プロローグ
やっべ時間ねぇ!!!
『グ…グハハ、グハハハハッ!!人種…よくぞここまで…ッ!!』
目前に、鱗と鱗の間から燃え盛る炎を発する漆黒の龍がいる。
その身体は国の中心から民草見下ろす王城にも匹敵し、頭から生える赫熱化した角は天を穿つような鋭さを持つ。
そんな龍が、苦痛に声を揺らがせながら、口を開いた。
『脆弱にし「あ~~!!!ようやくの裏ボスまで完全攻略だ~~……!!!意外とレベルを上げて物理で殴るだけで行けたな、このゲーム。国内最高難易度だとか言われてたけど、正直長期戦慣れてない奴等が無理無理言ってるようにしか思えんわ。まぁ確かに裏ボスもラスボスも自己回復を定期的に使ってくるのかなり腹立ったし、しかもそれで大体150万位回復するから必死に斬って殴って燃やして~ってやったのが全部パァになるのも精神的にだいぶ抉られるか。実際病みそうだったし。さーて、このゲーム終わったし次はなにやろうかなぁ~、オフラインのRPGは五作ツヅケテやったから流石に飽きてきたし……どうしよ。」ぞ…人種……いや、勇者“あああああああああああああああああ„よ…!』
……最悪である。もう何から何まで台無しである。
これをもし生配信やらなにやらで世界公開していたら、ブーイングや低評価の嵐が吹き荒れること間違いなしだろう。
音被せから始まり評価批判、感傷に浸らず次のゲームの話をする無粋さと、名前の酷さの4コンボ。本当酷い。
そんな状態のまま、なんか言っていた名も知らぬ黒龍は自身の熱で身を焼き続けた末に灰となり自壊、夜空に一つ流れ星が落ちて真のエンディング、スタッフロールが流れていく。泣けよ。
エンディングが一通り流れ終わった後に現実に戻るのは必然。このプレイヤーもそれは変わらない。彼はVRゴーグルを外し、手足を伸ばして達成感の呻き声を上げてから、転がっていた布団から起き上がる。
「うーん、今回も火力ブッパが楽しいゲームだった!!」
▼▼▼▼
ルンルン気分で自室を飛び出し階段を下りる。
ドタドタと鳴る足音に気がついたのか、台所から1つの人影が飛び出して、彼に声をかけた。
「ちょっと涙~もう学校の時間よ~?」
「わかってるわかってる~」
彼の名前は二宮 涙、ゲーム関連の話を除けば何処にでもいる普通の高校二年生だ。
急いで用意された朝食をとり、歯を磨いて顔も洗う。勢いを減衰させずに制服に着替えて家を出た。
学校に到着すれば、ラブレターが~とか靴に画鋲~とか、二次元チックなラブコメもいじめも無い下駄箱から上履きを取り出して、履き替えて教室に向かう。
「あ、二宮くん!おはよー!」
「二宮…お前まさかまた朝まで…」
「うるせーわ堺、坂本はおはよー」
挨拶をしたのは坂本 夏南、親の泣き言のような事を言ったのは堺 芳郎、二人とも涙の幼なじみであり、既に登校してるであろう一人を含めると常に一緒にいる事で勝手に名付けられた『定型四人組』となる。
「来年の今頃は受験どうするで悩みっきりの時期だって言うのにお前は…」
「俺の自由だろ~?お前だってゲームやってるし、なんなら今日やってたのお前に薦められたやつだし」
「そうだそうだー!りふじーん!」
「ほら、坂本もこう言ってる」
「適当抜かしやがって…!!」
ぶるぶると震えた後深いため息をついて、堺は脱力した表情で口を開いた。
「…で、『ディストリーミソロジー』はどこまで進んだんだ?」
「わ、なんかかっこいい名前!」
「ふふふ、聞いて驚け。今朝裏ボス含めて完全攻略して真のエンディングまで見た!!」
「はぁ!?マジかお前!!」
「おー!わかんないけどすごい!!」
崇めろ讃えろなどという彼だが、撃破直後の発言の通り「長期戦慣れてれば余裕だろ」という主観なので、特に誇らしくは思っていない。むしろこれを高難易度という日本の未来を案じてまでいる。
「ならば、後で渡さねばならん物ができたな……」
「……何ィ?」
「……あ、この前のあれか!!」
「坂本、言うなよ。絶対言うなよ。フリじゃ無いからな。」
徹底的に隠されたそれを教えろ教えろと言い続ける二宮涙。しかし、堺と坂本の防御は固く、教室について尚も口を開きはしなかった。
▼▼▼▼
昼休み、ある者は友人と談笑しながら、ある者は孤独に震えながら、そしてまたある者は自身の無くしたくない物の為に戦場へ赴く……昼食の時間。
二宮と堺、坂本は弁当だが、もう一人は戦場…購買で昼食を入手する為この場にはいない。いずれ来るが。
「なぁ~、そろそろ教えてくれよ~何を俺に渡すってんだ~?」
「ダメだ。最悪でも宮本が帰って来るまでは言わん。」
堺に思いっきり名前をネタバレされた宮本の事は一旦気にせず、ぶーぶーと言いながら二宮は弁当の卵焼きを頬張った。……砂糖と塩が間違っていたらしく、砂糖を沢山入れがち家庭だった二宮は凄まじい塩味に顔を歪ませる。
二人は同情的な目線を彼に向け、本人は耐え難い苦痛で机に倒れ伏した。
「――――――ごめんなさい、遅れた。」
「よっしゃ宮本来たぞさっさと吐ゲバァッ!?」
実質スルーをしようとした二宮に踵落としを喰らわせたのが、先程堺にネタバレされた定型四人組の最後の一人、宮本 彩華。
読モレベルの美人なのだが、友人相手だと非常に感情的な行動を起こしやすくなる。身体能力も非常に高く、二宮と堺が二人で襲いかかっても余裕で負かされる。こわい。
