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『銀狼の飼い猫』掌編  作者: 厚狭川五和
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[ファングact2]複雑な気持ち

 どこから始まったのかは知らないが俺が森の魔物を片っ端から討伐していると噂が流れて、それはラプタの騎士団にも届いていたのか時折、謝礼だと言ってあの男が革の袋を持ってくる。

 中身は言わずとも分かるものだ。

 別に大きな怪我をした時の再生用に大量の魔力を備蓄しておきたいだけで誰かのためとかじゃない。

 故にいらないとは断っているんだが奴は「騎士団などと言っておきながら我々は国民に被害が出なければ動けないのだから事前に災厄の芽を摘んでくれる貴様に感謝しているのだ」とか何とか言って受け取らないと剣を突きつけられる。

 まあ、それはいい。

 生活費に充てたり、少しだけ恩返しのつもりでレクセルに返せるからな。

 そう、それは些細なことなんだ。

「ね、ねえファングさんデートしませんか!」

「…………」

「そそ、その強面のお顔を向けてよ」

 手のひら返しって聞いたことあるか?

 俺が目覚めたばかりでレクセルに拾ってもらった時はこいつら人の顔を見て泣いたり、逃げ出したり、挙げ句の果て魔物扱いして騎士団を呼び出したりしてた連中だぞ。

 けど、実害が存在しないしラプタのために動いている──ことになっている──と聞いたら「こう」だ。

 金目当てとかじゃなくて単に憧れというか、そういう特別な存在に憧れているだけなんだろうな。

 だって、そういう男に抱かれたという実績はこういう女にとって他人に語る最高の自慢話になるからな。

「あのな、男なら誰でもデートとか、そういうのに興味あると思うなよ。大体な、今日初めて話したような奴がデートなんて軽々しく提案するんじゃねえよ。俺がそういうカモを狙った悪質な男だったら身を滅ぼしてるぞ?」

「そこまで考えてくれるなんて優しいんですね」

「別に考えてねえよ」

「その謙虚なところも素敵です」

 なあ、こういう生き物って何言っても無意味なのか?

 突き飛ばせば「飛んできたものから守ってくれた」と勘違いを始めるし、帰れと言えば「暗くなってきたから心配してくれている」とか言い出すし、面倒で仕方がない。

 そもそも俺が誰かを考えて行動するような男じゃないと理解してないんだ。

 何よりも誰かに何かを出されるのが嫌いだ。

 だからレクセルが全面的に俺を助けてくれると言ってくれた時だって働くから対等な賃金として支払えと言ったし、エルを助けたように思う人間がいるかもしれないが等価と言える対価を身体で払わせてる。

 ああ、へんなことさせてるんじゃなくてもふもふな?

「ちっ、面倒だな」

「私じゃ、不足なんですか?」

「俺を見た目で判断してるクズ呼ばわりするな! お前が不足とか、そういう話じゃなくてだな」

「あ、ご主人見つけた」

 タイミングがいいぞ愛しのペットよ。

「帰り遅いから心配した」

「お前が心配するのはおかしいだろ。ほら、喉撫でてやるから文句ばっかり言うな」

 相変わらずの疑問だな。どこに喉を鳴らせる器官があるのか。

「もしかしてお子さん……?」

「あん? こいつは別に……」

「バツイチのお父さんだから手間かけたくない、そういう意味だったの?」

 あれ、イヤな方向に話が……。

「尊すぎて涙が出てきました。席を外させてください!」

 なんか勘違いしたまま女は店を出ていった。

 これ戻ってくる前に去っておかないと今度こそ求婚されるんじゃないか?

 まだ経験すらないのに再婚したことにされるんじゃないか?

「エル、逃げるぞ」

 俺はエルを抱えて逃げ出した。

 ああ、抱えなくても俺より速く走れるかもしれないがここまでペットに迎えに来させてしまったお詫び代わりだ。

「あの人からのプレゼント、ちゃんと受け取ってる」

「いや、俺にって持ってきたもの持ち帰らせたらさすがに人が悪いだろうが。それに、あんま(はや)し立てられるのは好きじゃないだけで贈り物とかは意外と好きなんだ」

「パパ、優しいね」

「冗談でも止めろ。次その呼び方したらお前をママにするからな」

 エルも意味を分かった上で黒めの冗談だと分かっているからにこにこしている。

 ちなみに俺が子持ちのバツイチお父さんだという噂は一週間ほど一人歩きしていたが俺とエルの姿を見たことがあった連中がちがうと教えたのか、それなりに早く落ち着いたのだった。

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