何もできない
球場から出て目視できるぐらい近くにコンビニがあったのであたしはそこで飲み物を買うことにした。
歩きながら少し考える……。
マサキ……
調子良さそうだった。
野球のことは分からないけど、素人目にもいい感じだったのは分かる。
背の高さを生かしたあの投げ方は、肘を怪我する前からあの投げ方だったのだろうけど、足を大きく踏み出してステップ幅を大きくとりつつ、上背を使って後ろから腕を振り下ろす投げ方は、いかにも力のあるボールが投げられそうな感じがする。
そして手投げではなく、しっかり下半身が使えている。
あれなら安心かもしれない。
肘をかばっている様子もなかった。
痛くても痛いとは本人は言わないし、痛い顔もしないと思うけど……
それでもあのフォームを見る限り、違和感はないように見える。
ただ……。
あたしが分からないだけで何かあるのかもしれない。
もし……無理しているなら……
どうしよう。
ここまできてあたしは何も考えていなかった自分に気づいた。
もしマサキが無理をしていたところであたしに何ができるのだろう。
あたしにできるのは……マサキがまた怪我をして、今度は野球が本当にできなくなって、絶望しないように祈ってあげるぐらいしかできない。
化け族と言っても半分ネコなだけで……ちょっと他の人間の思考と感情が読めるだけで……
何もできないのだ。
そう。
何もできない……
どうしようか……と少し考えてみる。
でも考えても答えが出るわけもない。
考えても解決しないことをいつまでも考えないようにすることはあたしが得意とすることだ。
とりあえずマサキの調子は良さそうだったのだからそれでよしとしよう。
今日は暑いし、あまり考えずに、あとで『ふるだぬき』に行こう。
『ふるだぬき』とはあたしと同じ化け族が集まるお店で、化け狸のアキさんが一人でやっている小さな居酒屋だ。酒も肴も美味しいし値段もそこそこ安いので結構人気のある店ではある。
生ビールでも飲みながら、マサキのことをアキさんに相談してみよう。
きっと大丈夫だ。
もちろん不安はある。
回復が早すぎるから。
でも大丈夫と信じよう。
今日の試合では大丈夫な姿を見せてくれるはず。
いろいろ考えながらあたしはコンビニの自動扉を通った。
そういえば少しお腹が空いた。
試合開始は13時からで……ふと時計を見ると時計の針が12時30分を指している。
どおりでお腹がすくはずだ。
お弁当も買っておこう。
なんだかちょっとピクニック気分になってきて、いろいろ物色していると……コンビニにどこかでみたような顔の女の子が入ってきた。
最初、あたしは何も気づかなかった。
どこかで見たような人……という感じはよく感じることがある。
思考と感情が読める化け族はそういう感性が鋭いのだ。
しかし、その感性に従っていちいち『どこの誰だっけ……』と考えていては、時間がいくらあっても足りないから、そんなに深くは考えないようにしている。
学校の制服を着て、大きな眼鏡、ボサボサの髪の毛……。
私服をあまり持っていないのだろう。
深く考えないようにしているあたしでもすぐに思い出すことができた。
カホだ……