「おぅ……宮本なんか機嫌悪い?」
「…昨日、ゲームで少し。」
「なるほどなぁ…」
顔面を弁当に埋めてビクンビクンと痙攣している二宮に対して、流石に心配の目線を向けつつ宮本に虫の居所を訪ねていると、痙攣状態から回復し、ガバッと起き上がる顔面弁当男。
「さぁ、吐け!!」
「あ、踵落としについては何も言わないんだ。」
「……だって怖いし。」
……確かに、と心の中で同意する堺と坂本。
尚、踵落としをした当の本人はもしゃもしゃと購買で買ったらしいメロンパンを頬張っている。
ガチャンと顔面に張り付いていた弁当箱(具材や米が潰れて顔の型になっている)が落下する音でハッと意識が現実に巻き戻された。
それに伴い、返していなかった「何を渡すのか答えろ」という問いに対しての答えを…この瞬間、ここに示す。
「……仕方ない。答えてやろう、貴様へ渡すものとは何かを。」
「ご、ゴクリ……」
緊張の瞬間。鼓動する心臓の音色が二宮の頭の中で幾重にも幾重にも響き渡る中、堺が自身の鞄の中に手を伸ばし、その中にあるであろう“渡「じゃじゃーーん!!『ソウル・オブ・アルカナム』の第二生産版!!流石に初期生産版はプレミア?っていうのがついちゃって私達が買った時なんかより何十倍も高くなっちゃったから買えなかったけど、この前出された二次生産版ならちょっと高い位だから3人でお金を出し合って買ったのでした~!!少し遅くなったけど、私達からの誕生日プレゼントです!!」
…伊達に二宮の友人をやってないのだ。こういうところがあるのも愛嬌だろう。静止した三人の空気の中、ただ宮本のメロンパンを頬張る音だけが響いた――――――。
▼▼▼▼
『ソウル・オブ・アルカナム』
それは今から1ヶ月前に正式販売が開始された、現在世界中で話題沸騰中の俗的にはVRMMOと呼称されるオンラインゲームだ。
二宮涙が今朝クリアした『ディストリーミソロジー』のように、一人のプレイヤーが世界を巡るのではなく、多数のプレイヤーが同時に世界を巡る…つまり、不特定多数の人々と関わる機会を得ることができるようなゲームだ。
このゲームには従来のような職業システムに代わり、アルカナム…タロットを5つ選択し、それにちなんだ5つのステータスを場合に応じて使い分けて戦う。
……まぁ簡単にいえば、公式でサブ垢を4つ作る事を強制するゲームだ。
ステータスも少し特殊で、他のゲームのようにSTR・VITなどのステータスに当然振る事となるのだが、それがMMOというよりはソーシャルゲーム等のステータスに近い振り分けなのだ。
10レベルまでレベルアップ毎に1万のステータスポイントを入手出来るのだが、それ以降はステータスポイントは振り分けられない。その代わり、それ以降はステータスポイントの振り分けられたステータスそれぞれ10%が付加される。
そう、つまりはソシャゲにおける環境並みの性能のキャラになるか、産廃になるか、最初の振り分け時点で決まるのだ。
逆に言えば1つ完成形が出来てしまえばそれで量産が可能になってしまうともいえるが、そこは攻略班やwikiも配慮して…というよりかは、オンラインMMOにおいて最強のステータスなんて物を見つけたとしても、公開する意味が全く無いのでされていない。
まぁ公開されたところで…という感じでもある。
VRMMOではステータスなど攻撃力や速度、硬さの参考数値にしかならない。現実や他のゲームで学んだ技術があればステータスの上下など多少どうにでもなるからだ。
長々と語りすぎては逆に理解出来ないというもの、簡潔にまとめると『ソウル・オブ・アルカナム』は現状人気爆発中の神ゲーという事である。
「まぁ、既に俺達はレベル70近いトッププレイヤーだから最初の街にスポーンするお前に会いに行くのは難しいし、お前も会うのは難しいだろうが……まぁ、頑張ってくれ」
「煽ってます?煽ってますよね?」
「あはは…それに今城壁都市からの指命クエスト受けてよくわかんないところにいるから実際会えないし…」
「なにその気になりすぎて木になるクエスト?」
「せいぜい私達がクエストで迷ってる間に城壁都市まで来る事だ、来れるものならな!はっはっは!」
「謎のロールプレイ入って恥ずかしくなイギュッ!!!」
正拳突きが顔面にめり込んでノックアウトする二宮。
三人だけが『ソウル・オブ・アルカナム』を持っているのは別に二宮がハブられているとか、実は仲良しグループ内に格差がだとか、そういうわけでは無い。
普通に四人一緒、直列で繋がり行列に並んで買いにいった結果、偶々一番後ろに並んでいた二宮の所で売り切れになったから彼だけ持っていなかったのだ。
なのでふてくされてオフラインのMMORPGに逃亡し、5つもクリアしていたのだ。
もう心の中で死ぬまでソウルオブアルカナムをてに入れられない等と深く落ち込んでいた二宮からすれば、自慢で煽られるのなんぞ逆風にもならない。正直今すぐにでも帰宅してプレイをしたいという気持ちで一杯な彼に敵は無い。
精神的な意味で。物理は無理。
その場で手渡された『ソウル・オブ・アルカナム』をバッグの中に仕舞い、それを1日の楽しみとすることによって二宮は午後授業を乗りきったのであった!!えらい!!
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