懺悔
「リンさんどうしたんですかー? せっかくめガねさんがファミリーに入ってくれるというのに、嬉しそうじゃないじゃないですかー?」
ドキもリンさんの浮かない表情を見て不思議に思ったようだ。
「いや、嬉しいわよ? 嬉しいのだけれど......。うん、やっぱり言ったほうがいいよね」
ん?
キッと僕を見据え、リンさんは言葉を発する。
「実はあなたに黙ってたことがあるの」
「黙ってたこと、ですか?」
「ええ。それもいくつか。このゲームのルールについてなのだけれど」
このゲームのルール? その中に僕がこのファミリーに入ることによるデメリットが関係しているものがあるのだろうか?
「まず一つ。一人のプレイヤーが所属できるのは一つのファミリーだけ」
なるほどファミリーの掛け持ちは不可能、というわけか。まあ当然のルールといえばそうではないだろうか。
「二つ目。ファミリーの規模によって受けられるクエストが変わってくる。クエストっていうのはそのファミリーの種族がプレイヤーに依頼する依頼のことね。クエストを受けることで、お金を稼げたら、データチップを得たりすることができるの。つまり、ファミリーの規模によって稼げるお金やデータチップの量は変わってくるってこと」
なるほどなるほど。リンさんの言いたいことが分かってきた。
「三つ目。このファミリー、テング・ファミリーは、おそらく今あるファミリーの中で最小規模よ」
このファミリーの種族である天狗がドキ一人の時点でそれは察することができる。まあしかし。
「それが何か問題でも?」
「っ!? いや、だから、お金が稼げないってことは、あなたが行きたいって言ってた塔に行けないってことであなたと私で交わした契約が成り立たないってことで」
「それでは語弊がありますよ。あくまで受けられるクエストが少ないだけで、全く無いわけではないんですよね? 実際、さっきドキが『頼んでたご依頼の方は』って言ってましたし。クエストがゼロではないのなら、稼げるお金もゼロではないはずです。それならいつかは塔に入ることができるお金も貯まるはず、ですよね?」
「そ、そうだけど、他のファミリーに入った方が手っ取り早いわけで」
「別に今すぐ塔に入りたい訳ではないので平気ですよ」
「で、でも」
「僕がいいと言っているのだから、それでいいじゃないですか。それとも他に問題が?」
僕にデメリットを黙っていたのが問題ならもう問題ないはずだ。
「っ......」
だが、リンさんの表情を見るに、他にと何か問題があるようだ。それも、リンさんにとっての一番の問題が。
「リンさん?」
「......騙そうとしたの」
「え?」
「私はあなたがこのゲームについて全然知らないようだったから適当なこと言って騙してこのファミリーに入れようとしたの!! 本当はデメリットについて黙ったままこのファミリーに入れて後は一度入ったファミリーからは抜けれないとか言って誤魔化すつもりだったの!! 最低でしょ!? 塔に入れる分のお金を稼がせてあげるどころかゲームの進捗度を落としかねないのに。本当クズでしょ!? こんな女と同じファミリーなんて嫌でしょ!?」
そう、叫び終えたリンさんはそのまま下を向いた。リ、リンさーん、とおどおどとしているドキ。
なるほど。なんだ。
「そんなことですか」
「は?」
思わず、と言った具合にリンさんは顔を上げ、そんな声を発する。
「そんなことかと言ってるんですよ。リンさんがとても思い詰めた顔をしているからてっきり僕はいつの間にか犯罪行為に手を染めていたのではないかと思いましたよ」
「いやそんな訳ないでしょ!! いくら私でも犯罪なんてしないわよ!!」
「だったらそんなことか、ですね。まぁあくまで極論ですが、この法律絶対主義の世の中じゃ犯罪じゃなけりゃ何したって許されるんですよ。それこそ、ちょっと隠し事してたくらいじゃ、ね」