マサキ
あまりの見舞客の多さにあたしは驚いた。
一日に何人来るのだろうか。
しかも大勢が一気に来るのではない。
間を開けずに何人かが来る。
しかも女の子が多い……。
マサキという少年は野球をやっていたらしい。
ポジションはピッチャーだそうだ。
この少年。
実にかっこいい。
切れ長の目に、まっすぐで形のいい鼻筋。
あごはシャープで顔の形も小さい。
身長も15歳という年齢にしては高い。175㎝はあるだろうか。何といっても足が長いのが彼のカッコよさを、盤石のものにしているのではないだろうか。
野球をやっていたら坊主頭を連想しがちだが、マサキが所属するシニアリトルのチームではそういう規則はないらしく、サラサラの髪の毛を少し長めに伸ばしてきれいに分け目をつけている。
誰が見てもモテる男の子とは彼のことを言うのかもしれない。
マサキが入院してきたのは肘の手術をするためだった。
あたしは野球のことはよく分からないのだけど、登板過多というやつらしい。
簡単に言うと投げすぎ。
関節に強い負荷をかける同一の運動を繰り返し行うことによって、関節そのものが痛んでしまうということだ。野球に限らず、スポーツにはケガがつきもので、マサキのような子供たちはけっこう入院してくる。彼らは患部以外は元気だ。死ぬわけでもないから入院してきても緩和病棟に比べたら空気は重くない。
『元通り投げられるかどうかは分からない……』
あたしはレントゲン写真を読影していた医師がマサキにそう言っているのを横で聞いていた。
マサキと一緒に話を聞いているのは彼の両親だ。
『なんとか……なりませんか』
『今の段階ではなんとも言えませんね……。まずはこの軟骨を除去しないとね』
医師はレントゲンに写っている肘関節にある軟骨を指してマサキに言った。
通称「ネズミ」という遊離軟骨が邪魔をしてマサキの肘はうまく曲がらない。
曲がらないのを無理して投げるから痛みが生じる。
痛みが生じると言うことはどこかに無理をさせているということだ。関節そのものがおかしくなってしまい、最終的には野球はおろか日常生活にさえ支障をきたすケースもある。
もしかしたら投げられないかもしれない。
野球はもうできないかもしれない。
今まで野球ばかりやっていた少年には死刑宣告みたいなものだろう。
『元通り投げられないかもしれない』
医師の言葉に空気が重くなるのをあたしは感じた。
『分かりました。とにかくよろしくお願いします』
マサキは言った。年齢の割にしっかりした子である。
化け猫は思考と感情が読めるのだが、彼はしっかり切り替えができている。
できれば……
この子がまた野球ができるようになってほしい。
あたしはなぜかカンナのことを思い出しながらそう感じた。