上々、実はその件の話なんだよ」

「つまり?」

「僕は王族としてノストニアの王族と知己を作りたい協力してくれるかな?」

(………はぁ~)


 そんな頼みごとをしたら


「ちょっと待て!!」


 当然、イグニアが止めに入る。


「なんだい?」

「それは俺も頼もうとしていたところだぞ!」

「はっ、君みたいに知恵の無いものに交渉ができると思うのか?」

「そっちこそ、そんなネクラな性格じゃ向こうで親しくなることすら怪しいな!!」


 二人はこちらの了解を得る前提で話が進んでいる。


「残念ですが、お二人ともそれはできません」


 きっぱりと告げると両殿下はこちらに視線を合わせる。


「…なぜですか?」

「なぜだ!!」

「考えてください、ようやくノストニアと国交できるようになったのです。なのに向こうにこちらの国の、もっと言ってしまえばお二人の闘争の種を持ち込めと?さらにはノストニアの交易は陛下の肝いりです、先の使節団に無理やり人員を組み込みこじらせたのはどこの誰ですかな?」


 そういうと二人とも痛いところを突かれ、嫌な顔をする。


「あれはあの貴族が勝手にやったことだ」

「ですがイグニア殿下の推薦で使節団に選ばれたと言っても過言ではないのですよね?」

「ぐっ」


 エルドはこの件については文句を言わない。そうすればイグニアのように傷口を広げるだけだと分かっているからだ。


「いいですか、少なくとも3年はこういった争いの種は持ち込まないようお願いします。これが守られない場合は私はノストニアに口利き、弁明は一切いたしませんよ」


 そういうと二人とも渋々分かったと言ってくれる。


「いいんですか、そこまではっきりと言って」ボソッ


 リンが耳打ちで聞いてくる。


「仕方ない、こいつらはこう見えても王族、それも継承権のある王子だ。下手に逆らおうとする貴族はいないだろうし、むしろ王子の命令という大義名分で突っ走りそうな貴族もいる」


 だからはっきりと言い、諫めるほかない。


(何よりノストニアは新しい商売の種、そこを荒らされては困る)


 せっかくエルフに魔道具の有用性を見せつけて儲ける準備もしているのだから。











「そういえばバアルは婚約者を探さないのか?」


 話題は変わり俺の婚約者の話になる。


「残念ながら」

「なら俺が紹介してやろうか?」


 イグニアはそういうが


「いえ、今は仕事が忙しいので当分そのような話は受けないつもりです」


 もちろん断る。


「では、数年後僕が婚約者を紹介しましょう」

「いや、俺がする」


 二人は何も親切心でこういっているわけではない、彼らは自分の派閥から血縁関係を持たせて自派閥に引き込むつもりだ。


「もしかして、もうすでに決めた女性がいるのですか!?」


 俺が断り続けていると、何を誤解したのかレインが乙女の顔をして詰め寄ってくる。


「(女性っていつまでもこういう話題が好きだよな)いえ、そのような人はいませんよ」

「え?でも……」


 レインはリンのことを凝視する。その視線の意図を理解できない人物はここにはいなかった。


「リンは俺の護衛です、ちょうどいい相手もいなかったから連れてきただけですよ」

「……そうなんですね」


 ユリアと違い表情豊かな面を見せるレイン嬢。ちなみに今はガッカリとした表情になっている。


 それからほどなくして両殿下は自身の配下に連れられて別のところにあいさつ回りに行った。


 殿下たちが去った後は穏やかな時間を過ごすことができ、無事パーティーは終了した。















 パーティーが終わってから本来ならすぐ帰るのだが、今回はノストニアの件で父上への来客が数多くいたので帰るのは2週間後となってしまった。


 最初の数日は猫の手も借りたいぐらい忙しい日々を過ごしていたのだが、パーティーが終わってから4日後には珍しく仕事がない日が訪れて、手持無沙汰になった。


(久しぶりに向こうでのんびりとするか)


