カホであるナニカ
どうしてこんなに調子が悪そうなのに球場なんかに来ているのだろう……。
カホを見た第一印象はそんな感じ。
だから余計に気になったのかもしれない。
不思議に思ったけど声はかけられない。
というのも、病棟のナースステーションでしかあったことのないあたしがカホに声をかけても、きっと困惑するだけだろう。
う――ん……
せっかくコンビニに来て冷たくて美味しそうな飲み物を物色しているところだけど……カホが何か気になる。疲れた顔をしている以外に何が気になるのかと言われると説明が難しいのだけど、あたしの本能的なものが彼女を気にして仕方ないのだ。
後をつけることにしようか。
……と言っても尾行がうまくやれるほどあたしは器用ではない。
あたしはカホより先にコンビニを出た。
コンビニの裏手で三毛猫になった。
この姿になれば相手に気づかれずに後をつけることができる。
足音もしないし目立つこともない。
猫になるのはいいのだが、この姿だと買い物しても買ったものを持っていけないのが不便だ。
ただ……そんなことを気にしている場合ではない。
カホの様子は明らかにおかしい。
何かが不自然なのだ。
コンビニからカホが袋を下げて出てくる。
栄養ドリンクが何本か入っている。
ふと彼女の表情を見た。
調子は悪そうだが……ニコニコして、なんだか楽しそう。
なんで?
てゆうかこの子、こんな表情できたの??
あたしはカホについていく。
カホが振り返る。
あ……
しまった。
あたしの身体は固まった。
ネコの悪い癖。すぐに動いて逃げればいいのに、一瞬身体が固まるのだ。
でも大丈夫。
人間の反射神経なら余裕で逃げられるし、カホにあたしの正体が分かるわけがない。
『かわいい……。ネコちゃん、おいで』
『……』
正面からカホの顔を見てあたしは驚いた。
調子が悪そうなのは遠目からでも分かったけど、近づいてみると目の下にクマがあるし、すこしやつれている。まるで病気のようだ。
……にもかかわらず顔は笑っている。
カンナの顔が脳裏にちらつく……
近寄ってはいけないと本能が叫んでいる。
でも身体が固まって動かない。
こんなことは初めてだ。
『よしよし……』
気が付けばあたしはカホに抱き上げられていた。
あれ?
さっきなんかものすごく早くなかった?
動き……。
逃げる隙……なかったような……。
なんで?
『なんでって思っているんでしょ?』
『え!?』
あたしは驚いてカホの顔を見た。
いや……なんでって思ったよ。その通りだよ。
なんで?
『なんであなた……』
『化け族のことは知ってるわよ。あたしもそうだから』
『え? だって……』
『いやいやこの子は違うわよ。あたしは別のところにいるから』
『憑いてるってこと? この子に?』
『まあ……そんなところかな』
確かに化け族は人に憑くことができる。
でもそんなことやる者は誰もいない。
だって意味がないから。憑いてどうする?
何の得もない。
それに人に憑いても、憑く方も憑かれる方も身体に大きな負担がかかるのだ。
そうか……だから疲れた顔して、栄養ドリンク……。
カホ……に憑いているナニカはあたしを抱き上げてコンビニの裏に戻ってあたしを解放した。
『人の姿に戻りましょ。球場で話すわ』
無邪気に話すその様子からは悪意は全く感じない。
カホから話を聞きたいと思っていたのはこちらも同じ。
ちょうどよかったと思うべきなのか……