大きく振りかぶって
バス停から少し歩いたところに球場はあった。
球場といえばもっと華々しいものを連想していたあたしだけど……それはプロ野球で使うような球場だけど、都会の片隅にある特に有名でもない球場であれば、華々しさからは程遠い。
野球を見に来たのはこれが初めてだ。
何かの大会なのだろうか……。
詳しくは知らないが関係者らしき人を大勢見かける。
何とも大仰なことだなあ……と思いながらもあたしは球場の応援席に向かった。
取り立ててチケットなどの販売はなく、無料で見ることができるのはありがたい。
野球の試合というのはこういうものなのだろうか。
いや……さすがにプロ野球の試合だったらこうはいかないだろう。
そういえば応援席はどっちに座ればいいのだろうか。
うっかり違う席に座ったらまずいことになりそうだ。
周りを見回すと……病院に来た見舞客が何人かいた。あたしは彼らのあとを追いかけるようにして応援席に入った。
入ってみて驚いたのが、球場というのはすり鉢状になっているということだった。
応援の声は良く響き、まだ試合が始まる前であるというのに、試合の喧騒が今からでも感じられる。
少し外野の方を見ると、外野の端にはピッチャーの練習場があり、そこでマサキはキャッチャーを座らせて何球か投げていた。
振りかぶって腕を大きく上から振り下ろすフォームはダイナミックだがしなやかで……なんというか、ちょっと芸術的だ。
とにかく、マサキのフォームは全身がバネのようなのだ。
もしかしたら、肘の故障があったから、身体全体で投げるフォームをさらに固めたのかもしれない。
確か……入院中のリハビリの合間にそんな話を彼は主治医としていた。
軽く投げているようだけど、遠目でも彼が投げる球はものすごい勢いがあるのが分かる。
球をリリースするポイントがかなり前であることがその要因の一つだろう。
そしてこれが打者の近くでも球の勢いが衰えない理由の一つだ。
あたしのような素人でもマサキの球は簡単に打てないことが分かる。
彼は努力していた。
そして今もその努力を継続している。
しかし……
努力は報われるとは限らない。
でも努力している者はなんらかの形で報われてほしい。
そんなことを思いながらあたしは応援席から離れた練習場で投球練習をしているマサキを見つめる。
ああ……それにしても調子はいいようだ。
安心したらお腹が空いた……。
実は何か食べながら見ようかと思い、途中でコンビニか何かに寄ろうと思っていたのだけど……なんとなく球場の中で何か売っているだろうと高を括り、何も買ってこなかった。
残念ながら球場の中には売店の類は見当たらない。
やっぱり……コンビニに寄ればよかった……。
当り前の話だが球場は野外にある。もちろん屋根が少しあるから日陰になる場所もあるのだが、夏の日差しの強さが球場全体を熱くしており、とにかく熱い。
ビールが飲みたい。
そういえば野球が好きな化け族の平九郎は『球場で飲む生ビールは最高だ』とか言っていた。
犬のくせにネコ科のトラが好きなあいつの場合は野球というより阪神タイガースが好きなだけだろうけど。
あの時は聞き流していたが、ビールが美味いというのは確かに分かる気がする。
野球のやの字も分からなくても、試合前の練習で白球がいろんなところに飛んでいるのを眺めるのは面白いと感じるのだから、野球が分かる人間にとってはもっと楽しいだろう。それを見ながらこの暑い中、冷たいビールを喉に流し込む。
もう考えただけで美味そうだ。
あたしはつい喉をゴロゴロ鳴らしてしまった。
残念ながら、周りを見回してもビールを飲んでいる人は誰もいないのでそれは我慢することにしよう。
ただそれにしても、きちんと飲み物を飲まないとこの暑さだ。熱中症になる可能性が高い。
それにしてもこんな暑い中……野球するの……?
大丈夫なのか??
意外とベンチの中はクーラーが効いていたりして……。
などと考えてみたりする。
そんなわけないか。
あたしは飲み物を買いに一度、球場を出ることにした。
試合開始まではまだ時間がある。
確か……球場の近くにはコンビニがあったはずだ。
ちなみに……
甲子園のベンチは冷房が効いているそうです。
だから熱中症の心配はないとのことです。