 学園の特権で借りている家だが、メイドなどは雇っていないため、王都のゼブルス邸のように誰かに常にみられるということもなく気楽に過ごせる。


「同行いたします」

「私も」


 リンとセレナを連れて借りている家に向かう。





 そして長期間放置したせいで案の定すべての部屋が埃だらけになっていた。本来なら学園が始まる前に王都のゼブルス邸から人を出してもらい、学園が始まる前に大清掃して、学園がはじってからも定期的に清掃してもらう手筈になっている。だが今回は学園が始まるのはだいぶ後に加えて、本来ならゼブルス領に戻るのが通例だったことからこのような状態になっている。


 さすがに少々汚いのでゼブルス邸から数人借りてとりあえずは心地よく過ごせるようにしてもらう。







 借家の周囲にある屋台などを巡り、時間をつぶす。


「そろそろ終わるな」


 空を見ると太陽が幾度か傾き、良い時間が過ぎている。


「晩餐に関してはゼブルス邸に戻りますか?」


 あと数時間で日が落ち、晩餐の時間になるためリンが借家に戻らずにゼブルス邸に戻るか聞いてくる。


「いや、父上は忙しいはずだ。邪魔をしないように今日は借家に泊まるぞ」


 家では父上が南部貴族といろいろな話をしているはずだ。今、下手に帰ると俺まで話し合いに参加させられる。せっかくの休日なのでゆっくりと休ませてもらおう。


 その後は借家に戻り、幾人かの侍女に今日はこちらで過ごすと伝言を託し、ゼブルス邸に戻ってもらう。


「では食料を買ってきます」

「私もお手伝いします」


 もちろん借家に食料などが備蓄されてはいないので二人は夕食のための買い出しに出かける。








(さて、俺は何をしようか)


 二人が帰って来るまで暇なので常備している書類を片付けようとするが。


 コンコンコン


 扉がノックされる。


(誰だ?)


 リンやセレナだったら鍵を渡してあるのでそのまま入ってくることができる。


「誰だ?」


 扉にはドアアイなどないので開けなければ外を確認できない。なので扉越しで声を掛けて正体を確かめる。


「バアル様ですか?」

「ああ、お前は?」


 どこかで聞いたことのある声だ。だがその声の主が誰かはわからない。


「私はソフィアです」

「ソフィア?アークとよくいる?」

「はい」


 扉を開けてみるとそこにはローブを被ったソフィアがいた。


 俺は周囲を見渡すがソフィア一人だけだった。


「何の用だ?」

「………実はノストニアの件で」


 とりあえず中に入れてお茶の用意をしてやる。


「もう一度聞くが何の用だ?」

「単刀直入に言いましょう。私たちを助けてほしいんです」









 俺と対面に座っているソフィアはお茶を啜り、一息つくと話が始まる。


「実は―――」


 ソフィアたちはノストニアから指輪と武器を賜ってから王都に戻ったのだが、帰還から数日後、なぜだが接点もない貴族がそれぞれの家に訪問してきた。


 内容は上から目線で部下にしてやるという内容だ。


十中八九(じっちゅうはっく)、ノストニアの交易に噛みたい連中の使いだろう)


 なにせあの指輪はノストニアからの感謝の印でノストニアの通行許可証みたいなもの。商人や交易に食い込みたい貴族からしたら喉から手が出るほど欲しい物だ。


「当然、全員の両親は断りました」


 これが普通の民なら渋々であるが従うだろうが、アークの両親は有名な冒険者で、オルドは道場の師範の息子、カリナは没落騎士の娘で、リズの母親は学者、なので全員が貴族に様々な思惑があるのは理解しているので角が立たないように断ったのだとか。


