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『銀狼の飼い猫』掌編  作者: 厚狭川五和
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[シオンact1]意外な一面

 ファングと出会ってから何日目になるのだろう。

 数えていないけど、そのくらい毎日が充実していることに変わりはないし私としてはどうでもよかった。

 そう、私が勝手にお祝いしたいときにお祝いしてあげればいいのだ。

 彼の誕生日は。

「ふふっ、エルちゃんも気が利くね~」

 まさか私の考えを察してファングを家から外に連れ出してくれるなんて思いもしなかったよ。

 だって一度ごろごろする日だと決めたら梃子でも動かないのがファングだ。それだけ自分の決めた行動に責任を持ってるとも捉えられるが状況が変わっても流されない頑固者とも言える。

 故に私が唐突にお祝いしたいなんて言ったって迷惑がる。

 でもエルが彼を連れ出して準備をする時間を作ってくれれば問題は起きない。

「甘いもの、好きなのかな」

 ケーキはさすがにファングの身体を考えると不便だろうとベリーパイにしたが嫌がったりするかもしれない。

「ん? 何で俺の家から甘酸っぱい匂いが?」

「あ、おかえり二人とも!」

「平然と不法侵入するな!」

 不法侵入も何も許可は出したよね、と首を傾げる。

 ファングは意識してないのかもしれないけど私は言われた言葉は忘れないよ?

 別に家財を盗ろうってわけでもないし、むしろ食材買ってきて料理してるんだから支出の方が多いくらいだ。

「誕生日おめでとうファング」

「は? 俺の産まれた日なんて誰も」

「私には声が聞こえるんだよ。誰もじゃない。知ってる人は必ずどこかにいる」

 そんなこんなで無理やり始めたお祝い。

 いつも作っているような料理はファングも舌鼓を打っていたが本題はこの後だ。

「これ、初めて作ったんだけど……どうかな」

「? 甘酸っぱい匂いの正体はこれか。食えるのか、これ」

「大丈夫だよ。好みは、別れるかもしれないけどね」

 ファングは一ピースを丸々口に放り込む。

 味わってほしいとは思ったけど彼にとっては小さな食べ物ということ以外に何でもないのだろう。

 バタッ!

 と、私が少し落ち込んでいると突然ファングが倒れてきた。

「ファング? 今日はやけに積極的に……ふぇっ!?」

「ご主人酔ってる」

 エルの言うとおりだ。

 そうでもなければファングが私の顔を舐めたり、エルが見てる目の前で身体を触ってきたりするはずがない。

 何より明らかにいつもより手つきが優しい。

 どちらかといえば甘えてるような仕草だ。

「な、何か入れたの?」

「ううん! ファングが嫌いだったら困るから砂糖と森で採ってきたベリー以外は…………あ、そうだった」

「え?」

「お菓子作りの基本みたいなものだけど少しだけお酒いれたんだよね」

 でもごく微量だ。人間でも到底酔うレベルじゃない。

「もしかして、お酒に弱い?」

 意外な弱点だ。

 じゃなくて、この状況はどうしたら……。

「ご主人は酔ってるだけだし大丈夫。じゃあ、楽しんで?」

「エ、エルちゃん!? お願いだからファングにひどいことされる前に助けて!」

「しないよ…………たぶん」

 エルちゃんはそう言って逃げた。

 私は食べられる側の気分なんて知りたくないのに!

 その後、ファングは一時間くらいで酔いから覚めたけど私の身体は彼の唾液でベタベタにされているのだった。

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