「私は教会の保護があるので勧誘は来ませんでしたが、ほかのみんなは違います」


 それぞれの仕事に差し障るような妨害をはじめ、悪質な嫌がらせ、果ては近隣に暴力沙汰が蔓延り始めたという。


「このままでは身内を攫われ、脅迫されるのも時間の問題です」

「それで?俺にどうしろと?」


 ソフィアの話を聞いているが何の興味もない。


「貴方様ならこの事態を何とかできるはず、ですので………」

「何とかしろと?断るよ」


 考えることもなく断る。


「なんでですか!?」

「いや、俺に益もないし、その貴族のもっと上の方からは目の敵にされるからさ」


 そいつらはノストニアの交易に噛みたい奴らの派閥の中での使いっ走りの末端貴族だろう。そんな奴らほどプライドが高く、わざわざ平民に頼み込むなんて死んでも嫌なはずだ。


 最も保護して交易に関わらせないだけでも、俺のノストニアへの重要度間まして得するのだが、それを踏まえても今交易に食い込みたい派閥から敵視されるのは少々いただけない。


「もしなんとかできるとしても、それはお前たちは俺の庇護下に入ると理解しているか?」

「はい」

「その時は俺はそいつらと同じ命令をするぞ?」


 当然俺だって利益は欲しい。なので比較的好意的なこいつらを使って譲歩を引き出したりする。そうしたくないのに俺に頼るのはこの時点で間違いだ。


「ということで俺に頼るのは間違いだ」


 そう言って追い返そうとするのだが。


「では益があれば保護のみしてくださるのですね?」


 ソフィアは何かを決めた表情をする。


「ほぅ、じゃあどんな益を俺にもたらせるという?まぁアークのみなら保護するのはやぶさかじゃないがな」


 ユニークスキル持ちは貴重だからこその言葉だ。もちろんあの性格ならばこんな提案を飲むとは思えないが。


「いえ、私が望むのは全員の保護です」

「対価は?」

「神光教会と何かあった際に私が仲裁に入ります」


 思わず笑いそうになる。


「残念ながらその手札は意味がない、なにせ君自身がその言葉の信用に値しない」


 一介の修道女(シスター)見習いに何ができると言うのか。


「ではこれを見てもそう言えますか」


 そう言いながらソフィアは何かを胸元から取り出す。


「………へぇ~~」


 取り出されたものを見て、驚き、数秒うごきを止めて、思わずにやけてしまう。


「それを持っていることを知っているのは?」

「………父上と私の世話係、あとは数名の枢機卿だけ」

「陛下もこのことは知らないと?」


 コクリと頷くソフィア。


「ふっふふ、はははは、いいね、いいね」


 ソフィアの正体ならよほどの大ごとでない限り教会に介入することはできそうだ。


「いいだろう、交渉を始めるとしよう」











 俺は紙を取り出し条文を書く。


 内容は三つ。


 ・バアル・セラ・ゼブルスはアーク・ファラクス、オルド・バーフール、カリナ・イシュタリナ、リズ・アラニールの上記四名をノストニアの交易に関連させないよう保護すること。


 ・ソフィア・XXXXXXXはその代償に神光教にバアル・セラ・ゼブルスの要求を受け入れさせるように尽力すること。


 ・バアル・セラ・ゼブルスとソフィア・XXXXXXXはこの契約のことを他人に伝えてはならない。


 ・上記三つを完遂できない場合、契約は無効となる。


「さてこれでいいか?」

「ええ」


 違反したときの罰則はないのだが、俺がソフィアの正体を知っている。


(もしだめだった場合は彼女の身柄を拘束するだけだ)


 たとえ、それが捏造した罪だとしても、だ。


「それでバアル様はどのようにアークたちを保護するつもりですか?」

「簡単だ」


 俺は4枚書類を準備する。


「これにアークたちに署名してもらえ」

「……なるほどそう言うことですか」


 ソフィアも文を読んで俺が何をしようとしているのかを理解した。


「さてこれで話は終わりだ、その書類に署名したらゼブルス邸にもってこい」

「わかりました」


 こうして俺は4人を保護する立ち位置になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